追放された錬金術師は知らぬ間に神話級、気づけば王女と聖女と竜姫に囲まれていた件

fuwamofu

文字の大きさ
2 / 4

第2話 森に捨てられた男

しおりを挟む
森の朝は静かだった。鳥の鳴き声が聞こえ、木々の間を淡い光が差し込み、草葉が露に濡れて揺れている。その中心に、一軒の小屋があった。つい最近建てられたばかりだが、板の組み合わせは精巧で、むしろ職人の手が加えられたかのように整っている。そこに住むのは、かつて勇者パーティから追放された錬金術師、アレン・クロフォードだ。

「朝か……ルゥ、起きろ。」

ベッドの足元で丸まって寝ていた白い小竜が、ぱちりと目を開ける。金色の瞳が朝の光を反射し、まるで宝石のように輝いた。ルゥは羽をばたつかせながら「あうぅ」と鳴いて、アレンの胸元へ飛び込んでくる。

「おいおい、もう少し静かにしてくれ。重いぞ。」

そう言いながらも、アレンの口元は緩んでいた。  
彼にとってルゥはもう、孤独な森でのかけがえのない相棒だった。

小屋の外に出ると、冷たい空気が頬を撫でた。森の清流は今日も穏やかに流れ、光る魚影が水面を走る。アレンは鍋に水を汲み、木の枝で組んだ簡易の火台にかける。鍋から白い湯気が上がるころ、ルゥが不思議そうに鍋の中を覗き込んだ。

「今日は薬草粥だ。お前の餌も一緒に作るから待ってろ。」

小屋の棚には乾燥させた薬草と、粉末化した魔力触媒が並んでいる。それらを手際よく混ぜ、匂いが立ったところで、アレンはわずかに笑みを浮かべた。誰からも必要とされず、見下され続けた彼だったが、今の時間だけは不思議と穏やかだった。

だが、その平穏も長くは続かなかった。

「……妙だな。」

森の奥から、風に混じって金属音が聞こえてくる。剣を打ち合わせるような音。ほとんどの魔物は鋼を使わない。つまり――人間だ。

アレンは鍋の火を消し、ルゥを抱えて外に出た。音の方向へ進むと、木々の間に三人の男が倒れているのが見えた。そのうち一人は血まみれで動かず、もう二人は辛うじて意識がある。服装からして、辺境の村の護衛兵のようだ。

「おい、大丈夫か。」

アレンが駆け寄って声をかけると、兵士のひとりがかすれた声を上げた。

「あ、あんた……森の住人か……?早く……逃げろ。あいつらが……まだ……」

言葉は最後まで続かなかった。男の隣から、唸り声が響く。  
木の陰から現れたのは、体長二メートルはあろうかという黒狼の魔獣だった。通常の魔獣よりもずっと筋肉質で、その目には理性の光が宿っている。

「上位種の魔狼か。面倒なのが来たな。」

アレンは腰に下げた革袋から瓶を取り出した。淡い緑色の液体がゆらめくそれは、試作段階の“竜の雫”を希釈した治癒薬であり、同時に簡易防御効果もある。

「ルゥ、下がっていろ。巻き込まれるなよ。」

ルゥが翼を広げて樹上に飛び乗る。次の瞬間、黒狼が飛びかかってきた。  
アレンはひと息で瓶を投げつけた。瓶は空中で破裂し、霧のような蒼光が広がる。狼の咆哮が響いたが、その足取りが急に鈍る。

「……効いたな。」

魔力毒素を含んだ霧が狼の動きを止めた。  
アレンは続けて腰のベルトからもう一本の瓶を取り出す。それは銀色の液体で、彼が勇者パーティ時代に作った“反応加速剤”だった。本来は仲間の武器強化に使うはずだったが、今はその効能を別の形で利用する。

