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第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
092◆ディートフリート編◆ 01.運命の人
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ディートフリート・ヴェッツ・ラウツェニングは、生まれた時から王になることを定められていた。
幼い頃から徹底して帝王学を叩き込まれ、わずか十歳という年齢で将来の相手も決められる。
その婚約者の名は、ユリアーナ・アンガーミュラーといった。
ユリアーナは、王の側近であるホルストの一人娘だ。侯爵家の中でも王家との親交が深く、ホルストは王の信頼も厚かったので、この決定は必然だろう。少し体は弱かったが、側近として有能だった厳しくも優しいホルストを、ディートフリートは尊敬していた。
そんな彼の娘ユリアーナは本当に愛らしい人で。ディートフリートは、出会った瞬間から彼女に心惹かれていく。
ユリアーナもディートフリートのことを好きだと言ってくれて。
だから、ディートフリートも言い続けた。
「ユリア、だいすき」……と。
するとユリアーナも、「ディー、わたしもだいすきです」と返してくれるのだ。
それは出会った十歳の頃から、現在の十七歳になる今も、ずっと続いているやりとりだった。
結婚は、ディートフリートが十八歳になればする予定だが、それがまた長い。
ディートフリートは、健全な男子である。
いくら教育係に『結婚するまでは、手を握る以上のことをしてはいけない』と言われていたって、興味もあるし、好きな女の子には触れたいしキスもしたい。
そんな考えが態度に出てしまっていたのだろうか。勉強をするディートフリートの後ろから、護衛騎士に声をかけられた。
「ディートフリート様」
「なに、ルーゼン」
護衛騎士であると同時に、ディートフリートの監視役でもあるルーゼンを見上げる。
「本日、ユリアーナ様がお見えになりますが」
「わかっているよ。だからこうやって勉強を終わらせようと頑張っているんだ」
「さすがは王子です。けどこの前のように、ユリアーナ様にキスをしようなんて思わないでくださいね?」
そう言われて、ディートフリートはじろっとルーゼンを睨んだ。
ディートフリートは十七歳、騎士のルーゼンは二十四歳である。ルーゼンはディートフリートの部下だが、同時に兄のようにも思っていた。
「じゃあ聞くけど、ルーゼンが初めて女の子とキスしたのはいつ?」
「いつでしたかね。多分、十三歳だったと思いますが」
「僕はもう十七だよ。キスくらい、経験してもいい年だと思うんだけど」
「やめてください、俺たちの首が飛びます。なぁ、シャイン」
ルーゼンがもう一人の護衛騎士に話しかける。ディートフリートの専属護衛騎士は、この二人だ。
シャインは現在二十七歳で、ディートフリートの専属になってもう八年になる。
「王子も年頃ですから、お気持ちはよくわかります。ですが決まりを破られると、私どもも困りますので、どうかここは耐え忍んでください」
「僕がユリアとキスしたことを、二人が黙っていればいい話じゃないかな」
「もしバレてしまった時には、私は愛する妻と可愛い娘ともども、路頭に迷うことになりますね」
そんな風に言われては、返す言葉がなかった。
ルーゼンもシャインも、ディートフリートにとってとても大切な人だ。自分のわがままで、彼らの家族を巻き添えるわけにはいかない。
「はぁ、わかったよ。ちゃんと自重する」
「それでこそ王子です」
「やっとわかってくれましたかー!」
「うん、多分ね」
「多分かい!!」
「不敬ですよ、ルーゼン」
ははは、と三人の笑い声が部屋に響く。
ディートフリートが、ユリアーナと家族の次に大切にしているのがこの二人だ。
他の者は一歩引いて接してくるが、この二人には遠慮がない。それがディートフリートには心地良い。
勉強を時間通りに終わらせると、ディートフリートはユリアーナに会いに行った。
約束のバラが咲き誇る庭園で、彼女は凛と立っている。
「ユリア!」
「ディー!」
振り向く彼女は本当に愛らしく、そして完璧なカーテシーが美しい。
優しく抱きしめて、この腕の中で存分にキスしたくなる。
せめて、せめて頬にだけでも。
「ユリア、今日もきれいだよ」
「ありがとうございます。ディーにいただいたネックレスがとても嬉しくて、頑張ってしまいましたの」
「つけてくれたんだね、ありがとう。ネックレスがなくてもユリアはとてもきれいだし、大好きだよ」
「私も、そのままのディーがだいすきです」
「ユリア……」
「近い近い! 近いですよ、ディートフリート様!!」
唐突にルーゼンの声が割って入る。毎度のこととはいえ、げっそりとしてしまう。
「ちょっと、ほっぺにするだけだよ」
「いけませんて。何度言わせるんですか」
「敷地内で護衛なんていらないのになぁ」
「監視役は必要ですからね。油断も隙もない」
息を吐くルーゼンとむくれるディートフリートとのやりとりに、ユリアはくすくす笑っている。
「ユリア……」
「あと一年の辛抱ですわ、ディー」
「……そうだね」
「婚姻の日が、とても楽しみです」
「僕もだよ、ユリア」
