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第20話 魔王軍の侵攻と正体の暴露
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朝の霧が薄れ始めたころ、緑を取り戻した灰の峡谷を走る音が響いた。
凛とした空気を裂くように、飛竜が数十翼。
黒い旗を掲げた軍勢が東の空を横切る。
「……動いたか。」
俺は丘の上からその光景を見下ろしていた。
魔王ベルタザールを理に還したことで、確かに世界は再生を始めた。
だが、その“終焉の理”に属していた魔族たちは、いま新たな主を欲して蠢いている。
その名は“魔王軍”。
しかも先頭に立つ騎士の姿を見たとき、胸に刺さるような違和感が走った。
赤い髪。
かつてリュミナ神殿で仕え、俺の力の片鱗を恐れた巫女。
今は魔の鎧を纏い、翼を広げて飛んでいる。
「……まさか、アイナ。」
ディアナやエレナが集まってきた。
「どうしました、レン様?」
「あれを見ろ。」
指差す方向、魔族の軍勢を率いる女性の姿にディアナが絶句した。
「同胞……? 違う、そんなはず……! アイナは三年前に行方不明になったと記録にありました!」
「記録どおりなら、それが彼女の“変わり果てた姿”だ。」
リーゼが険しく息を吐いた。
「王都でも不穏な噂が流れているわ。“新たな主が魔王ベルタザールの理を継いだ”と。」
軍勢は峡谷を越え、王都方面へ向かっている。
地平線を埋めるほどの規模。
かつての魔族の残党とは比べものにならぬ組織的な動き。
「放っておけません。」
エレナが剣を抜こうとするが、俺は腕を上げて制した。
「待て。無闇に突っ込めば被害が広がる。狙いは王都か、それとも俺か……。」
その時、リュミナの声が風に混じって響いた。
「レン、気をつけて。彼らはあなたの“理”に引き寄せられている。あなたが創造した新しい世界の力を奪おうとしているのです。」
「やはりそうか。奴らが欲しいのは“創造の証”だ。」
ディアナが苦い表情を浮かべる。
「では……また戦を?」
「可能なら話をつける。今の魔族たちは、かつてよりも“意図的”に動いている。」
俺たちは丘を降り、王都手前の要衝である古城へ向かった。
そこはかつてベルタザールを封じた儀式の跡地。
今では王国の防衛線として利用されていたが、守備隊は少数。すでに撤退の準備をしていた。
「総司令は王都に?」
「はい、勇者の残党らが王城に詰めているとか。新たな神殿防衛を再構築しているとのことです。」
報告する兵の顔には、不安しか浮かんでいなかった。
俺は短く頷いた。
「了解した。前線の結界と情報網は引き継ぐ。これよりこの地は俺が預かる。」
「……御意。」
ディアナが近づき、耳元で囁く。
「レン様、先ほどの“理の感応”で妙な反応が出ています。アイナの背後に、もう一つの“理”――つまり、あなたのものとは別の創造系統の波が。」
「別の創造……?」
「ええ。まるで、誰か第三の創造主が存在するかのような。」
その瞬間、背筋が凍った。
“もう一つの創造主”。
それはつまり、世界が俺一人では整え切れず、新たな“神”を生み出しているということ。
あるいは――あの影が、“別の姿”で還ってきたのか。
そのときだった。
古城の外壁が青い閃光に包まれ、耳をつんざく咆哮が響いた。
空を裂いて、飛竜が群れを成して襲いかかる。
前衛の兵が一瞬で吹き飛ばされ、光の矢が城内に突き刺さる。
「全員退避!」
俺は地を蹴り、結界を展開した。
光が城壁から外へ弾け飛び、瞬時に嵐が止む。
焦げた空気の先に、ゆっくり降り立つ影。
アイナ――いや、“魔王アイナ”だった。
紅い瞳が俺を射抜くように見つめ、口元に微かな笑みを浮かべる。
「お久しぶりですね、レン様。いいえ、創造主殿。」
その声は人のものとは思えない静けさを宿していた。
