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第12話 神殿に響く「創造主」の名
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塔の頂で黒い影が風に溶けるように散った。
アルドの姿はそこにはもうなかったが、彼が残した闇の残滓は、なお塔の周囲にまとわりついている。
それはまるで、何かを待っているかのようだった。
「……静かですね。」
ディアナが杖を抱えながら呟く。
「風も、音も、生命の気配も……すべてが止まっています。」
俺は頷いて空を見上げた。
光と闇が混じる奇妙な色の空。まるで世界そのものが呼吸を止めたようだった。
「静かなんじゃない。待ってるんだ、俺を。」
足元の魔法陣が淡く光った。
その中心から、一筋の光が天に伸びる。
「これは……リュミナの導き?」
「いや、違う。これは……この世界の意志そのものの声だ。」
塔を包んでいた空気が軋む。
現れた光が形を取り、やがて、それは巨大な神殿の幻影を映し出した。
懐かしい構造――王都の中央にある“光の神殿”そのもの。
それが、まるで異空間に転写されたように、塔の上に重なっていた。
「誘っている……のか?」
「リュミナ様の神殿です。ですが、何かおかしい……」
ディアナの声が震える。
俺は剣を携え、光の中へと足を踏み入れた。
――次の瞬間、景色が変わった。
そこは神殿の中央、巨大な祭壇の前。
無数の祈りの灯火が漂い、空間の全てが穏やかな光に包まれている。
だが、そこに感じたのは安らぎではなく“懐かしさ”。
ディアナが息を詰めて囁く。
「ここ……時間が止まっています。空気が動いてない。」
「いや、止まってるんじゃない。繰り返してる。」
壁に描かれた光の文様が、一定の周期で点滅する。それはまるで世界の鼓動だ。
俺は祭壇へと進む。
その中央に、一本の剣が突き立っていた。
見覚えのある剣――勇者アルドの聖剣だ。
「なぜここに……彼は消滅したはず……」
「いや、奴は“融合”した。消えたんじゃない。形を変え、この場所に封じられた。」
そう呟いた瞬間、周囲の光が濃くなる。
天から声が降りてきた。
「創造主レン。」
張り詰めた空気が震える。
その声は確かにリュミナのものだった。だが、その響きにはどこか違和感があった。
「リュミナ……なのか?」
「ええ。……けれど、これは私の“意識の半分”です。」
光が形を取り、女神の像が現れる。
その半身は白く、もう半身は黒く濁っていた。
「あなたの力が再び世界を動かした。そしてその影響で、私の中に閉じ込めていた“もう一つの存在”も目を覚ましたのです。」
「もう一つの……?」
女神は微笑みながら続ける。
「創造主の影――あなたの内にあった“始原の意志”は、もともとあなた一人のものではありませんでした。」
その言葉に、背筋が冷たくなった。
「つまり……俺は完全な創造主じゃなかった?」
「そう。あなたは“後継”。初めの創造主が死んだ後、この世界が自ら選んだ器です。」
「じゃあ“最初の創造主”は?」
女神の目がどこか哀しげに揺れた。
「死んだ、と思っていました。けれど――違いました。彼は自らを“理”そのものに変え、この世界の核心に溶け込んだ。」
「だから、俺が力を使うたびに、それが反応したのか。」
「ええ。あなたが動けば、“理”が共鳴する。その本能が今、世界を破壊しようとしているのです。」
女神の姿が少しずつ崩れ、空気が震えた。
「このままでは……理が、あなたを創造主としてではなく、“素材”として飲み込みます。」
「素材……?」
「理にとって創造主は、“世界そのものを形成するための材料”でもあるのです。」
ディアナが震える声で言った。
「じゃあ、レン様は……世界そのものに……?」
リュミナが頷く。
「その前に、“選ばれた意思”を示さなければなりません。器としてか、神としてか――それを決める儀式。」
周囲の光が消え、闇が満ちていく。
次の瞬間、神殿の床が割れ、異界の海が広がった。
無数の光の糸が空間を漂い、その一本一本が“命”の流れを示している。
「ここが……理の海。」
俺は拳を握りしめた。
闇の奥から、声が響く。
――“レン。私だ。理の底から見ている。”
それは、俺自身の声。
だが、明らかに別の人格だった。
「やっぱり……いたのか。」
“始原の創造主”は笑う。
――“なぜ拒む。お前と私は同じ。願うだけで世界が動く存在だ。”
「お前のやり方じゃ、世界は命令でしか動かない。俺は“想い”で動かす。」
――“想い? 脆弱な理想だ。世界は秩序こそが美だ。”
「秩序は死と同じだ。止まることは、滅ぶことだ。」
