願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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12 老紳士

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 そうして働いて、今日もまた夕方がやって来た。
 土曜日ということもあって、夕方になってもなかなか客の数は減らない。
 港も、今回はうまく休憩が取れなくて、へとへとになっていたところを、智が気が付いて「ちょっと休んできな」と声をかけてくれた。
 港はお言葉に甘えて、また、この間の自販機のところへと向かった。

(助かった……)

 はぁ、と息を吐いて、カキペンくんの頭部を取った港は、今日も自動販売機で砂糖入りの缶コーヒーを買う。
 ガコン、と落ちてきたそれを拾い上げ、ベンチに座るとぐったりと上半身を膝の方へと倒した。

「いや、マジ、きつかったわ……。すげーな、遊園地とか、プロ野球とかの着ぐるみの人……」

 体力を消費するのはもちろんだが、接客業ということで、普段そこまで使わない気配りを常にする必要がある。
 それが精神的な面で結構疲れるのだ。
 唯一の救いは、カキペンくんの頭をかぶっているため、自分の表情を取り繕わなくて良いことである。

(人には見せられない顔してたわ、たぶん)

 疲労困憊のげっそりした顔。
 鏡を見ていないので断言は出来ないが、きっと自分はあんな表情をしていたはずだ。

「……働き始めたころ、良くしてたっけなぁ」

 先輩に色んな営業先へ連れて行ってもらって、足が棒になるくらい歩いて、へとへとになって。
 休日に外出する体力もなくて、気が付いたら昼間で寝てしまっていた。
 その先輩も、定年退職してしまって、もういない。

(頑張れよって言われたっけ)

 穏やかに笑う、大らかな先輩だった。尊敬していた。
 自分も後輩にあんな風に接したいと思ったものだ。

(すみません、先輩。頑張ったけどダメでした)

 はは、と渇いた笑いを零し、港は缶コーヒーをカシュと開ける。
 コーヒーの良い香りが、ぽつんと空いたような空間に、ふわりと漂った。

「辛そうな顔をなさっておりますね、お兄さん」

 そうしていると、ふと、近くからそんな声が聞こえて来た。

「え?」

 声の方へ顔を向けると、杖を突いた白髪の老紳士が立っていた。
 品の良い白スーツを着た、穏やかそうな顔立ちをしている。
 港は一瞬ポカンとした後でハッと我に返る。

「あっ」

 しまった、気付かなかった。
 缶コーヒーをベンチに置いて、慌ててカキペンくんの頭部へ手を伸ばす。

「いえいえ、大丈夫ですよ。そのままで結構です」

 老紳士はにこりと微笑むと、

「隣、よろしいでしょうか?」

 と訊いて来た。

(……何となく、デジャヴだな)

 その質問に、この間の女性のことを思い出した。
 あの時も今のように缶コーヒーを飲んでいたら声が聞こえて、人がいたことに気が付いたのだ。
 そういえば、立っている位置も同じのような気がする。

(死角になってんのかな、あそこ)

 それとも人の気配すら気付けないくらい、自分は疲れ切っているのか。
 どちらにせよ、カキペンくんの中身を客にまた見られてしまった。
 子供でなかったことだけが幸いだけれど、と港は思いつつ、カキペンくんの頭部を膝の上に乗せて、

「もちろんです、どうぞ」

 と老紳士に返事をした。
 彼はにこりと穏やかな笑みを浮かべると、靴音も杖の音も立てずにベンチまでやって来て、港の隣にすっと腰を下ろした。
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