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エピローグ
王都にて
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場違いだ。
王宮の大きさに圧倒されたアザミは、城内に入ってますますその思いを強くした。
城にはたくさんの人がいて、皆きらびやかな生地の服や宝石をまとっている。案内役の女性もとてもきれいな格好をしていたので、アザミは最初、彼女は貴族の偉い人かと思っていたのだが、侍女だというから驚いた。
城内はどこもかしこも豪華絢爛で落ち着かない。汚してしまいそうで、絨毯の上を歩くことすら恐れ多かった。
行き交う人々は、アザミたちの姿を見るとその場で膝をつく。しかし、アザミたちが通り過ぎると、ひそひそと言葉を交わしているのが聞こえてきた。
反逆者のハナミと、珍しい黒髪の男。そんな異色の二人が王族に会うためやってきたのだから、話題性には事欠かない。
(反逆者なのに捕まらないのかな……?)
王宮に行くことが決まったとき、真っ先に浮かんだ疑問だった。道中も不安だったのだが、今のところその心配はなさそうだ。
ハナミいわく、自分は王家公認の反逆者ということだった。監察史の正体を隠すため、あえて反逆者と呼ばれているということなのだろう。王宮の正門に詰めていた騎士たちは、ハナミが監察史だと知らないようだったので、捕まるかと思ってびくびくした。
ハナミが王宮にいたころの話を、アザミはほとんど知らない。王族が転移者を種馬扱いしていたということくらいだ。それだけで、ハナミがこの王宮でひどい扱いを受けていたことはわかるから、それ以上を聞くのははばかられた。ハナミが話そうと思う時がきたら話してくれればいい。
そんなわけで、捕まる寸前だったアザミたちを救い、城内を先導する彼女とハナミが、以前どんな関係だったのかはわからない。しかし、彼女の顔を見たハナミの表情が少し曇ったので、アザミはうつむきそうになるのをなんとかこらえた。
(僕がしっかりしないと……)
そうやって自身を奮い立たせなければ、震える足を動かすこともままならなかっただろう。
人生で一番といってもいいほど多くの目に晒されながらたどり着いたのは、謁見の間と呼ばれる部屋だった。
広く四角い空間には、廊下同様、青い絨毯が敷かれていた。突き当たりに、床から五段高くなった椅子が五脚ある。部屋の隅には青年が二人と、騎士が一人立っていた。控える人間が極端に少なく感じるのは、反逆者との面会をおおっぴらにするのはあまり良くないからだろう。彼らは王家腹心の部下に違いない。
アザミは、侍女にならって玉座の前で膝をついた。絨毯が柔らかいおかげで、足の痛みはない。
それからどれくらい経っただろう。緊張ですっかり口の中がからからになったころ、
「国王、フィリップ殿下、両名のご入室です」
部屋の隅に立っていた男性が高らかに宣言すると、複数人の気配がした。何人かは部屋の隅に控え、二人は衣擦れの音も優雅に玉座へ向かう。
椅子が小さくきしんだ。
いざ王族の気配を感じると、ますます動悸が激しくなる。
「対面を許す」
落ちつきのある低い声がそう告げた。隣で侍女とハナミが顔を上げたようだったので、アザミもおそるおそる正面を見上げる。
玉座には男性が二人腰掛けていた。金髪の美しい男性たちだった。歳を重ねた渋みがあり、男から見ても色気がある。
王家の面々を神と呼ぶのもわかる気がした。
体格のいい、四十代初めくらいの男性――冠を被っていないので、彼がフィリップ殿下だろう――の口が弧を描いた。
「久しぶりだな、ハナミ」
(あれ?)
王族は人を人とも思わないような人々だと思っていたアザミは、フィリップの親しげな笑みに目を丸くした。イメージと違う。
ハナミはあごを突き出して、「ご無沙汰しています」と慇懃無礼な態度で応じた。
(え、お、王家の人になんてこと……)
アザミは神様というものを信じているわけではない。王族は神といっても、自分たちと同じヒトだと思っている。しかし、だ。王族がこの国を治める特別偉い存在であることはたしかだ。
トルバート王国最西端のニーナ辺境伯領にまでその威光はとどろき、皆が王家を崇めている。そんな相手にとっていい態度ではない。
慌てるアザミとは裏腹に、フィリップはガハハと笑った。
「あいかわらず生意気で何より。それで、要件は? もう旅は終わりにして、王宮に保護してほしくなったか?」
ハナミの態度に腹を立てるどころか笑い飛ばすなんて、懐が深い人だ。本当に転移者を種馬扱いするような人たちなのだろうか。
そんなアザミの戸惑いを戒めるように、ハナミがアザミの手のひらをつねった。
「ッ!」
すっとんきょうな声をあげそうになるのを慌ててこらえる。ハナミをにらんでも、彼は何食わぬ顔で上奏した。
「ニーナ辺境伯領における一大事について、ご報告に上がりました」
「なるほど、ギヨーム・トレゾールという商人が、マシ国に向けて薬物を出荷しているというのか」
「ええ。以前からかなり大がかりに≪葉っぱ≫の出荷を繰り返しているようです。彼の邸にはマシ国出身の人間も多くいるので、マシ国に協力者がいるのは間違いないかと」
国王に向けてそう答えたハナミは、朗々と続けた。
「国同士の問題に発展する前に、どうか王家の力でこの商人および関係者への捜索を進めていただきたい」
そう、アザミたちが王宮にやってきたのは、ニーナ市の事件解決に向けて、王家の助力を得るためだった。
収穫祭から早ひと月、季節は冬に移り変わろうとしていた。
収穫祭後すぐ、親方衆の連名でトレゾール邸を告発したものの、役人たちはトレゾール邸で≪葉っぱ≫の栽培および出荷の事実はないと断定した。教会についても同様だ。収穫祭のあと、不審火により中庭が燃えたたため、役人たちに証拠を突きつけることができなかったのだ。オベール・ダルヴィッセル司教の身辺は調査中とのことだが、ほとぼりが冷めたころに≪葉っぱ≫との関連性なしと報告があがるのは目に見えていた。
ニーナ市では、ギルドに所属する職人と役人たちのあいだに、大きな軋轢が生じていた。あと少し均衡が崩れたら、ニーナ辺境伯の号令で、兵士たちがニーナ市鎮圧に動き出してもおかしくないほどに。
そこで、ハナミが王族に直訴に向かうことにしたのだった。
「せっかく剣の使いかたを教えてやったんだ、ニーナ辺境伯の頭をかち割ってくれば良かったのに」
大口を開けて笑いながら、フィリップが物騒なことを言う。ハナミは鼻であしらった。
「なんであなたたちの行政の失敗の尻拭いで、わたしが危険な目に遭わないといけないんですか。わたしの役目は各地の異変や不正を調べて、国に報告すること。ここまで調査したんだから、あとはどうにかしてください」
そうは言うものの、今回の事件解決に向けて、ハナミが危険な目に遭ってきたことをアザミは知っている。ハナミがわざわざ王宮にやってきたのも、王宮に出した遣いがニーナ辺境伯たちに暗殺されるかもしれないことを危惧したからだ。
国王は緩慢な動作で頬杖をつくと嘆息した。
「王宮を飛び出して行ったころに比べて、ずいぶん臆病になってしまったのだな。一都市の問題くらい、自力で解決してくれるものだと思っていたのだが。それとも、君を勇気ある跳ねっ返りと評したのは見込み違いだったかな?」
「俺たちに対する口の利きかたは変わってませんがね。たった四年で帰ってくるとは少々残念ではありますが、口だけ達者というのもかわいらしいものです」
「それもそうだな」
(な、な、なんだって……?)
はははと笑いあう王家の二人に愕然とする。ハナミを心配するどころか、彼がどれだけこの事件に取り組んできたか知ろうともせず、まるで蔑む言いかたをするなんて。否、彼らは自身が相手を下に見ている自覚すらなさそうだった。言葉尻も表情も、慈愛に溢れているかのような柔らかなものだったけれど、それはまるで犬猫をかわいがるときのような、相手を対等に見ていないときの物言いに似ていた。
(口だけ達者なんて、そんなことない!)
悔しい。奥歯がぎしりと音を立てた。
そんなアザミの心境など知るよしもない国王は、
「まあ、いい。ニーナ市およびニーナ辺境伯領の問題は、こちらで引き取ろう」
そう言って、そばに控えていた一人の青年を呼び寄せた。あれこれ指示している様子を見るに、すぐにでも調査隊を派遣してくれるようだった。王家が調査に乗り出せばきっと、ニーナ市の問題はすぐに解決するだろう。ハナミの努力を無碍にされたので複雑な思いもあったが、ゴーチエ親方はじめ、ニーナ市に住む人たちのためにはこれが一番良い解決策に違いない。
ほっと肩をなでおろしたアザミは、視線を感じて顔を上げた。フィリップの爛々とした瞳がこちらを見下ろしている。
「おまえも転移者だと聞いているが、ニーナ辺境伯の転移者は女ではなかったか?」
「あ、そ、それは、戸籍の登録が間違っていたようで……」
この場に来て初めて言葉を発した。声は震えてか細かったが、相手にはどうにか届いたようだった。
「そうか、それならばおまえもコンスタンスと子を成すがいい。童貞臭いが、俺が指導してやるから安心しろ」
(……来た!)
王宮への道中、ハナミがもっとも危惧していた事態だった。アザミの存在が王家に伝わったら、王族と子を成すよう求められるに違いないと。しかし、ばらばらで行動するのは危ないので、一緒に来ざるを得なかった。
ハナミがアザミを守るように手を伸ばした。
「彼は俺の恋人なので、王家の皆さんには渡せません」
「男同士だぞ?」
途端に、フィリップが目をむいた。国王も愕然としている。
「なんと常識はずれな」
庶民たちのあいだでは、あと腐れない関係ということで、男同士が交わることも往々にしてあり得る。マルクとリュックがそうだ。しかし、王族や貴族のように血筋を残す必要がある人々にとっては、子を成せない関係は自然ではないとか意味がないとか思われているようだった。
ハナミは今日一番の笑みを浮かべた。
「常識なんて関係ないほど、俺はアザミくんを愛しているんです」
そして、許しもなく立ち上がった。アザミたちと一緒に膝を折っていた侍女が、とっさに彼のすそをつかむが、ハナミはお構いなしだった。部屋の隅に控える面々が身じろぎする。
そんな彼らを一瞥したのち、彼はふたたび国王とフィリップを見上げた。
「あなたたちも、常識とかしきたりとか、そんなことに縛られずに好きなように生きたらいい。王族が王族しか愛せないというのなら、転移者とのあいだに無理に子を成さなくたって、犬っころのようにかわいがっている人間たちの中から養子を取ればいいし、優秀な人間を国王につけたっていい。市井を回って王族を崇拝する国民の声をさまざま聞いてきましたが、あなたたち王族は決して、血筋だけで支持されているわけではありませんでしたから」
「王族の血筋を軽んじるとは、なんと不敬な!」
ついに騎士の一人がそう叫んで、ハナミに突進してきた。
「うわ、逃げろ!」
「え、え、ええええええ!」
言いたいことを言いきったハナミは、アザミの手を取って駆け出した。
「反逆者の俺は、今度こそもう帰ってきません! さようなら!」
まるで迷路のような廊下を走る。誰も追いかけてこなかったのは、国王たちが止めてくれたからだろうか。謁見前に木剣を没収されていたので助かった。
(それにしても、なんで止めてくれたんだろう? ハナミの言うことに何か思うところがあったのかな?)
そうだったらいい。ハナミと自分の仲が、少しでも王族と転移者の関係に変化をもたらすきっかけになったら。これから転移してくるかもしれない人たちや王族から隠れて暮らす転移者たちが、無理な結婚などさせられない世の中になればいい。
「って、おい、おまえ、今、何を盗った?」
アザミと繋いだ手の反対側で、ハナミが青色の美しい燭台を持っている。先ほどまで壁にかけられていたものだ。彼は悪びれずに答えた。
「迷惑料でもらっとこうかなって。高く売れそうじゃん」
「ばか、返せ! 泥棒するな! 捕まったらどうするんだよ!」
「今さらだよ。反逆者だし、不敬罪だし、もしかしたら監察史辞めさせられちゃうかもだからさ。これ売ってしばらく生計立てようよ」
「本当にめちゃくちゃだな、おまえは!」
(こんな自由人、制御できる日がくるとは思えない……!)
とにかくなんとか燭台はその場に返して、アザミたちは王宮をあとにしたのだった。
王都のとある宿屋にたどり着いたころには、すでに日も暮れていた。外套を深く被って顔を隠したアザミたちは怪しさ満点だったが、宿屋の主人が気にした様子はなかった。
二人が取った部屋は、大きくはないが小綺麗な一室だった。寝台が二つ、卓が一つ、椅子が二つ備えつけられている。
片道二十日の道中そうであったように、アザミは緊張しながら椅子に腰かけた。いっぽうハナミは、外套を脱ぐと、腰袋の中を覗きこむ。
「ううん、ニーナ市まで安全に帰るにはちょっとお金が足りないかなあ」
国王に啖呵を切って王宮から逃げてきたため、二人は国王との謁見前に預けていた旅の道具をすべて失っていた。木剣も、替えの服も、水を持ち運ぶための皮袋や食べ物を切り分ける短剣なども。
しかし、ハナミに悲壮感がなかったので、アザミもあまり帰路の心配はせずにすんでいた。いや、それどころではないというのが正しい。
ドッドッドッドッ。
心臓がうるさい。
なるべくハナミを見ないよう、明後日の方向を向く。しかし、努力の甲斐なく、ますます彼の気配を耳で追ってしまう。
ハナミが寝台に座ったのがわかった。
(椅子に座らないのは何か意味があるのか……っ?)
疑心暗鬼になるアザミをよそに、ハナミは言った。
「足りない旅費は、トマスに頼んで王宮に取りに行ってもらおうか。まあ、俺が監察史を罷免されてたら援助は無理だけど」
「そ、そうしよう……!」
何を聞かれたかよくわからないまま、反射で返事をする。声が上ずってしまった。
「お金がまったくないわけじゃないから安心して。そうだ、明日の朝は市場で買い食いしようよ」
「あ、え、っと……」
金の心配をしていたわけではないのだが、本当のことを言うに言えず、アザミは口ごもる。
ハナミはどんどん話を進めた。
「――トマス、いる?」
コンコン。廊下から扉を叩く音が聞こえる。
「トマスがついているってことは、俺はまだ監察史ってことだね。王宮まで路銀をせびってきてよ。金貨を十枚。よろしく」
(そんな大金を気軽にもらってこいなんて……)
ましてやつい数時間前に、もう帰らないと宣言した相手に。面の皮が厚すぎる。本人に言ったら、働いたぶんの対価なのだからもらって当然だと返ってくるのだろうが。
気が気でないのはアザミだけのようで、トマスは「明日の夕方には戻る」と言って、気配を消してしまった。
「……あ」
トマスがいなくなってしまった。
完全に二人きりだ。
(う、うわあ……)
意識しないようにしていたのに。
「もう寝ようか?」
ハナミは普段どおり、なんの気負いもなく寝台に寝転がる。その余裕が憎らしい。自分だけが右往左往している。
この二十日間、彼は日中どれだけ「好き」だの「愛してる」だの言ってむずがゆい空気を作り出しても、夜になるといっさいその手の話を出すことがなかった。待てができるワンコと自称するだけある。
しかし、アザミは恋人と二人のとき、どう振る舞っていいかわからなかった。
(いつまでも何もしないままでいいのか?)
