現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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黒鉄の大扉

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 ダンジョンの出現という天変地異的な出来事があっても、時は変わらずに流れ、今年も例外なく年が明け、さらに数日が経った。

 ニュースでは“謎の大穴”のことが連日報じられているものの、いまだに内部の情報は一切公開されていない。皆にとってダンジョンは全く未知なままで、世間は不安の中で日常に戻ろうとしている。

 デカゴブとの戦いからおよそ二週間が経つ間に、俺は10回以上ダンジョンに通った。本当はもっと潜りたかったのだが、毎日行くことは叶わなかった。

 例年同様、年末に親の実家に帰省する羽目になったので、自由に動き回れなかったのだ。

 世間は混乱の最中にあるのだから今年はないかもしれないと期待していたのだが、そんな状況だからこそ親族が集まる意味があるらしい。

───ともかく俺にとって、その時間は決して楽しいものではなかった。

「冬夜くんももうすぐ中学三年生か」

 集まった親戚のそんな言葉から始まる。学校はどうだ。友達は。勉強はついていけているか。高校はどうするのか───。

 居心地が悪かった。彼らのことは嫌いじゃないし、その会話も彼らにとってはただの世間話程度のものでしかないのだろう。悪意など微塵もないことはよく知っている。

 けれど俺にとっては、不登校の不真面目な、それでいて不良にすらなれない俺にとっては、その言葉はどれも心に刺さる棘を持っていた。

“学校に行っていない”

 そんなことを言えるわけがなかった。言えばその理由まで聞かれるに決まってる。だから曖昧に誤魔化した。少しでも自分に話題が飛んでこないように、団欒の中で息を潜めた。両親にバラされないことを祈りながら。

 結局、親は俺の学校生活については何も言わなかったが。

 去年までは楽しみでしかなかった正月は、今の俺にとっては辛く苦しく、心を締め付けるものだった。もしも俺が自分に自信を持って、後ろめたいことがなく胸を張れるような人間だったなら……。

 色々と聞かれた時も、学校でこんなことがあったとか進路はこう考えているだとか、笑顔で自分のことを話せるような人間だったらな。そんなことを思った。けれど、俺にはもはやそんな自分が想像できない。

 久しぶりの集まりに皆が笑みを湛えて談笑するなか、俺は口を噤んで時計の針が進むのをひたすら待った。俺は何をしているんだろう。なんでこんなことに。ただ自分が情けなかった。

 自宅に戻ってからは、そんな鬱屈した感情から目を背けるようにダンジョンに入り浸った。

 ダンジョンや魔物との戦闘という、非日常の世界で剣を振るっているうちは、現実の悩みや劣等感、焦燥感と無縁だった。

 午前と午後で毎日2度探索に出る生活を数日続けると、ダンジョンが再び俺にとっての”現実”になり、そういう後ろ向きな理由を考えることも無くなった。

 もともと、俺に趣味という趣味などなかった。ゲームはやったりするし、MyTubeで動画を漁ったりもしていた。けれどそれは時間を潰すためで、したいからそうしていたわけじゃない。

 そんな俺にとって、ダンジョンは久しぶりに夢中になれる、いや、夢中になってしまうものだった。寝ても覚めてもダンジョンのことばかり考えて、楽しみで仕方がなくなった。


 帰省によって一度”現実”に連れ戻されたことで、“謎の大穴”はいっそう俺の居場所と言うべきものになったのだ。

 
 俺は今日も、いつものボロボロの服装に身を包んで家を出た。



 そんなわけで、俺のステータスはこんなことになっていた。

~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:6→15
スキル:剣術LV1 火炎槍LV1→2 MP回復速度上昇LV1 魔力障壁LV1
固有スキル:霊化
称号:探索者

