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第18話 魔王、復活す
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白光が消えた後、世界は静かに息を吹き返しつつあった。
灰の峡谷に満ちていた腐敗した風は消え、代わりに柔らかな空気が流れている。
草木が芽吹き、枯れた大地に緑が戻りつつあった。
――しかし、その静寂は一時の夢だった。
地鳴りが再び響く。
谷底の奥、封印の陣がまだ燻っている。
理を再創造したはずの俺でさえ、その波長を制御しきれない。
「……嫌な気配だ。」
背後で声がした。振り返ると、土煙を上げながらエレナとディアナ、そしてリーゼが駆け寄ってくる。
「レン様!」
「大丈夫か。無事だったか?」
「ええ。光の波に巻き込まれたけれど、命だけは……。でも、峡谷の奥が――」
エレナが指差す方向、瓦礫の中から黒い霧が立ち上っていた。
それはさっきまでの“影”とは明らかに違う。
圧倒的な冷気と、獣のような“怒り”を帯びた存在。
「……出るぞ。」
ディアナが震える声で告げた。
「この反応……古き創造の記録にある“破壊の王”です!」
「破壊の王?」リーゼが息を呑む。
「そう。創造が生まれた瞬間、その対として“終焉”が形を持った。最初の世界であなたが封じた存在――“魔王”です。」
大地が裂け、中から黒の柱が突き上がる。
雲が渦を巻き、空の色が赤く変わっていく。
その中心から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
「ぐ……あああああああ……」
それは人とも獣ともつかない。燃えるような眼をした巨躯。
全身を包む漆黒の鎧は空間さえ歪めるほどの魔力に満ちていた。
そして何より、声が――人の言葉を使っていた。
「創造主……レン。」
一言で、全てを思い出した。
この声。この存在。かつて俺が“終焉の化身”として創り、封じた存在――ベルタザール。
「お前か……まだ生きていたのか。」
「生きていた? 違うな、再び“生かされた”のだ。お前が再構築した理の歪みを通じてな。」
地面が沈み込み、爆風が走る。
エレナが剣を抜き、ディアナが防御の祈りを唱える。
「レン様、下がってください。結界を――」
「無駄だ。」ベルタザールの声が響いた。
次の瞬間、祈りの言葉が風にかき消された。
結界は展開する前に砕かれ、ディアナは吹き飛ばされる。
「ディアナ!」
俺は手を伸ばし、空間をねじ曲げて抱き留めた。
幸い、致命傷には至っていない。だが魔王の放つ魔力は、もはや次元が違っていた。
「なぜ復活を望む。もう世界は平和を取り戻そうとしている。」
「平和? ふははは、“再創造”とは滑稽な言葉だ。おのれが作り直したこの世界は、結局“お前を中心に回る”ものだ。人も魔も、お前という理に束縛された偶像にすぎぬ。」
「だから俺を壊すつもりか。」
「そうだ。創造主を壊すことこそ、完全な自由。そのためにこそ私は存在する。」
ベルタザールの巨体が動いた。
重なる腕が闇を放ち、衝撃波が地平を裂く。
城のように崩れた岩が舞い上がり、地形が変わった。
エレナが前に出た。「レン様を侮辱するな!」
彼女の剣が光をまとい、一直線に魔王の腕を貫く。
だが、その刃が届く前に彼女の体が軽々と吹き飛ばされる。
再び距離を取った彼女の腕は震えていた。
「硬すぎる……! 剣が通らない……!」
リーゼが叫ぶ。「封印の術式、まだ残っていないの? 一度はあなたが封じたんでしょう?」
「ああ。」
俺は胸の奥の記憶に触れる。かつて、創造の理と終焉の理を重ね合わせ、相殺の鎖を編んだ。
だが今、その鎖は俺の再創造によって消えている。
「つまり、俺自身がそれを解いたのか。」
「そうだ。」
ベルタザールが愉快そうに笑う。
「お前の慈悲が、我を再び生み出した。創造とは矛盾の極みだ。どんなに理を整えても、光がある限り闇は生まれる。」
「……だったら、また封じ直すまでだ。」
俺は掌を広げる。
「お前は終焉を司る象徴にすぎない。だが今度は“共存”として理に組み込む。終わりもまた世界の一部だ。」
「そんな愚かな理で……我が満足するとでも?」
「試してみる価値はある。」
両者の魔力が空を割った。
光と闇が衝突し、大地が溶解する。