「はーい、ストーップ!」
またもルーゼンにグイッと引っ張られる。護衛騎士を睨むディートフリートを見て、やはりユリアーナはクスクスと笑っていた。
ユリアーナの可憐に笑う姿をディートフリートは本当に愛おしく思っていた。
幼い頃から徹底して帝王学を叩き込まれ、わずか十歳という年齢で将来の相手も決められる。
その婚約者の名は、ユリアーナ・アンガーミュラーといった。
ユリアーナは、王の側近であるホルストの一人娘だ。侯爵家の中でも王家との親交が深く、ホルストは王の信頼も厚かったので、この決定は必然だろう。少し体は弱かったが、側近として有能だった厳しくも優しいホルストを、ディートフリートは尊敬していた。
そんな彼の娘ユリアーナは本当に愛らしい人で。ディートフリートは、出会った瞬間から彼女に心惹かれていく。
ユリアーナもディートフリートのことを好きだと言ってくれて。
だから、ディートフリートも言い続けた。
「ユリア、だいすき」……と。
するとユリアーナも、「ディー、わたしもだいすきです」と返してくれるのだ。
それは出会った十歳の頃から、現在の十七歳になる今も、ずっと続いているやりとりだった。
結婚は、ディートフリートが十八歳になればする予定だが、それがまた長い。
ディートフリートは、健全な男子である。
いくら教育係に『結婚するまでは、手を握る以上のことをしてはいけない』と言われていたって、興味もあるし、好きな女の子には触れたいしキスもしたい。
そんな考えが態度に出てしまっていたのだろうか。勉強をするディートフリートの後ろから、護衛騎士に声をかけられた。
「ディートフリート様」
「なに、ルーゼン」
護衛騎士であると同時に、ディートフリートの監視役でもあるルーゼンを見上げる。
「本日、ユリアーナ様がお見えになりますが」
「わかっているよ。だからこうやって勉強を終わらせようと頑張っているんだ」
「さすがは王子です。けどこの前のように、ユリアーナ様にキスをしようなんて思わないでくださいね?」
そう言われて、ディートフリートはじろっとルーゼンを睨んだ。
ディートフリートは十七歳、騎士のルーゼンは二十四歳である。ルーゼンはディートフリートの部下だが、同時に兄のようにも思っていた。
「じゃあ聞くけど、ルーゼンが初めて女の子とキスしたのはいつ?」
「いつでしたかね。多分、十三歳だったと思いますが」
「僕はもう十七だよ。キスくらい、経験してもいい年だと思うんだけど」
「やめてください、俺たちの首が飛びます。なぁ、シャイン」
ルーゼンがもう一人の護衛騎士に話しかける。ディートフリートの専属護衛騎士は、この二人だ。
シャインは現在二十七歳で、ディートフリートの専属になってもう八年になる。
「王子も年頃ですから、お気持ちはよくわかります。ですが決まりを破られると、私どもも困りますので、どうかここは耐え忍んでください」
「僕がユリアとキスしたことを、二人が黙っていればいい話じゃないかな」
「もしバレてしまった時には、私は愛する妻と可愛い娘ともども、路頭に迷うことになりますね」
そんな風に言われては、返す言葉がなかった。
ルーゼンもシャインも、ディートフリートにとってとても大切な人だ。自分のわがままで、彼らの家族を巻き添えるわけにはいかない。
「はぁ、わかったよ。ちゃんと自重する」
「それでこそ王子です」
「やっとわかってくれましたかー!」
「うん、多分ね」
「多分かい!!」
「不敬ですよ、ルーゼン」
ははは、と三人の笑い声が部屋に響く。
ディートフリートが、ユリアーナと家族の次に大切にしているのがこの二人だ。
他の者は一歩引いて接してくるが、この二人には遠慮がない。それがディートフリートには心地良い。
勉強を時間通りに終わらせると、ディートフリートはユリアーナに会いに行った。
約束のバラが咲き誇る庭園で、彼女は凛と立っている。
「ユリア!」
「ディー!」
振り向く彼女は本当に愛らしく、そして完璧なカーテシーが美しい。
優しく抱きしめて、この腕の中で存分にキスしたくなる。
せめて、せめて頬にだけでも。
「ユリア、今日もきれいだよ」
「ありがとうございます。ディーにいただいたネックレスがとても嬉しくて、頑張ってしまいましたの」
「つけてくれたんだね、ありがとう。ネックレスがなくてもユリアはとてもきれいだし、大好きだよ」
「私も、そのままのディーがだいすきです」
「ユリア……」
「近い近い! 近いですよ、ディートフリート様!!」
唐突にルーゼンの声が割って入る。毎度のこととはいえ、げっそりとしてしまう。
「ちょっと、ほっぺにするだけだよ」
「いけませんて。何度言わせるんですか」
「敷地内で護衛なんていらないのになぁ」
「監視役は必要ですからね。油断も隙もない」
息を吐くルーゼンとむくれるディートフリートとのやりとりに、ユリアはくすくす笑っている。
「ユリア……」
「あと一年の辛抱ですわ、ディー」
「……そうだね」
「婚姻の日が、とても楽しみです」
「僕もだよ、ユリア」
「はーい、ストーップ!」
またもルーゼンにグイッと引っ張られる。護衛騎士を睨むディートフリートを見て、やはりユリアーナはクスクスと笑っていた。
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