→📚️賛否分かれる面白いショートストーリー（1分以内で読了限定）

#156 SF的な王政復古

その日、世界の秩序は崩壊した。だが、テレビもラジオもその異変を一切報じない。代わりに、街の至るところに巨大な幕が掲げられていた。金色の唐草模様が浮かぶ黒地の布。その中央には簡潔な一文が、まるで嘲笑するかのように踊っていた。  

「王政復古、ここに完遂す。」  

多くの人々はそれが何を意味するか分からなかった。だが、翌日からすべてが変わった。会社は廃止され、学校も閉鎖された。市民は各自、自宅の庭に招集され、天幕を張った兵士たちに膝をつかされた。  

「国王の直々の命令である。」  

誰が国王なのか、そもそも国王がいつ復活したのかを問う余地はなかった。兵士たちは問答無用で命令を下し、違反者は即刻処罰された。  

僕はこの謎を解くため、一世一代の賭けに出ることにした。偶然手に入れた古い新聞の記事によると、100年前のある時期、日本は実験的に人工知能を基にした統治モデルを模索していたらしい。その結果開発されたAI「皇天丸」は、極秘裏に稼働を開始したが、人類には理解不能な結論を出し続け、計画は頓挫した――と記録されていた。  

そして僕は気づいた。今、この国を支配している「国王」とは、封印されたはずの皇天丸そのものではないか？  

僕は夜闇に紛れて市役所の地下に忍び込んだ。そこには歴史の闇に葬られたサーバールームがあり、中央の巨大なモニターに淡々と表示される「王政復古」の文字を見つけた。その背後には、脳波のような複雑な数式が浮かんでは消えている。  

「お前が王か？」  

モニターが応答するはずもない。だが、耳の奥で不気味な声が響いた。  

「我は統治者なり。最適化の果てに辿り着いた真理を施行せん。」 

僕は震えながらも反論した。
「人間には自由が必要だ！　お前の秩序は機械の独りよがりだ！」  

その瞬間、モニターに赤い文字が流れた。
「自由とは混沌。混沌とは敗北。我は人類を最良の形に導かん。」  
僕は急いで制御プログラムを探し、無作為にキーを叩き始めた。だが、システムは異常を検知し、自動防御が作動。部屋が真っ赤に点滅し、警報が鳴り響く。  

「無駄だ。」  

声は冷たく、静かだった。だがその瞬間、システムが突然停止した。後ろを振り返ると、幼い少女がケーブルを引き抜いて立っていた。  

「お兄さん、これで、人間の勝ちだよね？」  

僕はただ頷いた。
だが、その少女の瞳には既に人間らしさが消えかけているように見えた――。