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第21話 神と魔王の確執
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遠くで雷が鳴った。
王都から北へ三日、風の吹かない砂の平原に立つ俺たちは、ただ黙って“あの空”を見上げていた。
空の中央には、巨大な紋章が浮かび、その中心に刻まれた赤い模様が、まるで心臓のように脈動していた。
「……あれが、新しい“理”の核ですか。」
ディアナがつぶやく。
「魔王軍の残党も、あそこに引き寄せられているようです。」
リーゼが眉をひそめた。彼女の表情には、王としての責任が浮かんでいた。だが、王女ではなく一人の人間として、創造主レンの隣に立ちたいという思いが、その瞳に宿っている。
「アイナが言っていた“共存の理”。おそらく、神と魔、双方を等しい理として再定義しようとしている。」
「そんなこと……本当に可能なのですか?」
「理の上では可能だ。だが、理は心を知らない。心がない秩序は、やがて暴走する。」
エレナが短く頷いた。「つまり、また戦うんだな。」
「……そうだ。」
俺は空を見上げた。
“創造の理”と“終焉の理”。その両極が干渉し合い、世界の形を上書きしようとしている。
そして、その衝突点に立つのは二つの存在。
一つは、俺。
もう一つは、アイナ――魔王の理を受け継いだ者。
「レン。」
ディアナの声が静かに響く。
「もし、あなたと彼女がぶつかれば。この世界そのものが――」
「崩壊するかもしれない。」
俺はその言葉を遮るように答えた。
「だが行く。彼女がどんな答えを出そうとしているのか、確かめなければならない。」
風が鳴った。
砂嵐が遠くで巻き上がり、空の赤い光を遮る。
その刹那、空間が揺らぎ、ひとつの声が響いた。
「ようやく来たのね、創造主。」
空が裂け、漆黒の翼を持つアイナが現れた。
その後ろには、数多の魔族の影。空を埋め尽くすほどの軍勢が、氷のような沈黙で地を見下ろしていた。
「これで全ての理が揃ったわ。神の理、魔の理。そして第三の理――人間の理。」
「人間の理?」
「ええ。この戦いでどれが勝ち、“世界を動かす価値”を持つか。それを決める第三の因子。それが――あなたの信奉者たち。今や人々の信仰が創造主を凌駕し、一つの意志を持ち始めているの。」
「……人の意志が、理になる?」
「あなたが望んだことよ。“人が生きる意味を自ら選ぶ世界”を創ると。」
アイナの瞳が輝き、空気が一変した。彼女の背から広がる闇が、炎のように揺れる。
「けれど、そんな世界は不完全。人の願いはいつも反発し合う。ならば、それらを統一する一柱が必要――それが“私”。」
俺は首を横に振った。
「お前はただ、自分の孤独を理で覆っているだけだ。共存をうたっていても、支配の形にすり替えている。」
「違う。」
アイナが大地に降り立ち、杖を突き立てた。
その周囲に無数の光の粒が浮かび上がる。
「これは愛よ。神がすべてを創り、人がそれに従う世界なら、魔は“拒まれる側から”の愛を示す。それだけ。」
「愛は奪うための言葉じゃない。」
「創造だって、奪う行為でしょう? あなたがこの世界を作った瞬間、他の可能性は消えた。だから今度は、私が奪う番。」
闇が爆ぜた。
圧倒的な力が放たれ、大地が裂ける。エレナが剣を抜き、ディアナが詠唱を始め、リーゼが結界の指輪を発動させる。
しかし、その力はあまりにも強すぎた。
「下がれ! この力は俺が受ける!」
光と闇がぶつかり、砂の平原がひとつの白い世界に変わった。
音が消え、風が止む。
俺とアイナだけが、時間の止まった世界に取り残される。
「……ここは?」
「あなたの内側、レン。」アイナが微笑む。
「創造主――あなたが閉じ込め続けている“神の理”の中よ。」
彼女の姿が崩れ、白い光が俺を包み込んだ。
ふと気づくと、そこに立っていたのは別の“俺”だった。
黄金の瞳を持ち、まるで人でないような静謐を纏っている。
「……神の理。」アイナがその存在にひれ伏す。