爆発。風圧。音も色も消え、世界から概念がこぼれ落ちる。
「レン様、危険です!」
ディアナの声が遠くに聞こえる。だが、俺は手を止めなかった。
心を一つに、理の網を再び張り巡らせる。
――“創造と終焉の均衡”。
しかし、ベルタザールも黙ってはいなかった。
「お前の理は、優しさでできている。だが、優しさは脆い!」
黒い炎が顕現し、理そのものを焼こうとする。
俺の防壁を通り抜け、胸の奥に流れ込んだ。
「レン様っ!」
痛みが脳を焦がす。視界が赤く染まる。
体の中で、もう一つの声が揺らめいた。
“我が力を使え”
その声の主は、俺の内に眠る“影”の残滓。
“創造は整うより暴れたい。解き放てば、この化け物ごと燃やせる。”
「……だが、それでは同じだ。破壊に救いはない。」
“なら選べ。守るか、滅ぼすか。”
答えは決まっていた。
俺は闇の声を飲み込み、拳を握った。
「創造とは、壊すことじゃない……生かすことだ!」
全身から光が迸る。
ベルタザールの絶叫が轟いた。
「馬鹿な……光に、闇が従うなど……!」
「従うんじゃない。“共に在る”んだ。」
光が闇を包み込む。
衝突していたエネルギーが一瞬にして静まり、世界がひとつの色を取り戻す。
闇が溶け、燃えるような黒の鎧が砂のように崩れてゆく。
「……創造主、か。」
ベルタザールが笑う。
「愚かで、美しい……世界を委ねる価値がある。」
その声が消えると同時に、巨体は灰となって風に散った。
息を吐き、膝をつく。
魔王の圧倒的な力が消え、世界は静かに呼吸を取り戻していた。
エレナが駆け寄る。「封じたのですか?」
「ああ。だが、完全じゃない。彼は“理”の一部に還っただけだ。」
「つまり、また——?」
「いつか、きっと目を覚ます。そのときに世界が自分で立てるよう、今のうちに形を残す。」
リーゼが口元を押さえて微笑んだ。
「……本当にあなたらしい理ね。」
俺は笑い返し、立ち上がった。
灰の風に、リュミナの声が混じる。
「レン、あなたの理が完成しようとしています。あとは、人々がその意味を見つけるだけ。」
「……そうか。」
遠くの地平では朝日が昇り始めていた。
闇を超えてなお、世界はまだ、光を求めて動いている。
俺は空を見上げ、静かに呟いた。
「再創造の章は、まだ終わらない。次は……人の意志が、世界を創る番だ。」
灰の峡谷に満ちていた腐敗した風は消え、代わりに柔らかな空気が流れている。
草木が芽吹き、枯れた大地に緑が戻りつつあった。
――しかし、その静寂は一時の夢だった。
地鳴りが再び響く。
谷底の奥、封印の陣がまだ燻っている。
理を再創造したはずの俺でさえ、その波長を制御しきれない。
「……嫌な気配だ。」
背後で声がした。振り返ると、土煙を上げながらエレナとディアナ、そしてリーゼが駆け寄ってくる。
「レン様!」
「大丈夫か。無事だったか?」
「ええ。光の波に巻き込まれたけれど、命だけは……。でも、峡谷の奥が――」
エレナが指差す方向、瓦礫の中から黒い霧が立ち上っていた。
それはさっきまでの“影”とは明らかに違う。
圧倒的な冷気と、獣のような“怒り”を帯びた存在。
「……出るぞ。」
ディアナが震える声で告げた。
「この反応……古き創造の記録にある“破壊の王”です!」
「破壊の王?」リーゼが息を呑む。
「そう。創造が生まれた瞬間、その対として“終焉”が形を持った。最初の世界であなたが封じた存在――“魔王”です。」
大地が裂け、中から黒の柱が突き上がる。
雲が渦を巻き、空の色が赤く変わっていく。
その中心から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
「ぐ……あああああああ……」
それは人とも獣ともつかない。燃えるような眼をした巨躯。
全身を包む漆黒の鎧は空間さえ歪めるほどの魔力に満ちていた。
そして何より、声が――人の言葉を使っていた。
「創造主……レン。」
一言で、全てを思い出した。
この声。この存在。かつて俺が“終焉の化身”として創り、封じた存在――ベルタザール。
「お前か……まだ生きていたのか。」
「生きていた? 違うな、再び“生かされた”のだ。お前が再構築した理の歪みを通じてな。」
地面が沈み込み、爆風が走る。
エレナが剣を抜き、ディアナが防御の祈りを唱える。
「レン様、下がってください。結界を――」
