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初戦闘とレベルアップ
しおりを挟む『ダンジョンに入る際にはステータスカードが必要です』
先に進もうとすると、突然中性的な声が響いた。
ダンジョン……?ステータスカード……?
「てか、それよりもこの声はどこから……」
周囲をキョロキョロと見渡すが誰もいない。
諦めて再度進もうとすると、また同じアナウンスが聞こえた。機械的な声だ。
しかしおかしい。聞こえ方が変だ。まるで全方位から声が聞こえて来たかのような...あるいは、音が直接脳内に響いたかのような...。
......いや、よそう。
すでにわからないことばかりなのに、いちいち原因を探ろうとしても埒があかない。
ともかく、今はステータスカードが必要という言葉だけが頼りだ。ならそれに従ってみるしかない。
「って言っても、ステータスカードってなんだ?どこで手に入るんだ?」
手に入る可能性があるのはおそらくこの空間だけだろう。
しかしどこにもカードのようなものは落ちていない。
どうしたものかと思いながら自販機のような形の物体に近づくと、紙幣の投入口のような穴が一つあることに気がついた。
突然、ウィーンという音が響いたかと思うと、そこから一枚の黒いカードが押し出されてきた。
学生証と同じくらいのサイズだ。
純白の文字が漆黒の中で輝いている。
~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:1
固有スキル:霊化
~~~~~~~~~~~~~~
どのようにして知り得たのか、自身の名前が刻まれている事実に、衝撃と一抹の不安を覚える。
裏面には、各種数値が縦に二列、横に三列書かれている。
~~~~~~~~~~~~~~
体力:5 防御:3
腕力:4 敏捷:5
器用:4 魔力:4
~~~~~~~~~~~~~~
「...なんだこれ、ゲームみたいだな...」
新たに疑問が湧いてくるが、ともかくこれで先に進むことができる。
しかし、
『武器を携帯することを推奨します』
というアナウンスが響いたため、俺は諾々と従って剣を一本手に取った。
「かっけぇ...」
初めて見る本物の剣に興奮半分恐れ半分、とりあえず振ってみるが、想像以上に重い。
映画やアニメなどでは軽々と振っているが、まさか実物がこんなにも重いとは...。
「よし、今度こそ」
深呼吸をして心を落ち着かせてから、俺はゆらめく空気の膜を通り抜けていった───。
内部は、直前までいた空間と同じく、光源不明の明るさに満ちていた。ふと足元を見ると影がない。
どうやら空間全体が文字通り光りに包まれているようだ。ただ、眩しいほどではない。
通路は全体が土で出来ているようで、壁はところどころ凸凹があるものの、地面は平らだ。
少し先では、右にも道が分岐している。
周囲を観察しながらその曲がり角に達したまさにその時。
キィーン
─── 俺は、夢でも見ているのだろうか。
そうだ、と誰かが肯定してくれなければ、とても頭が追いつかない。
突如、角から踊りかかってきた一つの影。
その手には光る刃。
何者かが、突然剣で斬りかかってきたのだ。
俺はその事実を認識するよりも先に、その刃の前に反射的に剣を滑り込ませて受け止めた。甲高い音が響く。
剣の経験はおろか格闘技すらやったことのない俺が、その奇襲を受け止められたのは奇跡だっただろう。
鍔迫り合いの向こう側、見たこともない化け物の醜悪な顔が憎悪を向けてくる。
殺意に歪んだその不気味な目に心臓がけたたましく警鐘を鳴らす。生まれて初めて向けられた殺意に総毛立つ。
なんなんだよ、これ───。
唯一確かな事。それはこの化け物が、俺を殺そうとしているということだった。
なんで───
キィィン
俺が混乱する間にも化け物は俺を殺そうと殺意を振り撒く。
幸い、奴の攻撃は早くはない。俺は不慣れながらもなんとか剣を受け止めた。
剣がぶつかるたびに響く耳障りな金属音が、俺の心臓を逆撫でする。呼吸が乱れる。
体全体が深い緑色で、頭髪はない。目は不気味なほど大きく濁っている。その下には大きな鷲鼻。生理的な嫌悪感を掻き立てる醜悪な顔だった。
「ギャギャギャ」
低く濁った不快な声が鼓膜を揺らす。
怖い。恐怖と緊張に身が強張る。
「うっ...!?」
突然、背中が何かにぶつかった。壁だ。無意識に後ろに下がっていたのだ。
バランスが崩れたところに、化け物が迫る。
─── 逃げ場はない。
「くそおっ...!」
俺は覚悟を決めて、一歩踏み込んで思い切り剣を水平に振った。
それは化け物の攻撃よりも先に、奴の体に届き─── 首を斬り裂いた。血が噴き出る。
それと同時、左の脇腹付近からカツンという音とともに、服が引っ張られるような感触。
見れば、相手の剣によって上着が壁に縫い付けられていた。
「ぁ...あ、危なかった......」
あと数センチずれていたら─── 。考えただけで恐ろしい。俺は恐怖を振り払うように、わずかに壁に刺さったその剣を抜いて投げ捨てた。
カランと音が鳴るのと同時、剣は黒い靄へと変化した。見れば化け物の死体も、さらに血さえも同様だった。数秒もしないうち、その靄すらも霧散した。
眼前の光景に呆然とする暇もなく、本日何度目かのアナウンス。
『レベルアップしました』
それを聞いた途端、全身から力が抜けた。
恐怖も緊張も不安も全てが消え去り、初めて命を奪ったことへの動揺すら生まれなかった。
ただ、
勝った───。
という高揚感だけが胸を埋め尽くした。
胸が高鳴り、多幸感に包まれる。浮遊感すら感じる。
その感情の海に浸るように、漂うように、俺は壁に背を預けたままずるずると座り込んで天井を見上げた─── 。
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