鬼人の養子になりまして~吾妻ミツバと鬼人の婚約者~

石動なつめ

文字の大きさ
8 / 28

第七話 勘違い

しおりを挟む

 あの後レンジはカオルから物凄く怒られた。
 と言っても怒鳴るとかそういう事はない。ただ目の前に正座させられ、淡々とお説教をされていたのだ。
 声を荒げる事もなく静かに諭すように言うカオルを見て、ミツバは『大人とはこういう事なんだ』と感心していたところ、

「あれ、鬼人にしか分からない方法で怒られているんですよ」

 とソウジが教えてくれた。彼も若干顔色が悪い。
 鬼人の世界のあれこれはまだまだミツバには分からない。
 なるほどなぁと思いながら話が終わるのを待っていると、三十分くらいでレンジは解放された。

 とは言え説教が終わってハイ終了、というわけではなく、自分が散らかした店内の後始末をする事になったのだが。
 ご丁寧に首から『私が壊しました』という看板――何でそんなものがあるのかは分からないが――を下げながら、レンジは箒と塵取りでガラスを集めている。

「酷ぇ目にあった……」
「お店を壊したレンジ君が悪いんですよ?」
「分かってるよぉ……」

 しょんぼりしながらレンジは箒を動かす。
 そのせいだろうか、背丈は大きいのに、何故だか小さくなっているように見える。カオルの説教が相当効いているようだ。

「ソウジ君、ソウジ君。マスターってお強いんですね」
「まぁ、祓い屋が集まる店のマスターですからねぇ。たまに店の中で、祓い屋同士の喧嘩が始まる事もあるんですよ」
「あ、もしかして、だからあの首から下げる看板が?」
「そういう事です」

 どうやらレンジが今下げている看板は、わりと使用されているらしい。
 祓い屋って物騒だなぁとミツバは思った。

「それでレンジ君、話は戻りますが。あなたは僕とツバキさんが婚約すると勘違いして、慌てて飛んで来たんですか?」
「べっ別に慌てて来たわけじゃねーよ。たまたま親父達の話を聞いてだな!」
「賀東家は相変わらず耳だけは早いな……」
「耳だけって何だ耳だけって!」

 くわっ、とレンジが目を見開いてそう文句を言う。
 しかし遠くから「レンジ君?」というカオルの声が聞こえて来て、慌てて口を閉じた。
 ふふ、とミツバが笑うと、レンジはバツが悪そうな顔になる。

「……あー、えっとな。勘違いして悪かったな。怪我はしていないか?」
「はい。ソウジ君が守ってくださったので、そこは全然」
「そうか、良かった。……俺は賀東レンジってんだ。ツバキとは同級生になる」
「あ、先輩でしたか。改めて吾妻ミツバです。よろしくお願いします」
「せっ先輩っ!?」

 ミツバが先輩と呼ぶとレンジが変な声を出した。

「そ、そうか、先輩か……。悪くないもんだな……へへ……」

 心なしか嬉しそうである。ニヤニヤと笑い出すレンジを見て、ソウジの目がすうと細まる。

「ミツバさん、この人、呼び捨てで構いませんよ」
「何でだよ! っていうかお前も後輩だろ、先輩って呼んでいいんだぞ!」
「え……嫌……」
「わりとガチめの拒絶が心にくる……」

 丁寧語も引っ込んだソウジの言葉に、ひくっとレンジが頬を引き攣らせた。
 こういう反応を見るとソウジも年相応に見えて来る。ミツバが思わず噴き出すと、彼はハッとした顔で、

「一応、賀東家も祓い屋になります。吾妻と同じ、攻め側ですね」

 少し早口で誤魔化すように教えてくれた。

「お前はいちいち癇に障る言い方をだな……」
「違います?」
「違わねーけどもよー」
「……お二人共、本当は仲がよろしいのでは?」

 思わずミツバがツッコミを入れたが、ソウジとレンジの反応は「えぇ……」という微妙そうなものだった。
 仲が良いとは思うが――まぁそれは置いておいて、性格的な相性も良さそうだ。
 そんな事を考えながらミツバは「ところで」とレンジを見る。

「あのー、賀東先輩。ご質問があるのですが」
「ツバキの妹なら、名前で呼んでくれていいぜ。何だ?」
「ではレンジ先輩。ツバキ姉さんの事がお好きなのですか?」
「ぐっ!」

 ミツバが一番気になっていた部分を聞くと、とたんにレンジは咽る。

「な、な、な……!? 何を馬鹿な事を仰って!?」
「分かりやすい……」

 言葉で聞くより分かりやすい態度に、ミツバは満足して軽く頷いた。

「なるほど、ありがとうございます」
「俺、何で礼を言われてんの? あ、いや! あの、その……だな……好きっていうかぁ……」
「はっきりされた方が姉さんの好みだと思います」
「好きです」

 ミツバがそう言えば、レンジはキリッとした顔でそう答えた。
 つまり彼はツバキの事が好きで、彼女を悲しませると思ったからソウジのところへ殴り込みに来たというわけだ。
 やり方に問題はあるが、結構、良い人なのかもしれないとミツバは思った。
 だんだん微笑ましい気持ちになっていると、目にその感情が乗ったのだろう。それに気づいたレンジが拗ねたように口を尖らせる。

「ツバキには絶対に言わないでくれよ。ちゃんと強くなって、自分から言うからさ」
「ええ、もちろんです。ふふふ」
「僕、この人が義兄になるの嫌ですねぇ」
「めちゃめちゃ良い笑顔で何て事を言うんだお前。俺だってお前が義弟になるの嫌だよ」
「やっぱりお二人、仲が良いんですね」
「どこがそう見えました?」
「目が悪いのかお前は」

 ミツバがしみじみと言うと、二人揃って心外だ、という反応をされてしまった。
 やっぱり仲が良いと思う。

「ところで、そうか。ミツバはソウジと婚約……するんだよな?」
「はい。お互いに問題がなさそうなので、そうなると思います」
「お歳は?」
「十五です」
「ほーん。となると、今度の春から常桜学園ふだんざくらがくえんに通う事になるわけか」

 そう言うとレンジはニッと笑った。

「そんじゃ、その時は俺もちゃんと面倒見てやるから、安心しろよ」
「全然安心できない事を言いますねぇ」
「ソウジは本当にクソ生意気だな」

 ソウジとレンジのやり取りは、一番最初のギスギスした雰囲気とは打って変わって楽しそうだ。ミツバもくすくす笑っては、彼らの会話に混ざる。
 そうしているうちに時間が過ぎて、スギノ達も戻って来て――この惨状を見てぎょっとするのは、もうしばらく後の話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...