2 / 4
第2話 森で拾った少女と出会う
しおりを挟む
朝霧が森の中に漂っていた。小鳥のさえずりがかすかに聞こえる中、レオンは焚き火の前で目を覚ました。
昨夜の出来事が、夢だったのか現実なのか判断がつかない。だが、手のひらに刻まれた紋章が、全てを現実だと示していた。
「……本当に、俺が神の子なんてな。」
呟きながら火をかき立て、パンを温める。
空腹を満たそうと一口かじると、森の奥からわずかな悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ……!」
レオンは反射的に顔を上げる。鳥の群れが舞い上がり、地響きが近づいてくる。
「誰かが、襲われてる?」
考えるよりも早く、レオンの足は駆け出していた。
木々をかき分け、声の方向へ進むと、そこには一人の少女が倒れていた。
血まみれのドレス、腕には無数の傷。
彼女の前には、異様な姿をした魔物──巨大な猪のようなモンスターが牙を剥いていた。
「危ない!」
レオンは思わず飛び出し、少女と魔物の間に立った。
「グオォォォッ!!」
魔物が突進してくる。地面が割れるほどの衝撃。
しかし、レオンは恐怖を感じなかった。むしろ胸の奥が静かに燃えるような感覚があった。
「動くな……俺が、やる!」
手をかざした瞬間、光が爆ぜた。
足元に陣が描かれ、眩い稲妻が空を裂く。
次の瞬間、魔物は爆音と共に吹き飛び、黒焦げの煙だけを残して地に沈んだ。
「……まただ。」
レオンは自分の手を見つめた。制御している感覚が、まるでなかった。力が勝手に溢れ出すように、自然に魔法が発動していた。
「あなた……今の、何?」
震える声で少女が見上げた。
レオンは彼女の傍へ行き、膝をついて尋ねる。
「大丈夫か?ケガがひどい。待ってろ、癒やす。」
手を彼女の傷にかざすと、温かな光が包み込んだ。
淡い金色の輝きが流れ、彼女の皮膚の裂け目が瞬く間に塞がっていく。
少女は唇を震わせてつぶやく。
「この光……まさか、神聖魔法……?」
「そんなのよくわからない。ただ、助けたかっただけだ。」
彼女の瞳が、驚きと尊敬の混じった色に変わった。
「ありがとう……あなた、すごい人なのね。」
「いや、俺なんて……つい最近まで雑用係だったんだ。」
思わず自嘲混じりに笑うと、少女はぽかんと口を開けた。
「雑用係?嘘でしょ。そんな力があるのに?」
「俺自身、昨日まで知らなかったんだ。どうやら、封印されてたらしい。」
「封印……?」
レオンは簡単に事情を説明した。神の声を聞いたこと、自分の中に力が眠っていたこと。
それを黙って聞いていた少女が、やがて深く息をついた。
「あなた、もしかして……本当に、神の血を継ぐ者なのかもしれない。」
「そんなの信じてくれるのか?」
「ええ。だって、今の魔法、人間じゃ無理だもの。」
彼女は微笑みながら立ち上がろうとしたが、すぐに足を押さえて崩れた。
「無理するな。傷は塞がったけど、体力が戻ってないんだ。」
レオンは彼女を支え、近くの切り株に座らせた。
「ありがとう……本当に助けてくれて。」
「気にするな。それより、名前を聞いてもいいか?」
「私はユリィ。王都から逃げてきたの。」
その言葉に、レオンの表情がかすかに動く。
「王都から?冒険者か?」
ユリィは首を横に振った。
「いいえ、違うの。私は……王都アルダリアの第四王女、ユリィ・アルダリア。」
「……王女?」
想定外の答えに、レオンは言葉を失う。
「でも今は、ただの逃亡者よ。」
ユリィは苦く笑いながら続けた。
「私の国は今、帝国に狙われているの。父が病で倒れ、兄たちは跡継ぎ争いをして……私は命を狙われたの。」
レオンは拳を握った。
「追われてるのか。」
「ええ。さっきの魔物、きっと帝国が放ったものでしょう。魔獣使いたちが、追手と一緒に来ていた。」
空に黒い鳥の影が遠く見えた。その方向を見つめながら、レオンは考える。
「ここにい続けたら危険だ。森の外れに小さな洞窟がある。しばらくそこに隠れよう。」
「でも、あなたに迷惑を──」
「気にするな。困ってる人を放っておけるほど冷たくはないさ。」
*****
洞窟の中。焚き火の明かりが二人の影を映す。
ユリィは温かいスープを手に持ちながら、静かに尋ねた。
「ねえ、レオン。どうしてあんな状況でも、人を助けようと思えるの?」
レオンは少し考えてから答えた。
