追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第8話 女神リュミナの降臨

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 夜が明ける前、赤黒い雲が東の空を覆っていた。村の人々が怯えた声を上げる。  
 空から雨でも降るのではない。あの雲は、魔力の濃度が異常に上がった時にだけ見られる“警告”だ。  
 まるで世界そのものが悲鳴を上げている。  

 「嫌な予感がするな。」  
 俺は静かに呟いた。  
 昨夜の魔竜との戦いの時に感じた違和感、あの“防御壁”の正体が今になっても掴めない。  
 誰かが力を貸していたような、そんな感覚がずっと残っていた。  

 「レン様……」  
 ディアナが祈るように両手を胸に当てている。  
 「この空は、女神リュミナ様が干渉しておられる兆しです。」  
 「干渉?」  
 「はい。あなたに接触しようとしているのです。」  

 俺は思わず眉をひそめた。  
 女神リュミナ――俺が“創った存在”でありながら、この世界の人々が信仰する神。  
 記憶を取り戻して以来、彼女の存在に対しどこか複雑な感情を抱いていた。  
 俺が神を生み出したのか。それとも、神が俺を生み出したのか。  

 その答えを知る前に、空が光った。  

 雷のような閃光が夜空を切り裂き、地上に一本の光柱が落ちる。  
 轟音と共に大地が震え、風が吹き荒れる。  
 村の広場の中央、燃えた土の上に、白金の光が渦を巻き、やがて人の姿に形を取った。  

 「……リュミナ。」  

 女神リュミナが降臨した。  
 白い衣をまとい、長い光の髪が風に揺れている。  
 その微笑みは穏やかで、しかし瞳はあまりに深く、底知れない光を宿していた。  

 村人たちは次々と地にひれ伏す。  
 「女神様……本物、だ……!」  
 誰もが涙を流し、声を震わせて祈る。  
 だが、リュミナの視線は一人、俺の方に向けられていた。  

 「レン――ようやく見つけました。」  
 その声に、心臓が跳ねる。  
 懐かしさと切なさが同時に押し寄せてくる。  

 「探してたのは俺か。」  
 「ええ。あなたがいなければ、この世界はもう長く保ちません。」  
 「それはアルドのせいか?」  
 「彼はほんのきっかけに過ぎません。問題は、“創造主であるあなたの意志”が定まらないこと。」  

 リュミナの言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。  
 俺が迷うたびに、世界も揺らぐ――つまりそういうことだ。  

 「正直、全部を背負うつもりはない。ただ、目の前の命を守りたいだけだ。」  
 「ええ、それでいいのです。あなたの“望み”こそが、理を安定させる。」  

 リュミナは一歩近づき、俺の頬に手を添えた。  
 指先が触れた瞬間、過去の記憶が走馬灯のように蘇る。  
 ――光と闇の狭間で、彼女が泣いていた。  
 ――「どうか、あなたの手で、この世界を終わらせてください」と。  

 「……あの時のお前は、なぜ泣いていた?」  
 俺が問うと、リュミナは小さく目を伏せた。  
 「創造の輪は、終わることのない苦しみでもあります。あなたは優しかった。命を生むたびに、滅びを見ることに耐えられなかった。」  

 「だから、眠ることを選んだのか。」  
 「いいえ。あなたを眠らせたのは、私です。」  
 その一言に、世界が静まり返った。  
 「私の我儘でした。あなたが滅びを望むくらいなら、眠って再び新しい朝を迎える方がいいと思ったのです。」  

 ディアナが小さく息を飲む。  
 リュミナは続けた。  
 「ですが長い時を経て、あなたの欠けた力を求める者が現れました。人の欲はここまで届き、そして理を歪めるまでに強くなった。」  
 「アルドのことだな。」  
 「ええ。彼もまた、あなたの残滓を宿して生まれた存在。」  

 「……俺の“欠片”?」  
 「そう。あなたが眠る直前、残した光の一部が人間の血へと紛れた。それが“勇者”の血統。」  

 衝撃で言葉を失う。  
 勇者という存在が、俺の力の欠片だと?  
 つまり、アルドは俺の模倣――理の反映。  

 リュミナの声が柔らかく響く。  
 「だからこそ、あなたが終わらせなければならないのです。彼を滅ぼすことが、理を戻す唯一の道。」  

 「……滅ぼせ、ってか。まったく皮肉な話だ。」  
 俺は笑う。だが胸の奥は静かに熱くなっていた。  
 アルドを殺す。その重みがのしかかる。俺の生み出した“欠片”を、自ら葬ることになるのだから。  

 「レン様……」  
 ディアナが俺の腕を掴む。  
 「でも、あなたは誰かを憎んで戦う人じゃありません。」  
 俺は彼女を見て、小さく頷いた。  
 「ああ。戦うとしても、救うためだ。」  

 リュミナは微笑む。  
 「あなたらしい。では、力を少し返しましょう。あなたの瞳に、再び“真の光”を与えます。」  

 女神が手をかざすと、金の粒子が降り注いだ。  
 俺の体を包み込み、心の奥に染み込む。  
 温かい。だが同時に、内側の“何か”が動くのを感じた。  

 “創造主の上位存在”――前回、俺が感じたあの違和感だ。  
 誰かが内側から握手を求めているような感触。  
 俺を見て、同時に俺の中で笑っている何者か。  

 「……おい、リュミナ。この中に、何かいるな。」  
 リュミナの表情が一瞬だけ陰った。  
 「それも、あなた自身です。あなたの奥底に眠る、始原の意志――“最初の創造者”が胎動を始めています。」  

 「俺より上の存在、ってことか。」  
 「そうとも言えますし、違うとも言えます。あなたがそれを“生み出した”のか、“生まされた”のか、それはまだ定まっていない。」  

 曖昧な言葉。だが、確かにその存在はいる。  
 リュミナの声が遠くなる。  
 「このままでは、あなたが乗っ取られます。けれど、それを完全に封じると、この世界の存在そのものが途切れてしまう。」  

 俺は拳を握った。  
 「上等だ。封じもしないし、乗っ取らせもしない。共に生きてやるさ。」  

 リュミナが微笑み、光が消える。  
 「やはり、あなたは……そういう方です。」  
 女神の姿が少しずつ薄れていった。  

 「待て、これからどうすればいい。」  
 「北東へ向かってください。“神の塔”が目覚めつつあります。アルドがその頂で、禁域を解放しようとしています。」  

 光が完全に消える直前、リュミナの声が静かに響いた。  
 「レン。あなたが笑う限り、この世界は創られ続けます。」  

 夜明けとともに光柱が霧散した。  
 ディアナが静かに祈りを捧げる。  
 俺は空を見上げ、息を吐いた。  

 「女神も、俺の“創造”も、結局は同じ場所に帰るのかもしれないな。」  
 朝の風が吹き抜ける。金色の雲が散り、青空が顔を出した。  

 「行こう、ディアナ。神の塔へ。」  
 「はい。……リュミナ様の導きのままに。」  

 二人して歩き出す。遠くの地平線に、白くそびえる塔の影が微かに見えた。  
 その頂で、俺を待つのは勇者アルド、そして――俺の“内なる創造主”だ。
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