現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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検証

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「ん……?なんだこれ」

 しばらくぼーっとしていると、魔物が霧散した場所に、何か小さな物が落ちていることに気が付く。

 暗い紫色の宝石のようなものだ。手に取って、ためつすがめつ眺める。

 (見たことないな。宝石みたいにも見えるけど、そんなに綺麗でもないし...)

 「ゲームとかだと、魔石とかそんな感じだよな」

 使い道もわからないが、とりあえず持って帰ってみよう。

 俺は魔石(?)を上着のポケットに入れて、ステータスカードを取り出した。

~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:1→2
固有スキル:霊化

体力:5 → 7
腕力:4 → 6
器用:4 → 6        
防御:3 → 5
敏捷:5 → 7
魔力:4 → 6
~~~~~~~~~~~~~~


 ステータスカードを確認してみると、アナウンスの通り、確かにレベルが2になっていた。各数値も全て上昇している。

 (ほんとにゲームみたいだな……)

 色々と意味不明だが、こうして自分の努力が目に見える形で報われているのは嬉しいし、気分が上がる。

 このままレベルを上げていきたいところだが─── 。

 「帰るか」

 驚きと初めての連続すぎて脳がパンク寸前だ。それに、うまく体に力が入らない。

 剣での殺し合いなんか初めてだった。

 戦いを思い出して、怖かったという気持ちや緊張、興奮が入り混じったような今まで感じたことのない感情が湧き上がる。

 笑いそうになる足を動かして、ダンジョンの出口へ向かう。

 剣を箱の中にゆっくりと戻し、ダンジョン手前の空間を後にする。

 地上へと続く洞窟は真っ暗で、一寸先も見通せない。スマホのライトを頼りに登って行くと、やがて半円形に切り取られた夜空が見えた。

 地上に出ると、帰ってきたと言う安堵感が込み上げてきて気が緩んだのかどっと疲れが押し寄せてきた。
 
 フラフラとした足取りで家まで歩き、風呂も着替えも済まさぬままにベッドに倒れ込んで、俺は意識を手放した─── 。




 「うおぉぉ……」

 その翌日、俺はベッドの上で痛みに悶えていた。

 筋肉痛だろう。

 (ここ最近ろくに運動してなかったからしょうがないけど、それにしても痛すぎるだろ...!)

 ベッドで上半身を起こすことすらしんどいし、スマホを手に取るのすらも億劫なレベルだった。

 目が覚めてから1時間近く、俺は無心で穴が開くほど天井を見つめていた。

 しかし、トイレに行ったり歯を磨いたり、人間にはやらなければならないことが多くある。

 なんて不便な生き物なんだ。もっと上手く進化できなかったのか...!


 なんとか一通りの用を済ませて朝食を取り、部屋に戻ってきた俺は、昨日脱ぎ捨てたままにしていた上着のポケットをまさぐった。

 硬い感触。取り出した一枚の漆黒のカードを見る。

 「昨日の、夢じゃなかったんだ」


 やることもないので、再びベッドに転がってステータスカードを眺める。

 
 ちなみに、今朝になって学校から臨時休校の知らせがあったらしい。不登校の俺には関係のない話だが。

 原因はもちろんダンジョンのことだ。

 ニュースでもやっていたが、どうやら道路や線路がダンジョンに呑み込まれたために、交通が麻痺しているところもあるようだ。

 未曾有の事態に憶測が飛び交い、社会はまさに大混乱といった感じである。

 
 皆が知らないことを俺はすでに知っている。その事に優越感を感じる。

 しかし俺自身も、皆とは違う意味で混乱していた。

 ダンジョン、モンスター、レベルにステータス。現実感がなくて突っ込みたくなるし、わからないことだらけだ。


 ただ一つだけ確かなことは、昨日の出来事が全て現実のことだったということだろう。

 なら受け入れる他ない。それに、別に俺にとって不都合な事実ではないし、これからが楽しみですらある。

 自身の混乱に決別した俺は、もう一度ステータスカードに目を落とした。

 『名前:橘 冬夜』

 「どこで俺の名ま……」

 危なかった、つい突っ込んでしまうところだった。次だ、次。

 『レベル:2』

 これは昨日の戦いで1から2に上がった。各種数値もそれに伴って上昇している。 
 
 ただ比べる相手がいないのでこれが高いのか低いのかはわからないし、筋肉痛のせいで強くなった実感なんてないが。

 「まあ、ともかく名前とその二つはわかるけど、なんだ?これ」

 『固有スキル:霊化』

 かっこいいけど、固有スキルってなんだろうか。多分、特殊能力的な奴だよな。どうすれば使えるんだろう。
 
 その文字をタッチしてみたり、使う、使う、と念じてみても何も起こらない。

 念じながら霊化と口に出した時、効果が現れた。

 やっぱり何も起こらないぞと思いながら目を開けると、俺は驚きのあまり放心してしまった。

 俺の体から色が抜け、半透明になってしまっていたのだ。

 しばしの忘我の後、再起動した脳みそで考える。


 (相手から見えづらくなるってことか?)

 確かに効果はありそうだが、それでも一応見えているので、そこまで意味はなさそうに思える。

 そう思いつつ鏡の前に立ってみる。

 「......」

 完全に透明になっていた。

 服も体も、完全に。影もなく。
 
 家族の目の前で突っ立ってみたり変顔したりして検証したが、半透明で輪郭が見えるのは俺だけのようで、どうやら本当に相手からは見えなくなるようだった。

 
 色々と試してみた結果、透明になるのは自分の体以外には、スキル使用時に着用していた衣服のようだった。

 透明になった後に服を着てみると、それは透明にはならず、その服だけが空中に浮いているように見える。

 物の場合も同じで、最初からポケットなどに入れている場合に限って透明になった。また、手に持っている物には効果が及ばなかった。
 
 ひとしきり感動してから、欠点に気が付く。

 (すごいけど......戦いで使えるのか?)

 せっかく透明になっても、剣などの武器を持っていれば存在がバレてしまう。

 手ぶらなら奇襲はできるだろうが、素手であいつを倒せる気がしない。

 せっかくの超能力だが、使い道が思い浮かばない。

 正直微妙だなぁ、なんて思いながら大穴のニュースを見ていると、あることに気が付いた。

 テレビに映し出された大穴は警察によって封鎖されていたのだが。

 (これ、ダンジョン封鎖されてても入れるんじゃね─── ?)



 




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