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第11話 王都の動揺と勇者の焦り
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リュシエルが消え、塔の光が天を裂いたその頃、王都は混乱の渦に飲まれていた。
街全体が揺れ、建物の窓は震え、地の底から響くような低い音が続いている。
人々はそれを「世界の心臓が鳴っている」と恐れ、教会では連日、終末の祈りが捧げられていた。
城の謁見の間は重たい沈黙に包まれていた。
玉座の前、勇者アルドは膝をついていた。
その姿は以前の堂々たる英雄ではない。髪は乱れ、瞳の下には深い影がある。
それでもその瞳には、異様なほどの光が宿っていた。
「陛下……お許しください。ですが、創造主の力は我ら“選ばれし者”が継ぐべきなのです。」
王は険しい表情で首を振った。
「アルドよ、そなたの功績は確かに偉大だ。だが、いつから神を名乗るようになった?」
「これは名乗りではありません。事実なのです!」
アルドは拳を握った。その手には、かつて神殿の封印から奪い取った“聖印の欠片”が光っていた。
「この印が証。リュミナの声が、我に告げたのです。“世界を導け”と。」
大広間の神官たちがざわめく。
その中のひとり、老いた神官長が立ち上がった。
「アルド……お前は嘘をついている。リュミナ様はすでに創造主と会っておられる。」
「なに……?」
「創造主レン様が現れた。世界の理を修復し、この崩壊を止められたのだ。」
その瞬間、アルドの顔から血の気が引いた。
「……レン、だと?」
「あの男が……?」
しかし次の瞬間、彼は低く笑い始めた。
「まさか。あんな凡人が創造主? あり得ない。勇者を追放したくせに、神の座に替わろうとしているのか。」
「アルド殿!」
誰かが叫んだ。だがその声を遮るように、アルドの周囲から金の光が立ち上った。
「よかろう。ならば証明してみせよう。神に選ばれたのは、俺だ!」
その時、城中の魔法障壁が急速に震え上がった。
外の空――王都の上空が一瞬にして暗転する。
どこからともなく、黒い霧が立ち上り、巨大な“目”が雲の隙間に開いた。
見上げる者すべてが震え、祈りを忘れるほどの悪寒に襲われる。
「これは……理の裂け目です!」
神官の叫びを背に、アルドは笑った。
「見たか。これが力だ。この裂け目を抑えられるのは、神に選ばれた者だけ。」
彼は光の剣を掲げた。その刃が雷のように輝き、天を斬る。
――しかし、その瞬間。
剣の光は逆流した。
裂け目の中心から放たれた黒の閃光が、アルドの剣へ、そして体へと走る。
「ぐっ……!」
光と闇が交錯し、彼の瞳が濁り始める。
「アルド殿っ!」
神官長が駆け寄ろうとするが、彼の体から放たれる闇がそれを阻んだ。
「離れろ……まだ、俺は……!」
だがその声は喉の奥で途切れる。代わりに響いたのは、誰かの低い声だった。
――“神の器、確認。融合を開始する。”
アルドの体が、闇の模様に覆われていく。
その光景を見た王は震える声で命じた。
「衛兵! 塔へ通じる門を閉ざせ!」
だが遅かった。
アルドの背に黒い翼が生え、彼は光ごと天へと浮かび上がった。
「創造主レン……貴様の存在は、俺が引き継ぐ!!」
その叫びと共に、王都の空が裂け、巨大な光の柱が塔の方向へ伸びた。
一方その頃――
塔を上る階段で、俺は激しい衝撃に襲われた。
「くそっ、何だこの波動……!」
壁が震え、魔法陣が暴走する。
リュミナが空間越しに声を届かせてくる。
『レン、気をつけて。アルドが“神の器”と融合しようとしている!』
「器だと? ただの力の媒介じゃないのか!」
『違う。あれはあなたの残した創造核の一部を利用して造られたもの。彼が完全に同化すれば、新たな“偽りの神”が生まれる!』
「最悪だな。」
塔の階段を駆け上がる。ディアナが汗を滲ませながら必死に後を追う。
「レン様、アルドはどこにいるのですか?」
「間違いなく最上階だ。光の源がそこにある!」
天井を突き抜けるようにして、俺たちはついに頂上へ辿り着いた。
そこは広場のような空間になっており、中央には巨大な魔法陣が浮かんでいた。
空には黒雲が渦を巻き、その中心に“人影”がいた。
アルド。
かつての英雄の面影は、ほとんど残っていなかった。
半分は人、半分は闇。
翼が伸び、牙のような紋様が浮かび上がる。
その姿は、神というよりは怪物に近かった。
「久しいな、レン。」
声は濁っていたが、確かにアルドのものだった。