その瞬間、海が波打つ。
世界の糸が一斉に弾け、空間に光の嵐が起きた。
ディアナが何か叫んでいるが、もう声は届かない。
俺は闇の中で、自分ともう一人の“自分”が向かい合うのを感じた。
――“どちらが願いか、示せ。”
手を伸ばす。
黒と白の世界が混じり合う。
両の意志が衝突し、神殿の光が爆ぜる。
気づけば、俺は祭壇の前に立っていた。
神殿の瓦礫の中、ディアナが膝をつき、俺を見上げている。
「レン様……!」
「終わった。」
「どちらが……勝ったのですか?」
俺は静かに笑った。
「どちらでもない。統合した。」
空を見上げる。
神殿の天井が崩れ、そこから光が差し込む。
「理とは命令の積み重ねじゃない。“創る”という行為そのものが秩序なんだ。」
ディアナの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
だが次の瞬間、神殿全体が強い光に包まれた。
「レン様……!」
「待て、これは――」
光の柱が天を貫く。
その中から、リュミナの声が再び響いた。
「あなたが選んだのですね。創造“と”秩序、双方を受け入れた新たな理を。」
「それで、世界はどうなる?」
「今、すべてが再定義されます。この瞬間――あなたの名が、世界の全てに刻まれるでしょう。」
空が震え、城下町が光に包まれる。
逃げ惑う人々の耳に、同じ言葉が響いていた。
――“創造主レン。”
それは恐怖ではなく、祈りだった。
人々が死を拒むためにではなく、生きようとするために名前を叫んでいる。
その声に、胸の奥が熱くなった。
「……こんな気分、久しぶりだ。」
ディアナが笑いつつ涙ぐむ。
「あなたの存在が、ようやくこの世界中に届きましたね。」
「創造主なんて名、似合わないと思ってたけどな。」
「それでも、皆が望んでいます。だからこそ、あなたは“主”なんです。」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
神殿の光が穏やかに広がっていく。
風が戻り、草木が再び息づき始める。
崩壊しかけた理が、今、新しい調和として生まれ変わろうとしていた。
「リュミナ……ありがとう。」
空の彼方から、穏やかな声が返る。
「ありがとう、レン。これが本当の創造。あなたが生きる限り、この世界は息づき続けます。」
夜が明ける。
朝日が差し、瓦礫の神殿を照らす。
俺は静かに目を閉じ、手のひらでその光を受けた。
――創造主の名が世界に響いた日、それは新たな時代の始まりだった。
アルドの姿はそこにはもうなかったが、彼が残した闇の残滓は、なお塔の周囲にまとわりついている。
それはまるで、何かを待っているかのようだった。
「……静かですね。」
ディアナが杖を抱えながら呟く。
「風も、音も、生命の気配も……すべてが止まっています。」
俺は頷いて空を見上げた。
光と闇が混じる奇妙な色の空。まるで世界そのものが呼吸を止めたようだった。
「静かなんじゃない。待ってるんだ、俺を。」
足元の魔法陣が淡く光った。
その中心から、一筋の光が天に伸びる。
「これは……リュミナの導き?」
「いや、違う。これは……この世界の意志そのものの声だ。」
塔を包んでいた空気が軋む。
現れた光が形を取り、やがて、それは巨大な神殿の幻影を映し出した。
懐かしい構造――王都の中央にある“光の神殿”そのもの。
それが、まるで異空間に転写されたように、塔の上に重なっていた。
「誘っている……のか?」
「リュミナ様の神殿です。ですが、何かおかしい……」
ディアナの声が震える。
俺は剣を携え、光の中へと足を踏み入れた。
――次の瞬間、景色が変わった。
そこは神殿の中央、巨大な祭壇の前。
無数の祈りの灯火が漂い、空間の全てが穏やかな光に包まれている。
だが、そこに感じたのは安らぎではなく“懐かしさ”。
ディアナが息を詰めて囁く。
「ここ……時間が止まっています。空気が動いてない。」
「いや、止まってるんじゃない。繰り返してる。」
壁に描かれた光の文様が、一定の周期で点滅する。それはまるで世界の鼓動だ。
俺は祭壇へと進む。
その中央に、一本の剣が突き立っていた。
見覚えのある剣――勇者アルドの聖剣だ。
「なぜここに……彼は消滅したはず……」
「いや、奴は“融合”した。消えたんじゃない。形を変え、この場所に封じられた。」
そう呟いた瞬間、周囲の光が濃くなる。
天から声が降りてきた。
「創造主レン。」
張り詰めた空気が震える。
その声は確かにリュミナのものだった。だが、その響きにはどこか違和感があった。
「リュミナ……なのか?」
「ええ。……けれど、これは私の“意識の半分”です。」