「なぜ……こんな真似を。」
「真似? いいえ、私は本物です。あなたが作り出した“理”が示した結果なのですから。」
「結果?」
「あなたが再創造で定めた“共存”の理。その中に、魔族も含まれていましたね。」
「……確かに。だが、共存とは支配じゃない。」
「それを決めるのはあなたではない。“理”が独り歩きし、私を選んだ。魔の理の代弁者として。」
彼女はゆっくりと手を上げた。
闇の輪が空に描かれ、そこから黒い炎が湧き上がる。
城の周囲に陣取った兵士たちが、その圧に言葉を失う。
「魔王ベルタザールが滅びたとき、その“終焉の概念”はあなたに還った。けれど、一部は世界に分岐し、新たな容れ物――つまり、私に宿ったのです。」
「そんな……。」ディアナが声を失う。
「言葉遊びはもういい。」俺は前に出た。「このままなら人と魔が争うだけだ。理が均衡を保てなくなる。」
「秩序を壊すための“再創造”ではないのですか?」
アイナの瞳が焼けるように輝く。
「人の理と魔の理、その対立がこの世界の存在理由。あなたがそれを壊そうとする限り、私は現れる。」
瞬間、黒い魔法陣が広がり、風が爆発するように渦を巻いた。
俺は腕を広げ、全力で弾き返す。光と闇が激しくぶつかり、辺り一面が明滅した。
「レン様!」
エレナが駆け寄り、横合いから剣を振るう。だが衝撃波ですぐに弾き飛ばされる。
リーゼが魔力障壁を展開し、ディアナが祈りを紡いだ。が、相手は強すぎた。
光の乱流の中、アイナが低く囁く。
「あなたが“人間”の心を残している限り、この世界は完全ではないわ。」
「それが、俺の創造の意味だ。」
「では、その心を壊して確かめましょう。」
衝突。
爆音が天地を裂く。地表がひっくり返り、古城が塵と化した。
――そして、静寂。
気づけば、俺とアイナだけが瓦礫の上に立っていた。
空も地もなく、周囲は“理の境界”のように白く霞んでいる。
「……ここは……?」
「理の外側ですよ、レン様。」
アイナが微笑んだ。
「この世界の裏。あなたが一度、封印した“原理の断層”。」
「お前はここまで計算していたのか。」
「いいえ、これは理の選択です。あなたが創造主であるならば、私はその“対”であり続ける。」
彼女の姿が薄れていく。
「……このままでは、理があなたを再び分ける。共存も破壊も、もう選べない。」
「選べない?」
「ええ。私は、あなたの“もう一つの意思”なのですから。」
その言葉と同時に、彼女の身体が光に変わり俺の中へと吸い込まれていった。
刺すような痛み。
視界が揺れ、心が割れていく。
「お前……俺の中の、別の理……っ!」
どこかでリュミナの声が聞こえた。
「レン、目を開けて。世界はあなたの“内側”に融合し始めています! それは破滅でもあり、誕生でもある!」
「破滅も、創造も……全部、俺が決める。」
力が一気に溢れ、世界が白に染まる。
そして、闇も光も消えた――。
次に目を開けたとき、俺は丘の上に倒れていた。
ディアナたちが囲んでいる。
「レン様! 気を失って……!」
「……俺は、大丈夫だ。」
力を借りて立ち上がると、遠くの空で黒雲が裂け、光が差し込む。
確かに、世界はまだ生きていた。
だがその光景の中には、ひとつだけ異質なものが混じっていた。
空に浮かぶ、巨大な紋章。
それは“創造主の証”に似ているが、中心には赤い紋様が刻まれている。
「……あれは?」
「レン様、まさか……」とディアナが呟く。
「あれは新しい理。俺を模倣した存在が生まれた証拠だ。」
風が吹き、どこからかアイナの声が聞こえた。
「創造主よ……これがあなたの選んだ世界。さあ、次は“人の時代”を見届けて。」
俺は目を閉じた。
共存、対立、創造、破壊——すべてを含めて、この世界はまだ確かに動いている。
それが、俺が生かした“人間の心”の結果だった。
「……行こう。もう一度、“始まり”を作るために。」
