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#160 除夜の煩悩
しおりを挟む大晦日の夜、街は冷たい静寂に包まれていた。街灯が吐くオレンジの光が雪を染め、まるで世界が薄絹で覆われているようだった。俺は歩き慣れた道を進むが、心はどうしようもなく重かった。
「あの人はもう来ない。」
頭の中で何度も繰り返す。3年前の大晦日、彼女は突然いなくなった。特に前触れもなく、手紙一枚残して消えたのだ。そこにはただ、「また会えるかもしれないね」とだけ書いてあった。
その後、何度も探した。彼女の実家、友人、行きつけの店、どこにも彼女の痕跡はなかった。だから俺は、この街のどこかにいるという可能性にすがりつくように、大晦日になると毎年街を歩き回るのが習慣になっていた。
深夜0時を少し過ぎたころ、寺院から除夜の鐘が鳴り響く。聞き覚えのある、低く温かい音。ふと顔を上げると、雪が舞い散る中、見慣れた後ろ姿が鐘楼の近くに立っているのが見えた。
「まさか……」
俺は駆け寄った。けれど近づいても近づいても、その背中は遠ざかっていく。何かに突き動かされるように、必死で追いかけた。
やがて俺は足を止めた。そこには誰もいない。ただ雪が静かに降り積もるばかりだった。
ポケットの中で何かに触れる感覚がした。取り出すと、それは見覚えのない小さな鈴だった。
鈴が微かに揺れ、音を立てた気がした。
「あの人はもう来ない。」
でも、どこかで見ているのかもしれない。この雪の降る夜に。
むしろ鐘の音のたびに、煩悩は降り積もる。
それでいいと思った――。
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