16 / 21
第16話 勇者一行の転落劇
しおりを挟む
王都を包んでいた異常な光の波が消えた翌朝、街全体は奇妙な静けさに包まれていた。
夜明け前に吹いた風がすべてを洗い流したかのように澄み渡っている。
だが、その沈黙は平穏ではなく、不穏な静寂だった。人々は“神が現れた”という噂を繰り返しながらも、目の前の現実から視線を逸らしていた。
王宮の北の塔では、解体され半壊した錬成炉の残骸の中で、人々が動いている。
その中心にいたのは、勇者パーティーの元魔法使いシェリルと槍士カイルたちだった。
彼らは、かつて世界を救った英雄。そして、創造主レンを「凡人」と蔑み、追放した者たちでもある。
「やった……生きてる……」
シェリルは崩れた天井の隙間から見える青空を見て、呟いた。
周囲の瓦礫に魔法の光を反射させながら、彼女は膝をつく。
「アルドは……どこへ……」
隣で肩を押さえていたカイルが低く答える。
「消えた。……いや、“消された”んだ。」
「誰に?」
「レンだよ。創造主になった、あの村人に。」
その名前を聞いた瞬間、シェリルの顔が引きつった。
「嘘……あり得ない。あいつが神になるなんて……」
「見ただろう。あの光。理が逆流してた。人が持てる魔力の域を超えてた。」
彼は拳を握りしめ、苦々しい顔で地を見つめた。
「アルドの計画も、王の理の模倣も全て崩壊した。だがな、終わりじゃねえ。」
「どういう意味?」
「俺たちは、“見た”。アルドが吸い込まれる直前、“影”が動いたのを。」
シェリルの瞳が揺れる。
影——あの闇。塔の天へ伸びる黒い波動は、レン自身の“影”であることを彼らも目撃していた。
「つまり、あいつの力は完全じゃない。なら……まだやれるかもしれない。」
「まさか、また……あいつに逆らうつもり?」
カイルは笑う。「勇者アルドがいなくても、創造主を超えたら本当の神になれるんだろ? だったら今度は俺が、世界を引っ掻き回してやる。」
その危うい言葉に、シェリルは背筋を冷たくした。
「本気で言ってるの? あの力を目の前で見たのに? カイル、あんた、そんなことをすれば……!」
「俺たちは、ただの人間だ。だが、“神”を見てしまった。もう戻れねえんだよ。」
カイルの目は、炎のように揺れていた。
恐れではなく、狂気に近い陶酔。彼は創造の理を触れたことで、何かが完全に壊れたのだ。
そこへ、黒衣の男たちが現れた。
「カイル・グラン。お前に“理調律会”より勧誘の命がある。」
「理調律会?」
「創造主レンが築いた新秩序の裏で生まれた革命組織だ。人の手で神を超えることを目指している。」
シェリルが息を呑む。「そんな……!」
男は淡々と言う。「君も望むなら加わるといい。創造主の名の下に生まれたこの世界を、人が取り戻すのだ。」
「ははっ……面白ぇ。どこまで登れるか、試してやる。」
その返答を聞いたシェリルは愕然とした。
彼はほんとうに“堕ちた”のだ。
拒絶できなかったのは、自分もまた、恐怖よりも“羨望”を抱いていたから。
「……レン。あなたがどんな神になろうとも、私たちは抗う。だってそれが人間の証だから。」
彼女は地に落ちた杖を拾い、焼けた床を見つめた。
世界は変わりつつある。そして次に崩れるのは、自分たち、勇者たちだった。
* * *
一方そのころ、王都の外壁近郊。
レンたちは崩れた王宮を出て、北門の丘へ向かっていた。
空は澄んでいるのに、遠くに浮かぶ雲が異様に重く、黒々としていた。
「……嫌な気配がする。」
エレナが言うと、ディアナは祈るように胸の前で手を組んだ。
リーゼは疲れ果てていたが、なお正面を見据えている。
「王は助かるのですか?」
「まだ意識はある。だが、理の影に触れた以上……長くはない。」
「それでも、生かしてあげて。」リーゼが小さな声で呟いた。
「たとえ彼が過ちを犯した王でも、父であることに変わりはない。」
その表情は凛としていたが、涙を堪えていることは明らかだった。
レンは何も言わずに歩き続けた。
彼の胸の奥で、誰かの声が囁き続けている。
――“救いとは、破壊のことだろう?”
