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第2話 崖から落ちて見つけた謎の遺跡
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アレンが勇者パーティーから追放されて三日が経った。歩き慣れない森道を抜け、川を渡りながら、彼は一人で旅を続けていた。地図も目的地もない。ただ足を止めると、あの日の出来事が鮮やかに蘇るから、進むしかなかった。
「俺は……本当に、危険な存在だったのか……」
夜風が頬を冷やす。火を起こそうと枝を集め、手のひらをかざした瞬間、ふと光が揺らめいた。火打石を使ってもいないのに、炎が自然と灯った。驚いて手を引くが、炎はまるでアレンの意思に反応してゆらゆらと揺れ続ける。
「これ……もしかして、俺の力なのか……?」
恐ろしさと同時に、どこか静かな温もりも感じた。まるで小さな焔が、「まだ終わっていない」と語りかけてくるようだった。
翌朝、アレンは小高い崖の上に立っていた。遠くには霧が流れ、森と山の境目に白い光が差し込んでいる。地面はぬかるみ、何度も足を滑らせた。だが、そんなことも気にならないほど、黙々と歩を進めた。
そのときだった。足元の地面が突然崩れた。
「うわっ……!」
叫ぶ間もなく、身体が宙に浮く。崖の下は濃い霧に覆われて、どれほどの高さかもわからない。とっさに近くの枝に手を伸ばしたが、指先は空を切った。重力に引かれ、アレンの体は深い霧の底へと落ちていく。
全身を風が叩き、視界がぐるぐると回る。だが途中で、まるで光の糸のような何かが彼の体を包み込んだ。衝撃が柔らかくなり、ふわりと地面に着地する。生きている。まるでこの場所が彼を拒まなかったかのように。
「……ここ、どこだ?」
周囲を見回すと、そこは巨大な洞窟のような空間だった。天井は高く、壁面に青白い鉱石が散りばめられて光っている。歩みを進めるたび、その光が呼吸するように明滅した。まるで巨大な生き物の体内にいるような錯覚を覚える。
奥に進むと、奇妙な遺跡が現れた。石造りの階段、浮かび上がる古文字、そして中央に鎮座する石碑。だが何よりも彼の視線を奪ったのは、祭壇の上で微かに輝く球体だった。淡い金色の光を放ち、脈を打つように揺れている。
「……宝玉?」
近づこうとすると、足元の石床が青く光り、何本もの魔法陣が広がった。思わず後退した瞬間、周囲に声が響いた。それは女性の声。どこからともなく、優しく、しかし力強く響く。
『来訪者よ。封印の地に至りし者よ。汝の名を告げなさい』
アレンは反射的に答えた。
「アレン……アレン=ロウズ。俺は……ただの村人だ」
静寂。だが次の瞬間、球体の光が強まり、柔らかな風が吹き抜けた。その風には懐かしいような、泣き出したくなるような温もりがあった。
『名を告げた者、アレン。汝は選ばれし創造の継承者。世界の核に触れし唯一の人間』
「えっ……? なんだ、それ……」
『汝の中に眠る“創造の権能”は、かつてこの世界を築いた者の力。長き封印の果て、ここに再び目覚める』
頭がくらくらした。何を言われているのかわからない。だが手のひらからあのときと同じ光がにじみ出ている。まるで自分自身が、世界と繋がっているような感覚があった。
『恐れることはありません。その力は破壊ではなく、再生のためにある。世界を創り、癒す者――それがあなたです』
アレンはゆっくりと拳を握った。恐怖はまだあった。けれど同時に、どこかで納得している自分もいた。なぜ自分だけ特別なことが起きるのか。なぜ勇者たちが恐れたのか。すべて、この力に理由があったのかもしれない。
「俺が……世界を創る、だと……? そんな馬鹿な……俺は戦うことだってまともにできないのに……」
『力とは刃ではなく、願いです。あなたが何を想い、何を望むかで、その力は形を変えるでしょう』
声が微笑むように静まると、光の球がゆっくりとアレンの胸に吸い込まれた。身体の奥が温かくなり、心臓の鼓動と光が一体化していく。視界が白く染まり、そして――再び静寂。
気がつくと、遺跡の中はただの廃墟に戻っていた。球体も、声も、もうない。だが胸の奥には確かに残っている。穏やかな力の流れと、言葉の残響。
「……創造の継承者、か」
