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第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜
082●フロー編●73.遠い未来
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ツェツィーリアがいなくなったフローリアンの悲しみは、ラルスだけではなく周りの者たちも気づいていたようだった。
フローリアンは最愛の妻を亡くしたと思われているのだから、当然とも言えたが。
世継ぎ問題を唱え始めた男たちに、フローリアンは宣言した。ツェツィーリア以外の女性を娶るつもりはない、と。
その結果、女も継承権を認める動きが高まり、王位継承法を改正させ、最終的にメイベルティーネが王位継承権第一位となった。
ずっとフローリアンが目指していたことが現実となってホッとする。
我が子に、この国初の女王という重責を背負わせてしまうことを申し訳なく思うが、それでも男装をさせるよりはいくらかマシなはずだ。
ツェツィーリアがいなくなった今、もう子どもは生まれないことになっている。厳密に言えば、ラルスとの子はまた病気療養と称して産むことはできるが、たとえそうして生まれたとしても自分の子どもだとは言えないし、誰かに引き取って育ててもらうしかない。
子どもを産んでも自分の子だと言えないのは悲しいが、とりあえずは王位継承法の改正でメイベルティーネが第一継承者になれたため、ラウツェニングの血は絶やさずにすむ。そのことにフローリアンはほっとしていた。
「女性にも王位継承権が認められたなら、フローラも女王にはなれないですかね……」
夜、二人っきりになった時、ラルスはぽつりとそういった。おそらく、本気では言ってないだろう。ラルスだって、本当はわかっているはずだ。
「僕の本当の性別は明かせないよ…… 国民を騙していたことには違いないし、公にして罪科があるのは母さまになってしまう。それに、ようやく女性の地位が向上してきた時にこんなことを言えば、この政策が立ち消えるどころか、元の木阿弥になってしまうかもしれない」
もう一度クーデターが起こることはないにしろ、王が実は女だったなどと、反感を買うことは必至だろう。ここまできて、それだけは避けなくてはならない。
ラルスは悲しそうに眉を下げていて、フローリアンの胸は苦しくなった。
「ごめんね、ラルス……僕が女に戻れなくて」
「俺は大丈夫ですよ。フローラがかわいい女性だってこと、わかってるんで」
ラルスは目を細めながら、フローリアンの髪をその手で優しく梳いてくれる。
くすぐったくて少し身じろぎすると、今度はぐいっと頭を寄せられて、唇を重ね合わせた。
「ん、ラルス……」
「フローラのそんな顔を見るのは、俺だけの特権ですから。普段は護衛騎士でいてもまったく問題ありませんよ」
「でも……ツェツィーたちがここを出る幸せを選んだように、本当はラルスもそうしたいんじゃないの? 僕のせいで、できないだけで……」
そう問いかけると、ラルスは「んー」と宙を見つめている。
「でも俺たちは、ツェツィーリア様やイグナーツ殿のようにはいかないことはわかっていますし」
「ごめん」
「謝らなくてもいいですって。その分、楽しみがあるじゃないですか」
「楽しみ?」
なんのことかわからず首を傾げると、ラルスはそっと目を細めた。
「いつかベルが大きくなって女王になったら……フローラは、退位しますよね」
「うん、まぁ、そうだね」
「その時には女に戻って、どこかでひっそり暮らしませんか?」
当然のようにそう言ったラルスの顔を、フローリアンはぽかんと見上げる。
メイベルティーネが女王になるのは、早くとも二十五年の歳月が必要だろう。そんな遠い未来のことまで考えていなかった。しかし言われてみれば、確かにその時なら隠居してしまってもおかしくない年齢だ。
「いつか、本当の夫婦として俺たちも一緒に暮らしましょう」
「うん……一緒に、暮らしたい……」
「俺、フローラのことを〝俺の嫁さんだ〟って紹介するのが夢なんですよ」
「ふふっ」
ラルスの優しい瞳がフローリアンの視界を覆う。
フローリアンがそっと目を瞑ると、温かいものが唇に触れた。
それは、遠い遠い未来の約束。
老後といって差し支えのない年齢での、二人の生活。
そのことに少し寂しさを覚えながら、フローリアンはぎゅっとラルスを抱きしめていた。
フローリアンは最愛の妻を亡くしたと思われているのだから、当然とも言えたが。
世継ぎ問題を唱え始めた男たちに、フローリアンは宣言した。ツェツィーリア以外の女性を娶るつもりはない、と。
その結果、女も継承権を認める動きが高まり、王位継承法を改正させ、最終的にメイベルティーネが王位継承権第一位となった。
ずっとフローリアンが目指していたことが現実となってホッとする。
我が子に、この国初の女王という重責を背負わせてしまうことを申し訳なく思うが、それでも男装をさせるよりはいくらかマシなはずだ。
ツェツィーリアがいなくなった今、もう子どもは生まれないことになっている。厳密に言えば、ラルスとの子はまた病気療養と称して産むことはできるが、たとえそうして生まれたとしても自分の子どもだとは言えないし、誰かに引き取って育ててもらうしかない。
子どもを産んでも自分の子だと言えないのは悲しいが、とりあえずは王位継承法の改正でメイベルティーネが第一継承者になれたため、ラウツェニングの血は絶やさずにすむ。そのことにフローリアンはほっとしていた。
「女性にも王位継承権が認められたなら、フローラも女王にはなれないですかね……」
夜、二人っきりになった時、ラルスはぽつりとそういった。おそらく、本気では言ってないだろう。ラルスだって、本当はわかっているはずだ。
「僕の本当の性別は明かせないよ…… 国民を騙していたことには違いないし、公にして罪科があるのは母さまになってしまう。それに、ようやく女性の地位が向上してきた時にこんなことを言えば、この政策が立ち消えるどころか、元の木阿弥になってしまうかもしれない」
もう一度クーデターが起こることはないにしろ、王が実は女だったなどと、反感を買うことは必至だろう。ここまできて、それだけは避けなくてはならない。
ラルスは悲しそうに眉を下げていて、フローリアンの胸は苦しくなった。
「ごめんね、ラルス……僕が女に戻れなくて」
「俺は大丈夫ですよ。フローラがかわいい女性だってこと、わかってるんで」
ラルスは目を細めながら、フローリアンの髪をその手で優しく梳いてくれる。
くすぐったくて少し身じろぎすると、今度はぐいっと頭を寄せられて、唇を重ね合わせた。
「ん、ラルス……」
「フローラのそんな顔を見るのは、俺だけの特権ですから。普段は護衛騎士でいてもまったく問題ありませんよ」
「でも……ツェツィーたちがここを出る幸せを選んだように、本当はラルスもそうしたいんじゃないの? 僕のせいで、できないだけで……」
そう問いかけると、ラルスは「んー」と宙を見つめている。
「でも俺たちは、ツェツィーリア様やイグナーツ殿のようにはいかないことはわかっていますし」
「ごめん」
「謝らなくてもいいですって。その分、楽しみがあるじゃないですか」
「楽しみ?」
なんのことかわからず首を傾げると、ラルスはそっと目を細めた。
「いつかベルが大きくなって女王になったら……フローラは、退位しますよね」
「うん、まぁ、そうだね」
「その時には女に戻って、どこかでひっそり暮らしませんか?」
当然のようにそう言ったラルスの顔を、フローリアンはぽかんと見上げる。
メイベルティーネが女王になるのは、早くとも二十五年の歳月が必要だろう。そんな遠い未来のことまで考えていなかった。しかし言われてみれば、確かにその時なら隠居してしまってもおかしくない年齢だ。
「いつか、本当の夫婦として俺たちも一緒に暮らしましょう」
「うん……一緒に、暮らしたい……」
「俺、フローラのことを〝俺の嫁さんだ〟って紹介するのが夢なんですよ」
「ふふっ」
ラルスの優しい瞳がフローリアンの視界を覆う。
フローリアンがそっと目を瞑ると、温かいものが唇に触れた。
それは、遠い遠い未来の約束。
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