異世界の底辺村で静かに暮らしたいだけなのに、気づけば世界最強の勇者だった件

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第2話 畑を耕したら聖樹が生えた件

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それから数日、リーデ村は奇跡の話でもちきりだった。  
夜通し光を放ったあの聖樹は、今も畑の中央で静かに輝いている。  
葉は金色にきらめき、果実のような珠が枝に実り、朝露が散るたび虹色の光を放った。  
村人たちはその光を浴びると病が癒え、畑に活気が戻るという。  
誰もがそれを「神樹レオンの奇跡」と呼び始めていた。

当の本人であるレオンは、苦々しい顔で畑の隅を掘り返していた。  
「……なんか、俺がやったことになってるけど。絶対違うからな。」

鍬を振るたび、魔力が掌を通じて大地に流れる。  
どうしても自然にそうしてしまうのだ。  
土がみるみる柔らかくなり、根張りが良くなるのが肌でわかる。  
おかしな話だが、魔法というより“息をするように力が出てしまう”感覚だった。

「レオンさーん、また畑の土、ふかふかにしてくれたんですね!」

リーナが籠を抱えて駆け寄ってくる。  
髪をリボンでまとめ、顔を真っ赤にしている。どうやら早朝から働きっぱなしらしい。  
「新しい苗を植えたら、一晩で芽が出ちゃって! もう驚くのに慣れてきました!」

「いや、慣れちゃダメだって……。」

レオンは額の汗をぬぐいながら苦笑した。  
畑仕事そのものは嫌いではない。働けばちゃんと結果が出るし、剣を振るよりずっと平和だ。  
問題は、その“結果”が常識外れなことだ。

「ねぇ、レオンさん。」

リーナは少し声をひそめて言った。  
「王都から、旅の人が来てるみたいです。村長さんの家に泊まってるとか。」

「旅の人? こんな辺境に?」

「うん。なんでも“神樹”の調査とかなんとか……。」

その言葉に、レオンは嫌な予感を覚えた。  
できれば静かに暮らしたいのに、騒ぎが大きくなるのは一番避けたい。  
ため息をついて鍬を地面に突き立てる。

「村長のところに顔を出すか。放っておくのも落ち着かないし。」

* * *

村長の家の前には、立派な馬と紋章入りの鎧を纏った兵士が立っていた。  
やはりただの旅人ではない。  
レオンが声をかけるより早く、部屋の奥から一人の男が出てきた。  
金髪を整え、上等なマントを羽織り、腰には銀の剣。見るからに貴族だ。

「あなたが、この村で“奇跡”を起こしたという男か?」

「は? いえ、俺はそんな――」

「謙遜は要らぬ。」  
男は手を上げてさえぎった。  
「私は第三王立調査団、カデル・フォルド。陛下の命により、神樹の出現原因を調べている。」

「原因……。」

「そうだ。そして、あなたの名を聞かせてもらおう。」

「レオン……ただの流れ者です。」

「ほう、流れ者ね。」  
カデルは顎に手を当てて値踏みするようにレオンを見た。  
「しかし、村人の証言では、あなたが畑を耕した直後に神樹が生えたという。まるで、あなたが“聖なる奇跡”を呼んだように。」

「偶然です。本当に。」

「偶然にしては出来すぎだ。」

不穏な沈黙が落ちる。  
そこへ村長エドワードが出てきて、場をなだめるように言った。  
「カデル殿、レオンは嘘をついとらん。わしらが見ての通り、ただの働き者じゃ。だが奇跡は本物じゃ。レオンが嘘をついていないという事実は、むしろ神の証左かもしれんぞ?」

「ふむ……。」

カデルは少しの間、聖樹の方向を見つめた。  
外では風が吹き抜け、黄金の葉がひらひらと舞っている。  
「……では、試させてもらおう。」

「試す?」

「神樹は真実を映す。あなたがその加護に値する者であるなら、触れたときに聖光が溢れるだろう。」

村人たちが息を呑む中、カデルがレオンの背を押した。  
「さあ、行け。」

レオンは苦笑しながら一歩踏み出す。  
「……光らなかったらどうすんです?」

「無関係として報告するだけだ。」

それで済むなら構わない。  
レオンは聖樹の根元に立ち、そっと手を伸ばした。  
その瞬間――眩い白光が彼を包み込んだ。

風が逆巻き、地が震える。  
聖樹の枝が揺れ、空に向けて幾本もの光が放たれた。  
あまりの輝きに、誰も目を開けていられない。

「な、なんだこれは……!?」

カデルの声がかすれる。  
光が収まる頃には、レオンは膝をついていた。  
掌から淡い金の粉が舞い、聖樹が静かに葉を垂らす。  
村は沈黙し、風の音だけが響いた。

「……これで、信じましたか?」

レオンが息を整えながら立ち上がると、カデルは呆然とつぶやいた。  
「あ、ああ……まるで神話の再現だ。聖樹が応えた……!」

村人たちは歓声を上げた。  
誰もが涙を流し、感謝の祈りを唱える。  
リーナは少し離れたところで目を潤ませながら見ていた。

レオンは両手を見つめる。  
確かに温かい光が宿っていた。しかし、それは心地よいものではなく、熱すぎるほどの力の奔流だった。  
「……どうなってるんだ、俺。」

「あなたは選ばれた存在なのかもしれません。」  
カデルが跪き、レオンを見上げた。  
「王都に来ていただけませんか? 陛下もきっとお喜びになります。」

「遠慮します。俺はここで畑を……」

「しかし!」

強い声を遮って、村長がゆっくりと口を開いた。  
「今は様子を見るのがよいじゃろう。レオンにはレオンの生活がある。」

カデルは不満げに眉をひそめたが、やがて冷静を装って頷いた。  
「……確かに。では、近くでしばらく観察させていただきます。」

そう言い残して兵を引き連れ、彼は一時的に宿屋へと向かった。

* * *

夕暮れの畑。  
リーナが畝に水をまきながらぽつりと言った。  
「ねぇ、レオンさん。あの光、すごかった。まるで空まで震えてた。」

「俺も震えてたよ。怖かったんだ、正直。」

「でも、守ってくれたんですよね。聖樹も、私たちも。」

その言葉に、レオンは少し黙った。  
守った――そう言われても実感がない。  
自分の望みはただ「静かに暮らすこと」。誰かを救う覚悟もない。  
それでも村人たちの笑顔を見ると、彼の胸に温かいものが広がる。

「そうだな。守れたならよかった。」

「ふふっ。やっぱりレオンさんは優しい人だ。」

リーナは嬉しそうに笑い、光る水面を蹴って帰っていった。  
残されたレオンは、ゆっくりと聖樹を見上げる。  
淡い光が枝の隙間から降り注ぎ、金の粉のように舞っていた。

「……あんたは、俺をどこへ連れて行くつもりなんだろうな。」

風が静かに応えるだけだった。  
レオンの胸の奥で、得体の知れない鼓動が鳴っていた。  
その音は、遠くで何かが目覚める前触れのように感じられた。

(続く)
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