丘の頂から、再び歩き出す。
創造主としてではなく、一人の人として。
理の向こうに広がる新しい世界を目指して。
凛とした空気を裂くように、飛竜が数十翼。
黒い旗を掲げた軍勢が東の空を横切る。
「……動いたか。」
俺は丘の上からその光景を見下ろしていた。
魔王ベルタザールを理に還したことで、確かに世界は再生を始めた。
だが、その“終焉の理”に属していた魔族たちは、いま新たな主を欲して蠢いている。
その名は“魔王軍”。
しかも先頭に立つ騎士の姿を見たとき、胸に刺さるような違和感が走った。
赤い髪。
かつてリュミナ神殿で仕え、俺の力の片鱗を恐れた巫女。
今は魔の鎧を纏い、翼を広げて飛んでいる。
「……まさか、アイナ。」
ディアナやエレナが集まってきた。
「どうしました、レン様?」
「あれを見ろ。」
指差す方向、魔族の軍勢を率いる女性の姿にディアナが絶句した。
「同胞……? 違う、そんなはず……! アイナは三年前に行方不明になったと記録にありました!」
「記録どおりなら、それが彼女の“変わり果てた姿”だ。」
リーゼが険しく息を吐いた。
「王都でも不穏な噂が流れているわ。“新たな主が魔王ベルタザールの理を継いだ”と。」
軍勢は峡谷を越え、王都方面へ向かっている。
地平線を埋めるほどの規模。
かつての魔族の残党とは比べものにならぬ組織的な動き。
「放っておけません。」
エレナが剣を抜こうとするが、俺は腕を上げて制した。
「待て。無闇に突っ込めば被害が広がる。狙いは王都か、それとも俺か……。」
その時、リュミナの声が風に混じって響いた。
「レン、気をつけて。彼らはあなたの“理”に引き寄せられている。あなたが創造した新しい世界の力を奪おうとしているのです。」
「やはりそうか。奴らが欲しいのは“創造の証”だ。」
ディアナが苦い表情を浮かべる。
「では……また戦を?」
「可能なら話をつける。今の魔族たちは、かつてよりも“意図的”に動いている。」
俺たちは丘を降り、王都手前の要衝である古城へ向かった。
そこはかつてベルタザールを封じた儀式の跡地。
今では王国の防衛線として利用されていたが、守備隊は少数。すでに撤退の準備をしていた。
「総司令は王都に?」
「はい、勇者の残党らが王城に詰めているとか。新たな神殿防衛を再構築しているとのことです。」
報告する兵の顔には、不安しか浮かんでいなかった。
俺は短く頷いた。
「了解した。前線の結界と情報網は引き継ぐ。これよりこの地は俺が預かる。」
「……御意。」
ディアナが近づき、耳元で囁く。
「レン様、先ほどの“理の感応”で妙な反応が出ています。アイナの背後に、もう一つの“理”――つまり、あなたのものとは別の創造系統の波が。」
「別の創造……?」
「ええ。まるで、誰か第三の創造主が存在するかのような。」
その瞬間、背筋が凍った。
“もう一つの創造主”。
それはつまり、世界が俺一人では整え切れず、新たな“神”を生み出しているということ。
あるいは――あの影が、“別の姿”で還ってきたのか。
そのときだった。
古城の外壁が青い閃光に包まれ、耳をつんざく咆哮が響いた。
空を裂いて、飛竜が群れを成して襲いかかる。
前衛の兵が一瞬で吹き飛ばされ、光の矢が城内に突き刺さる。
「全員退避!」
俺は地を蹴り、結界を展開した。
光が城壁から外へ弾け飛び、瞬時に嵐が止む。
焦げた空気の先に、ゆっくり降り立つ影。
アイナ――いや、“魔王アイナ”だった。
紅い瞳が俺を射抜くように見つめ、口元に微かな笑みを浮かべる。
「お久しぶりですね、レン様。いいえ、創造主殿。」
その声は人のものとは思えない静けさを宿していた。
「なぜ……こんな真似を。」
「真似? いいえ、私は本物です。あなたが作り出した“理”が示した結果なのですから。」
「結果?」
「あなたが再創造で定めた“共存”の理。その中に、魔族も含まれていましたね。」