「俺にはもう、帰る場所がないからだ。だったらせめて、必要としてくれる人の力になりたい。」
ユリィはスープを見つめたまま呟く。
「……あなた、優しいのね。」
「優しいっていうより、バカなんだろうな。」
「ふふ、そんなことないわ。」
焚き火がぱちぱちと音を立てる。穏やかな時間の中で、ユリィは目を閉じたまま微笑んだ。
「不思議ね。今日出会ったばかりなのに、あなたといると安心する。」
「そりゃあ、命の恩人だからな。」
「それだけじゃないわ。何か……懐かしい感じがするの。」
レオンは驚いて彼女を見る。
ユリィの瞳が、焚き火の光を反射して金色に輝いていた。
まるで神々の光を宿すように──。
――おそらく、この出会いは偶然ではない。
アルシェの声が、どこか遠くで響いた気がした。
(これも、運命ってやつか。)
レオンは小さく息をつき、焚き火に木をくべた。
外では冷たい風が唸り、闇がさらに深まりゆく。
だがその中心で、二人だけの新しい物語が静かに動き始めていた。
(続く)
昨夜の出来事が、夢だったのか現実なのか判断がつかない。だが、手のひらに刻まれた紋章が、全てを現実だと示していた。
「……本当に、俺が神の子なんてな。」
呟きながら火をかき立て、パンを温める。
空腹を満たそうと一口かじると、森の奥からわずかな悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ……!」
レオンは反射的に顔を上げる。鳥の群れが舞い上がり、地響きが近づいてくる。
「誰かが、襲われてる?」
考えるよりも早く、レオンの足は駆け出していた。
木々をかき分け、声の方向へ進むと、そこには一人の少女が倒れていた。
血まみれのドレス、腕には無数の傷。
彼女の前には、異様な姿をした魔物──巨大な猪のようなモンスターが牙を剥いていた。
「危ない!」
レオンは思わず飛び出し、少女と魔物の間に立った。
「グオォォォッ!!」
魔物が突進してくる。地面が割れるほどの衝撃。
しかし、レオンは恐怖を感じなかった。むしろ胸の奥が静かに燃えるような感覚があった。
「動くな……俺が、やる!」
手をかざした瞬間、光が爆ぜた。
足元に陣が描かれ、眩い稲妻が空を裂く。
次の瞬間、魔物は爆音と共に吹き飛び、黒焦げの煙だけを残して地に沈んだ。
「……まただ。」
レオンは自分の手を見つめた。制御している感覚が、まるでなかった。力が勝手に溢れ出すように、自然に魔法が発動していた。
「あなた……今の、何?」
震える声で少女が見上げた。
レオンは彼女の傍へ行き、膝をついて尋ねる。
「大丈夫か?ケガがひどい。待ってろ、癒やす。」
手を彼女の傷にかざすと、温かな光が包み込んだ。
淡い金色の輝きが流れ、彼女の皮膚の裂け目が瞬く間に塞がっていく。
少女は唇を震わせてつぶやく。
「この光……まさか、神聖魔法……?」
「そんなのよくわからない。ただ、助けたかっただけだ。」
彼女の瞳が、驚きと尊敬の混じった色に変わった。
「ありがとう……あなた、すごい人なのね。」
「いや、俺なんて……つい最近まで雑用係だったんだ。」
思わず自嘲混じりに笑うと、少女はぽかんと口を開けた。
「雑用係?嘘でしょ。そんな力があるのに?」
「俺自身、昨日まで知らなかったんだ。どうやら、封印されてたらしい。」
「封印……?」
レオンは簡単に事情を説明した。神の声を聞いたこと、自分の中に力が眠っていたこと。
それを黙って聞いていた少女が、やがて深く息をついた。
「あなた、もしかして……本当に、神の血を継ぐ者なのかもしれない。」
「そんなの信じてくれるのか?」
「ええ。だって、今の魔法、人間じゃ無理だもの。」
彼女は微笑みながら立ち上がろうとしたが、すぐに足を押さえて崩れた。
「無理するな。傷は塞がったけど、体力が戻ってないんだ。」
レオンは彼女を支え、近くの切り株に座らせた。
「ありがとう……本当に助けてくれて。」
「気にするな。それより、名前を聞いてもいいか?」
「私はユリィ。王都から逃げてきたの。」
その言葉に、レオンの表情がかすかに動く。
「王都から?冒険者か?」
ユリィは首を横に振った。
「いいえ、違うの。私は……王都アルダリアの第四王女、ユリィ・アルダリア。」
「……王女?」
想定外の答えに、レオンは言葉を失う。
「でも今は、ただの逃亡者よ。」
ユリィは苦く笑いながら続けた。
