追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第7話 村を襲う魔竜と謎の防御壁

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 王都へ戻るための道のりは長かった。  
 ディアナと二人、荒野を抜け、森を越え、いくつもの小さな村へと立ち寄っていく。  
 古代遺跡で手に入れた情報――アルドが神を名乗り始めたという報せ――は、あまりにも大きな不安を呼び起こしていた。  
 このまま放っておけば、人々はまた“偶像”にすがるようになる。  
 そしてその信仰が、世界を歪ませる。  

 「先を急ぎましょう。」  
 ディアナの声はか細く、それでいて焦りを隠せていなかった。  
 「南の村が襲われている。神殿通信の報告では、正体不明の竜が現れたとか。」  
 「魔竜、か。」  
 俺は視線を上げて、曇り始めた空を見た。  
 胸の奥に、微かなざわめき――世界の痛みのような感覚が走る。  

 丘を越えると、すぐに煙が見えた。  
 木造の家がいくつも燃え、村人たちが逃げ惑っている。  
 空を覆う黒い影。巨大な翼、鋭い爪、そして燃え盛るような赤い瞳。  

 「魔竜だ……」  
 ディアナの声が震える。  
 その姿は、記憶の中のどんな魔物よりも威圧的だった。  
 全身に走る黒い紋章が、不規則に輝きながら炎を吐き出している。  

 「普通の竜じゃないな。瘴気が混じってる。」  
 俺は肩にかけていた外套を脱ぎ、地面に足を踏み出した。  
 「村の方は頼んだ。俺はあれを止める。」  

 「ひとりで!? 無茶です!」  
 「無茶じゃない。」  
 俺は軽く笑って、空を仰いだ。  
 ――手加減もしないけどな。  

 魔竜が吠えた。  
 炎が森を焼き払い、衝撃波が地をえぐる。  
 俺の体を包む空気が一瞬で熱を帯びたが、次の瞬間、目の前に見えない壁が現れた。  
 炎がそれにぶつかり、弾かれる。まるで世界そのものが俺を守ったかのように。

 「……自動防御?」  
 俺は苦笑した。  
 “理”が反応している。  
 力が完全に世界とリンクした今、俺の無意識が現実を形にしているのだ。  

 魔竜は激怒して再び突進してくる。  
 地面を蹴り、巨体が真っ直ぐに俺へと迫った。  
 空気が裂け、周囲の空間が歪む。  
 避ける必要もない――と感じた瞬間、また何かが動いた。  

 “防御壁”。  

 透明な光の結界が周囲に形成され、魔竜の巨体を完全に包み込んだ。  
 炎も爪も届かず、閉ざされた檻の中で暴れまわる。  
 大地が震えるが、結界は微動だにしない。  

 ディアナが駆け寄ってくる。「これは……あなたが?」  
「いや、俺じゃない。勝手に出た。」  
 「勝手に!? そんな……」  
 俺は息を整え、手をかざした。  

 「落ち着け。……閉じ込めただけじゃ終わらない。」  
 結界の中で暴れる魔竜の目を見つめながら、心を静める。  
 炎、怨嗟、怒り――その奥に、確かに“痛み”が見えた。  

 「……お前、操られてるんだな。」  
 ディアナが息をのむ。「そんなことがわかるのですか?」  
 「視えるんだ。理の線が繋がってる。遠く、南の方角に。」  

 俺の脳裏に浮かんだのは、黒い帳のような瘴気の渦。その中心に、人ではない巨大な“目”があった。  
 人の形をしていない。けれどどこかで見覚えがある。  
 “あれ”は魔王じゃない。もっと別の存在――この世界の理そのものを蝕む何か。  

 「ディアナ、村人たちを結界の外に。早く!」  
 「わかりました!」  

 ディアナは走り出し、避難誘導を始める。  
 俺は魔竜に向き直った。  
 「お前を消さずに、鎖を断つ。」  
 目を閉じ、意識を集中させる。  
 結界の光が細くなり、反転して内側に集まる。魔竜の身体を覆っていた瘴気が、光に焼かれながら溶けていく。  