「あなたが眠らせたもう一つの“根源”。この世に理と秩序をもたらした原始の意志。」
その目が俺を見つめた。
「人の心を抱えた創造主よ。なぜ私を捨てた。」
「お前の理は真実だ。だが、永遠を求めるだけの理は、命を否定する。」
「ならば、命など初めから生まれなければいい。」
俺は息を呑んだ。
神と呼ばれる存在。
それは、俺の中の“完璧”の化身だ。
“欠けることを許せない理”。
その理が形を得て、意識を持っている――つまり、この世界の根本的神性が、今、俺たちに逆らっているのだ。
「レン、見える?」アイナが囁く。
「この世界はあなたが生きる限り、歪み続ける。神は完全を求め、あなたは不完全を愛す。私たちはその狭間で、永遠に争う。」
「争うのは、いつも人間の心だ。」
「では、見せて。」
神が手を伸ばした瞬間、空が破裂した。
理と力の奔流が世界を貫き、俺とアイナを包み込んだ。
耳をつんざく音の中、俺は握った拳に力を込める。
「神の理も、魔の理も、俺のためにあるんじゃない!」
叫ぶと同時に、体が光に包まれる。
「創造とは、人の心が選び取るものだ! 俺が決める、ここから先の世界を!」
爆発的な閃光が、時空を切り裂いた。
次に目を開けたとき、そこは見知らぬ草原。
空には再び青が戻り、風が吹いていた。
エレナたちが地に伏し、遠くでディアナの祈りの声が聞こえる。
「レン様……世界は……?」
俺は立ち上がり、空を仰いだ。
赤い紋様は消え、代わりに白い光が柔らかく瞬いている。
「まだ、終わってはいない。アイナも、神も。どちらも消えてはいない。」
リーゼが微笑む。
「また、あなたらしい答えね。両方を残すなんて。」
「選択しなければ、世界は死ぬ。それが理の本質だ。しかし、それでも俺は――すべてを残す。」
風が頬を撫でた。
その瞬間、どこかで楽しげな声が響く。
リュミナの声だ。
「レン、あなたは本当に“無自覚な最強”ですね。」
俺は苦笑し、剣を肩に担いだ。
「神であろうと魔であろうと、今日も世界は動き続ける。……俺たちの仕事は、まだ終わらない。」
そしてまた、太陽が昇り始めた。
光と影を両に宿す、新たな世界の始まりを告げるかのように。
王都から北へ三日、風の吹かない砂の平原に立つ俺たちは、ただ黙って“あの空”を見上げていた。
空の中央には、巨大な紋章が浮かび、その中心に刻まれた赤い模様が、まるで心臓のように脈動していた。
「……あれが、新しい“理”の核ですか。」
ディアナがつぶやく。
「魔王軍の残党も、あそこに引き寄せられているようです。」
リーゼが眉をひそめた。彼女の表情には、王としての責任が浮かんでいた。だが、王女ではなく一人の人間として、創造主レンの隣に立ちたいという思いが、その瞳に宿っている。
「アイナが言っていた“共存の理”。おそらく、神と魔、双方を等しい理として再定義しようとしている。」
「そんなこと……本当に可能なのですか?」
「理の上では可能だ。だが、理は心を知らない。心がない秩序は、やがて暴走する。」
エレナが短く頷いた。「つまり、また戦うんだな。」
「……そうだ。」
俺は空を見上げた。
“創造の理”と“終焉の理”。その両極が干渉し合い、世界の形を上書きしようとしている。
そして、その衝突点に立つのは二つの存在。
一つは、俺。
もう一つは、アイナ――魔王の理を受け継いだ者。
「レン。」
ディアナの声が静かに響く。
「もし、あなたと彼女がぶつかれば。この世界そのものが――」
「崩壊するかもしれない。」
俺はその言葉を遮るように答えた。
「だが行く。彼女がどんな答えを出そうとしているのか、確かめなければならない。」
風が鳴った。
砂嵐が遠くで巻き上がり、空の赤い光を遮る。
その刹那、空間が揺らぎ、ひとつの声が響いた。
「ようやく来たのね、創造主。」
空が裂け、漆黒の翼を持つアイナが現れた。
その後ろには、数多の魔族の影。空を埋め尽くすほどの軍勢が、氷のような沈黙で地を見下ろしていた。
「これで全ての理が揃ったわ。神の理、魔の理。そして第三の理――人間の理。」
「人間の理?」
