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#17 ままごと (意外なオチ、サスペンス)
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俊介と由香は幼馴染みだ。
「あなた、また靴下脱ぎっぱなしにしてるじゃない。ちゃんと片付けてっていつも言ってるでしょ」
そんな由香の小言に心底うんざりした顔で、俊介は顔を背けた。
「ちょっと聞いてるの? まったく黙り込んじゃって、文句があるならはっきり言えば良いじゃない」
「お前に何を言ってもムダだからな。じゃ、会社行ってくる」
俊介は深くため息をつきつつ、由香に背を向けた。
出社する俊介を見送ることもなく、由香はキッチンへと戻り、朝食の後片付けをテキパキと行っていく。
しかしその手があるところで止まった。ちょうど俊介の飲んだ味噌汁のお椀を持とうとしたときだ。
そのお椀をじっと見つめる由香。その口元にはなぜか笑みがこぼれている。
「今日で何日目だったかしら。もうそろそろだわ。主人がぽっくり逝ったら、私はその保険金で……」
由香は俊介の料理にだけ、毎日少しずつ農薬を入れていたのだ。俊介に気づかれないようにごく僅かな量ではあったが、着実に体を蝕んでいることであろう。
俊介が帰宅し、無造作に声をかける。
「おい、帰ったぞ。飯はまだか?」
「もうできてるわ。あなたの大好物のお味噌汁もたっぷり作ったから、たくさん飲んでね」
由香は笑みを浮かべつつ、夫に優しく話しかける。
「今朝はちょっと言い過ぎちゃったから。そのお詫びよ。ごめんねあなた」
「おう、そうか。俺も悪かったな」
「いいえ、いいのよ。それより早く食べましょ。いっぱいおかわりしてね」
俊介が食べる様子をじっと見つめる由香。
「由香ちゃーん、暗くなってきたから、もうそろそろ帰るわよ。俊介君もお家に帰ろうね」
公園で遊んでいた由香と俊介の元へ主婦らしき女性が駆け寄ってきた。
「あっ、ママ。今日はね、俊介君とおままごとして遊んでたの」
「あら、そう。それは良かったわね。楽しかったでしょ? じゃあ、帰りましょうか」
「うん、じゃあね、俊介君。また明日ね」
そう言って俊介に手を振る由香とその母親。由香はそんな母親の手を小さな手でぎゅっと握りしめた。
「ママ。おなか空いちゃった」
「そうね。たくさん遊んだからねぇ。じゃあ今日はパパの大好きなお味噌汁と由香の大好きなハンバーグを作るから、いっぱい食べてね」
「やったー。今日はハンバーグだ!」
由香の母親は、はしゃぐ娘の様子をじっと見つめながらも、どこか心ここにあらずといった表情である。
そうして由香に聞こえないような小さな声で、ポツリと呟いた。
「あの人には、味噌汁をたくさん飲んでもらわなくちゃ……そう、たくさんね……」
「あなた、また靴下脱ぎっぱなしにしてるじゃない。ちゃんと片付けてっていつも言ってるでしょ」
そんな由香の小言に心底うんざりした顔で、俊介は顔を背けた。
「ちょっと聞いてるの? まったく黙り込んじゃって、文句があるならはっきり言えば良いじゃない」
「お前に何を言ってもムダだからな。じゃ、会社行ってくる」
俊介は深くため息をつきつつ、由香に背を向けた。
出社する俊介を見送ることもなく、由香はキッチンへと戻り、朝食の後片付けをテキパキと行っていく。
しかしその手があるところで止まった。ちょうど俊介の飲んだ味噌汁のお椀を持とうとしたときだ。
そのお椀をじっと見つめる由香。その口元にはなぜか笑みがこぼれている。
「今日で何日目だったかしら。もうそろそろだわ。主人がぽっくり逝ったら、私はその保険金で……」
由香は俊介の料理にだけ、毎日少しずつ農薬を入れていたのだ。俊介に気づかれないようにごく僅かな量ではあったが、着実に体を蝕んでいることであろう。
俊介が帰宅し、無造作に声をかける。
「おい、帰ったぞ。飯はまだか?」
「もうできてるわ。あなたの大好物のお味噌汁もたっぷり作ったから、たくさん飲んでね」
由香は笑みを浮かべつつ、夫に優しく話しかける。
「今朝はちょっと言い過ぎちゃったから。そのお詫びよ。ごめんねあなた」
「おう、そうか。俺も悪かったな」
「いいえ、いいのよ。それより早く食べましょ。いっぱいおかわりしてね」
俊介が食べる様子をじっと見つめる由香。
「由香ちゃーん、暗くなってきたから、もうそろそろ帰るわよ。俊介君もお家に帰ろうね」
公園で遊んでいた由香と俊介の元へ主婦らしき女性が駆け寄ってきた。
「あっ、ママ。今日はね、俊介君とおままごとして遊んでたの」
「あら、そう。それは良かったわね。楽しかったでしょ? じゃあ、帰りましょうか」
「うん、じゃあね、俊介君。また明日ね」
そう言って俊介に手を振る由香とその母親。由香はそんな母親の手を小さな手でぎゅっと握りしめた。
「ママ。おなか空いちゃった」
「そうね。たくさん遊んだからねぇ。じゃあ今日はパパの大好きなお味噌汁と由香の大好きなハンバーグを作るから、いっぱい食べてね」
「やったー。今日はハンバーグだ!」
由香の母親は、はしゃぐ娘の様子をじっと見つめながらも、どこか心ここにあらずといった表情である。
そうして由香に聞こえないような小さな声で、ポツリと呟いた。
「あの人には、味噌汁をたくさん飲んでもらわなくちゃ……そう、たくさんね……」
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