願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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11 子供たちの優しさ

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(海鮮丼もあら汁も美味かったな……)

 柿原シーパラダイスに到着した港は、着ぐるみの中でしみじみとそう思った。
 頭に浮かぶのは、先ほど食べた海鮮丼とあら汁だ。
 やはり漁港が同市にある店の魚料理は格別だ。
 スーパーで売られているものも美味しいが、店という空気感も相まって、格別に感じられた。

(また行こう)

 港は心にそう誓いながら仕事へと意識を戻す。

(しかし、やっぱり土日は人が多いなぁ)

 本日の開園からそこそこ経つが、平日と比べて客が多い。
 親子連れ、学生、恋人たち。客層もバラエティー豊かだ。

「カキペンくん、写真いいですか?」
「わたしも一緒に写真撮りたーい!」

 そしてカキペンくんとの撮影希望もひっきりなしだ。
 ちなみにそういう時は、水槽から離れて撮影してもらう。フラッシュもなしだ。

(魚が驚いたり、場合によっては死んでしまうかもしれないらしいからな)

 カキペンくんマニュアルに書いてあった内容の受け売りだが、なかなか責任重大な役割である。

『フラッシュはやめてね! おさかなさんたちがおどろいちゃうから!』

 そう書かれた看板も館内のあちこちに書かれている。
 カキペンくんが立つ場所は、大体そういう看板の近くだ。
 言葉を発することが出来ないので、客に注意事項を伝えるためには、これが一番良い――と、これもマニュアルに書いてあった。

(カキペンくんマニュアルすげぇな)

 かゆいところまで手が届く。
 そんな感じの内容だ。恐らく仕事の出来る奴が作ったものなのだろう。

(俺もこのくらい分かりやすく、引き継ぎ書が作れているかな……)

 営業先への挨拶やら何やらで、引継ぎ期間のほとんどは終わってしまったが、一応は港も引き継ぎ書は作って渡して来た。
 自分の他に整理解雇された同僚の中には「そんなもんやってられるか!」と、怒って即座に有給休暇を取った奴もいるらしいが、さすがに港はそれが出来なかった。

(社会人として……というのじゃないけどな)

 自分はこれまでちゃんと仕事をして来た。
 最後まで、ちゃんと仕事をした。
 港はそれを分かりやすい形で残したかっただけだ。

(ま、辞めた奴のことなんて、一ヶ月もすりゃあっという間に忘れるだろうけれど)

 実際に港もそうだった。
 同じ部署にいた後輩が退職する時は寂しさも感じたが、それも一ヶ月経てば、最初からいなかったような錯覚を覚えるほど、思い出すこともなくなった。
 人間の記憶というもの忘れっぽくて、それなりに薄情なものなのだろう。

(薄情なのは俺が、かもしれないけど)

 心の中でそう呟く。
 いずれ港も、その後輩と同じように、最初からいなかったような存在になるのだろう。

(空しい……)

 ここでアルバイトをして、少しは気が紛れていたが、ふっとした時に思い出す。
 それだけ自分はショックだったのだと、改めて実感して、より一層空しさが増した。

「カキペンくん、元気ない? 大丈夫?」
「カキペンくん、元気出してー」

 そんなことを考えていたら、動きが止まっていたようだ。
 子供たちの声にハッとして顔を向けると、心配そうな顔で自分を見上げてくれていた。

(や、優しい……!)

 思わず泣きそうになった港だったが、声を出したらそれこそお終いである。
 両手をパタパタを動かして、大丈夫だよというポーズをして見せれば、子供たちは「良かったー!」と笑った。

(優しすぎる……がんばろ……)

 人の善意や厚意は、今の自分にとても良く効く。
 それだけで頑張る気力が湧いてくるのが、すごいなぁと思う港だった。
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