『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫

文字の大きさ
10 / 12

街へ

しおりを挟む
 その日を境に、二人の距離は一層近くなった。後の事を考えると、まだ躊躇する思いが根強いルジェクだったが、一途に向けられた思いを否定するのが難しくなっていたのだ。
 愛らしい見た目で一途に自分だけを慕い、甲斐甲斐しく世話を焼いてくる相手を突っぱね切れるほど、ルジェクは冷淡でもなく、また強くもなかった。

 それはルジェクの死期が目前だったのもあるかもしれない。
 死への不安から誰かに側に居て欲しいと思う一方で、自分が死んだ後に悲しませたくないから誰も側に置きたくないとも思う。その時々で心の天秤は不安定に傾き、ルジェクの心は両価的だった。
 それでも、ラヴィの今後に責任を感じていた彼は、自分の死後も彼女が生き延びるための唯一の方法を排除する事も出来なかった。ラヴィのためだと自分に言い聞かせていたルジェクだったが、彼自身、ラヴィの温もりに癒されているのを自覚していた。

「ルジェク様、愛しています」
「…俺もだ、ラヴィ」

 いとも簡単に素直に思いを口にするラヴィに、ルジェクは逆に罪悪感が疼くのを感じた。自分が彼女ほどの思いを持ち得ていない自覚があったからだ。九も下のまだ成人したばかりの少女に、その思いを利用して寂しさを紛らわせている…そんな風に感じてしまうのだ。
 もう少し若かったら、いや、もっと長く生きられたら、こんなに卑屈に感じる事はなかったのかもしれない、とルジェクは自嘲した。

「街に、行ってみないか?」

 二人の関係性が変わった直後、ルジェクはラヴィを街に誘った。まだ動けるうちに街に行きたかったのだ。せめてラヴィに贈り物の一つもしてやりたい。夫らしいことを何もしてやれないルジェクもまた、自分の出来る範囲でラヴィに何かを返したかった。

「街に、ですか?」
「ああ、長い時間は無理だが、ちょっとだけ、散歩の延長程度ならいいだろう?最近は体調もいいし」
「でも…」

 誘われた事は嬉しかったが、それでもラヴィは躊躇した。ルジェクの体調は確かにここ数日は落ち着いているが、それがこの先もずっと続くわけでない事をラヴィもまた十分承知していたからだ。それでも…

「買いたいものがあるんだ。だから付き合って欲しい」

 そう言われてしまえば、ラヴィに否やとは言えなかった。自分はルジェクの為にここにいるのだ。彼が望む事なら何でも叶えたいという獣人の性に勝てなかった。



 家が街の一角にあるため、目的地までは歩いて十五分ほどで辿り着いた。幸い天気も良く、暑くも寒くもない。ゆっくりと話をしながらだったから、ルジェクに疲労の影は見えなくて、ラヴィは密かにほっと息を吐いた。

「ここは…」

 ルジェクが目指していた店は、女性向けの雑貨屋だった。この近辺では人気の店で、普段使いの物から贈り物用の指輪やネックレスなども揃っていた。ここでルジェクは、ラヴィが欲しいと思うものを買ってやろうと考えていたのだ。

「何か気になるものはないか?いつもの礼がしたいんだ。俺は女性に何かを贈った事がなくてな。何がいいのかわからないから、欲しいものがあったら教えてくれ」
「ええっ?」

 突然のルジェクの言葉に、ラヴィは驚きを隠せなかった。無理やり押しかけて女房面している自分を、ルジェクは迷惑に思いながらも自分を憐れんで側に置いているのだろうと思っていたからだ。それでなくてもラヴィにとっては、ルジェクの側に居る事も、世話をする事も苦に思うどころか喜んでやっていたのだ。礼と言われても…毎日がご褒美状態のラヴィには、これ以上望むものなどなかったのだ。

 それでも、ルジェクに促されて店内の商品を見て回る事になった。欲しいものと言っても…とラヴィは戸惑うしかなかった。もし許されるなら、お揃いの指輪やネックレスが欲しい。でもそれは恋人や妻であれば望めるものだが、無理やり押しかけた自分には当てはまらないと思っていたからだ。

 そんなラヴィは、ふとあるものに目が行った。それは黒い狼のぬいぐるみで、瞳は新緑のような鮮やかな緑色をしていた。狼は男児がかっこいいと好む獣で、黒は強さを象徴する色だから、わりとポピュラーなものだ。

(何だか…ルジェク様みたい…)

 特に深くも考えずに、ラヴィはそれを手に取ってみた。大きめのそれはちょうど腕の中にすっぽりと収まる大きさで、手触りが柔らかい。ぬいぐるみなどには興味がないラヴィは、ただ単に色がルジェクのようで気になっただけだった。

「それが気に入ったのか?」

 店に入ってからずっと、何も手に取らずにいたラヴィを見ていたルジェクは、ラヴィがぬいぐるみを手にした事を意外に思ったが、それが気に入ったのだろうと思った。

「いえ、そういう訳では…」
「そうなのか?」
「ええ。ただ色が…ルジェク様みたいだな、と思っただけですから」

 そう言ってラヴィは手にしていたそれを棚に戻した。実際、ラヴィはそれが欲しかったわけではなく、本当に色にしか興味がなかったからだ。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆
恋愛
「まあ、ご覧になって。またいらしているわ」 「あの格好でよく恥ずかしげもなく人前に顔を出せたものねぇ。わたくしだったら耐えられないわ」 「ああはなりたくないわ」 「ええ、本当に」  クスクスクス……  クスクスクス……  外交官のデュナミス・グローは赴任先の獣人国で、毎回ボロボロのドレスを着て夜会に参加するやせ細った女性を見てしまう。彼女はパルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。どうやら、獣人が暮らすその国では『運命の番』という存在が特別視されていて、結婚後に運命の番が現れてしまったことで、本人には何の落ち度もないのに結婚生活が破綻するケースが問題となっているらしい。法律で離婚が認められていないせいで、夫からどんなに酷い扱いを受けても耐え続けるしかないのだ。  伯爵夫人との穏やかな交流の中で、デュナミスは陰口を叩かれても微笑みを絶やさない彼女の凛とした姿に次第に心惹かれていく。  それというのも、実はデュナミス自身にも国を出るに至ったつらい過去があって……

憎しみあう番、その先は…

アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。 俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。 そんな二人が番だった…。 憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。 * 残忍な表現があります。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

【完結】哀しき竜王の血~番召喚の儀で竜族しかいない世界にやって来た私に愛を囁いた竜王さまには、すでに12人の妃がいました~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
番の私に望まれているのは、次代竜王さまを産むことだけ? 500年間、番が見つからず荒れ狂う竜王さまを体で慰めてきた12人の妃たちと、妃たちの後ろ盾である12人の大臣たちが、番として日本から召喚された女子大生と薄まる竜族の血に翻弄される竜王に悲恋をもたらす。人外による食人表現あり。

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

処理中です...