「私の国は今、帝国に狙われているの。父が病で倒れ、兄たちは跡継ぎ争いをして……私は命を狙われたの。」
レオンは拳を握った。
「追われてるのか。」
「ええ。さっきの魔物、きっと帝国が放ったものでしょう。魔獣使いたちが、追手と一緒に来ていた。」
空に黒い鳥の影が遠く見えた。その方向を見つめながら、レオンは考える。
「ここにい続けたら危険だ。森の外れに小さな洞窟がある。しばらくそこに隠れよう。」
「でも、あなたに迷惑を──」
「気にするな。困ってる人を放っておけるほど冷たくはないさ。」
*****
洞窟の中。焚き火の明かりが二人の影を映す。
ユリィは温かいスープを手に持ちながら、静かに尋ねた。
「ねえ、レオン。どうしてあんな状況でも、人を助けようと思えるの?」
レオンは少し考えてから答えた。
「俺にはもう、帰る場所がないからだ。だったらせめて、必要としてくれる人の力になりたい。」
ユリィはスープを見つめたまま呟く。
「……あなた、優しいのね。」
「優しいっていうより、バカなんだろうな。」
「ふふ、そんなことないわ。」
焚き火がぱちぱちと音を立てる。穏やかな時間の中で、ユリィは目を閉じたまま微笑んだ。
「不思議ね。今日出会ったばかりなのに、あなたといると安心する。」
「そりゃあ、命の恩人だからな。」
「それだけじゃないわ。何か……懐かしい感じがするの。」
レオンは驚いて彼女を見る。
ユリィの瞳が、焚き火の光を反射して金色に輝いていた。
まるで神々の光を宿すように──。
――おそらく、この出会いは偶然ではない。
アルシェの声が、どこか遠くで響いた気がした。
(これも、運命ってやつか。)
レオンは小さく息をつき、焚き火に木をくべた。
外では冷たい風が唸り、闇がさらに深まりゆく。
だがその中心で、二人だけの新しい物語が静かに動き始めていた。
(続く)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら追放された雑用スキルで世界最強になっていた件~無自覚に救国してハーレム王になった元落ちこぼれの俺~
fuwamofu
ファンタジー
冒険者ギルドで「雑用」スキルしか持たなかった青年・カイ。仲間から無能扱いされ、あげく追放された彼は、偶然開花したスキルの真の力で世界の理を揺るがす存在となる。モンスターを従え、王女に慕われ、美少女賢者や女騎士まで惹かれていく。だが彼自身はそれにまるで気付かず、ただ「役に立ちたい」と願うだけ――やがて神々すら震える無自覚最強の伝説が幕を開ける。
追放者、覚醒、ざまぁ、そしてハーレム。読後スカッとする異世界成り上がり譚!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
追放された村人、実は世界最強でした~勇者パーティーを救ったら全員土下座してきた件~
fuwamofu
ファンタジー
村で地味に暮らしていた青年アレンは、勇者パーティーの雑用係として異世界冒険に出るが、些細な事故をきっかけに追放されてしまう。だが彼の真の力は、世界の理に触れる“創造の権能”。
追放後、彼は優しき女神や獣娘、元敵国の姫たちと出会い、知らぬ間に国を救い、人々から崇められていく。
己の力に無自覚なまま、やがてアレンは世界最強の存在として伝説となる。
仲間たちに裏切られた過去を越え、彼は「本当の仲間」と共に、新たな世界の頂点へと歩む。
──これは、すべての「追放ざまぁ」を極めた男の、無自覚な英雄譚。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
追放された錬金術師は知らぬ間に神話級、気づけば王女と聖女と竜姫に囲まれていた件
fuwamofu
ファンタジー
錬金術師アレンは、勇者パーティから「足手まとい」として追放された──。
だが彼が作っていた薬と装備は、実は神すら凌駕する代物だった。
森で静かにスローライフ……のはずが、いつの間にか王女・聖女・竜姫に囲まれ、世界の命運を任されていた!?
無自覚に最強で無自覚にモテまくる、ざまぁたっぷりの異世界成り上がりファンタジー。
気づいたときには、全ての強者が彼の足元にひれ伏していた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる