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#155 無鉄砲な後輩の行き先
しおりを挟む「無鉄砲って言葉、好きなんだよね」
そう言ったのは大学の後輩の吉田だった。彼はとにかく突拍子もないことをやらかす。昨日もバイト先で客の注文を完全無視して、何の脈絡もなく「ごぼうサラダ」を全員に配り、「面白かったっすよね?」と笑顔で店長に怒られていた。
吉田の無鉄砲さは幼少期かららしい。親に反抗するでもなく、友達に合わせるでもなく、ただ自分の思いつきだけで動いてきたという。その結果、たくさんの人を困らせ、時には泣かせてきた。
「でもさ、考えてみたら、俺みたいな人間って必要じゃないっすか? ほら、古代の冒険者とか、科学者とか、無鉄砲だから新しいことを発見できたわけでしょ?」
「まあ、そうかもしれないな」
正直、話を合わせるのが精一杯だった。彼の論理にはどこか穴があって、それを指摘するのが億劫だったからだ。
そんな吉田が、ある日「すごいものを見つけたんです!」と興奮気味に研究室に駆け込んできた。彼が持ってきたのは、どこかの骨董市で手に入れたという古びた地図だった。
「これ、本物の宝の地図ですよ! 絶対!」
地図には確かに、不自然に曲がりくねった線と記号が書かれていた。だが、どう見てもそれはただの古びた落書きにしか見えない。
「吉田、お前それ、誰がどう見てもインチキだろ」
「いやいや、そんな否定的な考えじゃ人生つまらないっすよ! 俺、これ持って旅に出ます!」
そして吉田は本当に行ってしまった。それから半年以上、何の連絡もなかった。みんな「どうせ途中で諦めて帰ってくるだろう」と思っていたが、彼は戻らない。
ある日、彼から突然封書が届いた。差出人の住所は書かれておらず、中には一枚の写真と短いメモだけが入っていた。
写真には、彼が何か巨大な建造物の前で満面の笑みを浮かべている姿が写っていた。背景には見たこともない奇妙な景色が広がっている。そして、メモにはこう書かれていた。
「宝、見つけました! これからもっとすごいものを探しに行きます。戻らないかもだけど、楽しいっすよ!」
その瞬間、寒気がした。写真の建造物の形状があまりにも非現実的で、空がどこか異様な色をしていたからだ。彼は本当に「どこか」へ行ってしまったのかもしれない。
それ以来、吉田の消息は完全に途絶えた。彼の無鉄砲さがただの冗談や失敗で終わらず、どこか「本当に触れてはいけないもの」に触れてしまったのではないか――。そんな疑念が胸をよぎる。
その地図は今、吉田の机の引き出しにそっとしまわれている。誰も開けようとしない。彼の無鉄砲さの行き先を知るのが怖いからだった。
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