「貴様を追放したのは正しかった。お前が神なら、俺はその上に立つ。」
「……お前はもう、ただの人間じゃない。」
「ならばお前も同じだろう!」
光と闇が激突した。
俺が構えると同時に、彼の剣が振り下ろされる。
神域のような音が響き、塔全体が炎に呑まれた。
「ディアナ、下がれ!」
俺は腕を振る。光の壁が広がり、衝撃を相殺する。
しかし、その力の流れの中で、奇妙なことに気づいた。
――アルドの魔力が、“俺に似ている”。
「この波動……まさか、俺の中にあったものか。」
アルドが嘲るように笑った。
「察しが早いな。お前から生まれた欠片。それが俺だ。創造主、お前が否定した“もう一つの生”そのもの。」
「欠片だと? この戦いに意味はあるのか!」
「あるさ。俺が勝てば、世界は“完全”になる。お前の弱さも、愚かさも失われる。」
稲妻が走り、剣と光がぶつかる。
空気が裂け、塔の上空に亀裂が走る。
下界が光に包まれ、王都の人々が祈りの声を上げる。
「レン様っ!」
ディアナの声が遠くで響いた。
「あなたは創造主。あなたの選ぶ言葉一つで、この戦いの形が変わります!」
「……そうか。」
俺は目を閉じた。
“創造”とは、ただ作るだけではない。定義することだ。
ならば、この戦いに“終わり”を与えてやる。
「アルド――お前に勝利はない。」
「なに?」
「俺が“負けない”世界を定義する。」
金色の光が塔を包み、世界の輪郭が変わり始めた。
アルドの剣が砕け、空気が逆巻く。
黒い翼が崩れ落ち、闇が音を立てて弾け飛んだ。
そして、静寂。
気づくと、アルドは膝をついていた。
「なぜ……神の力を、持ちながら……負ける……」
「お前はただの模倣だ。俺ではない。」
アルドが崩れ落ちる。
その背から光が放たれ、消えていった。
ディアナが駆け寄る。
「レン様……これで終わりですか?」
「いや。」
俺は遠くを見る。
塔の外、裂けていた空がまだ完全には閉じていない。
黒い靄がゆっくりと渦を巻き、再び目を開こうとしていた。
「まだ何かが残っている。アルドの中にいた“あれ”が……。」
ディアナが顔を上げた。その瞳に恐怖が宿る。
「まさか……もう一人のあなた。」
俺は拳を握った。
「そうだ。俺自身の影が、まだ目覚めていない。」
塔の上空で、闇が人の形を成し始める。
それは俺と全く同じ顔をしていた。
「次は……“本当の創造主”との戦い、か。」
風が吹く。
俺は静かに目を閉じ、再び両手を開いた。
世界が震える音が聞こえる。
まだ――“創造”は終わらない。
街全体が揺れ、建物の窓は震え、地の底から響くような低い音が続いている。
人々はそれを「世界の心臓が鳴っている」と恐れ、教会では連日、終末の祈りが捧げられていた。
城の謁見の間は重たい沈黙に包まれていた。
玉座の前、勇者アルドは膝をついていた。
その姿は以前の堂々たる英雄ではない。髪は乱れ、瞳の下には深い影がある。
それでもその瞳には、異様なほどの光が宿っていた。
「陛下……お許しください。ですが、創造主の力は我ら“選ばれし者”が継ぐべきなのです。」
王は険しい表情で首を振った。
「アルドよ、そなたの功績は確かに偉大だ。だが、いつから神を名乗るようになった?」
「これは名乗りではありません。事実なのです!」
アルドは拳を握った。その手には、かつて神殿の封印から奪い取った“聖印の欠片”が光っていた。
「この印が証。リュミナの声が、我に告げたのです。“世界を導け”と。」
大広間の神官たちがざわめく。
その中のひとり、老いた神官長が立ち上がった。
「アルド……お前は嘘をついている。リュミナ様はすでに創造主と会っておられる。」
「なに……?」
「創造主レン様が現れた。世界の理を修復し、この崩壊を止められたのだ。」
その瞬間、アルドの顔から血の気が引いた。
「……レン、だと?」
「あの男が……?」
しかし次の瞬間、彼は低く笑い始めた。
「まさか。あんな凡人が創造主? あり得ない。勇者を追放したくせに、神の座に替わろうとしているのか。」
「アルド殿!」
誰かが叫んだ。だがその声を遮るように、アルドの周囲から金の光が立ち上った。
「よかろう。ならば証明してみせよう。神に選ばれたのは、俺だ!」
その時、城中の魔法障壁が急速に震え上がった。
外の空――王都の上空が一瞬にして暗転する。
どこからともなく、黒い霧が立ち上り、巨大な“目”が雲の隙間に開いた。
見上げる者すべてが震え、祈りを忘れるほどの悪寒に襲われる。
「これは……理の裂け目です!」
神官の叫びを背に、アルドは笑った。
「見たか。これが力だ。この裂け目を抑えられるのは、神に選ばれた者だけ。」
彼は光の剣を掲げた。その刃が雷のように輝き、天を斬る。
――しかし、その瞬間。
剣の光は逆流した。
裂け目の中心から放たれた黒の閃光が、アルドの剣へ、そして体へと走る。
「ぐっ……!」
光と闇が交錯し、彼の瞳が濁り始める。
「アルド殿っ!」
神官長が駆け寄ろうとするが、彼の体から放たれる闇がそれを阻んだ。
「離れろ……まだ、俺は……!」
だがその声は喉の奥で途切れる。代わりに響いたのは、誰かの低い声だった。
――“神の器、確認。融合を開始する。”
アルドの体が、闇の模様に覆われていく。
その光景を見た王は震える声で命じた。
「衛兵! 塔へ通じる門を閉ざせ!」
だが遅かった。
アルドの背に黒い翼が生え、彼は光ごと天へと浮かび上がった。
「創造主レン……貴様の存在は、俺が引き継ぐ!!」
その叫びと共に、王都の空が裂け、巨大な光の柱が塔の方向へ伸びた。
一方その頃――
塔を上る階段で、俺は激しい衝撃に襲われた。
「くそっ、何だこの波動……!」
壁が震え、魔法陣が暴走する。
リュミナが空間越しに声を届かせてくる。
『レン、気をつけて。アルドが“神の器”と融合しようとしている!』
「器だと? ただの力の媒介じゃないのか!」
『違う。あれはあなたの残した創造核の一部を利用して造られたもの。彼が完全に同化すれば、新たな“偽りの神”が生まれる!』
「最悪だな。」
塔の階段を駆け上がる。ディアナが汗を滲ませながら必死に後を追う。
「レン様、アルドはどこにいるのですか?」
「間違いなく最上階だ。光の源がそこにある!」
天井を突き抜けるようにして、俺たちはついに頂上へ辿り着いた。
そこは広場のような空間になっており、中央には巨大な魔法陣が浮かんでいた。
空には黒雲が渦を巻き、その中心に“人影”がいた。
アルド。
かつての英雄の面影は、ほとんど残っていなかった。
半分は人、半分は闇。
翼が伸び、牙のような紋様が浮かび上がる。
その姿は、神というよりは怪物に近かった。
「久しいな、レン。」
声は濁っていたが、確かにアルドのものだった。
「貴様を追放したのは正しかった。お前が神なら、俺はその上に立つ。」
「……お前はもう、ただの人間じゃない。」
「ならばお前も同じだろう!」
光と闇が激突した。
俺が構えると同時に、彼の剣が振り下ろされる。
神域のような音が響き、塔全体が炎に呑まれた。
「ディアナ、下がれ!」
俺は腕を振る。光の壁が広がり、衝撃を相殺する。
しかし、その力の流れの中で、奇妙なことに気づいた。
――アルドの魔力が、“俺に似ている”。
「この波動……まさか、俺の中にあったものか。」
アルドが嘲るように笑った。
「察しが早いな。お前から生まれた欠片。それが俺だ。創造主、お前が否定した“もう一つの生”そのもの。」
「欠片だと? この戦いに意味はあるのか!」
「あるさ。俺が勝てば、世界は“完全”になる。お前の弱さも、愚かさも失われる。」
稲妻が走り、剣と光がぶつかる。
空気が裂け、塔の上空に亀裂が走る。
下界が光に包まれ、王都の人々が祈りの声を上げる。
「レン様っ!」
ディアナの声が遠くで響いた。
「あなたは創造主。あなたの選ぶ言葉一つで、この戦いの形が変わります!」
「……そうか。」
俺は目を閉じた。
“創造”とは、ただ作るだけではない。定義することだ。
ならば、この戦いに“終わり”を与えてやる。
「アルド――お前に勝利はない。」
「なに?」
「俺が“負けない”世界を定義する。」
金色の光が塔を包み、世界の輪郭が変わり始めた。
アルドの剣が砕け、空気が逆巻く。
黒い翼が崩れ落ち、闇が音を立てて弾け飛んだ。
そして、静寂。
気づくと、アルドは膝をついていた。
「なぜ……神の力を、持ちながら……負ける……」
「お前はただの模倣だ。俺ではない。」
アルドが崩れ落ちる。
その背から光が放たれ、消えていった。
ディアナが駆け寄る。
「レン様……これで終わりですか?」
「いや。」
俺は遠くを見る。
塔の外、裂けていた空がまだ完全には閉じていない。
黒い靄がゆっくりと渦を巻き、再び目を開こうとしていた。
「まだ何かが残っている。アルドの中にいた“あれ”が……。」
ディアナが顔を上げた。その瞳に恐怖が宿る。
「まさか……もう一人のあなた。」
俺は拳を握った。
「そうだ。俺自身の影が、まだ目覚めていない。」
塔の上空で、闇が人の形を成し始める。
それは俺と全く同じ顔をしていた。
「次は……“本当の創造主”との戦い、か。」
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