「……確かに。だが、共存とは支配じゃない。」
「それを決めるのはあなたではない。“理”が独り歩きし、私を選んだ。魔の理の代弁者として。」
彼女はゆっくりと手を上げた。
闇の輪が空に描かれ、そこから黒い炎が湧き上がる。
城の周囲に陣取った兵士たちが、その圧に言葉を失う。
「魔王ベルタザールが滅びたとき、その“終焉の概念”はあなたに還った。けれど、一部は世界に分岐し、新たな容れ物――つまり、私に宿ったのです。」
「そんな……。」ディアナが声を失う。
「言葉遊びはもういい。」俺は前に出た。「このままなら人と魔が争うだけだ。理が均衡を保てなくなる。」
「秩序を壊すための“再創造”ではないのですか?」
アイナの瞳が焼けるように輝く。
「人の理と魔の理、その対立がこの世界の存在理由。あなたがそれを壊そうとする限り、私は現れる。」
瞬間、黒い魔法陣が広がり、風が爆発するように渦を巻いた。
俺は腕を広げ、全力で弾き返す。光と闇が激しくぶつかり、辺り一面が明滅した。
「レン様!」
エレナが駆け寄り、横合いから剣を振るう。だが衝撃波ですぐに弾き飛ばされる。
リーゼが魔力障壁を展開し、ディアナが祈りを紡いだ。が、相手は強すぎた。
光の乱流の中、アイナが低く囁く。
「あなたが“人間”の心を残している限り、この世界は完全ではないわ。」
「それが、俺の創造の意味だ。」
「では、その心を壊して確かめましょう。」
衝突。
爆音が天地を裂く。地表がひっくり返り、古城が塵と化した。
――そして、静寂。
気づけば、俺とアイナだけが瓦礫の上に立っていた。
空も地もなく、周囲は“理の境界”のように白く霞んでいる。
「……ここは……?」
「理の外側ですよ、レン様。」
アイナが微笑んだ。
「この世界の裏。あなたが一度、封印した“原理の断層”。」
「お前はここまで計算していたのか。」
「いいえ、これは理の選択です。あなたが創造主であるならば、私はその“対”であり続ける。」
彼女の姿が薄れていく。
「……このままでは、理があなたを再び分ける。共存も破壊も、もう選べない。」
「選べない?」
「ええ。私は、あなたの“もう一つの意思”なのですから。」
その言葉と同時に、彼女の身体が光に変わり俺の中へと吸い込まれていった。
刺すような痛み。
視界が揺れ、心が割れていく。
「お前……俺の中の、別の理……っ!」
どこかでリュミナの声が聞こえた。
「レン、目を開けて。世界はあなたの“内側”に融合し始めています! それは破滅でもあり、誕生でもある!」
「破滅も、創造も……全部、俺が決める。」
力が一気に溢れ、世界が白に染まる。
そして、闇も光も消えた――。
次に目を開けたとき、俺は丘の上に倒れていた。
ディアナたちが囲んでいる。
「レン様! 気を失って……!」
「……俺は、大丈夫だ。」
力を借りて立ち上がると、遠くの空で黒雲が裂け、光が差し込む。
確かに、世界はまだ生きていた。
だがその光景の中には、ひとつだけ異質なものが混じっていた。
空に浮かぶ、巨大な紋章。
それは“創造主の証”に似ているが、中心には赤い紋様が刻まれている。
「……あれは?」
「レン様、まさか……」とディアナが呟く。
「あれは新しい理。俺を模倣した存在が生まれた証拠だ。」
風が吹き、どこからかアイナの声が聞こえた。
「創造主よ……これがあなたの選んだ世界。さあ、次は“人の時代”を見届けて。」
俺は目を閉じた。
共存、対立、創造、破壊——すべてを含めて、この世界はまだ確かに動いている。
それが、俺が生かした“人間の心”の結果だった。
「……行こう。もう一度、“始まり”を作るために。」
丘の頂から、再び歩き出す。
創造主としてではなく、一人の人として。
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