現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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新ルート2

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 それから俺は、ゴブリンを発見したら即、全力突撃を繰り返した。普通に考えればリスクが増えるだけで、その上どうせ移動時には歩いているのだから大して時間短縮になるわけでもない。無意味なことだと思いながらも、この疾走感が気持ちよくてやめられない。

 流石に4匹以上の集団相手にはやらないでおこうと決めていたが、そんな相手はいなかった。

 スリルがある上に戦闘にスピード感が生まれるので、メモのことを差し引いても、ずいぶん進むのが早くなったと感じる。時計などないので本当のところはわからないが、実際には数秒程度の些細なものだろう。だが体感こそが重要、楽しければいいのだ。

 通り魔被害に遭う哀れなゴブリンたちを量産していくが、何度もそれを繰り返すと疲労してきたため、途中からは普通に戦いながら進むことにした。

「もうそろそろだと思うんだけど……あ」

 真っ直ぐ続く道を逸れて右に曲がってさらに少し進んだ時、目に入ってきたのは4匹以上のゴブリン集団だった。どうやら最初の目的地である例の行き止まりについたようだ。

 ゴブリンの姿が重なり合っていて正確な数はわからないが、前回ほど多くはなさそうだ。

「……よし」

 俺は一度深呼吸をしてから、小声で気合いを入れる。

 魔法を使えば簡単に数を減らせるだろうが、今日はこいつらで終わりじゃないので、魔力はなるべく温存しておきたい。

「ゴースト」

 俺は霊化スキルを使って姿を消し、足音を立てないように奴らに近づいていく。剣までは透明にはできないが、一番近いゴブリンが背中をこちらに向けているため、その背中に剣を隠すようにして真後ろまで接近する。
  
 隙だらけの細い首を斬り払う。そのまま動きを止めずに、一歩踏み込んで右前方のゴブリンを斬り殺す。間髪入れずにもう一匹に斬りかかるが、これは寸前で受け止められる。俺はそいつの腹を蹴り、体勢を崩したところに真上からの振り下ろしを叩き込む。

 そこで一歩後退し、呼吸を整えつつ状況を把握する。

 3匹が霧散した先には、2匹が残るのみだった。

 先に向かってきた奴の攻撃を難なく捌き、返す刀で1匹を斬り伏せる。半歩下がって剣を引き戻し、仕切り直してから最後の敵と純粋な1対1の状況を作り出し、安全に始末する。

 どうやらこいつらにはまともな知能がないようで、見える剣ばかりを狙ってきた。元々斬撃は遅く稚拙なものだったので、攻撃が飛んでくる場所までわかれば対処はあまりに容易なものだった。

「5対1でも、奇襲したらすぐに終わったな」

 苦戦しそうであれば、前回と同じく角待ち作戦を決行するつもりでいたが、不意打ちをかけたとはいえ簡単だった。

───透明になって戦うの、どうせ剣が見えるんだからあんまり意味ないんじゃないかって思ってたけど上手くいったな。

 俺はそう戦闘を振り返りながらスキルを解除し、奥に進む。

 魔物が何度も湧くなら、レアアイテムだって復活しているかもしれない。

 淡い期待を胸に小部屋を覗く……が、魔法スクロールは落ちていない。そんなうまい話はないか……と落胆しかけたが、よくみると、地面に何かが落ちている。

 ゆっくり近寄って拾い上げてみる。
それは金色の小さな木の実のような、種のような物だった。

「なんだこれ」
 
 前回の魔法スクロールのように、使用するしないの案内もなく、何の表示も出てこない。

 わからないが、きっと悪い物ではないだろう。とりあえず持って帰ることに決めた俺は、それをポケットに丁寧に入れると、他に何も落ちていないことを確認してから部屋を出た。

 通ってきた道を少し引き返して、先ほどは右に曲がった分かれ道を今度はまっすぐ進んで行った。メモを取り出して最後の「右」の文字に横線を引き、「左」に書き換える。

 このルートでも、敵は変わらずにゴブリンしか出て来なかった。一度も危ない場面はないまま、魔石の道標ができていく。



「そういえば、魔法とか剣術はLV1だけど、上がる条件ってなんだろう」

───熟練度的なものだろうか。でもそれなら、もう50体以上のゴブリンを剣で倒してるんだし、剣術は2くらいにはなってていいと思うんだけどな。まだ回数が足りないのか、技術を磨かないといけないのか、それとも何か他に条件があるんだろうか。さっぱりだ。