「ええ。この戦いでどれが勝ち、“世界を動かす価値”を持つか。それを決める第三の因子。それが――あなたの信奉者たち。今や人々の信仰が創造主を凌駕し、一つの意志を持ち始めているの。」
「……人の意志が、理になる?」
「あなたが望んだことよ。“人が生きる意味を自ら選ぶ世界”を創ると。」
アイナの瞳が輝き、空気が一変した。彼女の背から広がる闇が、炎のように揺れる。
「けれど、そんな世界は不完全。人の願いはいつも反発し合う。ならば、それらを統一する一柱が必要――それが“私”。」
俺は首を横に振った。
「お前はただ、自分の孤独を理で覆っているだけだ。共存をうたっていても、支配の形にすり替えている。」
「違う。」
アイナが大地に降り立ち、杖を突き立てた。
その周囲に無数の光の粒が浮かび上がる。
「これは愛よ。神がすべてを創り、人がそれに従う世界なら、魔は“拒まれる側から”の愛を示す。それだけ。」
「愛は奪うための言葉じゃない。」
「創造だって、奪う行為でしょう? あなたがこの世界を作った瞬間、他の可能性は消えた。だから今度は、私が奪う番。」
闇が爆ぜた。
圧倒的な力が放たれ、大地が裂ける。エレナが剣を抜き、ディアナが詠唱を始め、リーゼが結界の指輪を発動させる。
しかし、その力はあまりにも強すぎた。
「下がれ! この力は俺が受ける!」
光と闇がぶつかり、砂の平原がひとつの白い世界に変わった。
音が消え、風が止む。
俺とアイナだけが、時間の止まった世界に取り残される。
「……ここは?」
「あなたの内側、レン。」アイナが微笑む。
「創造主――あなたが閉じ込め続けている“神の理”の中よ。」
彼女の姿が崩れ、白い光が俺を包み込んだ。
ふと気づくと、そこに立っていたのは別の“俺”だった。
黄金の瞳を持ち、まるで人でないような静謐を纏っている。
「……神の理。」アイナがその存在にひれ伏す。
「あなたが眠らせたもう一つの“根源”。この世に理と秩序をもたらした原始の意志。」
その目が俺を見つめた。
「人の心を抱えた創造主よ。なぜ私を捨てた。」
「お前の理は真実だ。だが、永遠を求めるだけの理は、命を否定する。」
「ならば、命など初めから生まれなければいい。」
俺は息を呑んだ。
神と呼ばれる存在。
それは、俺の中の“完璧”の化身だ。
“欠けることを許せない理”。
その理が形を得て、意識を持っている――つまり、この世界の根本的神性が、今、俺たちに逆らっているのだ。
「レン、見える?」アイナが囁く。
「この世界はあなたが生きる限り、歪み続ける。神は完全を求め、あなたは不完全を愛す。私たちはその狭間で、永遠に争う。」
「争うのは、いつも人間の心だ。」
「では、見せて。」
神が手を伸ばした瞬間、空が破裂した。
理と力の奔流が世界を貫き、俺とアイナを包み込んだ。
耳をつんざく音の中、俺は握った拳に力を込める。
「神の理も、魔の理も、俺のためにあるんじゃない!」
叫ぶと同時に、体が光に包まれる。
「創造とは、人の心が選び取るものだ! 俺が決める、ここから先の世界を!」
爆発的な閃光が、時空を切り裂いた。
次に目を開けたとき、そこは見知らぬ草原。
空には再び青が戻り、風が吹いていた。
エレナたちが地に伏し、遠くでディアナの祈りの声が聞こえる。
「レン様……世界は……?」
俺は立ち上がり、空を仰いだ。
赤い紋様は消え、代わりに白い光が柔らかく瞬いている。
「まだ、終わってはいない。アイナも、神も。どちらも消えてはいない。」
リーゼが微笑む。
「また、あなたらしい答えね。両方を残すなんて。」
「選択しなければ、世界は死ぬ。それが理の本質だ。しかし、それでも俺は――すべてを残す。」
風が頬を撫でた。
その瞬間、どこかで楽しげな声が響く。
リュミナの声だ。
「レン、あなたは本当に“無自覚な最強”ですね。」
俺は苦笑し、剣を肩に担いだ。
「神であろうと魔であろうと、今日も世界は動き続ける。……俺たちの仕事は、まだ終わらない。」
そしてまた、太陽が昇り始めた。
光と影を両に宿す、新たな世界の始まりを告げるかのように。
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