追放された錬金術師は知らぬ間に神話級、気づけば王女と聖女と竜姫に囲まれていた件

fuwamofu

文字の大きさ
1 / 4

第1話 足手まといと呼ばれた錬金術師

しおりを挟む

アレン・クロフォードは、薄暗い石造りの部屋に立っていた。  
その部屋は勇者パーティ〈黎明の剣〉の拠点であり、仲間たちとの数々の戦いの記憶が染みついた場所だった。  
だが今、その部屋の空気は冷えていた。誰もアレンを見ようとしない。いや、見るとしても軽蔑と憐れみの混じった視線だけだった。

「アレン、お前をパーティから外す。」

声を発したのは勇者レオンだった。金髪で整った顔立ちの青年。剣聖の称号を持ち、国王からも信任厚い英雄の卵だと呼ばれる存在だった。  
その言葉を聞いても、アレンはすぐには反応できなかった。ただ静かに問い返す。

「どうしてだ? 俺は――」

「俺たちは前線で魔族と戦ってる。その間、お前は後ろで薬を混ぜてるだけだ。正直、足手まといなんだよ。」

今度は魔法使いのリディアが言った。赤いローブをひるがえし、冷たい眼差しでアレンを見つめる。  
彼女は勇者パーティの参謀と呼ばれ、討伐計画の多くを指揮してきた女魔術師。  
そして、その言葉には明確な軽蔑が籠っていた。

「でも、俺の調合したポーションがなかったら、君たちは――」

「回復なら聖女エリナがいる。お前の薬より、神聖術の方が信頼できる。」  
リディアがそう言うと、金髪の聖女エリナがわずかに視線を逸らした。

「……ごめんなさい、アレンさん。でも、王都の神殿から“錬金術は穢れの力を使う”って通達があったのです。これ以上は……。」

その一言で、アレンの中で何かが崩れた。  
彼は彼らのために命がけで働き、夜も眠らず薬と装備を作り続けてきた。  
だが、結果として残ったのは「役立たず」「穢れ」との烙印。

「……そうか。つまり、もう俺はいらないということだな。」

アレンがそう呟くと、勇者レオンは大きく頷いた。  
「今まで助かったのは事実だ。礼は言う。けど、この先は俺たちの足を引っ張るだけだ。わかってくれ。」

まるで出来の悪い部下を諭す上司のような口調に、アレンは苦笑した。  
わかってくれとは、自分たちの都合を押しつける言葉でもある。  
だが、言い返したところで何も変わらない。

「……そうか。なら、もう何も言わない。装備の管理権と倉庫の物は譲る。ただし、最後にひとつだけ言わせてくれ。」

勇者たちはわずかに眉を寄せた。その声には怒りでも悲しみでもなく、静かな冷たさがあった。

「俺の調合した装備やポーションには“同調反応”がある。お前たちが無断で他人に渡したり、売り払ったりしたら……どうなるかは知らない。」

その一言に、魔法使いリディアがわずかに口を歪める。

「脅しか?そんな効能、聞いたこともないわ。」

アレンはそれ以上何も言わなかった。  
小さくため息をつくと、背を向けて扉を開けた。冷たい外気が流れ込み、長かった旅路の終止符が静かに落ちる。

「さようなら、勇者様方。もう二度と会うことはないだろう。」

扉が閉まる音が、妙に重く響いた。

◇ ◇ ◇

翌朝、アレンは辺境の森を歩いていた。  
行くあてもないが、しばらくはここで暮らすつもりだった。  
辺境の閉ざされた村なら、錬金術に偏見を持つ者も少ないだろう。  
それに何より、戦いや人間関係に疲れ果てていた。