二人きりだったら、手を繋いだり、それ以上したりするのが普通ではないだろうか。ハナミに我慢させているのかも。
(いやでも無理……!)
小っ恥ずかしいし。何が正解かわからない。だからアザミは道中ずっと、この夜の時間が苦手だった。
(今まではトマスさんがどこかに控えてくれてたけど、今晩は誰の目もないんだ……)
今日こそハナミが何かしてくるかも。男同士ってどうすればいいんだろうか。
ドッドッドッドッドッドッ。
これまで以上に心臓が激しい。
こちらを見つめるハナミの視線に耐えかねて、アザミはうつむいた。
「どうしたの?」
「……り、」
「え?」
「む、無理……」
それだけ言うのがやっとだ。すると、ハナミが立ち上がって近づいてくる。
「何が無理? 寝れない? でもここのところずっと寝つきが悪かったよね、少しでも横になってたほうがいいよ」
(ばれてた……!)
となりで眠るハナミを意識して、最近ずっと寝不足だったことを、気づかれていた! 顔に熱が集まる。
ますます身を縮こまらせていると、ハナミはその場にしゃがみこみ、アザミと視線を合わせた。すっと自然に頬に触れる。
「少し赤いね」
その瞬間、アザミはびくっとおおげさなくらい体を震わせてしまった。ハナミの驚いた表情を見て、完全に失敗したことを悟る。
(こいつは僕の体調を確認しようとしただけなのに……!)
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら消えてしまいたい。涙がにじむ。
すると、ふわりと体が宙に浮いた。ハナミに横抱きにされていた。
「目元も潤んでるし、熱があるみたいだね。医者を呼ぶから、とりあえず寝てて……くそ、こんなことならトマスを遣いに出すんじゃなかったな」
(違う……)
「ごめんね、気づいてあげられなくて」
(違う、おまえのせいじゃない……)
この頬の熱さも何もかも、アザミが勝手にパニックになっていただけだ。謝らないといけないのは自分のほうなのだ。
少し顔を上げれば、すぐそばにハナミの端正な顔がある。眉間にしわが寄っているのは、自分を責めているからだろう。自分のせいでこんな表情をさせているのが申しわけない。
逡巡したのち、アザミは思いきってハナミの唇に口をつけた。彼の唇を奪うのは案外簡単だった。ハナミとのキスを何度も何度も想像していたからかもしれない。
「ぼ、僕の顔が赤いのは……、トマスさんもいなくなっちゃって……おまえと二人きりで緊張してるからだ……」
キスよりも本当のところを白状するほうがよほど照れ臭い。またうつむきそうになったところを、ハナミの唇が迫ってきて、まるで食われるようにむさぼられた。
「あ……ふ、ん……ッ」
「もう、待てなんて、……っ、できない……っ! かわいすぎ……っ!」
息のしかたがわからなくなるほど、長いキス。昔とは違って、舌まで入ってきた。翻弄されて力が入らない。
(し、死ぬ……!)
呼吸困難を本気で心配し始めたころ、ようやくハナミの顔が離れた。弧を描く唇はつやめいていて、色気にあふれている。
「アザミくんからこんなに熱烈なキスをしてくれるなんて。感激で胸がいっぱいだよ」
たしかにキスしたのは自分からだが、アザミは唇を重ね合わせるだけのつもりだったのだ。それを激しいものにしたのはハナミである。捏造もいいところだ。
想像以上に熱い口づけにおののくアザミを寝台に下ろすと、ハナミは床にお座りした。
「今までお利口に待てしてたぶん、これからは覚悟してね。わんわん!」
ワンコらしく右手をアザミのひざにのせ、犬の鳴き真似をしてみせる。
(覚悟って……いったい何をされるんだ……)
一抹の恐怖すら覚えたけれど、砂糖菓子のように甘く笑う彼を前にしたら、まあいっかと思ってしまった。
ハナミが嬉しそうだとアザミも嬉しいから。
~fin~
王宮の大きさに圧倒されたアザミは、城内に入ってますますその思いを強くした。
城にはたくさんの人がいて、皆きらびやかな生地の服や宝石をまとっている。案内役の女性もとてもきれいな格好をしていたので、アザミは最初、彼女は貴族の偉い人かと思っていたのだが、侍女だというから驚いた。
城内はどこもかしこも豪華絢爛で落ち着かない。汚してしまいそうで、絨毯の上を歩くことすら恐れ多かった。
行き交う人々は、アザミたちの姿を見るとその場で膝をつく。しかし、アザミたちが通り過ぎると、ひそひそと言葉を交わしているのが聞こえてきた。
反逆者のハナミと、珍しい黒髪の男。そんな異色の二人が王族に会うためやってきたのだから、話題性には事欠かない。
(反逆者なのに捕まらないのかな……?)
王宮に行くことが決まったとき、真っ先に浮かんだ疑問だった。道中も不安だったのだが、今のところその心配はなさそうだ。
ハナミいわく、自分は王家公認の反逆者ということだった。監察史の正体を隠すため、あえて反逆者と呼ばれているということなのだろう。王宮の正門に詰めていた騎士たちは、ハナミが監察史だと知らないようだったので、捕まるかと思ってびくびくした。
ハナミが王宮にいたころの話を、アザミはほとんど知らない。王族が転移者を種馬扱いしていたということくらいだ。それだけで、ハナミがこの王宮でひどい扱いを受けていたことはわかるから、それ以上を聞くのははばかられた。ハナミが話そうと思う時がきたら話してくれればいい。
そんなわけで、捕まる寸前だったアザミたちを救い、城内を先導する彼女とハナミが、以前どんな関係だったのかはわからない。しかし、彼女の顔を見たハナミの表情が少し曇ったので、アザミはうつむきそうになるのをなんとかこらえた。
(僕がしっかりしないと……)
そうやって自身を奮い立たせなければ、震える足を動かすこともままならなかっただろう。
人生で一番といってもいいほど多くの目に晒されながらたどり着いたのは、謁見の間と呼ばれる部屋だった。
広く四角い空間には、廊下同様、青い絨毯が敷かれていた。突き当たりに、床から五段高くなった椅子が五脚ある。部屋の隅には青年が二人と、騎士が一人立っていた。控える人間が極端に少なく感じるのは、反逆者との面会をおおっぴらにするのはあまり良くないからだろう。彼らは王家腹心の部下に違いない。
アザミは、侍女にならって玉座の前で膝をついた。絨毯が柔らかいおかげで、足の痛みはない。
それからどれくらい経っただろう。緊張ですっかり口の中がからからになったころ、
「国王、フィリップ殿下、両名のご入室です」
部屋の隅に立っていた男性が高らかに宣言すると、複数人の気配がした。何人かは部屋の隅に控え、二人は衣擦れの音も優雅に玉座へ向かう。
椅子が小さくきしんだ。
いざ王族の気配を感じると、ますます動悸が激しくなる。
「対面を許す」
落ちつきのある低い声がそう告げた。隣で侍女とハナミが顔を上げたようだったので、アザミもおそるおそる正面を見上げる。
玉座には男性が二人腰掛けていた。金髪の美しい男性たちだった。歳を重ねた渋みがあり、男から見ても色気がある。
王家の面々を神と呼ぶのもわかる気がした。
体格のいい、四十代初めくらいの男性――冠を被っていないので、彼がフィリップ殿下だろう――の口が弧を描いた。
「久しぶりだな、ハナミ」
(あれ?)
王族は人を人とも思わないような人々だと思っていたアザミは、フィリップの親しげな笑みに目を丸くした。イメージと違う。
ハナミはあごを突き出して、「ご無沙汰しています」と慇懃無礼な態度で応じた。
(え、お、王家の人になんてこと……)
アザミは神様というものを信じているわけではない。王族は神といっても、自分たちと同じヒトだと思っている。しかし、だ。王族がこの国を治める特別偉い存在であることはたしかだ。
トルバート王国最西端のニーナ辺境伯領にまでその威光はとどろき、皆が王家を崇めている。そんな相手にとっていい態度ではない。
慌てるアザミとは裏腹に、フィリップはガハハと笑った。
「あいかわらず生意気で何より。それで、要件は? もう旅は終わりにして、王宮に保護してほしくなったか?」
ハナミの態度に腹を立てるどころか笑い飛ばすなんて、懐が深い人だ。本当に転移者を種馬扱いするような人たちなのだろうか。
そんなアザミの戸惑いを戒めるように、ハナミがアザミの手のひらをつねった。
「ッ!」
すっとんきょうな声をあげそうになるのを慌ててこらえる。ハナミをにらんでも、彼は何食わぬ顔で上奏した。
「ニーナ辺境伯領における一大事について、ご報告に上がりました」
「なるほど、ギヨーム・トレゾールという商人が、マシ国に向けて薬物を出荷しているというのか」
「ええ。以前からかなり大がかりに≪葉っぱ≫の出荷を繰り返しているようです。彼の邸にはマシ国出身の人間も多くいるので、マシ国に協力者がいるのは間違いないかと」
国王に向けてそう答えたハナミは、朗々と続けた。
「国同士の問題に発展する前に、どうか王家の力でこの商人および関係者への捜索を進めていただきたい」
そう、アザミたちが王宮にやってきたのは、ニーナ市の事件解決に向けて、王家の助力を得るためだった。
収穫祭から早ひと月、季節は冬に移り変わろうとしていた。
収穫祭後すぐ、親方衆の連名でトレゾール邸を告発したものの、役人たちはトレゾール邸で≪葉っぱ≫の栽培および出荷の事実はないと断定した。教会についても同様だ。収穫祭のあと、不審火により中庭が燃えたたため、役人たちに証拠を突きつけることができなかったのだ。オベール・ダルヴィッセル司教の身辺は調査中とのことだが、ほとぼりが冷めたころに≪葉っぱ≫との関連性なしと報告があがるのは目に見えていた。
ニーナ市では、ギルドに所属する職人と役人たちのあいだに、大きな軋轢が生じていた。あと少し均衡が崩れたら、ニーナ辺境伯の号令で、兵士たちがニーナ市鎮圧に動き出してもおかしくないほどに。
そこで、ハナミが王族に直訴に向かうことにしたのだった。
「せっかく剣の使いかたを教えてやったんだ、ニーナ辺境伯の頭をかち割ってくれば良かったのに」
大口を開けて笑いながら、フィリップが物騒なことを言う。ハナミは鼻であしらった。
「なんであなたたちの行政の失敗の尻拭いで、わたしが危険な目に遭わないといけないんですか。わたしの役目は各地の異変や不正を調べて、国に報告すること。ここまで調査したんだから、あとはどうにかしてください」
そうは言うものの、今回の事件解決に向けて、ハナミが危険な目に遭ってきたことをアザミは知っている。ハナミがわざわざ王宮にやってきたのも、王宮に出した遣いがニーナ辺境伯たちに暗殺されるかもしれないことを危惧したからだ。
国王は緩慢な動作で頬杖をつくと嘆息した。
「王宮を飛び出して行ったころに比べて、ずいぶん臆病になってしまったのだな。一都市の問題くらい、自力で解決してくれるものだと思っていたのだが。それとも、君を勇気ある跳ねっ返りと評したのは見込み違いだったかな?」
「俺たちに対する口の利きかたは変わってませんがね。たった四年で帰ってくるとは少々残念ではありますが、口だけ達者というのもかわいらしいものです」
「それもそうだな」
(な、な、なんだって……?)
はははと笑いあう王家の二人に愕然とする。ハナミを心配するどころか、彼がどれだけこの事件に取り組んできたか知ろうともせず、まるで蔑む言いかたをするなんて。否、彼らは自身が相手を下に見ている自覚すらなさそうだった。言葉尻も表情も、慈愛に溢れているかのような柔らかなものだったけれど、それはまるで犬猫をかわいがるときのような、相手を対等に見ていないときの物言いに似ていた。
(口だけ達者なんて、そんなことない!)
悔しい。奥歯がぎしりと音を立てた。
そんなアザミの心境など知るよしもない国王は、
「まあ、いい。ニーナ市およびニーナ辺境伯領の問題は、こちらで引き取ろう」
そう言って、そばに控えていた一人の青年を呼び寄せた。あれこれ指示している様子を見るに、すぐにでも調査隊を派遣してくれるようだった。王家が調査に乗り出せばきっと、ニーナ市の問題はすぐに解決するだろう。ハナミの努力を無碍にされたので複雑な思いもあったが、ゴーチエ親方はじめ、ニーナ市に住む人たちのためにはこれが一番良い解決策に違いない。
ほっと肩をなでおろしたアザミは、視線を感じて顔を上げた。フィリップの爛々とした瞳がこちらを見下ろしている。
「おまえも転移者だと聞いているが、ニーナ辺境伯の転移者は女ではなかったか?」
「あ、そ、それは、戸籍の登録が間違っていたようで……」
この場に来て初めて言葉を発した。声は震えてか細かったが、相手にはどうにか届いたようだった。
「そうか、それならばおまえもコンスタンスと子を成すがいい。童貞臭いが、俺が指導してやるから安心しろ」
(……来た!)