地面に手をつくと、折れた草がゆっくりと起き上がり、緑の新芽を出した。驚きに息を呑む。意識せずに“再生”していた。恐る恐るもう一度試す。枯れ木に触れると、それもまた瑞々しい木肌に戻ってゆく。
「まるで……命を作り出してるみたいだ」
世界が静かにいびつさを取り戻していくように見えた。だがその美しさの裏で、何かが動き出していた。遺跡の奥の暗闇から、低い唸り声が響く。
「誰か……いるのか?」
返事はない。その代わり、闇の中から巨大な影が揺れた。光に照らされ、姿を現したのは、岩でできた獣のような存在。石の体に紅い魔核を宿し、鬱蒼とした気配を放つ“守護魔像”だった。
『侵入者、確認……排除開始……』
無機質な声が洞窟に響き渡った。アレンは無我夢中で走り出す。避ける間もなく拳が地を砕き、衝撃波が体を弾き飛ばした。壁に叩きつけられ、呼吸が止まる。
「くそっ、なんで追い打ちかけてくるんだよ!」
手探りで拾い上げた石を投げるが、まったく通じない。石像は巨体を揺らしながら迫ってくる。逃げ場はない。足元には崖。背後には魔像。どうすることもできなかった。
「……せめて、生きてみせる!」
胸元が熱くなる。無意識に手を突き出した瞬間、地面の光が迸った。創造の紋章が拡がり、地の底から蔦が飛び出して魔像の腕を絡み取る。まるで生き物のように締めつけ、動きを封じる。
「今だ……!」
アレンの声に反応するかのように、光が爆ぜ、魔像の身体がきしみ始めた。巨大な石の体が崩れ、赤い魔核が地面に転がる。砕けた瞬間、轟音とともに遺跡が揺れ、光の柱が天井を突き抜けた。
激しい閃光のあと、静寂が戻った。アレンはその場に座り込み、荒い呼吸を整える。恐怖で震える手を見つめながら、思わず笑ってしまった。
「……やっぱり、俺、どう考えても普通じゃないな」
笑いながらも、胸の奥には奇妙な安心感があった。勇者に必要とされなかった。でも、この力なら自分にしかできないことがある。世界を壊すためではなく、守るために。
崩れた天井の隙間から、一筋の光が差し込む。その先には森と空が広がっていた。傷ついた体を引きずりながら立ち上がり、アレンはその出口へ歩いていった。
「行こう。どうせなら、この世界のことを少しでも知ってから、答えを見つけよう」
外の風が頬を撫で、草の香りが満ちてくる。遺跡がゆっくりと沈み、再び静寂に包まれた。ただ一人の青年が去った跡に、淡い創造の光が、まだかすかに瞬いていた。
(次回 第3話「女神との邂逅~封印されし力~」へ続く)
「俺は……本当に、危険な存在だったのか……」
夜風が頬を冷やす。火を起こそうと枝を集め、手のひらをかざした瞬間、ふと光が揺らめいた。火打石を使ってもいないのに、炎が自然と灯った。驚いて手を引くが、炎はまるでアレンの意思に反応してゆらゆらと揺れ続ける。
「これ……もしかして、俺の力なのか……?」
恐ろしさと同時に、どこか静かな温もりも感じた。まるで小さな焔が、「まだ終わっていない」と語りかけてくるようだった。
翌朝、アレンは小高い崖の上に立っていた。遠くには霧が流れ、森と山の境目に白い光が差し込んでいる。地面はぬかるみ、何度も足を滑らせた。だが、そんなことも気にならないほど、黙々と歩を進めた。
そのときだった。足元の地面が突然崩れた。
「うわっ……!」
叫ぶ間もなく、身体が宙に浮く。崖の下は濃い霧に覆われて、どれほどの高さかもわからない。とっさに近くの枝に手を伸ばしたが、指先は空を切った。重力に引かれ、アレンの体は深い霧の底へと落ちていく。
全身を風が叩き、視界がぐるぐると回る。だが途中で、まるで光の糸のような何かが彼の体を包み込んだ。衝撃が柔らかくなり、ふわりと地面に着地する。生きている。まるでこの場所が彼を拒まなかったかのように。
「……ここ、どこだ?」
周囲を見回すと、そこは巨大な洞窟のような空間だった。天井は高く、壁面に青白い鉱石が散りばめられて光っている。歩みを進めるたび、その光が呼吸するように明滅した。まるで巨大な生き物の体内にいるような錯覚を覚える。
奥に進むと、奇妙な遺跡が現れた。石造りの階段、浮かび上がる古文字、そして中央に鎮座する石碑。だが何よりも彼の視線を奪ったのは、祭壇の上で微かに輝く球体だった。淡い金色の光を放ち、脈を打つように揺れている。
「……宝玉?」
近づこうとすると、足元の石床が青く光り、何本もの魔法陣が広がった。思わず後退した瞬間、周囲に声が響いた。それは女性の声。どこからともなく、優しく、しかし力強く響く。