背中には大きな荷袋。  
中身は彼が作った道具と、試作品のポーション、そして無数のメモ書き。  
彼にとっての財産であり、全てを形にした証だった。

「さて、まずは寝床を探すか。」

森の奥には清流が流れ、小さな草原が広がっていた。  
陽光が差し込み、穏やかな風が薬草の匂いを運んでくる。  
この場所なら、静かに暮らせるかもしれない。

彼は腰を下ろし、水をすくって喉を潤した。  
そして、ふと水辺の土の上に光るものを見つけた。

「……卵?」

手のひらほどの白い卵だった。表面には淡い金色の文様があり、微かに温かい。  
森の中で野生動物の卵を見つけるのは珍しくないが、これはどこか神秘的だった。

「まさか、魔物の卵か?」

そう思いつつも、捨て置けなかった。  
彼の中の職業病とも言える好奇心が疼く。  
調べるだけなら、害はないだろう。

バッグから小瓶を取り出し、卵の表面に液体を垂らす。  
すると、瓶の中の液体が淡く光り、アレンの目に結果が飛び込んできた。

〈解析結果:神獣種“天翔龍”の幼体〉

「……は?」

間抜けな声が漏れる。  
神獣、しかも伝説上の存在である天翔龍。  
その卵が、なぜこんな辺境の森に転がっているのか。

「とんでもないもの拾ったな……。」

アレンは額に手を当てた。  
だがもう遅い。解析魔法を使った時点で、卵と彼の間には微弱な魔力の紐が結ばれてしまっている。  
下手に放置したら自然崩壊し、幼体が死ぬ。

「……しょうがない。孵るまで世話してみるか。」

そう呟いた瞬間、卵がほのかに光り出した。  
アレンの魔力に反応したのだ。  
驚く間もなく、眩い光が爆ぜ、温かい風が森を包む。

「うわっ!」

光の中から現れたのは、掌サイズの白い小竜だった。  
金色の瞳がアレンをまっすぐに見つめ、か細い鳴き声を上げる。

「キュイ……?」

「……お前、俺を親だと思ってるのか?」

小竜はコクリと頷くように頭を傾け、アレンの手の上に身体を擦り寄せてくる。  
その仕草に思わず微笑がこぼれた。

「変な縁だな。ま、悪くはないけど。」

その夜、アレンは森の中に簡易の小屋を建て、小竜を抱えて眠った。  
焚き火の明かりがゆらゆらと揺れ、小竜の温もりがほんのりと腕に伝わる。  
彼の胸の奥に、少しだけ前向きな感情が戻ってきていた。

◇ ◇ ◇

数日後。  
アレンは森で薬草を採取し、調合の研究に勤しんでいた。  
不思議なことに、追放されたことで集中力が増した気がする。  
もう誰かに合わせる必要もない。純粋に“作りたいもの”を、思うままに作ればいい。

「よし、試験用ポーション完成。これを“竜の雫”と名付けよう。」

小竜――アレンが“ルゥ”と名付けたその子も、調合作業のたびに興味深そうに覗き込んでくる。  
ルゥは少しずつ大きくなり、翼の先がきらめくほどに成長していた。  
彼女(性別は後に判明するが)はアレンの魔力を吸収しながら、驚異的な速さで力をつけていた。

そんな平穏な日々が二週間ほど続いた。  
だが、その静寂を破るように、ある日、森の入口から怒号が響いた。

「ここに錬金術師がいると聞いた!出て来い!」

アレンが顔を上げると、武装した三人組の男が現れた。  
その胸元には見覚えのある紋章――勇者パーティ〈黎明の剣〉の所属バッジ。

「……お前たちは。」

「久しぶりだな、アレン。すぐに新しいポーションを寄越せ。今、俺たちは魔王軍の精鋭と戦っている。」

勇者レオンの従者だった男が威圧的に言い放つ。  
アレンは静かに首を振った。

「俺はもうパーティを抜けた。契約も切れている。補給なら王都の錬金連盟に頼めばいい。」

「黙れ!あの時のレシピはお前の頭の中にしかないんだよ!それを出せ!拒めば……どうなるかわかるな?」

アレンは溜息をついた。  
その脅し方が、昔の勇者たちとまるで変わらない。  
だが、今の彼には守るものも、恐れるものもない。  
ただ一匹の小竜が、背中で眠っているだけ。

「……そうか。警告はした。俺の調合品に下手に触るな。忠告を無視すれば――」

男たちは一斉に袋からアレンの旧作ポーションを取り出した。  
数日前、勇者パーティに残してきたはずの試供品だ。

「これを使えば魔王軍なんて一撃さ!行くぞ!」

だが次の瞬間、男たちの腕に光が走った。  
金色の紋様が浮かび上がり、彼らの全身を縛る。

「な、なんだこれはっ!」

「警告しただろ。」  
アレンは静かに言った。  
「俺の薬は、俺の承認なしでは効力を発揮しない。つまり――お前らが持ってるそれは、毒だ。」

叫び声とともに男たちは崩れ落ちた。  
苦しむ彼らの中で、アレンはただ冷ややかに見下ろす。  
長い間、軽蔑と嘲笑を受け続けた彼にとって、これはほんの一欠片の“ざまぁ”に過ぎなかった。

「……帰れ。命が惜しければ、二度と俺の名を口にするな。」

森に沈む夕陽の光が、アレンの横顔を照らす。  
その瞳の底には、穏やかな静けさと、確かな決意が宿っていた。

「俺はもう足手まといじゃない。俺は、俺の世界を作る。」

その言葉を呟いたとき、背中の小竜ルゥが優しく鳴いた。  
森の奥で、新たな伝説が静かに始まりつつあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された村人、実は世界最強でした~勇者パーティーを救ったら全員土下座してきた件~

fuwamofu
ファンタジー
村で地味に暮らしていた青年アレンは、勇者パーティーの雑用係として異世界冒険に出るが、些細な事故をきっかけに追放されてしまう。だが彼の真の力は、世界の理に触れる“創造の権能”。 追放後、彼は優しき女神や獣娘、元敵国の姫たちと出会い、知らぬ間に国を救い、人々から崇められていく。 己の力に無自覚なまま、やがてアレンは世界最強の存在として伝説となる。 仲間たちに裏切られた過去を越え、彼は「本当の仲間」と共に、新たな世界の頂点へと歩む。 ──これは、すべての「追放ざまぁ」を極めた男の、無自覚な英雄譚。

異世界の底辺村で静かに暮らしたいだけなのに、気づけば世界最強の勇者だった件

fuwamofu
ファンタジー
「村の畑を守りたいだけなんだが…?」──勇者召喚に巻き込まれて異世界に来た青年レオン。しかし才能を測る水晶が“無能”を示したため、勇者パーティから追放される。失意のまま辺境の小村でのんびりスローライフを目指すが、土を耕せば豊穣の奇跡、狩りに出れば魔王級を一撃、助けた少女たちは次々と彼に恋をする。 本人はただ平穏に暮らしたいだけなのに、気づけば国を救い、人々に「救世の英雄」と讃えられていた──。 ざまぁ、逆転、ハーレム、爽快、全部乗せ! 無自覚最強スローライフ・ファンタジー開幕!

転生したら追放された雑用スキルで世界最強になっていた件~無自覚に救国してハーレム王になった元落ちこぼれの俺~

fuwamofu
ファンタジー
冒険者ギルドで「雑用」スキルしか持たなかった青年・カイ。仲間から無能扱いされ、あげく追放された彼は、偶然開花したスキルの真の力で世界の理を揺るがす存在となる。モンスターを従え、王女に慕われ、美少女賢者や女騎士まで惹かれていく。だが彼自身はそれにまるで気付かず、ただ「役に立ちたい」と願うだけ――やがて神々すら震える無自覚最強の伝説が幕を開ける。 追放者、覚醒、ざまぁ、そしてハーレム。読後スカッとする異世界成り上がり譚!

世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。 絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。 だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。 無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

転生したら最強の神具を持っていた!~無自覚英雄は今日ものんびり街を救う~

にゃ-さん
ファンタジー
ブラック企業で過労死した青年・タクトが転生した先は、魔法と剣が息づく異世界。 神から与えられた“壊れ性能”の神具を片手に、本人は「平穏に暮らしたい」と願うが、なぜか行く先々でトラブルと美女が寄ってくる。 魔物を一撃で倒し、王族を救い、知らぬ間に英雄扱いされるタクト。 そして、彼を見下していた貴族や勇者たちが次々と“ざまぁ”されていく…。 無自覚最強系×コミカルな日常×ほのぼのハーレム。テンプレの中に熱さと癒しを込めた異世界活劇、ここに開幕!

追放された雑用係、実は神々の隠し子でした~無自覚に世界最強で、気づいたら女神と姫と勇者パーティがハーレム化していた件~

fuwamofu
ファンタジー
異世界ギルドの「雑用係」としてコキ使われていた青年レオン。だが彼は、自分が神々の血を継ぐ存在だとは知らなかった。追放をきっかけに本来の力が目覚め、魔王軍・帝国・勇者をも圧倒する無自覚最強へと覚醒する。 皮肉にも、かつて見下していた仲間たちは再び彼に跪き、女神、聖女、王女までが彼の味方に!? 誰もが予想しなかった「ざまぁ」の嵐が、今、幕を開ける——!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...