追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第16話 勇者一行の転落劇

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 王都を包んでいた異常な光の波が消えた翌朝、街全体は奇妙な静けさに包まれていた。  
 夜明け前に吹いた風がすべてを洗い流したかのように澄み渡っている。  
 だが、その沈黙は平穏ではなく、不穏な静寂だった。人々は“神が現れた”という噂を繰り返しながらも、目の前の現実から視線を逸らしていた。  

 王宮の北の塔では、解体され半壊した錬成炉の残骸の中で、人々が動いている。  
 その中心にいたのは、勇者パーティーの元魔法使いシェリルと槍士カイルたちだった。  
 彼らは、かつて世界を救った英雄。そして、創造主レンを「凡人」と蔑み、追放した者たちでもある。  

 「やった……生きてる……」  
 シェリルは崩れた天井の隙間から見える青空を見て、呟いた。  
 周囲の瓦礫に魔法の光を反射させながら、彼女は膝をつく。  
 「アルドは……どこへ……」  

 隣で肩を押さえていたカイルが低く答える。  
 「消えた。……いや、“消された”んだ。」  
 「誰に?」  
 「レンだよ。創造主になった、あの村人に。」  

 その名前を聞いた瞬間、シェリルの顔が引きつった。  
 「嘘……あり得ない。あいつが神になるなんて……」  
 「見ただろう。あの光。理が逆流してた。人が持てる魔力の域を超えてた。」  

 彼は拳を握りしめ、苦々しい顔で地を見つめた。  
 「アルドの計画も、王の理の模倣も全て崩壊した。だがな、終わりじゃねえ。」  
 「どういう意味?」  
 「俺たちは、“見た”。アルドが吸い込まれる直前、“影”が動いたのを。」  

 シェリルの瞳が揺れる。  
 影——あの闇。塔の天へ伸びる黒い波動は、レン自身の“影”であることを彼らも目撃していた。  
 「つまり、あいつの力は完全じゃない。なら……まだやれるかもしれない。」  
 「まさか、また……あいつに逆らうつもり?」  
 カイルは笑う。「勇者アルドがいなくても、創造主を超えたら本当の神になれるんだろ? だったら今度は俺が、世界を引っ掻き回してやる。」  

 その危うい言葉に、シェリルは背筋を冷たくした。  
 「本気で言ってるの? あの力を目の前で見たのに? カイル、あんた、そんなことをすれば……!」  
 「俺たちは、ただの人間だ。だが、“神”を見てしまった。もう戻れねえんだよ。」  

 カイルの目は、炎のように揺れていた。  
 恐れではなく、狂気に近い陶酔。彼は創造の理を触れたことで、何かが完全に壊れたのだ。  

 そこへ、黒衣の男たちが現れた。  
 「カイル・グラン。お前に“理調律会”より勧誘の命がある。」  
 「理調律会?」  
 「創造主レンが築いた新秩序の裏で生まれた革命組織だ。人の手で神を超えることを目指している。」  

 シェリルが息を呑む。「そんな……!」  
 男は淡々と言う。「君も望むなら加わるといい。創造主の名の下に生まれたこの世界を、人が取り戻すのだ。」  

 「ははっ……面白ぇ。どこまで登れるか、試してやる。」  
 その返答を聞いたシェリルは愕然とした。  
 彼はほんとうに“堕ちた”のだ。  
 拒絶できなかったのは、自分もまた、恐怖よりも“羨望”を抱いていたから。  

 「……レン。あなたがどんな神になろうとも、私たちは抗う。だってそれが人間の証だから。」  
 彼女は地に落ちた杖を拾い、焼けた床を見つめた。  
 世界は変わりつつある。そして次に崩れるのは、自分たち、勇者たちだった。  

     *    *    *  

 一方そのころ、王都の外壁近郊。  
 レンたちは崩れた王宮を出て、北門の丘へ向かっていた。  
 空は澄んでいるのに、遠くに浮かぶ雲が異様に重く、黒々としていた。  

 「……嫌な気配がする。」  
 エレナが言うと、ディアナは祈るように胸の前で手を組んだ。  
 リーゼは疲れ果てていたが、なお正面を見据えている。  

 「王は助かるのですか?」  
 「まだ意識はある。だが、理の影に触れた以上……長くはない。」  
 「それでも、生かしてあげて。」リーゼが小さな声で呟いた。  
 「たとえ彼が過ちを犯した王でも、父であることに変わりはない。」  

 その表情は凛としていたが、涙を堪えていることは明らかだった。  
 レンは何も言わずに歩き続けた。  
 彼の胸の奥で、誰かの声が囁き続けている。  

 ――“救いとは、破壊のことだろう?”  

 “影”の声だった。  
 どれだけ封じても、その意志は消えない。  
 リュミナが言っていた通り、始原の意志はこの世界に刻まれている。  

 しかし、彼はもう怯えなかった。  
 「救いが破壊だと言うなら、創造は再生だ。」  
 低く呟く。その言葉が風に乗り、遠くの林を揺らした。  

 「レン様?」  
「何でもない。ただの独り言さ。」  
 そう答えた時、足元が震えた。  

 「地震?」  
 「違う……これは――」  

 空が赤く染まり、北の空で光の柱が立ち上がる。  
 ディアナが杖を握りしめる。「理の歪みが再び開いている! まだ終わっていません!」  
 「開いた場所は……灰の峡谷だ。」  

 そこは始原の意志が封じられた最初の地。  
 再び理が蠢くということは、あの“影”が完全な形を取り戻そうとしている証だった。  

 「行くしかありませんね。」  
 エレナが剣を抜く。  
 リーゼが馬を呼び寄せ、ディアナが祈りの光を放つ。  
 レンは小さく頷き、空を見上げた。  

 「影が何者か、ここで終止符を打つ。人か、神か。その“決着”をつける時だ。」  

 走り出す馬の蹄音が大地を震わせる。  
 空の裂け目の向こうでは、すでに黒い渦がゆっくりと形を成していた。  
 その中心——新たな世界の神を自称する、人の軍勢の姿もまた見えていた。  

 創造主と勇者たち、神と人の境界線が、いま音を立てて崩れ始める。  
 その夜、世界は静かにひとつの時代を終えようとしていた。
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