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第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜
090●フロー編●81.サプライズ
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フローリアンはツェツィーリアの隣の家を買い、ラルスとメイベルティーネと一緒に住み始めた。
イグナーツはここでも音楽家として身を立てていて、生活できるだけの収入が充分あるらしい。
それとは別に、ツェツィーリアが潰れそうな会社を買収して立て直したので、そちらの収入が結構あるようだ。
ラルスとイグナーツが子どもたちを連れて遊びに出てくれたので、フローリアンはツェツィーリアとゆっくりお茶を飲みながら話をする。
ツェツィーリアが会社の概要を書いた案内を持ってきてくれて、テーブルの上に置いた。
「フロー様にいただいたお金を元手にやってみましたの。そのまま生活費でなくしてしまっては、なにも残りませんものね!」
さすがは元王妃、勉強してきたすべてを活かして、経営能力を遺憾なく発揮している。
「今では二社経営しておりますわ。けれどわたくし、やっぱり編み物の教室を開きたくて……この二社を任せられる方がいればよいのですが」
ツェツィーリアはフローリアン目を向け、いたずらが成功した子どものように少し目を細めた。
「……僕?」
「はい。実は、いつかはフロー様にお願いしたいと思っていたのですわ。もちろん、フロー様がよろしければ、ですが」
「そりゃ、ずっと生活費を送ってもらうわけにはいかないから、なにかしなきゃとはラルスと話していたけど……僕にもできるのかな?」
「できますわ。わたくしが行っていたのは、王城で勉強していた時の応用ですもの。フロー様なら難なくこなせますわよ!」
「でも、ツェツィーが軌道に乗せた会社だろう? 僕が横取りするみたいで、申し訳ないよ」
「あら、ではわたくしは編み物の教室を一生開けませんわね……残念ですわ」
ツェツィーリアはしょぼんと肩を落とす仕草をしたあと、ちらりとこちらを見て含み笑いをしている。ツェツィーリアの狙いが筒抜けで、フローリアンは思わず吹き出してしまった。
「っぷ! もう、わかったよ。ツェツィーが僕のために用意してくれた会社だってことは! ありがたく、経営させてもらうよ」
「よかったですわ! ひとつは観光業界ですの。きっと、ラルス様もご活躍できましてよ!」
ツェツィーリアはずっと先のことを考えて、いつかフローリアンがここにきた時のための準備をしておいてくれたのだろう。自分の編み物の教室は、二の次にして。その心遣いが胸に沁みる。
「やっぱりツェツィーは優秀で、優しいね……」
「フロー様のためなら、今度こそなんだってやると決めておりましたの」
「ありがとう、ツェツィー……」
「ふふ、やっぱりフロー様は泣き虫さんですわね」
ツェツィーリアの嬉しそうな笑顔を見て、フローリアンは泣きながら笑った。
二人だけの午後のお茶の時間は、そうして優しく穏やかに過ぎていった。
***
フローリアンは二つの会社の社長となって経営し、ツェツィーリアは念願の編み物と刺繍の教室を始めた。
ラルスはフローリアンの経営する会社のひとつで、レジャーガイドとして日々楽しそうに働いている。
社交的で、人に優しく明るいラルスは、たった二ヶ月であっという間にこの街に馴染み、たくさんの友人を作った。
今日は家の庭で、会社の従業員やラルスの友人たちを呼んでホームパーティーを開く予定だ。
そのはずだったのに、集まってきた人たちは何故かみんな、アフタヌーンドレスやダークスーツを着用している。
「あれ? 僕、平服でって言ったよね?」
少なくとも、会社の従業員たちにはそう伝えていたはずだ。一瞬、平民の平服とはフォーマルのことだったのだろうかと思うも、さすがにそれはないと首を傾げた。