 小さく息を吐いて、左手をポケットに突っ込むと、謎の種の硬い感触が返ってくる。

───今回はこれだったけど、もしまた魔法のスクロールが落ちてたら、レベルが上がったりしたんだろうか。ゲームだったら大抵攻略サイトとかあるんだろうけど……。

 接敵したゴブリンを片付けつつ、そんなことを考えながら進んでしばらく。数匹のゴブリンが現れた。ちょうど曲がり角のあたりに屯している。今までの感じからして、この先が行き止まりだろう。

 もしかしたら、向こう側にまだいるかもしれない。安全に数を減らすためにこっそりと近づきたかったが、一部はこちらを向いているので死角からの奇襲は無理そうだ。
 
 透明になってから近づいていくが、予想通りすぐに気付かれる。

「ギャギャ!」

 ゴブリンたちが醜悪な顔をこちらに向けながら、気持ち悪い声を飛ばしてくる。
総数はわからないが、向かってくるのは5匹だけだ。これ以上の小細工を使うまでもない。
そう判断したものの、踏み出す一歩は重かった。心臓に冷気が絡みつき、冷えた血液が全身を硬くしていく感覚。安全策をとってもいい。だが。

───こんなところで止まってられない。

 互いに走り出し、一気に距離が縮まる。
 
 俺はリーチの長さと剣のスピードを活かし、先制攻撃に出る。横薙ぎに一閃し、これで1匹の首が飛ぶ。目の前の2匹が剣を振り上げる。普通なら、別々の方向から迫る2つの斬撃を同時に防ぐことは無理だろう。だが俺が透明になると、こいつらは何かしらの存在が剣を振るっているということを理解できないのか、持ち主ではなく剣ばかりを狙ってくれる。

 体から離れた右手、その先に降ってくる斬撃に対し、俺は半身になって剣を引く。奴らの剣が地面を浅く削ると同時、カウンターを浴びせて1匹を斬り殺し、さらに踏み込んで先の軌道を逆からなぞる剣撃でもう1匹を絶命させる。

 半歩引いて攻撃に備えるが、しかし、斬撃は来なかった。
 
 それどころか、残ったゴブリンたちは背を向けて奥の方へと走りだす。

───逃げた……?

 そうとしか見えない……が、しかし、逃げるだろうか。こんなことは初めてだ。奴らは愚直に突っ込んでくるモンスターで、今まで、ダンジョンで戦ってきたゴブリンどもが逃げ出したことなど一度もない。

───仲間を呼びに行ったのか……?
だが数匹のゴブリンが増えたところで、それは大した意味を持たない。

 狙いがわからないという、未知への僅かな恐怖が追撃に出ることを躊躇わせ、その間に2匹は曲がり角の向こうに姿を消した。

 数瞬の逡巡の後、俺は警戒しながらゆっくりと後を追うことにした。


 俺のように、待ち伏せでもするつもりだろうか。

───そんなの、警戒されてたら通用しな───!?

 と、向こうから1匹のゴブリンが姿を現した。しかし、デカい。今までのゴブリンよりも、一回り大きな奴だった。

 その後ろから、先ほど逃げ出した2匹が再び姿を見せる。

「親分に泣きついたってか……」

 口では強がりを吐くものの、俺の胸の中には確かな恐怖と緊張があった。初めてみる魔物で、しかも今までのよりも明らかに強そうだ。

 だが、仮に普通のゴブリンの倍強かったとしても、それくらいなら勝てるはずだ。どうせこいつも俺を認識できないで剣ばかり攻撃してくるであろうし、MPだって温存してきたのだ。

「ギギャアア!」

「ッ……」

 野太い声に心が怯むが、初めてゴブリンと戦った時の恐怖ほどじゃない。

 俺が覚悟を決めたのに合わせるかのように、デカいゴブリンが吠え、ゆっくりとこちらに足を踏み出した。






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