光が形を取り、女神の像が現れる。
その半身は白く、もう半身は黒く濁っていた。
「あなたの力が再び世界を動かした。そしてその影響で、私の中に閉じ込めていた“もう一つの存在”も目を覚ましたのです。」
「もう一つの……?」
女神は微笑みながら続ける。
「創造主の影――あなたの内にあった“始原の意志”は、もともとあなた一人のものではありませんでした。」
その言葉に、背筋が冷たくなった。
「つまり……俺は完全な創造主じゃなかった?」
「そう。あなたは“後継”。初めの創造主が死んだ後、この世界が自ら選んだ器です。」
「じゃあ“最初の創造主”は?」
女神の目がどこか哀しげに揺れた。
「死んだ、と思っていました。けれど――違いました。彼は自らを“理”そのものに変え、この世界の核心に溶け込んだ。」
「だから、俺が力を使うたびに、それが反応したのか。」
「ええ。あなたが動けば、“理”が共鳴する。その本能が今、世界を破壊しようとしているのです。」
女神の姿が少しずつ崩れ、空気が震えた。
「このままでは……理が、あなたを創造主としてではなく、“素材”として飲み込みます。」
「素材……?」
「理にとって創造主は、“世界そのものを形成するための材料”でもあるのです。」
ディアナが震える声で言った。
「じゃあ、レン様は……世界そのものに……?」
リュミナが頷く。
「その前に、“選ばれた意思”を示さなければなりません。器としてか、神としてか――それを決める儀式。」
周囲の光が消え、闇が満ちていく。
次の瞬間、神殿の床が割れ、異界の海が広がった。
無数の光の糸が空間を漂い、その一本一本が“命”の流れを示している。
「ここが……理の海。」
俺は拳を握りしめた。
闇の奥から、声が響く。
――“レン。私だ。理の底から見ている。”
それは、俺自身の声。
だが、明らかに別の人格だった。
「やっぱり……いたのか。」
“始原の創造主”は笑う。
――“なぜ拒む。お前と私は同じ。願うだけで世界が動く存在だ。”
「お前のやり方じゃ、世界は命令でしか動かない。俺は“想い”で動かす。」
――“想い? 脆弱な理想だ。世界は秩序こそが美だ。”
「秩序は死と同じだ。止まることは、滅ぶことだ。」
その瞬間、海が波打つ。
世界の糸が一斉に弾け、空間に光の嵐が起きた。
ディアナが何か叫んでいるが、もう声は届かない。
俺は闇の中で、自分ともう一人の“自分”が向かい合うのを感じた。
――“どちらが願いか、示せ。”
手を伸ばす。
黒と白の世界が混じり合う。
両の意志が衝突し、神殿の光が爆ぜる。
気づけば、俺は祭壇の前に立っていた。
神殿の瓦礫の中、ディアナが膝をつき、俺を見上げている。
「レン様……!」
「終わった。」
「どちらが……勝ったのですか?」
俺は静かに笑った。
「どちらでもない。統合した。」
空を見上げる。
神殿の天井が崩れ、そこから光が差し込む。
「理とは命令の積み重ねじゃない。“創る”という行為そのものが秩序なんだ。」
ディアナの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
だが次の瞬間、神殿全体が強い光に包まれた。
「レン様……!」
「待て、これは――」
光の柱が天を貫く。
その中から、リュミナの声が再び響いた。
「あなたが選んだのですね。創造“と”秩序、双方を受け入れた新たな理を。」
「それで、世界はどうなる?」
「今、すべてが再定義されます。この瞬間――あなたの名が、世界の全てに刻まれるでしょう。」
空が震え、城下町が光に包まれる。
逃げ惑う人々の耳に、同じ言葉が響いていた。
――“創造主レン。”
それは恐怖ではなく、祈りだった。
人々が死を拒むためにではなく、生きようとするために名前を叫んでいる。
その声に、胸の奥が熱くなった。
「……こんな気分、久しぶりだ。」
ディアナが笑いつつ涙ぐむ。
「あなたの存在が、ようやくこの世界中に届きましたね。」
「創造主なんて名、似合わないと思ってたけどな。」
「それでも、皆が望んでいます。だからこそ、あなたは“主”なんです。」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
神殿の光が穏やかに広がっていく。
風が戻り、草木が再び息づき始める。
崩壊しかけた理が、今、新しい調和として生まれ変わろうとしていた。
「リュミナ……ありがとう。」
空の彼方から、穏やかな声が返る。
「ありがとう、レン。これが本当の創造。あなたが生きる限り、この世界は息づき続けます。」
夜が明ける。
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