普段、彼らはこんな服を着たりしない。なのに、どうしてきらびやかに着飾っているのか、理解できない。
ホームパーティーは園遊会と違って気楽なものだと思っていたのだが、その認識が間違っていたのだろうかとフローリアンは焦った。なぜなら、フローリアンはこの二ヶ月で馴染んだ、一般的な女性が好む簡素なワンピースを着ていたのだから。
明らかに自分だけ浮いていて、着替えるかどうかラルスと相談しようと思ったが、どこにいったのか見当たらない。
「フロー様、こちらですわ」
その時、隣の庭からツェツィーリアの声がした。行き来しやすいように一部の柵を撤去していて、フローリアンはすぐにツェツィーリアのところまで辿り着く。
「なに、ツェツィー?」
「お着替えの用意をいたしましたわ。こちらへどうぞ」
「ありがとう。ツェツィーも今日はなんだか気合が入ってるね……今日はこの国の特別な日かなにかだったの?」
「ふふ、きっとフロー様にとって特別な日になるのですわ」
話が微妙に噛み合わず、首を傾げながら連れられた部屋の中には、純白のドレスが飾ってあった。
それを見れば、さすがになにをするつもりかは、見当がついてしまう。
「これ……僕が、着るんだよね……?」
「そうですわ。わたくしの力作ですのよ」
きれいなレースで仕立てられた、プリンセスラインのドレス。
見るだけで、胸が勝手にドキドキと高鳴ってしまう。
「着て見せてくださいませ。向こうでラルス様が待っておりますわ」
「う、うん」
ツェツィーリアがウエディングドレスを着付けてくれる。ラルスは結婚式をいつか挙げるつもりでいてくれたようだが、それが今日だとは思ってもいなかった。
長くない髪も、ピンで止めてヴェールを被せてもらうと、結い上げているように見える。
最後に化粧をした自分を見て、それだけでもう、込み上げてしまった。
「フロー様、お涙はもう少し我慢なさってくださいませね」
「う、うん……僕、今日結婚できるんだね……」
「ふふ、ラルス様を呼んで参りますわ」
ツェツィーリアが出て行ったあと、改めて鏡を覗いてみる。
いっぱしのレディがそこにはいて、自分じゃないようでなんだかそわそわした。
イグナーツはここでも音楽家として身を立てていて、生活できるだけの収入が充分あるらしい。
それとは別に、ツェツィーリアが潰れそうな会社を買収して立て直したので、そちらの収入が結構あるようだ。
ラルスとイグナーツが子どもたちを連れて遊びに出てくれたので、フローリアンはツェツィーリアとゆっくりお茶を飲みながら話をする。
ツェツィーリアが会社の概要を書いた案内を持ってきてくれて、テーブルの上に置いた。
「フロー様にいただいたお金を元手にやってみましたの。そのまま生活費でなくしてしまっては、なにも残りませんものね!」
さすがは元王妃、勉強してきたすべてを活かして、経営能力を遺憾なく発揮している。
「今では二社経営しておりますわ。けれどわたくし、やっぱり編み物の教室を開きたくて……この二社を任せられる方がいればよいのですが」
ツェツィーリアはフローリアン目を向け、いたずらが成功した子どものように少し目を細めた。
「……僕?」
「はい。実は、いつかはフロー様にお願いしたいと思っていたのですわ。もちろん、フロー様がよろしければ、ですが」
「そりゃ、ずっと生活費を送ってもらうわけにはいかないから、なにかしなきゃとはラルスと話していたけど……僕にもできるのかな?」
「できますわ。わたくしが行っていたのは、王城で勉強していた時の応用ですもの。フロー様なら難なくこなせますわよ!」
「でも、ツェツィーが軌道に乗せた会社だろう? 僕が横取りするみたいで、申し訳ないよ」
「あら、ではわたくしは編み物の教室を一生開けませんわね……残念ですわ」