王宮への道中、ハナミがもっとも危惧していた事態だった。アザミの存在が王家に伝わったら、王族と子を成すよう求められるに違いないと。しかし、ばらばらで行動するのは危ないので、一緒に来ざるを得なかった。
ハナミがアザミを守るように手を伸ばした。
「彼は俺の恋人なので、王家の皆さんには渡せません」
「男同士だぞ?」
途端に、フィリップが目をむいた。国王も愕然としている。
「なんと常識はずれな」
庶民たちのあいだでは、あと腐れない関係ということで、男同士が交わることも往々にしてあり得る。マルクとリュックがそうだ。しかし、王族や貴族のように血筋を残す必要がある人々にとっては、子を成せない関係は自然ではないとか意味がないとか思われているようだった。
ハナミは今日一番の笑みを浮かべた。
「常識なんて関係ないほど、俺はアザミくんを愛しているんです」
そして、許しもなく立ち上がった。アザミたちと一緒に膝を折っていた侍女が、とっさに彼のすそをつかむが、ハナミはお構いなしだった。部屋の隅に控える面々が身じろぎする。
そんな彼らを一瞥したのち、彼はふたたび国王とフィリップを見上げた。
「あなたたちも、常識とかしきたりとか、そんなことに縛られずに好きなように生きたらいい。王族が王族しか愛せないというのなら、転移者とのあいだに無理に子を成さなくたって、犬っころのようにかわいがっている人間たちの中から養子を取ればいいし、優秀な人間を国王につけたっていい。市井を回って王族を崇拝する国民の声をさまざま聞いてきましたが、あなたたち王族は決して、血筋だけで支持されているわけではありませんでしたから」
「王族の血筋を軽んじるとは、なんと不敬な!」
ついに騎士の一人がそう叫んで、ハナミに突進してきた。
「うわ、逃げろ!」
「え、え、ええええええ!」
言いたいことを言いきったハナミは、アザミの手を取って駆け出した。
「反逆者の俺は、今度こそもう帰ってきません! さようなら!」
まるで迷路のような廊下を走る。誰も追いかけてこなかったのは、国王たちが止めてくれたからだろうか。謁見前に木剣を没収されていたので助かった。
(それにしても、なんで止めてくれたんだろう? ハナミの言うことに何か思うところがあったのかな?)
そうだったらいい。ハナミと自分の仲が、少しでも王族と転移者の関係に変化をもたらすきっかけになったら。これから転移してくるかもしれない人たちや王族から隠れて暮らす転移者たちが、無理な結婚などさせられない世の中になればいい。
「って、おい、おまえ、今、何を盗った?」
アザミと繋いだ手の反対側で、ハナミが青色の美しい燭台を持っている。先ほどまで壁にかけられていたものだ。彼は悪びれずに答えた。
「迷惑料でもらっとこうかなって。高く売れそうじゃん」
「ばか、返せ! 泥棒するな! 捕まったらどうするんだよ!」
「今さらだよ。反逆者だし、不敬罪だし、もしかしたら監察史辞めさせられちゃうかもだからさ。これ売ってしばらく生計立てようよ」
「本当にめちゃくちゃだな、おまえは!」
(こんな自由人、制御できる日がくるとは思えない……!)
とにかくなんとか燭台はその場に返して、アザミたちは王宮をあとにしたのだった。
王都のとある宿屋にたどり着いたころには、すでに日も暮れていた。外套を深く被って顔を隠したアザミたちは怪しさ満点だったが、宿屋の主人が気にした様子はなかった。
二人が取った部屋は、大きくはないが小綺麗な一室だった。寝台が二つ、卓が一つ、椅子が二つ備えつけられている。
片道二十日の道中そうであったように、アザミは緊張しながら椅子に腰かけた。いっぽうハナミは、外套を脱ぐと、腰袋の中を覗きこむ。
「ううん、ニーナ市まで安全に帰るにはちょっとお金が足りないかなあ」
国王に啖呵を切って王宮から逃げてきたため、二人は国王との謁見前に預けていた旅の道具をすべて失っていた。木剣も、替えの服も、水を持ち運ぶための皮袋や食べ物を切り分ける短剣なども。
しかし、ハナミに悲壮感がなかったので、アザミもあまり帰路の心配はせずにすんでいた。いや、それどころではないというのが正しい。
ドッドッドッドッ。
心臓がうるさい。
なるべくハナミを見ないよう、明後日の方向を向く。しかし、努力の甲斐なく、ますます彼の気配を耳で追ってしまう。
ハナミが寝台に座ったのがわかった。
(椅子に座らないのは何か意味があるのか……っ?)
疑心暗鬼になるアザミをよそに、ハナミは言った。
「足りない旅費は、トマスに頼んで王宮に取りに行ってもらおうか。まあ、俺が監察史を罷免されてたら援助は無理だけど」
「そ、そうしよう……!」
何を聞かれたかよくわからないまま、反射で返事をする。声が上ずってしまった。
「お金がまったくないわけじゃないから安心して。そうだ、明日の朝は市場で買い食いしようよ」
「あ、え、っと……」
金の心配をしていたわけではないのだが、本当のことを言うに言えず、アザミは口ごもる。
ハナミはどんどん話を進めた。
「――トマス、いる?」
コンコン。廊下から扉を叩く音が聞こえる。
「トマスがついているってことは、俺はまだ監察史ってことだね。王宮まで路銀をせびってきてよ。金貨を十枚。よろしく」
(そんな大金を気軽にもらってこいなんて……)
ましてやつい数時間前に、もう帰らないと宣言した相手に。面の皮が厚すぎる。本人に言ったら、働いたぶんの対価なのだからもらって当然だと返ってくるのだろうが。
気が気でないのはアザミだけのようで、トマスは「明日の夕方には戻る」と言って、気配を消してしまった。
「……あ」
トマスがいなくなってしまった。
完全に二人きりだ。
(う、うわあ……)
意識しないようにしていたのに。
「もう寝ようか?」
ハナミは普段どおり、なんの気負いもなく寝台に寝転がる。その余裕が憎らしい。自分だけが右往左往している。
この二十日間、彼は日中どれだけ「好き」だの「愛してる」だの言ってむずがゆい空気を作り出しても、夜になるといっさいその手の話を出すことがなかった。待てができるワンコと自称するだけある。
しかし、アザミは恋人と二人のとき、どう振る舞っていいかわからなかった。
(いつまでも何もしないままでいいのか?)
二人きりだったら、手を繋いだり、それ以上したりするのが普通ではないだろうか。ハナミに我慢させているのかも。
(いやでも無理……!)
小っ恥ずかしいし。何が正解かわからない。だからアザミは道中ずっと、この夜の時間が苦手だった。
(今まではトマスさんがどこかに控えてくれてたけど、今晩は誰の目もないんだ……)
今日こそハナミが何かしてくるかも。男同士ってどうすればいいんだろうか。
ドッドッドッドッドッドッ。
これまで以上に心臓が激しい。
こちらを見つめるハナミの視線に耐えかねて、アザミはうつむいた。
「どうしたの?」
「……り、」
「え?」
「む、無理……」
それだけ言うのがやっとだ。すると、ハナミが立ち上がって近づいてくる。
「何が無理? 寝れない? でもここのところずっと寝つきが悪かったよね、少しでも横になってたほうがいいよ」
(ばれてた……!)
となりで眠るハナミを意識して、最近ずっと寝不足だったことを、気づかれていた! 顔に熱が集まる。
ますます身を縮こまらせていると、ハナミはその場にしゃがみこみ、アザミと視線を合わせた。すっと自然に頬に触れる。
「少し赤いね」
その瞬間、アザミはびくっとおおげさなくらい体を震わせてしまった。ハナミの驚いた表情を見て、完全に失敗したことを悟る。
(こいつは僕の体調を確認しようとしただけなのに……!)
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら消えてしまいたい。涙がにじむ。
すると、ふわりと体が宙に浮いた。ハナミに横抱きにされていた。
「目元も潤んでるし、熱があるみたいだね。医者を呼ぶから、とりあえず寝てて……くそ、こんなことならトマスを遣いに出すんじゃなかったな」
(違う……)
「ごめんね、気づいてあげられなくて」
(違う、おまえのせいじゃない……)
この頬の熱さも何もかも、アザミが勝手にパニックになっていただけだ。謝らないといけないのは自分のほうなのだ。
少し顔を上げれば、すぐそばにハナミの端正な顔がある。眉間にしわが寄っているのは、自分を責めているからだろう。自分のせいでこんな表情をさせているのが申しわけない。
逡巡したのち、アザミは思いきってハナミの唇に口をつけた。彼の唇を奪うのは案外簡単だった。ハナミとのキスを何度も何度も想像していたからかもしれない。
「ぼ、僕の顔が赤いのは……、トマスさんもいなくなっちゃって……おまえと二人きりで緊張してるからだ……」
キスよりも本当のところを白状するほうがよほど照れ臭い。またうつむきそうになったところを、ハナミの唇が迫ってきて、まるで食われるようにむさぼられた。
「あ……ふ、ん……ッ」
「もう、待てなんて、……っ、できない……っ! かわいすぎ……っ!」
息のしかたがわからなくなるほど、長いキス。昔とは違って、舌まで入ってきた。翻弄されて力が入らない。
(し、死ぬ……!)
呼吸困難を本気で心配し始めたころ、ようやくハナミの顔が離れた。弧を描く唇はつやめいていて、色気にあふれている。
「アザミくんからこんなに熱烈なキスをしてくれるなんて。感激で胸がいっぱいだよ」
たしかにキスしたのは自分からだが、アザミは唇を重ね合わせるだけのつもりだったのだ。それを激しいものにしたのはハナミである。捏造もいいところだ。
想像以上に熱い口づけにおののくアザミを寝台に下ろすと、ハナミは床にお座りした。
「今までお利口に待てしてたぶん、これからは覚悟してね。わんわん!」
ワンコらしく右手をアザミのひざにのせ、犬の鳴き真似をしてみせる。
(覚悟って……いったい何をされるんだ……)
一抹の恐怖すら覚えたけれど、砂糖菓子のように甘く笑う彼を前にしたら、まあいっかと思ってしまった。
ハナミが嬉しそうだとアザミも嬉しいから。
~fin~
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もしかしてなのですが、鳥取県の方言をイメージして書かれていますか?違ってたらすみません!馴染みのある言葉がたくさん並んでいたので、懐かしい気持ちになりました!
とても面白いお話をありがとうございます!続きもとても楽しみです!
無理なさらずご自愛ください!
感想ありがとうございます!
アルファポリスさんで感想いただくの初めてなので、めちゃくちゃ嬉しいです〜!
そうです、実は鳥取県をイメージしていました!
方言でおかしなところがあったら、ぜひ教えてくださると助かります!
面白いと言っていただけてすっごく嬉しいですー!
完結まで面白いと思ってもらえるよう、いっそう頑張ります!
あさんも無理せず、お時間ある時にでもまた続きを読んでみてくださいませ!