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第1話 雑用係アレン、追放される
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陽の光がまだ淡く差し込む早朝の森に、鳥の鳴き声が響いていた。草木の間を風が駆け抜け、村を取り囲む木々をざわめかせる。そんな穏やかな景色の中で、ひとりの青年が荷車を押していた。名はアレン。今年で十八になる村人だ。
「……よし、これで今日の荷運びは終わり、っと」
アレンは荷車を止め、額の汗をぬぐった。筋肉質というほどではないが、農作業で鍛えられた体には無駄がなかった。黒髪を無造作に結い、平凡な布の服。だがその瞳の奥には、どこか不思議な光が宿っていた。本人は気づいていないが、それは“世界の理”を感じ取る力の兆しであった。
「アレン! いたいた! ちょっと手伝ってくれよ!」
声を上げながら駆けてきたのは、同じ村の幼なじみであり、この国の勇者に選ばれた青年カイルだった。金髪に青い瞳、そして剣を背負った姿は、まさに絵に描いたような勇者そのものだった。
「また荷物か? 今日は朝から重労働続きなんだが……」
「いや、違う違う。パーティーの出発支度だ。アレン、お前も来るんだぞ。雑用係としてな!」
そう言ってカイルは白い歯を見せて笑う。アレンは苦笑しながら首をかしげた。
「相変わらず俺の扱いは変わらないな。ま、行けるなら行くけど」
「感謝してるって! お前がいないと飯もマナポーションの調合もできねぇんだから!」
軽口を叩き合う二人を、少し離れた場所から三人の仲間が見ていた。聖女リリア、魔法使いセレス、そして槍使いのリオ。美しい装備に身を包んだ三人は、どこか冷ややかな眼差しを浮かべている。
「カイル、またあの雑用係を連れていくの?」
「そうよ。戦えないくせに足を引っ張るわ」
「まぁまぁ、荷物持ちくらいにはなるだろ。ほら、あいつ、力だけはあるんだし」
そんな言葉を聞いても、アレンは怒らない。むしろ自然と微笑んでいた。誰かの役に立てるなら、それでいい。昔からそう思っていた。自分にはたいした力も、勇者のような輝きもない。けれど手を動かし、仲間のために何かをすることが嬉しかった。
こうして、勇者一行の旅は始まった。目的は魔王討伐。この世界「アルディア」を脅かす存在を倒すため、四人の勇者とその雑用係は、大陸を横断する長い旅へと出たのだ。
だが、平穏は長く続かなかった。
旅立って三日目、険しい渓谷を抜けようとしていたときだった。突然、前方から魔獣の群れが現れた。黒鉄の牙を持つ大狼、五体。どれも普通の冒険者では太刀打ちできない危険な相手だ。
「くそっ、囲まれた!」
「カイル、まっすぐ前を! 私は援護魔法を!」
セレスが詠唱を唱え、カイルが手にした聖剣を構える。その光が渓谷の壁を照らし、眩い閃光が走った。アレンは急いでポーションを取り出し、仲間の動きに合わせて背後から補助魔法をかけていた。
その瞬間、巨大な岩が頭上から崩れ落ちる。アレンが声を上げるより早く、岩は真横に転がり出した。仲間たちのいる方向へ。
「危ない!」
アレンは反射的に駆け出した。頭で考える間もなく、落石の影にいたリリアを突き飛ばす。次の瞬間、轟音とともに土煙が上がった。
カイルたちが振り返ったとき、粉塵の中から現れたアレンは、背中を岩に押しつぶされていた。
「アレン! おい、しっかりしろ!」
カイルが必死に声をかける。だが当のアレンは、わずかに笑っていた。
「大丈夫……ちょっと、重いだけだから。先に行ってくれ」
セレスとリオが顔をしかめる。
「何してんのよ、本当厄介者ね!」
「足手まといもいいところだ。勇者の旅に相応しくない」
アレンは何も言い返さなかった。痛みよりも、仲間の視線が胸に刺さった。だが彼の背で、何かがゆっくりと光っていた。土の中から、淡い紋章のような光が浮かび上がり、アレンを包み込む。石が砕ける音がした。岩が、まるで空気のように押しのけられたのだ。
「……今の、何だ?」
カイルが呟いたとき、アレン自身も驚いていた。体が軽い。傷は癒えている。まるで世界が自分に従っているような感覚があった。だが周囲は、ただ呆然と彼を見ていた。
「こっ、こいつ……魔族じゃないのか?」
「そうよ! こんな力、人間のはずないわ!」
セレスが怯えたように叫ぶ。アレンは慌てて手を振った。
「違う! 俺はただ……守りたくて!」
だがその声は届かない。恐怖と疑念の視線が突き刺さる。リリアでさえ、目を合わせようとしなかった。
「アレン。……お前を、パーティーから外す」
短く、冷たい声でカイルが告げた。アレンは言葉を失う。
「どうしてだ……俺は、仲間だろ?」
「わからないのか? お前の力が危険なんだ。もし制御できなければ、皆を巻き込む可能性がある。旅に同行させるわけにはいかない」
アレンは口を開くが、何も言えなかった。自分でも何が起きたかわからない。だが、その瞬間の孤独だけが、痛いほど胸に残った。
「……わかったよ。迷惑はかけない」
静かにそう言うと、アレンは背負っていた荷物を下ろした。誰も引き止めなかった。
薄暗い森の中を、一人で歩き出す。空は灰色に曇り、風が冷たい。草の匂いの向こうに、遠くで鳥の声が消えた。
「……俺、本当に、邪魔だったのかな」
誰に聞かせるでもなく呟く。返事はない。だが、その手のひらには、まだ淡い光が残っていた。それは、彼が自覚していない“神の権能”の証。創造の力。その始まりだった。
夜が訪れる。焚き火の明かりが揺れた。その中で、アレンは小さなパンを千切りながら思う。
――自分は、ただの村人だ。
そう信じていた。けれど、世界の理はすでに動き出していた。勇者に見限られた村人の歩みが、やがて神話に語られる最強の伝説へと繋がることを、このとき誰も知らなかった。
「……よし、これで今日の荷運びは終わり、っと」
アレンは荷車を止め、額の汗をぬぐった。筋肉質というほどではないが、農作業で鍛えられた体には無駄がなかった。黒髪を無造作に結い、平凡な布の服。だがその瞳の奥には、どこか不思議な光が宿っていた。本人は気づいていないが、それは“世界の理”を感じ取る力の兆しであった。
「アレン! いたいた! ちょっと手伝ってくれよ!」
声を上げながら駆けてきたのは、同じ村の幼なじみであり、この国の勇者に選ばれた青年カイルだった。金髪に青い瞳、そして剣を背負った姿は、まさに絵に描いたような勇者そのものだった。
「また荷物か? 今日は朝から重労働続きなんだが……」
「いや、違う違う。パーティーの出発支度だ。アレン、お前も来るんだぞ。雑用係としてな!」
そう言ってカイルは白い歯を見せて笑う。アレンは苦笑しながら首をかしげた。
「相変わらず俺の扱いは変わらないな。ま、行けるなら行くけど」
「感謝してるって! お前がいないと飯もマナポーションの調合もできねぇんだから!」
軽口を叩き合う二人を、少し離れた場所から三人の仲間が見ていた。聖女リリア、魔法使いセレス、そして槍使いのリオ。美しい装備に身を包んだ三人は、どこか冷ややかな眼差しを浮かべている。
「カイル、またあの雑用係を連れていくの?」
「そうよ。戦えないくせに足を引っ張るわ」
「まぁまぁ、荷物持ちくらいにはなるだろ。ほら、あいつ、力だけはあるんだし」
そんな言葉を聞いても、アレンは怒らない。むしろ自然と微笑んでいた。誰かの役に立てるなら、それでいい。昔からそう思っていた。自分にはたいした力も、勇者のような輝きもない。けれど手を動かし、仲間のために何かをすることが嬉しかった。
こうして、勇者一行の旅は始まった。目的は魔王討伐。この世界「アルディア」を脅かす存在を倒すため、四人の勇者とその雑用係は、大陸を横断する長い旅へと出たのだ。
だが、平穏は長く続かなかった。
旅立って三日目、険しい渓谷を抜けようとしていたときだった。突然、前方から魔獣の群れが現れた。黒鉄の牙を持つ大狼、五体。どれも普通の冒険者では太刀打ちできない危険な相手だ。
「くそっ、囲まれた!」
「カイル、まっすぐ前を! 私は援護魔法を!」
セレスが詠唱を唱え、カイルが手にした聖剣を構える。その光が渓谷の壁を照らし、眩い閃光が走った。アレンは急いでポーションを取り出し、仲間の動きに合わせて背後から補助魔法をかけていた。
その瞬間、巨大な岩が頭上から崩れ落ちる。アレンが声を上げるより早く、岩は真横に転がり出した。仲間たちのいる方向へ。
「危ない!」
アレンは反射的に駆け出した。頭で考える間もなく、落石の影にいたリリアを突き飛ばす。次の瞬間、轟音とともに土煙が上がった。
カイルたちが振り返ったとき、粉塵の中から現れたアレンは、背中を岩に押しつぶされていた。
「アレン! おい、しっかりしろ!」
カイルが必死に声をかける。だが当のアレンは、わずかに笑っていた。
「大丈夫……ちょっと、重いだけだから。先に行ってくれ」
セレスとリオが顔をしかめる。
「何してんのよ、本当厄介者ね!」
「足手まといもいいところだ。勇者の旅に相応しくない」
アレンは何も言い返さなかった。痛みよりも、仲間の視線が胸に刺さった。だが彼の背で、何かがゆっくりと光っていた。土の中から、淡い紋章のような光が浮かび上がり、アレンを包み込む。石が砕ける音がした。岩が、まるで空気のように押しのけられたのだ。
「……今の、何だ?」
カイルが呟いたとき、アレン自身も驚いていた。体が軽い。傷は癒えている。まるで世界が自分に従っているような感覚があった。だが周囲は、ただ呆然と彼を見ていた。
「こっ、こいつ……魔族じゃないのか?」
「そうよ! こんな力、人間のはずないわ!」
セレスが怯えたように叫ぶ。アレンは慌てて手を振った。
「違う! 俺はただ……守りたくて!」
だがその声は届かない。恐怖と疑念の視線が突き刺さる。リリアでさえ、目を合わせようとしなかった。
「アレン。……お前を、パーティーから外す」
短く、冷たい声でカイルが告げた。アレンは言葉を失う。
「どうしてだ……俺は、仲間だろ?」
「わからないのか? お前の力が危険なんだ。もし制御できなければ、皆を巻き込む可能性がある。旅に同行させるわけにはいかない」
アレンは口を開くが、何も言えなかった。自分でも何が起きたかわからない。だが、その瞬間の孤独だけが、痛いほど胸に残った。
「……わかったよ。迷惑はかけない」
静かにそう言うと、アレンは背負っていた荷物を下ろした。誰も引き止めなかった。
薄暗い森の中を、一人で歩き出す。空は灰色に曇り、風が冷たい。草の匂いの向こうに、遠くで鳥の声が消えた。
「……俺、本当に、邪魔だったのかな」
誰に聞かせるでもなく呟く。返事はない。だが、その手のひらには、まだ淡い光が残っていた。それは、彼が自覚していない“神の権能”の証。創造の力。その始まりだった。
夜が訪れる。焚き火の明かりが揺れた。その中で、アレンは小さなパンを千切りながら思う。
――自分は、ただの村人だ。
そう信じていた。けれど、世界の理はすでに動き出していた。勇者に見限られた村人の歩みが、やがて神話に語られる最強の伝説へと繋がることを、このとき誰も知らなかった。
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