ツェツィーリアはしょぼんと肩を落とす仕草をしたあと、ちらりとこちらを見て含み笑いをしている。ツェツィーリアの狙いが筒抜けで、フローリアンは思わず吹き出してしまった。
「っぷ! もう、わかったよ。ツェツィーが僕のために用意してくれた会社だってことは! ありがたく、経営させてもらうよ」
「よかったですわ! ひとつは観光業界ですの。きっと、ラルス様もご活躍できましてよ!」
ツェツィーリアはずっと先のことを考えて、いつかフローリアンがここにきた時のための準備をしておいてくれたのだろう。自分の編み物の教室は、二の次にして。その心遣いが胸に沁みる。
「やっぱりツェツィーは優秀で、優しいね……」
「フロー様のためなら、今度こそなんだってやると決めておりましたの」
「ありがとう、ツェツィー……」
「ふふ、やっぱりフロー様は泣き虫さんですわね」
ツェツィーリアの嬉しそうな笑顔を見て、フローリアンは泣きながら笑った。
二人だけの午後のお茶の時間は、そうして優しく穏やかに過ぎていった。
***
フローリアンは二つの会社の社長となって経営し、ツェツィーリアは念願の編み物と刺繍の教室を始めた。
ラルスはフローリアンの経営する会社のひとつで、レジャーガイドとして日々楽しそうに働いている。
社交的で、人に優しく明るいラルスは、たった二ヶ月であっという間にこの街に馴染み、たくさんの友人を作った。
今日は家の庭で、会社の従業員やラルスの友人たちを呼んでホームパーティーを開く予定だ。
そのはずだったのに、集まってきた人たちは何故かみんな、アフタヌーンドレスやダークスーツを着用している。
「あれ? 僕、平服でって言ったよね?」
少なくとも、会社の従業員たちにはそう伝えていたはずだ。一瞬、平民の平服とはフォーマルのことだったのだろうかと思うも、さすがにそれはないと首を傾げた。
普段、彼らはこんな服を着たりしない。なのに、どうしてきらびやかに着飾っているのか、理解できない。
ホームパーティーは園遊会と違って気楽なものだと思っていたのだが、その認識が間違っていたのだろうかとフローリアンは焦った。なぜなら、フローリアンはこの二ヶ月で馴染んだ、一般的な女性が好む簡素なワンピースを着ていたのだから。
明らかに自分だけ浮いていて、着替えるかどうかラルスと相談しようと思ったが、どこにいったのか見当たらない。
「フロー様、こちらですわ」
その時、隣の庭からツェツィーリアの声がした。行き来しやすいように一部の柵を撤去していて、フローリアンはすぐにツェツィーリアのところまで辿り着く。
「なに、ツェツィー?」
「お着替えの用意をいたしましたわ。こちらへどうぞ」
「ありがとう。ツェツィーも今日はなんだか気合が入ってるね……今日はこの国の特別な日かなにかだったの?」
「ふふ、きっとフロー様にとって特別な日になるのですわ」
話が微妙に噛み合わず、首を傾げながら連れられた部屋の中には、純白のドレスが飾ってあった。
それを見れば、さすがになにをするつもりかは、見当がついてしまう。
「これ……僕が、着るんだよね……?」
「そうですわ。わたくしの力作ですのよ」
きれいなレースで仕立てられた、プリンセスラインのドレス。
見るだけで、胸が勝手にドキドキと高鳴ってしまう。
「着て見せてくださいませ。向こうでラルス様が待っておりますわ」
「う、うん」
ツェツィーリアがウエディングドレスを着付けてくれる。ラルスは結婚式をいつか挙げるつもりでいてくれたようだが、それが今日だとは思ってもいなかった。
長くない髪も、ピンで止めてヴェールを被せてもらうと、結い上げているように見える。
最後に化粧をした自分を見て、それだけでもう、込み上げてしまった。
「フロー様、お涙はもう少し我慢なさってくださいませね」
「う、うん……僕、今日結婚できるんだね……」
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