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第17話 世界を揺るがす“創造主の証”
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荒野を吹き抜ける風の音だけが、耳に残っていた。
北部の灰の峡谷は、文字どおり世界と世界の境目だ。
空気は腐食した鉄のように重く、天空では黒雲が渦を巻いている。
“理の裂け目”が、すでに開き始めていた。
「レン様、ここが……」
ディアナの声が震える。祈りを絶やさない彼女でさえ、この場所には恐怖を隠せない。
「灰の峡谷。ここで、最初の創造が起きた。」
俺は低く言った。
世界の始まり。
この地は、俺が初めて「存在」という概念を形にした場所だった。
それゆえに、理がもっとも不安定で、世界の裏へと通じる“創造主の入口”でもある。
だが、今はその入口が歪みきっていた。
谷底から吹き上げる灰の風には、いくつもの声が混じっている。
「ああ……見ろよ、あの光を……」
「神の住処だ……!」
かすかに、人の声も交じっていた。
崖の向こう、峡谷の中央に巨大な祭壇が築かれていた。
そこには、多くの人影がうごめいている。
白い法衣をまとった者たちの中央に立つ一人の男——その姿を見た瞬間、俺は目を細めた。
「……カイル。」
かつての仲間、勇者パーティの槍士。
その彼が、今は粗末な祭壇の上に立ち、腕を広げて群衆を前に声を上げていた。
「人の手で神を創る! 神に縋るのではなく、神を超えるのだ!」
狂気にも似た歓声が、人波の中で湧き上がる。
彼の後ろには、崩れた魔法陣が半分埋め込まれており、その中心に見覚えのある装置があった。
「王城にあった“理の炉”……!」
エレナが歯を食いしばる。
「どうして奴らがあんなものを……」
「奪ったんだ。」
俺が答えると、リーゼが顔を青くして振り向いた。
「まさか、勇者の残党が父の研究を……」
「そうだ。あいつらは“理調律会”を名乗っていた。神に抗う人の組織だ。」
ディアナが杖を静かに構える。
「でも、彼らの言葉の一部は正しい。人は、“創られるだけ”では生きられない。」
「そうだ。」俺は頷いた。
「だが、創造主を模倣することが救いになるとは限らない。それは理の崩壊を早めるだけだ。」
その瞬間、祭壇の上でカイルが叫んだ。
「今、神の力を我らに!」
燃え上がる光が祭壇を包み、地面が震えた。
それは、まさに“理”が手を伸ばす瞬間だった。
「止めろっ!」
俺が声を上げた時には、すでに遅かった。
天が裂け、灼熱の閃光が大地を貫く。
光と闇の境界が崩れ、重力すら失われる。
「エレナ、リーゼ、下がれ!」
構築した結界が音をたてて展開する。だが、力の波は強すぎた。
エレナの剣が砕け、風圧でディアナが吹き飛ばされる。
俺は腕を交差して、光を受け止めた。
「その身に、創造の印が刻まれているのか!」
カイルの叫びが耳に刺さる。
「だったらその力、今こそ人のものにしてやる!」
次の瞬間、彼の背後から糸のような光が無数に伸び、俺の体へと襲いかかった。
それは理を紐づく“創造主の証”を奪おうとする術式だった。
「やめろ、カイル! お前たちは、その力に殺される!」
「構うものか! 神が永遠に笑う限り、人は立てない!」
その叫びとともに、光が俺の胸へ突き刺さる。
熱い痛みが広がり、視界が白く染まる。
理と理が交錯する――世界そのものが、悲鳴を上げた。
“レン、あなたの力は世界そのもの。奪われるということは、存在を削られること。”
リュミナの声が頭に響く。
俺は歯を食いしばり、力を解放した。
「創造の証は、渡さない!」
炎が爆ぜ、空気が爆発した。
神の力を真似ようとする者たちは、その放たれた光に晒され、一瞬のうちに消えた。
残ったのは、灰の中で立つカイルのみ。
だが、彼の体も既に光の粒と化し始めていた。
「……そうか、これが、創造、か……」
カイルが笑った。
「アルドに言っておけよ……いや、もう……いねぇか……」
「なぜ、こんなことを。」
「わからねぇよ。ただ、負けたまま終わるのが……嫌だった……。」
彼の言葉が風に消える。
残った光の粒が空に舞い上がり、彼の存在を包んで消えた。
その瞬間——谷全体が膨張する。
「来るぞ! 全員離れろ!」
地が裂け、黒い渦が天を突き抜けた。
そこから現れたのは、巨人のような影。
歪んだ輪郭を持ち、四肢のない形の、それでいて“懐かしい”存在。