『来訪者よ。封印の地に至りし者よ。汝の名を告げなさい』
アレンは反射的に答えた。
「アレン……アレン=ロウズ。俺は……ただの村人だ」
静寂。だが次の瞬間、球体の光が強まり、柔らかな風が吹き抜けた。その風には懐かしいような、泣き出したくなるような温もりがあった。
『名を告げた者、アレン。汝は選ばれし創造の継承者。世界の核に触れし唯一の人間』
「えっ……? なんだ、それ……」
『汝の中に眠る“創造の権能”は、かつてこの世界を築いた者の力。長き封印の果て、ここに再び目覚める』
頭がくらくらした。何を言われているのかわからない。だが手のひらからあのときと同じ光がにじみ出ている。まるで自分自身が、世界と繋がっているような感覚があった。
『恐れることはありません。その力は破壊ではなく、再生のためにある。世界を創り、癒す者――それがあなたです』
アレンはゆっくりと拳を握った。恐怖はまだあった。けれど同時に、どこかで納得している自分もいた。なぜ自分だけ特別なことが起きるのか。なぜ勇者たちが恐れたのか。すべて、この力に理由があったのかもしれない。
「俺が……世界を創る、だと……? そんな馬鹿な……俺は戦うことだってまともにできないのに……」
『力とは刃ではなく、願いです。あなたが何を想い、何を望むかで、その力は形を変えるでしょう』
声が微笑むように静まると、光の球がゆっくりとアレンの胸に吸い込まれた。身体の奥が温かくなり、心臓の鼓動と光が一体化していく。視界が白く染まり、そして――再び静寂。
気がつくと、遺跡の中はただの廃墟に戻っていた。球体も、声も、もうない。だが胸の奥には確かに残っている。穏やかな力の流れと、言葉の残響。
「……創造の継承者、か」
地面に手をつくと、折れた草がゆっくりと起き上がり、緑の新芽を出した。驚きに息を呑む。意識せずに“再生”していた。恐る恐るもう一度試す。枯れ木に触れると、それもまた瑞々しい木肌に戻ってゆく。
「まるで……命を作り出してるみたいだ」
世界が静かにいびつさを取り戻していくように見えた。だがその美しさの裏で、何かが動き出していた。遺跡の奥の暗闇から、低い唸り声が響く。
「誰か……いるのか?」
返事はない。その代わり、闇の中から巨大な影が揺れた。光に照らされ、姿を現したのは、岩でできた獣のような存在。石の体に紅い魔核を宿し、鬱蒼とした気配を放つ“守護魔像”だった。
『侵入者、確認……排除開始……』
無機質な声が洞窟に響き渡った。アレンは無我夢中で走り出す。避ける間もなく拳が地を砕き、衝撃波が体を弾き飛ばした。壁に叩きつけられ、呼吸が止まる。
「くそっ、なんで追い打ちかけてくるんだよ!」
手探りで拾い上げた石を投げるが、まったく通じない。石像は巨体を揺らしながら迫ってくる。逃げ場はない。足元には崖。背後には魔像。どうすることもできなかった。
「……せめて、生きてみせる!」
胸元が熱くなる。無意識に手を突き出した瞬間、地面の光が迸った。創造の紋章が拡がり、地の底から蔦が飛び出して魔像の腕を絡み取る。まるで生き物のように締めつけ、動きを封じる。
「今だ……!」
アレンの声に反応するかのように、光が爆ぜ、魔像の身体がきしみ始めた。巨大な石の体が崩れ、赤い魔核が地面に転がる。砕けた瞬間、轟音とともに遺跡が揺れ、光の柱が天井を突き抜けた。
激しい閃光のあと、静寂が戻った。アレンはその場に座り込み、荒い呼吸を整える。恐怖で震える手を見つめながら、思わず笑ってしまった。
「……やっぱり、俺、どう考えても普通じゃないな」
笑いながらも、胸の奥には奇妙な安心感があった。勇者に必要とされなかった。でも、この力なら自分にしかできないことがある。世界を壊すためではなく、守るために。
崩れた天井の隙間から、一筋の光が差し込む。その先には森と空が広がっていた。傷ついた体を引きずりながら立ち上がり、アレンはその出口へ歩いていった。
「行こう。どうせなら、この世界のことを少しでも知ってから、答えを見つけよう」
外の風が頬を撫で、草の香りが満ちてくる。遺跡がゆっくりと沈み、再び静寂に包まれた。ただ一人の青年が去った跡に、淡い創造の光が、まだかすかに瞬いていた。
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