「無駄だ。」ベルタザールの声が響いた。
次の瞬間、祈りの言葉が風にかき消された。
結界は展開する前に砕かれ、ディアナは吹き飛ばされる。
「ディアナ!」
俺は手を伸ばし、空間をねじ曲げて抱き留めた。
幸い、致命傷には至っていない。だが魔王の放つ魔力は、もはや次元が違っていた。
「なぜ復活を望む。もう世界は平和を取り戻そうとしている。」
「平和? ふははは、“再創造”とは滑稽な言葉だ。おのれが作り直したこの世界は、結局“お前を中心に回る”ものだ。人も魔も、お前という理に束縛された偶像にすぎぬ。」
「だから俺を壊すつもりか。」
「そうだ。創造主を壊すことこそ、完全な自由。そのためにこそ私は存在する。」
ベルタザールの巨体が動いた。
重なる腕が闇を放ち、衝撃波が地平を裂く。
城のように崩れた岩が舞い上がり、地形が変わった。
エレナが前に出た。「レン様を侮辱するな!」
彼女の剣が光をまとい、一直線に魔王の腕を貫く。
だが、その刃が届く前に彼女の体が軽々と吹き飛ばされる。
再び距離を取った彼女の腕は震えていた。
「硬すぎる……! 剣が通らない……!」
リーゼが叫ぶ。「封印の術式、まだ残っていないの? 一度はあなたが封じたんでしょう?」
「ああ。」
俺は胸の奥の記憶に触れる。かつて、創造の理と終焉の理を重ね合わせ、相殺の鎖を編んだ。
だが今、その鎖は俺の再創造によって消えている。
「つまり、俺自身がそれを解いたのか。」
「そうだ。」
ベルタザールが愉快そうに笑う。
「お前の慈悲が、我を再び生み出した。創造とは矛盾の極みだ。どんなに理を整えても、光がある限り闇は生まれる。」
「……だったら、また封じ直すまでだ。」
俺は掌を広げる。
「お前は終焉を司る象徴にすぎない。だが今度は“共存”として理に組み込む。終わりもまた世界の一部だ。」
「そんな愚かな理で……我が満足するとでも?」
「試してみる価値はある。」
両者の魔力が空を割った。
光と闇が衝突し、大地が溶解する。
爆発。風圧。音も色も消え、世界から概念がこぼれ落ちる。
「レン様、危険です!」
ディアナの声が遠くに聞こえる。だが、俺は手を止めなかった。
心を一つに、理の網を再び張り巡らせる。
――“創造と終焉の均衡”。
しかし、ベルタザールも黙ってはいなかった。
「お前の理は、優しさでできている。だが、優しさは脆い!」
黒い炎が顕現し、理そのものを焼こうとする。
俺の防壁を通り抜け、胸の奥に流れ込んだ。
「レン様っ!」
痛みが脳を焦がす。視界が赤く染まる。
体の中で、もう一つの声が揺らめいた。
“我が力を使え”
その声の主は、俺の内に眠る“影”の残滓。
“創造は整うより暴れたい。解き放てば、この化け物ごと燃やせる。”
「……だが、それでは同じだ。破壊に救いはない。」
“なら選べ。守るか、滅ぼすか。”
答えは決まっていた。
俺は闇の声を飲み込み、拳を握った。
「創造とは、壊すことじゃない……生かすことだ!」
全身から光が迸る。
ベルタザールの絶叫が轟いた。
「馬鹿な……光に、闇が従うなど……!」
「従うんじゃない。“共に在る”んだ。」
光が闇を包み込む。
衝突していたエネルギーが一瞬にして静まり、世界がひとつの色を取り戻す。
闇が溶け、燃えるような黒の鎧が砂のように崩れてゆく。
「……創造主、か。」
ベルタザールが笑う。
「愚かで、美しい……世界を委ねる価値がある。」
その声が消えると同時に、巨体は灰となって風に散った。
息を吐き、膝をつく。
魔王の圧倒的な力が消え、世界は静かに呼吸を取り戻していた。
エレナが駆け寄る。「封じたのですか?」
「ああ。だが、完全じゃない。彼は“理”の一部に還っただけだ。」
「つまり、また——?」
「いつか、きっと目を覚ます。そのときに世界が自分で立てるよう、今のうちに形を残す。」
リーゼが口元を押さえて微笑んだ。
「……本当にあなたらしい理ね。」
俺は笑い返し、立ち上がった。
灰の風に、リュミナの声が混じる。
「レン、あなたの理が完成しようとしています。あとは、人々がその意味を見つけるだけ。」
「……そうか。」
遠くの地平では朝日が昇り始めていた。
闇を超えてなお、世界はまだ、光を求めて動いている。
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