鬼人の養子になりまして~吾妻ミツバと鬼人の婚約者~

石動なつめ

文字の大きさ
9 / 28

第八話 常桜学園の入学式

しおりを挟む

 ミツバとソウジが婚約してひと月ほど経った、四月。
 桜の花弁が舞う中、ミツバは義姉のツバキと一緒に常桜学園ふだんざくらがくえん――鬼人達が多く在籍している学園――へとやって来た。
 入学式のためだ。本日からミツバはこの学園に通う高校生となるのである。

 学園が近付いて来ると、校門前に見知った顔が立っているのが見えた。
 ソウジだ。彼も常桜学園の学生服を着ている。ソウジはミツバ達の姿を確認すると、朗らかな笑顔を浮かべて手を振ってくれた。

「おはようございます、ミツバさん、ツバキさん」
「おはようございます、ソウジ君。今日は良いお天気ですね」
「おはよう。なーに、待ち伏せしちゃって」
「せっかくなのでミツバさんと一緒に行きたいなって思って」

 ふふ、と笑って言うソウジに、ツバキが頬を引き攣らせる。

「あんた、意外と攻めるわね……」
「どうせなら仲良くなりたいなって。あと、ちょっと周囲の様子がどうなるか気になったもので。牽制をしておこうかと」
「それには同意するけど、あんた良い性格しているわね……。ミツバ、こいつ本当に性格が悪いから騙されちゃダメよ?」
「ふふ、心外です」

 ツバキの言葉に、ソウジは良い笑顔を浮かべてそう返した。
 そう言えば前にもツバキはソウジの性格について言及していた気がする。
 今のところミツバはそれを感じた事はないが、付き合いが深まっていく内に分かるかもしれない。
 そんな事思いながら、

(それにしても、牽制って何のだろう?)

 ミツバはそう思った。
 ソウジの言った言葉だ。意味は分かるが、どうしてそれが出て来たのか謎である。
 ミツバは少し首を傾げながらも、二人と並んで体育館へ向かって歩き出した。

 そうしていると何だか妙に視線を感じる。
 あれ、と思って周囲を見れば、複数人の鬼人がミツバ達の方を見ていた。
 何も注目を浴びるような事はしていないのだが――そう思っていると、ツバキが不快そうにため息を吐いた。
 
「あ~、やっぱり面倒ね。先に婚約しちゃって良かったわ。すっごく面白くないけど」

 そしてそうも言った。
 どうやら視線の原因は婚約絡みだったようだ。
 となると理由はソウジだろうか。ミツバは軽く頷きながら彼の方へ目を向けた。

「ソウジ君、モテそうだものね」
「まぁ確かに、そこそこモテるけどね。そうじゃなくて視線はミツバへよ」
「私?」

 えっ、とミツバは目を丸くする。
 予想外のご指名だ。何で自分に注目が集まるのだと少し考えて――最初に浮かんだのはソウジ絡みの嫉妬である。

「なるほど、つまり嫉妬と。姉さん、私、嫉妬されるの初めてだわ」
「何でちょっと嬉しそうなの。違うわよ。お父様から聞いたでしょう? ほら、天秤の」
「なるほど……? でも私、実感が湧かないのだけれど」
「ま、人間相手だと微弱な効果しかないから仕方ないわ」
「あるの?」
「あるわよ。一緒にいると何でか落ち着くとか、喧嘩する気が失せたとか、そういう人いるでしょう?」
「なるほど……?」

 何となく分かったような気がするが、あいにくとミツバはあまりたくさんの人と関わった事が無い。
 なのでとりあえず曖昧に返せば、ツバキから軽くため息を吐かれてしまった。

「……こういう感じだから、頼むわよソウジ。あたしは学年が違うからいつも一緒にいられないし」
「ええ、もちろんですよ。ミツバさんと一緒なら力も安定するので、問題なく処理できますし」
「処理です?」
「処理です」

 処理らしい。言葉は物騒だが、まぁ、物理的にそんな事はしないだろう。
 ミツバはそう思っていたのだが、

「いちいち言い方が怖いのよ。柔和な笑顔で誤魔化しきれる範囲を越えるわよ」
「ふふ」
「ふふ、じゃないのよ」

 大層心配なやり取りが聞こえて来た。
 そんな話をしていたら、三人は体育館に到着した。
 入学式用に紙で作られた花で飾られた体育館は、ちょっと華やかだ。
 入り口から中へ入ると、ツバキは体育科のステージ前を指さした。

「それじゃ、一年二組の列はあっちよ。しっかりね、ミツバ」
「はい、姉さん」
「何かあったらすっ飛んで行くから」

 そう言って笑うと、ツバキは三年生の列へと向かった。
 ミツバは義姉に手を振ると、ソウジと一緒に自分達のクラスの列へと歩き出した。

「それにしてもソウジ君と一緒のクラスだったんですね」
「ええ。だから入学前に婚約したんですよ。人間と鬼人の婚約だと学園側が特別に配慮してくれるんです。大体ミツバさんと似た状況ですし」
「なるほど、手厚い」
「……でないと誘拐とか普通にありますからねぇ」

 ぼそ、とソウジは呟いた。
 今、小声で何やら不穏な事を言わなかっただろうか。
 鬼人の世界はミツバが考えているよりも物騒なようだ。
 なるほどなぁ、と呟きながらミツバはソウジと一緒に列に並ぶ。
 その間もまぁまぁ視線は感じたが、とりあえずミツバが気にしないようにしていると、程なくして入学式が始まった。

 入学式の流れは人間の学校と同じだ。
 学園の校長先生――神坂校長の挨拶から式が始まる。
 ちなみに校長の額には角が生えていない。人間ようだ。
 鬼人の学園で人間の校長先生って珍しいなとミツバが思っていると、やがて生徒会長の挨拶の番になった。
 カツカツと足音を響かせながら、壇上に、赤い髪の学生が立つ。

(あれ……?)

 何か、見覚えがある気がする。
 ミツバがそう思っていると、

「常桜高校の生徒会長、東堂レンジだ。よろしく頼む」

 件の生徒会長は堂々と挨拶をした。
 東堂レンジと言えば、先日『月猫』で会った鬼人だ。ミツバは目を瞬く。

「えっ」
「驚きますよね。よくあの人を生徒会長に選んだなって」
「いやぁそこまでは……」

 思っていないわけでもないのだが。
 そんなやり取りなど聞こえていないレンジは、ぐるりと体育館を見回して、ミツバ達を見つけるとニッと笑った。

(面倒見てやるってこういう事かぁ)

 若干不安な部分もあるが、確かに頼りになりそうだ。
 そんな事を思いながら、ミツバはレンジに笑い返したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...