「……俺だ。」
誰かがそう囁いた気がした。自分の声だったのかもしれない。
地上に立つ俺を見下ろしながら、その影は緩やかに動き出した。
“創造主の証”が、闇に呑み込まれ始めている。
天を繋ぐ光がねじ曲がり、空間の境界が崩れる。
ディアナが泣き叫ぶ。「レン様、世界の理が消えます! 止めなければ、本当にこの世界が——!」
俺は目を閉じた。
影の瞳が、俺自身の記憶を覗き込んでいる。
「壊す気か。」
問いかけても、返事はない。だが理解した。
この影は俺の“欠片”ではなく、創造主そのもの——かつて世界を創った“最初の俺”だった。
「……やっぱり、目覚めやがったな。」
エレナが叫ぶ。「どうすればいい!」
「創造主同士の理が衝突すれば、どちらかが消える。だが消えなかった方が本物という証だ。」
「そんな……!」とリーゼが悲痛に叫ぶ。
俺は一歩前に出た。
風が止まり、時が凍る。
「影か、俺か。創造主はひとりでいい。けどな——“心”は、俺が譲らない。」
手をかざし、光を放つ。
理の糸が閃光となって奔流を描き、影の胸を貫いた。
衝撃。
世界が悲鳴を上げ、空と地が入れ替わる。
光が闇を飲み込み、闇が光を裂く。
遠くでディアナの祈りの声が響いた。
「レン様……迷わないでください……!」
その声が、俺を現実へと引き戻した。
胸の中の灰の熱が冷える。
「覚悟は決めた、ディアナ。俺は世界を創り変える。お前たちが笑える“もう一つの理”に。」
光が走る。
世界の全てが、一瞬、白に包まれた。
その時、リュミナの声が再び聞こえた。
「これが——“創造主の証”。あなたが本当の意味で創造を選ぶ瞬間です。」
風が止まり、灰の峡谷が静まり返った。
立っていたのは俺一人だった。
エレナも、ディアナも、リーゼも、影もいない。
だけど、世界は確かに生きていた。
草の匂い、遠くで響く鳥の声。
消えたと思った命が再び息を吹き返している。
「……これが、“再創造”か。」
空を見上げると、闇と光の境界が消えていた。
その中央で、細い金の線がゆっくりと結ばれていく。
“理”が、新しい形を作り始めていた。
だが、その光の奥。
誰かが確かに、俺を見て微笑んでいた。
誰なのかは、まだわからない。
けれど、その存在が告げていた。
——創造は終わらない。
まだ、再構築の先に、新しい物語が待っている。
北部の灰の峡谷は、文字どおり世界と世界の境目だ。
空気は腐食した鉄のように重く、天空では黒雲が渦を巻いている。
“理の裂け目”が、すでに開き始めていた。
「レン様、ここが……」
ディアナの声が震える。祈りを絶やさない彼女でさえ、この場所には恐怖を隠せない。
「灰の峡谷。ここで、最初の創造が起きた。」
俺は低く言った。
世界の始まり。
この地は、俺が初めて「存在」という概念を形にした場所だった。
それゆえに、理がもっとも不安定で、世界の裏へと通じる“創造主の入口”でもある。
だが、今はその入口が歪みきっていた。
谷底から吹き上げる灰の風には、いくつもの声が混じっている。
「ああ……見ろよ、あの光を……」
「神の住処だ……!」
かすかに、人の声も交じっていた。
崖の向こう、峡谷の中央に巨大な祭壇が築かれていた。
そこには、多くの人影がうごめいている。
白い法衣をまとった者たちの中央に立つ一人の男——その姿を見た瞬間、俺は目を細めた。
「……カイル。」
かつての仲間、勇者パーティの槍士。
その彼が、今は粗末な祭壇の上に立ち、腕を広げて群衆を前に声を上げていた。
「人の手で神を創る! 神に縋るのではなく、神を超えるのだ!」
狂気にも似た歓声が、人波の中で湧き上がる。
彼の後ろには、崩れた魔法陣が半分埋め込まれており、その中心に見覚えのある装置があった。
「王城にあった“理の炉”……!」
エレナが歯を食いしばる。
「どうして奴らがあんなものを……」
「奪ったんだ。」
俺が答えると、リーゼが顔を青くして振り向いた。
「まさか、勇者の残党が父の研究を……」
「そうだ。あいつらは“理調律会”を名乗っていた。神に抗う人の組織だ。」
ディアナが杖を静かに構える。
「でも、彼らの言葉の一部は正しい。人は、“創られるだけ”では生きられない。」
「そうだ。」俺は頷いた。
「だが、創造主を模倣することが救いになるとは限らない。それは理の崩壊を早めるだけだ。」
その瞬間、祭壇の上でカイルが叫んだ。
「今、神の力を我らに!」
燃え上がる光が祭壇を包み、地面が震えた。
それは、まさに“理”が手を伸ばす瞬間だった。
「止めろっ!」
俺が声を上げた時には、すでに遅かった。
天が裂け、灼熱の閃光が大地を貫く。
光と闇の境界が崩れ、重力すら失われる。
「エレナ、リーゼ、下がれ!」
構築した結界が音をたてて展開する。だが、力の波は強すぎた。
エレナの剣が砕け、風圧でディアナが吹き飛ばされる。
俺は腕を交差して、光を受け止めた。
「その身に、創造の印が刻まれているのか!」
カイルの叫びが耳に刺さる。
「だったらその力、今こそ人のものにしてやる!」
次の瞬間、彼の背後から糸のような光が無数に伸び、俺の体へと襲いかかった。
それは理を紐づく“創造主の証”を奪おうとする術式だった。
「やめろ、カイル! お前たちは、その力に殺される!」
「構うものか! 神が永遠に笑う限り、人は立てない!」
その叫びとともに、光が俺の胸へ突き刺さる。
熱い痛みが広がり、視界が白く染まる。
理と理が交錯する――世界そのものが、悲鳴を上げた。
“レン、あなたの力は世界そのもの。奪われるということは、存在を削られること。”
リュミナの声が頭に響く。
俺は歯を食いしばり、力を解放した。
「創造の証は、渡さない!」
炎が爆ぜ、空気が爆発した。
神の力を真似ようとする者たちは、その放たれた光に晒され、一瞬のうちに消えた。
残ったのは、灰の中で立つカイルのみ。
だが、彼の体も既に光の粒と化し始めていた。
「……そうか、これが、創造、か……」
カイルが笑った。
「アルドに言っておけよ……いや、もう……いねぇか……」
「なぜ、こんなことを。」
「わからねぇよ。ただ、負けたまま終わるのが……嫌だった……。」
彼の言葉が風に消える。
残った光の粒が空に舞い上がり、彼の存在を包んで消えた。
その瞬間——谷全体が膨張する。
「来るぞ! 全員離れろ!」
地が裂け、黒い渦が天を突き抜けた。
そこから現れたのは、巨人のような影。
歪んだ輪郭を持ち、四肢のない形の、それでいて“懐かしい”存在。
「……俺だ。」
誰かがそう囁いた気がした。自分の声だったのかもしれない。
地上に立つ俺を見下ろしながら、その影は緩やかに動き出した。
“創造主の証”が、闇に呑み込まれ始めている。
天を繋ぐ光がねじ曲がり、空間の境界が崩れる。
ディアナが泣き叫ぶ。「レン様、世界の理が消えます! 止めなければ、本当にこの世界が——!」
俺は目を閉じた。
影の瞳が、俺自身の記憶を覗き込んでいる。
「壊す気か。」
問いかけても、返事はない。だが理解した。
この影は俺の“欠片”ではなく、創造主そのもの——かつて世界を創った“最初の俺”だった。
「……やっぱり、目覚めやがったな。」
エレナが叫ぶ。「どうすればいい!」
「創造主同士の理が衝突すれば、どちらかが消える。だが消えなかった方が本物という証だ。」
「そんな……!」とリーゼが悲痛に叫ぶ。
俺は一歩前に出た。
風が止まり、時が凍る。
「影か、俺か。創造主はひとりでいい。けどな——“心”は、俺が譲らない。」
手をかざし、光を放つ。
理の糸が閃光となって奔流を描き、影の胸を貫いた。
衝撃。
世界が悲鳴を上げ、空と地が入れ替わる。
光が闇を飲み込み、闇が光を裂く。
遠くでディアナの祈りの声が響いた。
「レン様……迷わないでください……!」
その声が、俺を現実へと引き戻した。
胸の中の灰の熱が冷える。
「覚悟は決めた、ディアナ。俺は世界を創り変える。お前たちが笑える“もう一つの理”に。」
光が走る。
世界の全てが、一瞬、白に包まれた。
その時、リュミナの声が再び聞こえた。
「これが——“創造主の証”。あなたが本当の意味で創造を選ぶ瞬間です。」
風が止まり、灰の峡谷が静まり返った。
立っていたのは俺一人だった。
エレナも、ディアナも、リーゼも、影もいない。
だけど、世界は確かに生きていた。
草の匂い、遠くで響く鳥の声。
消えたと思った命が再び息を吹き返している。
「……これが、“再創造”か。」
空を見上げると、闇と光の境界が消えていた。
その中央で、細い金の線がゆっくりと結ばれていく。
“理”が、新しい形を作り始めていた。
だが、その光の奥。
誰かが確かに、俺を見て微笑んでいた。
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まだ、再構築の先に、新しい物語が待っている。
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