5 / 17
剣術スキル
しおりを挟むその三日後、大穴ができてから4日が経った日。
朝食をとった俺は、誰にも気付かれないようにこっそりと玄関のドアを開けて外に出た。
静かにドアを閉め、周囲に誰もいない事を確認してからスキルを使う。
「霊化」
ダンジョンの方に向かうと、「立入禁止 KEEP OUT」のテープと、警備のために立っている警察官の姿があった。
若干の緊張。
一度深呼吸をしてから、音を立てないように注意しながら慎重に近づく。
透明になっていると分かっていても、いざとなると不安にもなる。
彼らの視線がこちらに向いていない事を確認してからそろりとテープをくぐると、ホッと息を吐いて階段まで歩く。
(バレたらどうしようかと思った)
そこからは足取り軽く進んでいき、ダンジョンに付く。
三日ぶりのダンジョンは、何も変わっていないようだった。
早くもっとレベルを上げてみたい。
本当はもっと早く来たかったが、筋肉痛が全然治らなかったのだ。
昨日と同じ剣を取って、空気の幕───勝手にゲートと呼ぶことにしよう───を通り抜けたところで霊化スキルを解除する。
しばらく使っていると頭が痛くなるためだ。
理由はよくわからないけど、ステータスカードの“魔力”と関係があるのかもしれない。
魔力を使いすぎるとそうなるとか。
(今回は何事もなくスムーズにここまでこれたな)
すぐに魔物が襲ってくるということはなかったが、ほどなくして視界の先に一匹のモンスターが現れた。
俺が迷わず歩を進めると、こちらに気付いたモンスターも真っ向から突進してくる。
今回も明らかな殺意と敵意が向けられている。
けれど、恐怖はほとんど感じない。心地よいスリルと、体全体が熱くなるような高揚感。俺は今、ワクワクしている。
距離が縮まった時、奴が頭上高く剣を振り上げた。
俺はその隙をついて、一閃。
水平の斬撃が魔物───ゴブリン───の首に吸い込まれていき、首が地面に落ちる。
一呼吸置いて、その体と噴き出した血が黒い靄となって霧散した。
「はぁ……めっちゃドキドキした」
(緊張もあったけど、やっぱり最初から倒す気でいれば簡単だったな...)
自分の成長度合いに思わず笑みが溢れる。
「一体じゃダメか」
レベルは上がっていなかった。
あとどれくらい倒せば上がるのか、一体か、それとも何十体も必要なのだろうか。
一体だけでレベル2に上がったわけだし、そんなに多くは必要ないと思うんだけど。
まあともかく、倒していればそのうち上がるだろう。
俺は気合いを入れて意気揚々と進んでいく。
途中に出てきたもう一匹の魔物を瞬殺しつつ歩いていると、T字路に突き当たった。
ここまでは道なりに進んできたが。
「どっちに進もう」
左右の道を見比べてみるも、何かわかるわけもない。
この先にも別れ道があるなら、適当に進んでたら迷子になりそうだよな。
そう考えた俺は、帰り道に迷わないよう、分かれ道では常に左へ進むことに決めた。
次から、紙とペンでも持ってきて地図でも書いた方がいいかな?でも流石にめんどくさいな。書き間違えたら元も子もないし……。
しばらく進んだ時、曲がり角の向こうから再びゴブリンがあらわれた。
お、来た!
しかし俺は剣を構えたところで息を呑んだ。
そいつに続いて、二匹目が現れたのだ。1対2。
もしかして、もっと...?
固唾をのんで注視するが、どうやらそれ以上はいないようだ。
しかし。
「やるか……?」
一人、自分に問いかける。まだ、ゴブリンとは2回しか戦ったことがない。それも相手にしたのはどちらも一匹。
数瞬の逡巡の後、俺は剣を正中に構えた。ちょうどこちらに気がついた奴らが、
「ギャギャ」
と汚い声───威嚇のつもりなのか、それとも笑い声なのか───をあげて突撃してくる。
2匹は縦列で向かってきているため、先頭のやつを一撃で倒せれば、1対1を2度する、という形に持っていける。
しかし、大きな隙を晒してくる事はなかった。
左上から斜めに繰り出された斬撃に自分の剣をぶつけて受け止めようとしたところで、俺は思った。いや、と。
4日前の戦いが脳裏をよぎった。一匹相手にああなったのだ。
少しでも防御に回っていたら、確実に手数でやられる。
込める力を増し奴の剣を弾き返すべく剣を振るおうとしたその時、突然天啓にも似た閃きが俺の体を貫いた。
俺は迫ってくる敵の斬撃に対して、自分の剣を斜めに当てた。
奴の剣が、俺の剣の上を滑っていく。
キィィィ───。
ひどく耳障りな金属の悲鳴が上がった。耳を塞ぎたくなるのを堪え、ガラ空きとなった敵の体に反撃の一太刀。
肩口から深くまで切り裂き、その一撃によって絶命させる。
俺は数歩後ろに下がって、一度距離を取る。
残りはもう一匹だ。焦ることはない。
黒い靄へと姿を変えた仲間の死体をごく自然に通り抜け、残ったゴブリンが近づいてくる。
奴は俺との距離を詰めると、剣を振り上げ、真上から振り下ろしてきた。
俺はそれを受け流すと、返す刀で斬り伏せた。
どういうことだ......?
どうすればいいのか、なんとなくだが、“わかった"。そして実際にうまく行った。
相手の攻撃を簡単にいなして、カウンターで沈める。そんな芸当が素人の俺に出来てしまったのだ。
『スキル:剣術を獲得しました』
『レベルが上がりました』
脳内に機械的なアナウンスが響き、俺は笑顔で快哉を叫んだ。
逸る気持ちそのままに、ポケットに手を突っ込んでステータスカードを確認する。
~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:2→3
スキル : 剣術(1)
固有スキル:霊化
体力:7 → 9
腕力:6 → 8
器用:6 → 8
防御:5 → 7
敏捷:7 → 9
魔力:6 → 8
~~~~~~~~~~~~~~
「よし!ちゃんと上がってる!」
しかも、レベル2の時のステータスと比べて、軒並み2~3も上昇している。
しばしの間ニマニマしながら数値を眺める。
多分、さっきのあの感覚はこの"剣術"スキルのおかげだろう。
素人の俺がいきなりあんな戦い方なんてできるわけないし、このスキルが補助してくれたに違いない。
(1)はレベルか?
数字は、レベル2に上がった時は1ずつしか上がっていなかったのに今回は2も上がっていた。
腕力に関しては3も上昇している。
もう、初期の倍くらいだ。
よくわからない事ばっかだけど、強くなってるのは間違いない!
俺の胸の中には高揚感が渦巻いていた。
こうやって目に見える成長ほど、気持ちいいものはないのだ!
俺は気分よく、ずんずんとダンジョンを進んでいった。
230
あなたにおすすめの小説
実家にガチャが来たそしてダンジョンが出来た ~スキルを沢山獲得してこの世界で最強になるようです~
仮実谷 望
ファンタジー
とあるサイトを眺めていると隠しリンクを踏んでしまう。主人公はそのサイトでガチャを廻してしまうとサイトからガチャが家に来た。突然の不可思議現象に戸惑うがすぐに納得する。そしてガチャから引いたダンジョンの芽がダンジョンになりダンジョンに入ることになる。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる