現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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新ルート

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「ギャッ!......」

 もうすっかり慣れてしまって、気づけば不快に感じなくなった叫び声を上げながら、緑の人型の怪物が崩れ落ちて霧散する。

 魔法を使えるようになった日から二日後、あんな死にそうな思いをしたのにも関わらず、俺はまた懲りずにダンジョンに足を運んでいた。

 さすがに、若干の苦手意識にも似た抵抗感はあったが、気がつけばダンジョン用の服装に着替えて玄関のドアノブを回していた。

 帰還した翌日の朝には、「もう二度と行かないようにしよう...」とベッドの上で心に誓ったものだが、24時間後には消費期限切れになっていた。知らぬ間にここでしかできないことに夢中になっていたらしい俺には、とても守り通すことなど端から無理な誓いだったのだ。

 まあ、ルールは破るためにあると言うし、誓いも似たようなものだろう。

───そういえば、ゲーマーは「こんなクソゲーもう二度とやるか!」なんて言ってスマホやコントローラーをぶん投げながら、30秒後にはまたそれを拾い握りしめてもう一戦始めてるとかっていう話を聞いたことがある。

 その時にはアホすぎると思って「中毒じゃん」と笑ったものだが、今の俺はその彼と同レベルなのかもしれない。

 いや、けど俺の場合は1日持ったし……。
 
……本当は筋肉痛でどのみち日を空けざるを得なかったというだけの話なのだが。

 ちなみに、暇だったので拾ってきた魔石を数えてみたら合計で57個もあった。使い道はないが、それでもそれだけの数の怪物を倒してきたんだと思うと、なんだか少し誇らしかった。

 しかしそれだけ戦っていると、問題も出てくるわけだ。

「……この服もさすがにボロくなってきたな」

 新しいものを買おうにも、どうせすぐに買い直す羽目になるのが目に見えていて、そんな金銭的余裕は俺にはない。親に買ってもらおうにも、頻繁にボロボロにしていたらさすがに詮索されそうだ。

「どうしようかなぁ……。まあ、今考えてもしょうがないか」



 ダンジョンに来るのも4回目となれば慣れたもので、最初のように入り口でごたつくこともなく、剣を一本手に持ってスムーズに入場し、すぐに見える範囲に敵がいないかを確認してから進み始めた。

 今日の目標は、別のルートを探索することだ。まずは魔法のスクロールが落ちていた行き止まりの小部屋まで行き、その手前の最後の分岐路を逆方向に進んでみるつもりだ。

 一昨日あれだけゴブリンを倒したのだから、今日は少ないかもなと思っていたがそんなことはなく、すでに何度も遭遇している。戦闘にも慣れたもので、たった1、2匹でいるゴブリンなどはすでに脅威ではない。

「右っと……」

 分かれ道を行くたびに、上着のポケットから小さなメモ帳と短い鉛筆を取り出して、進んだ方向を書き込んでいく。

 地図を書くのはあまりにめんどくさかったので諦めたが、これから別のルートを開拓するにあたってどう進んだかのメモは必要だと思ったので、どちらに進んだのかだけを書いていくことにしたのだ。

 例えば「右、右、左、右」と進んだら、帰る時には二番目の分かれ道を右、他は左に進むことで迷わずに帰ることができる……はず。きっと。

 書くものは、スマホは少し重くて邪魔だし壊れたら困るので、小さくて軽くあまり邪魔にならないメモ帳と、縮んだ鉛筆にした。

 そうしてしばらくは「右、右……」とメモをしつつ、前回と同じく、小部屋までは全ての分かれ道で右側を選んで進んでいく。選択肢が左と真っ直ぐの二択だった場合も、真っ直ぐ進んで「右」と書くので、メモ帳には「右」の文字が長々と続く。

 しかし一瞬で済むとはいえ、分かれ道の度にいちいち立ち止まって、ポケットからこれらを取り出して記入するのはなかなかにめんどくさい。進む速度自体はさほど変わっていないだろうが、体感的には半減だ。

 多少げんなりしつつも気は抜かず、道中のゴブリンを危なげなく処理して進む。

 そういえば、と思う。殺意を向けて襲ってくる魔物とはいえ、命を奪っているにも関わらず罪悪感は微塵もないよな、と。

 ゲームのようだということはもちろんあるだろうが、それ以上に黒い靄の中から突然生まれてくるので「生物」という感覚がわかないからというのもあるだろうか。

 

 直線の通路の横に道が繋がる分岐路を直角に曲がると、今日初めて3匹のゴブリンが視界に入った。

「よし」

 俺は気合いを入れて剣を構えた。

 こいつらとの戦闘は何度も繰り返してきたので、彼我の実力差は感覚で理解している。実際に前回もうまくいったし、3匹ならこちらから行ってもそこまでの危険はない。

 なら、もっと豪快に行ってみるしかないだろう。

 緊張を心地よく感じながら俺は胸を高鳴らせる。
 
 意図してニヤリと笑みを浮かべ自分を鼓舞すると、猛然と地を蹴った。いつもの倍以上の速さで敵が間近に迫る。一瞬の判断の誤りが取り返しのつかない事態に発展する、そんな緊迫感が冷たい熱となって胸の中を駆け回る。

 疾走する俺を、先頭のゴブリンが迎撃するべく剣を真っ直ぐに振り下ろしてくる。踏み込みと同時に立ち止まり、それを横から払うように剣で弾き、そのまま一歩、肉薄して返す刀で斬り伏せる。

 ───あと二体。

 剣を大きく振り上げた左前方のゴブリン。俺はそいつの腹に思い切り蹴りを放った。ゴブリンがタタラを踏んで後ろに転ぶ。すぐに体勢を整えると、もう一体の攻撃を受け止める。先ほど転ばせた奴の様子を横眼で確認。目の前のやつを手早く仕留める必要があると判断し、力を込めて剣を弾く。敵は簡単に仰け反り、隙だらけの体に即座に斬撃を叩き込んで絶命させる。
 
 ───あと一体...!
 
 残った奴が立ち上がって突撃してくるが、たった一匹ではできることもなく、一撃で魔石へと姿を変えた。

「ふぅ」

 詰めていた息を吐き出して脱力する。
結果を見れば余裕だったし勝てると思って突撃したが、張り詰めた緊張感のある戦いだった。

 俺はそれを乗り越えた心地よさをしばし味わってから、再び歩き始める。

 多少なりとも戦闘の邪魔になるため、魔石は全て帰りに回収するつもりだ。

「よし、こっからはこの調子で行くぞ!」

 俺は気合い新たに、まだ見ぬ先を目指してまた歩き始めるのであった。
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