体力:18→51
腕力:17→50
器用:14→38
防御:13→37
敏捷:14→38
魔力:16→45
~~~~~~~~~~~~~~

 レベルは10を超え、ステータスも大幅に上がって初期の10倍に近い。さらに火炎槍のレベルが上がり、新しいスキルも2つ獲得した。

 ダンジョンの行き止まりには必ず何かしらのアイテムがあったが、どうやら初回以外は謎の木の実や大きめの魔石しか手に入らないようなので、同じところを何度も目指して楽をすることはできなかった。

 火炎槍は追加でスクロールを1枚使用したらレベルが上がり、速度が明らかに増して威力も上がった。

 魔力障壁はおそらくその名の通りで、自分の体に半透明の魔力のシールドを纏わせる感じだと思う。強度はどれだけあるのかわからない。一度試しにゴブリンの攻撃を受けてみようかと思ったが、あまりに怖すぎたのでやめた。

 MP回復速度上昇は自動で常時効果を発揮するタイプのもので、魔力の回復が早くなるスキルだろう。詳しい効果は検証のしようがないが、その認識で間違いはなさそうだ。

 ステータスの上がり方にばらつきがあるのは、使う機会の多さではないかと考えている。例えば筋トレで筋肉が強くなるように、魔法を使えば魔力が上がり、剣を振っていれば腕力が上がりやすくなるような、そういう感じではないだろうか。

 逆に防御は敵の攻撃などを受けていないのであまり鍛えられず、全力で走ることも少ないので敏捷もあまり上がらないのではないかと考えている。

 ともかくステータスの伸びは凄まじく、元々ゴブリンは苦戦することなく倒せていたので、数が増えてももうあいつらの相手は余裕である。

 また他ほどではないが敏捷ステータスも上がったことで、戦闘や移動のスピード感が増して探索速度は比べ物にならないほど速くなった。

 一度の探索で倒す敵の数も当然ながら多くなり、すべての魔石を持ち帰れなかったこともある。そのため今は、小さなボディバッグを身につけてダンジョンに潜るようになっている。

 体力もかなりついた。小学生の頃に半ば無理やり参加させられた3kmマラソンでは、折り返し地点に着く頃にはへとへとになっていたものだけど、今ではフルマラソンすら余裕だろう。


 角を曲がった10mほど先に5匹のゴブリンがいたが、もうこの程度では俺はスピードを緩めたりしない。

「火炎槍」

 走りながら狙いを定めて魔法名を唱えると、炎の槍が宙空に出現し、高速でゴブリンに向かって疾走する。

 今までは注意していれば避けられそうな速さだったが、LV2になってからは、警戒していても躱せる自信がない。いつかのデカゴブのように、剣を盾にガードをするのが関の山だろう。あれ以来何度か戦ったそのデカゴブ相手でも、ガードされることは滅多になくなった。

 空気の壁を穿ちながら疾走する燃え盛る炎の槍は、たちまちのうちに先頭のゴブリンに着弾し、爆発を巻き起こした。

 その爆煙が薄まる頃には、俺は奴らに肉薄していた。

 魔法が直撃したゴブリンはすでに事切れていて、その隣にいた1匹は爆発に巻き込まれて片腕が吹き飛んでいた。まずはそいつを薙ぎ払い、勢いのままに次のゴブリンに斬りかかる。俺が剣を振るう度に奴らの体が両断され、鮮血が舞う。

 すれ違う2秒程度、瞬く間のうちに4匹を斬り伏せると、俺はそこで初めて足を緩めて剣を鞘に差し込んでから、再び加速してその場を走り去る。

 この間手に入れた新しい剣は、かなり使いやすいものだった。今まで使っていた入り口に置かれた剣より明らかに切れ味がよく、力任せに叩き切る感じが減り、力を込めずともスパッと斬れるので気持ちいい。

 同じような戦闘を何度か繰り返しながら突き進んでいると、今までよりも少し広い道に出た。元々は3、4メートルくらいの道幅だったのが、5メートルほどになっていた。そこからはゴブリンたちとの接敵頻度も高くなっていた。


「またかよ」

 今も、7匹のゴブリンが俺の前の道を塞いでいる。すぐに蹴散らしたが、魔法を連続で使いすぎるわけにもいかず、やや時間が取られるようになってくる。何度も魔法を使っているうちに、おおよその魔力の残量が感覚でわかるようになったので、7、8割ほどは常に残しておくようにしているためだ。

 この辺りはダンジョンの深部的なエリアなのか、それとも───。

 そんな予感を抱えながら角を曲がると、道の先に異質なものが現れた。黒い巨大な両開きの扉だ。初めて見る。足を止めて遠目で観察する。唾を飲み込み、慎重に近づく。

「すご……」

 模様などは何もなく、無骨で威圧感がある。扉は金属でできているようで、手で触れてみると無機質な冷たさが伝わってくる。

 扉の向こうが気になり開けてみたいと思うが、かなり重そうだ。かといって、開閉ボタンのようなものも、それらしい仕掛けも何も見当たらない。ゲームのように、特別な条件か何かがあるんだろうか?

 人力で開けるのは無理だろうと思いながらも、ダメで元々と左手で少し力を入れて押してみる。するとわずかに片方の扉が動いた。

 それに驚きつつも、開くのならと右手の剣を鞘に収め、深呼吸をしてから両手で扉を押していく。

 ギギギという低い唸り声を上げながら扉が開かれていく。

 そして俺の目に映った光景は───。





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