現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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剣術スキル

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 その三日後、大穴ができてから4日が経った日。

 朝食をとった俺は、誰にも気付かれないようにこっそりと玄関のドアを開けて外に出た。

 静かにドアを閉め、周囲に誰もいない事を確認してからスキルを使う。

 「霊化」

  

 ダンジョンの方に向かうと、「立入禁止 KEEP OUT」のテープと、警備のために立っている警察官の姿があった。

 若干の緊張。

 一度深呼吸をしてから、音を立てないように注意しながら慎重に近づく。
  
 透明になっていると分かっていても、いざとなると不安にもなる。

 彼らの視線がこちらに向いていない事を確認してからそろりとテープをくぐると、ホッと息を吐いて階段まで歩く。

 (バレたらどうしようかと思った)    


 そこからは足取り軽く進んでいき、ダンジョンに付く。

 三日ぶりのダンジョンは、何も変わっていないようだった。

 早くもっとレベルを上げてみたい。

 本当はもっと早く来たかったが、筋肉痛が全然治らなかったのだ。
 
 昨日と同じ剣を取って、空気の幕───勝手にゲートと呼ぶことにしよう───を通り抜けたところで霊化スキルを解除する。

 しばらく使っていると頭が痛くなるためだ。
 
 理由はよくわからないけど、ステータスカードの“魔力”と関係があるのかもしれない。

 魔力を使いすぎるとそうなるとか。


 (今回は何事もなくスムーズにここまでこれたな)

 
 すぐに魔物が襲ってくるということはなかったが、ほどなくして視界の先に一匹のモンスターが現れた。

 俺が迷わず歩を進めると、こちらに気付いたモンスターも真っ向から突進してくる。

 今回も明らかな殺意と敵意が向けられている。

 けれど、恐怖はほとんど感じない。心地よいスリルと、体全体が熱くなるような高揚感。俺は今、ワクワクしている。

 距離が縮まった時、奴が頭上高く剣を振り上げた。

 俺はその隙をついて、一閃。

 水平の斬撃が魔物───ゴブリン───の首に吸い込まれていき、首が地面に落ちる。

 一呼吸置いて、その体と噴き出した血が黒い靄となって霧散した。

 「はぁ……めっちゃドキドキした」

 (緊張もあったけど、やっぱり最初から倒す気でいれば簡単だったな...)

 自分の成長度合いに思わず笑みが溢れる。


 「一体じゃダメか」

 レベルは上がっていなかった。

 あとどれくらい倒せば上がるのか、一体か、それとも何十体も必要なのだろうか。

 一体だけでレベル2に上がったわけだし、そんなに多くは必要ないと思うんだけど。

 まあともかく、倒していればそのうち上がるだろう。


 俺は気合いを入れて意気揚々と進んでいく。

 途中に出てきたもう一匹の魔物を瞬殺しつつ歩いていると、T字路に突き当たった。

 ここまでは道なりに進んできたが。

 「どっちに進もう」

 左右の道を見比べてみるも、何かわかるわけもない。

 この先にも別れ道があるなら、適当に進んでたら迷子になりそうだよな。

 そう考えた俺は、帰り道に迷わないよう、分かれ道では常に左へ進むことに決めた。

 次から、紙とペンでも持ってきて地図でも書いた方がいいかな?でも流石にめんどくさいな。書き間違えたら元も子もないし……。


 しばらく進んだ時、曲がり角の向こうから再びゴブリンがあらわれた。

 お、来た!

 しかし俺は剣を構えたところで息を呑んだ。

 そいつに続いて、二匹目が現れたのだ。1対2。

 もしかして、もっと...?

 固唾をのんで注視するが、どうやらそれ以上はいないようだ。

 しかし。

 「やるか……?」

 一人、自分に問いかける。まだ、ゴブリンとは2回しか戦ったことがない。それも相手にしたのはどちらも一匹。

 数瞬の逡巡の後、俺は剣を正中に構えた。ちょうどこちらに気がついた奴らが、

「ギャギャ」

 と汚い声───威嚇のつもりなのか、それとも笑い声なのか───をあげて突撃してくる。

 2匹は縦列で向かってきているため、先頭のやつを一撃で倒せれば、1対1を2度する、という形に持っていける。

 しかし、大きな隙を晒してくる事はなかった。

 左上から斜めに繰り出された斬撃に自分の剣をぶつけて受け止めようとしたところで、俺は思った。いや、と。

 4日前の戦いが脳裏をよぎった。一匹相手にああなったのだ。

 少しでも防御に回っていたら、確実に手数でやられる。

 込める力を増し奴の剣を弾き返すべく剣を振るおうとしたその時、突然天啓にも似た閃きが俺の体を貫いた。

 俺は迫ってくる敵の斬撃に対して、自分の剣を斜めに当てた。

 奴の剣が、俺の剣の上を滑っていく。

 キィィィ───。

 ひどく耳障りな金属の悲鳴が上がった。耳を塞ぎたくなるのを堪え、ガラ空きとなった敵の体に反撃の一太刀。

 肩口から深くまで切り裂き、その一撃によって絶命させる。

 俺は数歩後ろに下がって、一度距離を取る。

 残りはもう一匹だ。焦ることはない。

 黒い靄へと姿を変えた仲間の死体をごく自然に通り抜け、残ったゴブリンが近づいてくる。

 奴は俺との距離を詰めると、剣を振り上げ、真上から振り下ろしてきた。

 俺はそれを受け流すと、返す刀で斬り伏せた。

 どういうことだ......?

 どうすればいいのか、なんとなくだが、“わかった"。そして実際にうまく行った。

 相手の攻撃を簡単にいなして、カウンターで沈める。そんな芸当が素人の俺に出来てしまったのだ。


 『スキル:剣術を獲得しました』
 『レベルが上がりました』

 脳内に機械的なアナウンスが響き、俺は笑顔で快哉を叫んだ。

 逸る気持ちそのままに、ポケットに手を突っ込んでステータスカードを確認する。

~~~~~~~~~~~~~~

名前:橘 冬夜
レベル:2→3
スキル : 剣術(1)
固有スキル:霊化

体力:7 → 9
腕力:6 → 8
器用:6 → 8      
防御:5 → 7
敏捷:7 → 9
魔力:6 → 8

~~~~~~~~~~~~~~

 「よし!ちゃんと上がってる!」

 しかも、レベル2の時のステータスと比べて、軒並み2~3も上昇している。
 
 しばしの間ニマニマしながら数値を眺める。
 
 多分、さっきのあの感覚はこの"剣術"スキルのおかげだろう。

 素人の俺がいきなりあんな戦い方なんてできるわけないし、このスキルが補助してくれたに違いない。

 (1)はレベルか?
 
 数字は、レベル2に上がった時は1ずつしか上がっていなかったのに今回は2も上がっていた。

 腕力に関しては3も上昇している。

 もう、初期の倍くらいだ。

 よくわからない事ばっかだけど、強くなってるのは間違いない!

 俺の胸の中には高揚感が渦巻いていた。

 こうやって目に見える成長ほど、気持ちいいものはないのだ!

 俺は気分よく、ずんずんとダンジョンを進んでいった。
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