現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

文字の大きさ
3 / 17

初戦闘とレベルアップ

しおりを挟む


 『ダンジョンに入る際にはステータスカードが必要です』

 先に進もうとすると、突然中性的な声が響いた。

 ダンジョン……?ステータスカード……?

 「てか、それよりもこの声はどこから……」

 周囲をキョロキョロと見渡すが誰もいない。

 諦めて再度進もうとすると、また同じアナウンスが聞こえた。機械的な声だ。

 しかしおかしい。聞こえ方が変だ。まるで全方位から声が聞こえて来たかのような...あるいは、音が直接脳内に響いたかのような...。


 ......いや、よそう。

 すでにわからないことばかりなのに、いちいち原因を探ろうとしても埒があかない。
 

 ともかく、今はステータスカードが必要という言葉だけが頼りだ。ならそれに従ってみるしかない。

 「って言っても、ステータスカードってなんだ?どこで手に入るんだ?」

 手に入る可能性があるのはおそらくこの空間だけだろう。

 しかしどこにもカードのようなものは落ちていない。
 どうしたものかと思いながら自販機のような形の物体に近づくと、紙幣の投入口のような穴が一つあることに気がついた。

 突然、ウィーンという音が響いたかと思うと、そこから一枚の黒いカードが押し出されてきた。

 学生証と同じくらいのサイズだ。
 
 純白の文字が漆黒の中で輝いている。

~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:1
固有スキル:霊化
~~~~~~~~~~~~~~

 どのようにして知り得たのか、自身の名前が刻まれている事実に、衝撃と一抹の不安を覚える。

 裏面には、各種数値が縦に二列、横に三列書かれている。

~~~~~~~~~~~~~~
体力:5    防御:3
腕力:4    敏捷:5
器用:4    魔力:4
~~~~~~~~~~~~~~


「...なんだこれ、ゲームみたいだな...」

 新たに疑問が湧いてくるが、ともかくこれで先に進むことができる。

 しかし、

『武器を携帯することを推奨します』 

 というアナウンスが響いたため、俺は諾々と従って剣を一本手に取った。

 「かっけぇ...」

 初めて見る本物の剣に興奮半分恐れ半分、とりあえず振ってみるが、想像以上に重い。

 映画やアニメなどでは軽々と振っているが、まさか実物がこんなにも重いとは...。


 「よし、今度こそ」

 深呼吸をして心を落ち着かせてから、俺はゆらめく空気の膜を通り抜けていった───。


 内部は、直前までいた空間と同じく、光源不明の明るさに満ちていた。ふと足元を見ると影がない。
 
 どうやら空間全体が文字通り光りに包まれているようだ。ただ、眩しいほどではない。


 通路は全体が土で出来ているようで、壁はところどころ凸凹があるものの、地面は平らだ。

 少し先では、右にも道が分岐している。
 
 周囲を観察しながらその曲がり角に達したまさにその時。


 キィーン

 ─── 俺は、夢でも見ているのだろうか。
そうだ、と誰かが肯定してくれなければ、とても頭が追いつかない。
 
 突如、角から踊りかかってきた一つの影。
その手には光る刃。

 何者かが、突然剣で斬りかかってきたのだ。

 俺はその事実を認識するよりも先に、その刃の前に反射的に剣を滑り込ませて受け止めた。甲高い音が響く。

 剣の経験はおろか格闘技すらやったことのない俺が、その奇襲を受け止められたのは奇跡だっただろう。

 鍔迫り合いの向こう側、見たこともない化け物の醜悪な顔が憎悪を向けてくる。

 殺意に歪んだその不気味な目に心臓がけたたましく警鐘を鳴らす。生まれて初めて向けられた殺意に総毛立つ。


 なんなんだよ、これ───。

 唯一確かな事。それはこの化け物が、俺を殺そうとしているということだった。

 なんで───

 キィィン

 俺が混乱する間にも化け物は俺を殺そうと殺意を振り撒く。


 幸い、奴の攻撃は早くはない。俺は不慣れながらもなんとか剣を受け止めた。

 剣がぶつかるたびに響く耳障りな金属音が、俺の心臓を逆撫でする。呼吸が乱れる。

 
 体全体が深い緑色で、頭髪はない。目は不気味なほど大きく濁っている。その下には大きな鷲鼻。生理的な嫌悪感を掻き立てる醜悪な顔だった。

 「ギャギャギャ」

 低く濁った不快な声が鼓膜を揺らす。

 怖い。恐怖と緊張に身が強張る。

 
 「うっ...!?」

 突然、背中が何かにぶつかった。壁だ。無意識に後ろに下がっていたのだ。

 バランスが崩れたところに、化け物が迫る。


 ─── 逃げ場はない。

 「くそおっ...!」
 
 俺は覚悟を決めて、一歩踏み込んで思い切り剣を水平に振った。

 それは化け物の攻撃よりも先に、奴の体に届き─── 首を斬り裂いた。血が噴き出る。
 
 それと同時、左の脇腹付近からカツンという音とともに、服が引っ張られるような感触。

 見れば、相手の剣によって上着が壁に縫い付けられていた。

 「ぁ...あ、危なかった......」

 あと数センチずれていたら─── 。考えただけで恐ろしい。俺は恐怖を振り払うように、わずかに壁に刺さったその剣を抜いて投げ捨てた。

 カランと音が鳴るのと同時、剣は黒い靄へと変化した。見れば化け物の死体も、さらに血さえも同様だった。数秒もしないうち、その靄すらも霧散した。


 眼前の光景に呆然とする暇もなく、本日何度目かのアナウンス。

『レベルアップしました』

 それを聞いた途端、全身から力が抜けた。

 恐怖も緊張も不安も全てが消え去り、初めて命を奪ったことへの動揺すら生まれなかった。

 ただ、

 勝った───。

 という高揚感だけが胸を埋め尽くした。

 胸が高鳴り、多幸感に包まれる。浮遊感すら感じる。

 その感情の海に浸るように、漂うように、俺は壁に背を預けたままずるずると座り込んで天井を見上げた─── 。







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

実家にガチャが来たそしてダンジョンが出来た ~スキルを沢山獲得してこの世界で最強になるようです~

仮実谷 望
ファンタジー
とあるサイトを眺めていると隠しリンクを踏んでしまう。主人公はそのサイトでガチャを廻してしまうとサイトからガチャが家に来た。突然の不可思議現象に戸惑うがすぐに納得する。そしてガチャから引いたダンジョンの芽がダンジョンになりダンジョンに入ることになる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...