 「ぐ、ああああ……!」  
 魔竜が苦しげに咆哮した。だがその声に憎しみはなく、解放を求めるような響きだった。  

 「もう少しだ。耐えろ。」  

 結界が閃光を放ち、魔竜の体から闇が完全に抜け落ちた。  
 残ったのは、純白の鱗をまとった竜。  
 その瞳は穏やかに光り、俺をじっと見つめていた。  

 「……感謝を。」  
 竜の低い声が、頭の中に響いた。  
 「我は堕ちた。神を名乗る人間に、支配されしもの。」  
 「アルドか?」  
「名は知らぬ。ただ、光の剣を持つ者。人の声にて神を騙り、我らを従えようとした。」  

 ディアナが戻ってきて、その言葉を聞き、息を呑んだ。  
 「やはりアルド……彼は“神の器”と称して古代の力を使い始めています。」  
 「そして、この竜たちを駒にしている。」  
 俺は胸の奥が冷たくなるのを感じた。  

 竜は、翼を広げて夜空を仰いだ。  
 「我は西の山脈へ戻る。創造主よ、理の再生を。」  
 そう告げると、その巨体は光に溶け、風と共に消えていった。  

 静まり返った村に、ようやく安堵の声が広がる。  
 火の手は俺の結界の作用で消え、家々は壊れずに残っていた。  
 村人たちは頭を下げ、涙ながらに感謝を伝えてくる。  
 俺は苦笑して首を振った。  
 「俺は何もしていない。勝手に世界が守ってくれただけだ。」  

 「それでも、あなたが望んだからこうなったのです。」  
 ディアナの言葉は、どこか優しく、それでいて重かった。  
 「あなたの“望み”が世界を動かしている。その意志を、信じてください。」  

 「……信じるほど、怖いよ。」  
 思わず本音が漏れた。  
 俺が怒れば、誰かが消える。哀れめば、世界が改まる。  
 力が俺を守るように動く反面、その境界がどこまでなのかがわからない。  

 「レン様。」  
 ディアナが真剣な眼差しで俺を見上げる。  
 「あなたが恐れるのは当然です。けれど、あなたは決して“独りの神”ではありません。」  
 「どういう意味だ?」  
 「もし世界の理があなたに従うなら、世界の意志――私たち人間が、あなたの“心”を導く役目です。」  

 その言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。  
 俺一人の願いじゃない。誰かが支えてくれるなら、まだ壊れないですむ。  

 夕暮れが訪れるころ、燃え残った空が赤く染まった。  
 遠くの空に、金色の雷が一筋走る。  
 俺はその光の方向を見据える。王都――アルドのいる場所だ。  

 「ディアナ、次は……王都だ。」  
 「はい。リュミナ様も、必ずあなたを見守っています。」  

 夜風が吹き、静かな村に冷たい星の光が降りた。  
 かつては人間として見下され、追放されたこの俺が、今は世界を守る“理そのもの”になっている。  
 だが心の奥には、奇妙な違和感が残っていた。  

 “防御壁”は俺が作ったものじゃない。  
 あれは……俺の中の、別の何かの意思が発動したように見えた。  

 空を仰ぎ、月に照らされながら呟く。  
 「……まさか、“創造主”の上にも、創造主がいるってことか。」  

 返事はない。  
 ただ風の中で、遠くから微かな女神の声が聞こえた気がした。  

 ――レン、まだ全てを思い出してはいませんね。  
 ――この世界の真の創造者は、あなたの“内側”にいます。  

 「……内側、だと?」  
 世界が俺に創られ、俺の中に世界があるなら――その中に、さらに“別の意志”がいたとしても不思議ではない。  

 夜空の下、俺はひとり静かに笑った。  
 「やれやれ、本当に面倒な旅になりそうだ。」  

 昇り始めた月の光が、俺の影を長く伸ばしていた。
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