現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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新ルート3

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「火炎槍!」

 歩み寄ってくる敵に対して、俺は迷わず魔法を発動。

 奴に向けた左の手のひらの前に生み出された炎は、瞬く間に槍を形成し、標的に向かって突き進んでいく。ゴブリンなら一発で爆殺できる魔法だ、ただでは済まないだろう───。しかし、そんな俺の楽観はすぐに打ち崩された。

 奴は炎の槍に剣を差し出し、それで魔法を受け止めたのだ。
 
───まじかよ。

 魔法と剣が衝突し、爆煙が一瞬、奴の上半身を覆い隠す。程なくして露わになったのは、大きなひびが入った剣と、無傷に見えるデカゴブリンの姿だった。

 だが、いずれは防がれる事もあるだろうと思っていたので、大きな動揺はない。俺はむしろ、その後の奴の行動の方にこそ驚いたかもしれない。

 受け止められたが剣は破壊した、と思ったのも束の間、奴は後ろを振り向くと、そこに控えるゴブリンから強引に剣を奪い取ったのだ。

予想していなかった出来事に一瞬だが呆気に取られ、その隙に奴が距離を詰めてくる。俺は意識を引き戻し、心身ともに迎撃の構えをとる。

 奴はデカいだけでなく、素早さも通常のゴブリンよりあるようで、その迫力に僅かに腰が引けてしまう。

 距離はすぐに縮まり、俺たちは剣の打ち合いになる。

 さすがに重い───。

 決して受け止められないほどではないものの、気を抜けば力で押し切られてしまいそうだ。さらに普通の個体よりも知能があるようで、剣ではなく俺本体のことを狙って斬撃を繰り出してくるのも厄介だ。

 何度か打ち合うが、なかなか攻めることが出来ないまま、じりじりと通路を押し戻されていく。

 全身に疲労も溜まり、特に手は痺れてしまいそうだ。

───どっかで攻めに出ないと……!!

 こちらからアクションを起こさなければと思いつつ、機会を伺う。

 と、奴がさらに肉薄して斬撃を放ってくる。俺はそれを受け止めるも、窮屈な受け方になってしまい、力負けして後ろにのけ反るように体勢を崩す。

「やばッ……!?」

 それを好機と見たのだろう。俺が体勢を立て直そうとしている間に、奴は大きく頭上に持ち上げた剣を真っ直ぐに振り下ろしてきた。

 受けても押し切られる───なら。

 脳裏に直感的なイメージが湧き上がってきて、俺はそれに従って体を動かした。頭上に迫る奴の斬撃に合わせるように剣を当て、敵の剣を滑らせる。奴の剣はそのまま勢い余って地面を削り、俺はその隙に攻撃に転じた。

 隙だらけのデカゴブに袈裟斬りに剣を振い、無防備な奴の肩口を切り裂いて血を吹き出させる。さらに追撃に出ようとしたところで、奴が叫ぶ。

「ギャー!」

 突然のことにびくりとして体が硬直してしまう。その間に、奴は俺と距離をとった。すると後方で戦いを見ていた2匹のゴブリンが動き出す。どうやら今のは手下への参戦命令だったようだ。

 1対1でもいい勝負だったのだから、傷を負わせたとは言え、数が増えるのはまずい。

 そう思う俺だったが、どういうわけか向かってくるのはゴブリン2匹だけだった。しかも1匹は、先ほど親分に剣を奪われたため、哀れなことに素手である。

 親分はその後ろで、傷を押さえて恨めしげにこちらを睨みつけている。どうやら手下に戦わせることで自らは休息を取りつつ俺を消耗させたいようだったが、こいつらではそれすら難しいことがわからないのだろうか。

 
 すでに俺は平静を取り戻しており、落ち着いて剣を振るいどちらも一撃でその命を刈り取った。これで残るは親分だけだ。

「さあ、第二ラウンドだ」

……当然と言えば当然だが、そこからは呆気のないものだった。

 今日はここで引き上げる予定であったため、もう魔力の温存も必要ない。

 俺は炎槍を2発続けて放つ。1発目は奴の剣で防がれたが、狙いを変えて放った2発目は奴の左腕の付け根あたりに命中し、浅くない傷を負わせた。

 武器はひび割れ、体はすでに重傷。そんな状態の奴に何かできるわけもなく、数度剣を交えた後、俺の剣は一際深く奴を切り裂いて、断末魔の叫びを上げさせた。


 デカゴブの体が靄になって消えて行くのを確認して息を吐き出すと、力まで一緒になって抜けていき、俺はふらつくまま壁に背中を預け、そのままズルズルと膝を曲げてしゃがみ込んだ。

「はあ……疲れたな、流石に」

 大きなため息を吐きつつ、天井を仰ぐ。肉体的な疲れはもちろん、精神的な疲労も大きい。初めての強敵と言っていい相手だった。結果的には小さくない力量の差があったわけだが、一歩間違えば取り返しのつかない傷を負うという状況は、神経を相当すり減らせるものだった。

───もしあの時、3体で同時に来られてたら危なかった……。いやでも、魔法連射して2体を先に倒せばどうにでもなったかな。

 魔法の使い過ぎで死にかけた時は、試し撃ちに2発、ゴブリン相手に3発の、計5発までは問題なく使えた。そのため、あの時点ではまだ4発の余力があった。

 2発でまずはゴブリン2匹を排除して一騎打ちに持ち込めば、結果は変わらず問題なく勝てただろう。ビビる必要はなかったし、あの瞬間は冷静に考えることができていなかった。まだまだダメだなと思うが、それはネガティブな感情ではなく、むしろそれだけ成長の余地があると知れたことへの静かな高揚感だった。

 それにとにかく勝ちは勝ちだし、初めて戦う、それもいつもより強い敵を倒せたのだから、後悔などあろうはずもない。今俺の胸にあるのは、敵だけではなく恐怖や不安からも逃げず正面から立ち向かい打ち勝った誇らしさだった。

「はあ」

 しばらく戦闘を振り返っていると、いつしか疲労感はすっかり抜けていた。俺は温度の違うため息を吐き立ち上がる。

 ゴブリン共の形見である魔石には目もくれずに今日の目的地である奥へ進むと、そこにはやはり小部屋があった。

 これから、お楽しみのアイテムである。ここには何があるんだろう。期待しつつ中を覗くと、そこはやはり四畳半ほどの空間だった。

「剣?」

 その中央の床にあったのは、黒い鞘に収まった剣だった。鞘にはベルトのようなものがつながっている。

 また丸められた紙があるものだと無意識に想像していた俺は、やや驚きながら近づいて、屈んで慎重に持ち上げる。現在使っているものと比べてそれほど重さは変わらないように感じるが、どこか芯のある重さとでもいうのか、伝わってくる感触はより重厚なものだった。

 鞘から抜いてみれば、白く輝く刀身が姿を現した。

 見た目はそう大きく違わないものの、洗練された品のようなものを微かに感じる。明らかにダンジョン貸出の剣よりも上等なものだろう。

 俺はしばし興奮しながら剣を眺めたり、意味もなく鞘に出し入れしたりした。何度か振ってみて、また眺め、お宝を見つけたような感覚に浸る。

 それが終わると今度は実際に使ってみたくなるのが男子中学生というもので、俺は魔石を拾い上げるのももどかしく、魔法を習得した時と同じように、またゴブリンの姿を求めながら帰路についたのだった。









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