「反応促進、対象は風素。展開――《加速爆裂》。」

低く唱えた瞬間、霧の中で風の流れが渦を巻き、凝縮した魔力が一気に爆発した。  
黒狼の身体が吹き飛び、近くの岩に叩きつけられて動かなくなる。残っていた兵士たちが息を呑んだ。

「お、俺たちを……助けてくれたのか……?あんた、一体……」

「ただの通りすがりの錬金術師だ。怪我を見せてみろ。」

アレンは負傷した兵士に膝をつき、手早く傷口に軟膏を塗った。  
その手際の速さと、薬の効果に兵士たちは目を丸くした。血がすぐに止まり、皮膚が再生していく光景など、普通の治癒薬士でも滅多に見られない。

「す……すごい……まるで神の奇跡だ……!」

「神聖術じゃない。ただの化学反応と魔力変換だ。」

アレンは素っ気なく答えた。彼にとっては当たり前の理屈だが、辺境の人間にとって錬金術は未知の領域だ。それも仕方がない。王都では錬金術は忌避され、ついには「穢れ」とまで呼ばれるようになったのだから。

「村に戻ることはできるか?」

「……あんたが護衛してくれるなら。」

アレンは少し考えたが、やがて頷いた。

「恩を売るのも悪くない。行こう。ルゥ、来い。」

小竜が空から舞い降り、アレンの肩にとまった。兵士たちはその存在に息をのむ。

「竜だ……?!なぜこんなところに……!」

「ただのペットだ。気にするな。」

そう言ってアレンは森の小道を進んだ。  
だが、村の手前に着いたとき、彼らを待っていたのは別の厄介ごとだった。

「止まれ!この村は外部者の立ち入りを禁じている!」

木槍を構えた門番が叫ぶ。アレンは両手を上げて事情を話した。

「この者たちは森で魔獣に襲われた。俺が治療しただけだ。」

しかし、門番の目がアレンの肩の上の白い竜に向いた途端、表情が変わった。

「ま、まさか錬金術師の……!」

「俺の噂を聞いたのか。」

「村長の命だ!錬金術師は災いを招く!すぐに立ち去れ!」

兵士たちが必死に説得したが、門番たちは頑なに拒否した。村ではすでに錬金術に関する悪い噂が広まっていた。過去に別の錬金師が禁忌の薬を作り、村を滅ぼしかけたという言い伝えがあるらしい。

「なるほどな。人の偏見はどこでも同じか。」

アレンは軽く息を吐いた。怒りよりも、呆れに近い感情がこみ上げる。

兵士の一人が申し訳なさそうに頭を下げた。

「すまない、錬金術師殿。恩を受けておいて、こんな仕打ちは……」

「気にするな。俺はもう慣れている。」

そう言って踵を返すと、ルゥが彼の頬を舐めた。まるで慰めるように。  
アレンはその頭を軽く撫で、もう一度、静かな森へと足を踏み入れた。

◇ ◇ ◇

夕暮れ。小屋へ戻ったアレンは、ふうと息をついて椅子に腰かけた。机の上には調合中の薬草、磨かれたガラス瓶、そして古びた手帳。  
その手帳には、まだ誰も知らない理論が書き連ねられている。  
「錬金術は、神聖術を超えられるか」  
それが彼の生涯のテーマだった。

「俺がいつか証明してやるさ。」

呟きながら、フラスコに魔力を流し込む。瓶の中で光が弾け、淡い青の液体が完成した。試しに指を入れると、指先がじんわりと温かくなる。

「悪くない。これなら魔素を直接修復できる。」

ルゥが嬉しそうに羽をばたつかせた。アレンは微笑んで、彼女に薬を一滴与える。  
次の瞬間、ルゥの身体に淡い金の光が走り、翼の先が柔らかく広がった。

「……成長増進反応か。まさか本当に成功するとはな。」

錬金釜の火がゆらめく。  
アレンはぼんやりと炎を見つめながら考える。勇者たちは自分を無能の足手まといと言った。だがその実、彼らが使っていた装備も薬も、全てアレンの創り出したものだった。それを理解せずに追放したのだから、愚かとしか言えない。

「いつか……この世界すべてを見返してやる。」

そう呟いたとき、森の奥で小さな震動が走った。ルゥが不安げに鳴く。  
アレンは眉をひそめ、扉を開けて外を見た。遠くで光が瞬いた。  
それは人為的な魔力光だった。誰かが強力な魔法を放ったのだ。

「……また厄介なことになりそうだな。」

彼は再び道具袋を手に取り、腰に吊るす。小竜ルゥも自然に肩の上に飛び乗る。

「行こう、ルゥ。どうせ平穏なんか長続きしない。」

森の奥から、重たい咆哮が響いた。風が冷たくなり、空に赤い影が広がる。  
それは、辺境の地に異変が訪れる前触れだった。  
アレンの知らぬところで、運命の歯車がゆっくりと回り始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の底辺村で静かに暮らしたいだけなのに、気づけば世界最強の勇者だった件

fuwamofu
ファンタジー
「村の畑を守りたいだけなんだが…?」──勇者召喚に巻き込まれて異世界に来た青年レオン。しかし才能を測る水晶が“無能”を示したため、勇者パーティから追放される。失意のまま辺境の小村でのんびりスローライフを目指すが、土を耕せば豊穣の奇跡、狩りに出れば魔王級を一撃、助けた少女たちは次々と彼に恋をする。 本人はただ平穏に暮らしたいだけなのに、気づけば国を救い、人々に「救世の英雄」と讃えられていた──。 ざまぁ、逆転、ハーレム、爽快、全部乗せ! 無自覚最強スローライフ・ファンタジー開幕!

追放された村人、実は世界最強でした~勇者パーティーを救ったら全員土下座してきた件~

fuwamofu
ファンタジー
村で地味に暮らしていた青年アレンは、勇者パーティーの雑用係として異世界冒険に出るが、些細な事故をきっかけに追放されてしまう。だが彼の真の力は、世界の理に触れる“創造の権能”。 追放後、彼は優しき女神や獣娘、元敵国の姫たちと出会い、知らぬ間に国を救い、人々から崇められていく。 己の力に無自覚なまま、やがてアレンは世界最強の存在として伝説となる。 仲間たちに裏切られた過去を越え、彼は「本当の仲間」と共に、新たな世界の頂点へと歩む。 ──これは、すべての「追放ざまぁ」を極めた男の、無自覚な英雄譚。

転生したら追放された雑用スキルで世界最強になっていた件~無自覚に救国してハーレム王になった元落ちこぼれの俺~

fuwamofu
ファンタジー
冒険者ギルドで「雑用」スキルしか持たなかった青年・カイ。仲間から無能扱いされ、あげく追放された彼は、偶然開花したスキルの真の力で世界の理を揺るがす存在となる。モンスターを従え、王女に慕われ、美少女賢者や女騎士まで惹かれていく。だが彼自身はそれにまるで気付かず、ただ「役に立ちたい」と願うだけ――やがて神々すら震える無自覚最強の伝説が幕を開ける。 追放者、覚醒、ざまぁ、そしてハーレム。読後スカッとする異世界成り上がり譚!

世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。 絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。 だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。 無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

転生したら最強の神具を持っていた!~無自覚英雄は今日ものんびり街を救う~

にゃ-さん
ファンタジー
ブラック企業で過労死した青年・タクトが転生した先は、魔法と剣が息づく異世界。 神から与えられた“壊れ性能”の神具を片手に、本人は「平穏に暮らしたい」と願うが、なぜか行く先々でトラブルと美女が寄ってくる。 魔物を一撃で倒し、王族を救い、知らぬ間に英雄扱いされるタクト。 そして、彼を見下していた貴族や勇者たちが次々と“ざまぁ”されていく…。 無自覚最強系×コミカルな日常×ほのぼのハーレム。テンプレの中に熱さと癒しを込めた異世界活劇、ここに開幕!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...