“影”の声だった。
どれだけ封じても、その意志は消えない。
リュミナが言っていた通り、始原の意志はこの世界に刻まれている。
しかし、彼はもう怯えなかった。
「救いが破壊だと言うなら、創造は再生だ。」
低く呟く。その言葉が風に乗り、遠くの林を揺らした。
「レン様?」
「何でもない。ただの独り言さ。」
そう答えた時、足元が震えた。
「地震?」
「違う……これは――」
空が赤く染まり、北の空で光の柱が立ち上がる。
ディアナが杖を握りしめる。「理の歪みが再び開いている! まだ終わっていません!」
「開いた場所は……灰の峡谷だ。」
そこは始原の意志が封じられた最初の地。
再び理が蠢くということは、あの“影”が完全な形を取り戻そうとしている証だった。
「行くしかありませんね。」
エレナが剣を抜く。
リーゼが馬を呼び寄せ、ディアナが祈りの光を放つ。
レンは小さく頷き、空を見上げた。
「影が何者か、ここで終止符を打つ。人か、神か。その“決着”をつける時だ。」
走り出す馬の蹄音が大地を震わせる。
空の裂け目の向こうでは、すでに黒い渦がゆっくりと形を成していた。
その中心——新たな世界の神を自称する、人の軍勢の姿もまた見えていた。
創造主と勇者たち、神と人の境界線が、いま音を立てて崩れ始める。
その夜、世界は静かにひとつの時代を終えようとしていた。
夜明け前に吹いた風がすべてを洗い流したかのように澄み渡っている。
だが、その沈黙は平穏ではなく、不穏な静寂だった。人々は“神が現れた”という噂を繰り返しながらも、目の前の現実から視線を逸らしていた。
王宮の北の塔では、解体され半壊した錬成炉の残骸の中で、人々が動いている。
その中心にいたのは、勇者パーティーの元魔法使いシェリルと槍士カイルたちだった。
彼らは、かつて世界を救った英雄。そして、創造主レンを「凡人」と蔑み、追放した者たちでもある。
「やった……生きてる……」
シェリルは崩れた天井の隙間から見える青空を見て、呟いた。
周囲の瓦礫に魔法の光を反射させながら、彼女は膝をつく。
「アルドは……どこへ……」
隣で肩を押さえていたカイルが低く答える。
「消えた。……いや、“消された”んだ。」
「誰に?」
「レンだよ。創造主になった、あの村人に。」
その名前を聞いた瞬間、シェリルの顔が引きつった。
「嘘……あり得ない。あいつが神になるなんて……」
「見ただろう。あの光。理が逆流してた。人が持てる魔力の域を超えてた。」
彼は拳を握りしめ、苦々しい顔で地を見つめた。
「アルドの計画も、王の理の模倣も全て崩壊した。だがな、終わりじゃねえ。」
「どういう意味?」
「俺たちは、“見た”。アルドが吸い込まれる直前、“影”が動いたのを。」
シェリルの瞳が揺れる。
影——あの闇。塔の天へ伸びる黒い波動は、レン自身の“影”であることを彼らも目撃していた。
「つまり、あいつの力は完全じゃない。なら……まだやれるかもしれない。」
「まさか、また……あいつに逆らうつもり?」
カイルは笑う。「勇者アルドがいなくても、創造主を超えたら本当の神になれるんだろ? だったら今度は俺が、世界を引っ掻き回してやる。」
その危うい言葉に、シェリルは背筋を冷たくした。
「本気で言ってるの? あの力を目の前で見たのに? カイル、あんた、そんなことをすれば……!」
「俺たちは、ただの人間だ。だが、“神”を見てしまった。もう戻れねえんだよ。」
カイルの目は、炎のように揺れていた。
恐れではなく、狂気に近い陶酔。彼は創造の理を触れたことで、何かが完全に壊れたのだ。
そこへ、黒衣の男たちが現れた。
「カイル・グラン。お前に“理調律会”より勧誘の命がある。」
「理調律会?」
「創造主レンが築いた新秩序の裏で生まれた革命組織だ。人の手で神を超えることを目指している。」
シェリルが息を呑む。「そんな……!」
男は淡々と言う。「君も望むなら加わるといい。創造主の名の下に生まれたこの世界を、人が取り戻すのだ。」
「ははっ……面白ぇ。どこまで登れるか、試してやる。」
その返答を聞いたシェリルは愕然とした。
彼はほんとうに“堕ちた”のだ。
拒絶できなかったのは、自分もまた、恐怖よりも“羨望”を抱いていたから。
「……レン。あなたがどんな神になろうとも、私たちは抗う。だってそれが人間の証だから。」
彼女は地に落ちた杖を拾い、焼けた床を見つめた。
世界は変わりつつある。そして次に崩れるのは、自分たち、勇者たちだった。
* * *
一方そのころ、王都の外壁近郊。
レンたちは崩れた王宮を出て、北門の丘へ向かっていた。
空は澄んでいるのに、遠くに浮かぶ雲が異様に重く、黒々としていた。
「……嫌な気配がする。」
エレナが言うと、ディアナは祈るように胸の前で手を組んだ。
リーゼは疲れ果てていたが、なお正面を見据えている。
「王は助かるのですか?」
「まだ意識はある。だが、理の影に触れた以上……長くはない。」
「それでも、生かしてあげて。」リーゼが小さな声で呟いた。
「たとえ彼が過ちを犯した王でも、父であることに変わりはない。」
その表情は凛としていたが、涙を堪えていることは明らかだった。
レンは何も言わずに歩き続けた。
彼の胸の奥で、誰かの声が囁き続けている。
――“救いとは、破壊のことだろう?”
“影”の声だった。
どれだけ封じても、その意志は消えない。
リュミナが言っていた通り、始原の意志はこの世界に刻まれている。
しかし、彼はもう怯えなかった。
「救いが破壊だと言うなら、創造は再生だ。」
低く呟く。その言葉が風に乗り、遠くの林を揺らした。
「レン様?」
「何でもない。ただの独り言さ。」
そう答えた時、足元が震えた。
「地震?」
「違う……これは――」
空が赤く染まり、北の空で光の柱が立ち上がる。
ディアナが杖を握りしめる。「理の歪みが再び開いている! まだ終わっていません!」
「開いた場所は……灰の峡谷だ。」
そこは始原の意志が封じられた最初の地。
再び理が蠢くということは、あの“影”が完全な形を取り戻そうとしている証だった。
「行くしかありませんね。」
エレナが剣を抜く。
リーゼが馬を呼び寄せ、ディアナが祈りの光を放つ。
レンは小さく頷き、空を見上げた。
「影が何者か、ここで終止符を打つ。人か、神か。その“決着”をつける時だ。」
走り出す馬の蹄音が大地を震わせる。
空の裂け目の向こうでは、すでに黒い渦がゆっくりと形を成していた。
その中心——新たな世界の神を自称する、人の軍勢の姿もまた見えていた。
創造主と勇者たち、神と人の境界線が、いま音を立てて崩れ始める。
その夜、世界は静かにひとつの時代を終えようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる