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第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
103◆ディー編◆ 12.説得
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フローリアンの説得は、困難を極めた。
自分はまだ未熟だからと逃げられ続けたのだ。ディートフリートもこれにはほとほと困ってしまった。
フローリアンは、ディートフリートの王族離脱も納得がいかないようで、離脱しないなら王になっても構わないというところまでは譲歩してくれた。
確かに一般人になってしまえば、おいそれと会うことはできなくなってしまうだろう。
兄弟仲良く過ごしてきたことが、ここにきて仇となってしまうとは、思ってもいなかった。
だが、どうしても王族は離脱しなければならないのだ。ユリアーナと結婚するには、それしか方法がないのだから。
なんだかんだ言いつつも徐々に引き継ぎはしてくれて、フローリアンは王の仕事を真面目にこなしている。しかし納得はしていないだろう。
ちゃんと王族を離脱したい理由も説明した。そうすることで納得してもらえると思っていたのだが、大誤算だった。
フローリアンは信頼していた兄に、元婚約者と結ばれたいがために利用されただけなのだと知り、ショックを受けてしまったのである。
利用したつもりはない……とは言えなかった。最初からそのつもりがあり、画策してしまったのは確かなのだから。利用と取られてしまっても、仕方がない。
大切な弟には違いないのに、傷つけてしまったことに罪悪感が募る。
「フローは私の大切な弟だよ」
「なら王族は離脱せず、僕の支えとなってください」
「でも私は、ユリアーナと一緒になりたいんだ。わかってほしい」
「結局、弟の僕より、兄さまは元婚約者を選ばれるんですね。所詮、僕は兄さまの道具でしかなかったんだ」
年の離れた弟を可愛がりすぎた弊害が、こんなところで出るとは思っていなかった。きっと折り合いが悪かったなら、喜んで出ていけと言ってくれただろうに。
幼い頃からこうする心づもりであったことを話しておくべきだったのかもしれない。それを今さら考えたところで、すでに遅かったが。
そんなに待たせないと言った手前、早くユリアーナのところに戻ってあげたいというのに。
今までつらい思いをさせた分、もう不安にはさせたくない。
だからといって、弟にすべてを押し付けて自分勝手に王族を離脱するのは違う。
そこだけはケジメを持ってしなければ、家族にも部下にも国民にも申し訳が立たない。
かといって、ここまできてユリアーナを諦める気はまったくなかった。
どうしようかと頭を悩ませていると、ルーゼンとシャインがニヤニヤニコニコと笑いながら執務部屋に入ってくる。
その後ろに人影を引き連れて。
「どうしたんだ、二人して」
ディートフリートが声をかけると、シャインが後ろの人物を中へと誘っている。
執務部屋に足を踏み入れたその人物を見て、ディートフリートは目を広げた。
「フロー? どうしたんだ?」
ルーゼンとシャインに連れられてきたのは、フローリアンだった。驚いていると、フローリアンはどこか気まずそうに顔を向けてくる。
「兄さまは、どうしても王族を離脱したいんですよね……」
真面目な顔で問いかけられ、ディートフリートもまた真顔で答えた。
「うん。私は王族を離脱しなくてはいけない。約束をした人がいるからね」
「兄さまは、僕をお見捨てになるのでは、ないのですか……?」
「違うよ。もしフローになにかあったときには、すぐに飛んで帰ってくる。フローが受け入れてくれるならだけどね」
うるり、とフローリアンの瞳が揺れる。
弟もまた泣き虫だったかと、ディートフリートは少し笑った。
「ね、言ったじゃないですか! 王は殿下を大切に思ってらっしゃるって!」
「ディートフリート様はこれまでずっと、忍耐を強いられてきたのです。どうか陛下の幸せを願うなら、王族離脱を認めてあげてください」
どうやらこの二人がまた、動いてくれていたらしい。
泣き虫の弟を見て、ディートフリートの涙腺もまた緩む。
「ごめんなさい、兄さま……でも王族を離脱しても、ここに遊びにきてください……」
「ありがとう……わがままを言ってごめんな、フロー。必ず遊びにくるよ」
男にしては線の細い弟を、ディートフリートは抱きしめた。
まだ二十二歳であるフローリアンのこの肩に、すべての責任を被せてしまうことがやはり申し訳なく、胸が締め付けられる。
「シャイン、頼みがある」
「わかっております」
ディートフリートが頼みを言う前に、にっこり笑って頷かれてしまった。
「わかってしまうか?」
「何年ディートフリート様と一緒にいると思っているのですか。大丈夫です、護衛騎士としてはもう無理がありますが、これからは新王の家臣としてこの体が持つ限り、お仕えいたします」
「助かるよ……ありがとう」
シャインがディートフリートの気持ちを汲み取ってくれた。シャインがいれば、フローリアンを守ってくれるだろう。彼が自分を、ずっと守り支えてくれたように。
「あー、ディートフリート様、ちょっといいですか? 俺の身の振り方でお願いがあるんですが」
ディートフリートはフローリアンと抱き合っていた体を離しながら、ルーゼンの方を見た。
ルーゼンはシャインよりも若いので、まだもう少しは戦闘方面でも活躍できるだろう。
「ルーゼンはどうする? 希望があるなら、私が王のうちに取り計らうつもりではいるよ」
ルーゼンは三十になる前に結婚していて子もいる。その子も、すでに自立しているが。
「んじゃ、俺をエルベスの町の警備騎士に任命してください! ディートフリート様がいない王都なんて、退屈ですからね!」
予想もしていないことを言われ、ディートフリートは目を見開いた。なるほど、この男らしい提案ではあったが。
「奥方はいいのか?」
「大丈夫です! 着いてきてくれます!」
「なら私は構わない。むしろまた一緒で嬉しいよ」
「へへ、やった!」
子どものように喜ぶ兄のような存在に、ディートフリートはやっぱり笑ってしまった。
「兄さまのそばにいられるなんて、ルーゼンずるい……」
「エルベスの町へは、一緒にお忍びで行きましょう、フローリアン様。きっと楽しいですよ」
「……うん、そうだね、シャイン」
フローリアンの気持ちは、シャインがうまく収めてくれた。
やはり彼に任せていれば安心だ。
「よっし、そうと決まればさっさと王族離脱してエルベスに行こうぜ! ディートフリート様!」
「すぐになんてダメだよ! 兄さまにはまだ引き継ぎをしてもらわなきゃいけないんだから!」
「正式な離脱手続きには時間が掛かります。王も、もう少しだけご辛抱ください」
「ここまできたんだ。残りの王である時間を、フローと楽しむよ」
それから二ヶ月後。
ディートフリートは王位継承の儀を済ませてから王族を離脱。
その後、ようやくユリアーナの待つエルベスへと向かったのだった。
自分はまだ未熟だからと逃げられ続けたのだ。ディートフリートもこれにはほとほと困ってしまった。
フローリアンは、ディートフリートの王族離脱も納得がいかないようで、離脱しないなら王になっても構わないというところまでは譲歩してくれた。
確かに一般人になってしまえば、おいそれと会うことはできなくなってしまうだろう。
兄弟仲良く過ごしてきたことが、ここにきて仇となってしまうとは、思ってもいなかった。
だが、どうしても王族は離脱しなければならないのだ。ユリアーナと結婚するには、それしか方法がないのだから。
なんだかんだ言いつつも徐々に引き継ぎはしてくれて、フローリアンは王の仕事を真面目にこなしている。しかし納得はしていないだろう。
ちゃんと王族を離脱したい理由も説明した。そうすることで納得してもらえると思っていたのだが、大誤算だった。
フローリアンは信頼していた兄に、元婚約者と結ばれたいがために利用されただけなのだと知り、ショックを受けてしまったのである。
利用したつもりはない……とは言えなかった。最初からそのつもりがあり、画策してしまったのは確かなのだから。利用と取られてしまっても、仕方がない。
大切な弟には違いないのに、傷つけてしまったことに罪悪感が募る。
「フローは私の大切な弟だよ」
「なら王族は離脱せず、僕の支えとなってください」
「でも私は、ユリアーナと一緒になりたいんだ。わかってほしい」
「結局、弟の僕より、兄さまは元婚約者を選ばれるんですね。所詮、僕は兄さまの道具でしかなかったんだ」
年の離れた弟を可愛がりすぎた弊害が、こんなところで出るとは思っていなかった。きっと折り合いが悪かったなら、喜んで出ていけと言ってくれただろうに。
幼い頃からこうする心づもりであったことを話しておくべきだったのかもしれない。それを今さら考えたところで、すでに遅かったが。
そんなに待たせないと言った手前、早くユリアーナのところに戻ってあげたいというのに。
今までつらい思いをさせた分、もう不安にはさせたくない。
だからといって、弟にすべてを押し付けて自分勝手に王族を離脱するのは違う。
そこだけはケジメを持ってしなければ、家族にも部下にも国民にも申し訳が立たない。
かといって、ここまできてユリアーナを諦める気はまったくなかった。
どうしようかと頭を悩ませていると、ルーゼンとシャインがニヤニヤニコニコと笑いながら執務部屋に入ってくる。
その後ろに人影を引き連れて。
「どうしたんだ、二人して」
ディートフリートが声をかけると、シャインが後ろの人物を中へと誘っている。
執務部屋に足を踏み入れたその人物を見て、ディートフリートは目を広げた。
「フロー? どうしたんだ?」
ルーゼンとシャインに連れられてきたのは、フローリアンだった。驚いていると、フローリアンはどこか気まずそうに顔を向けてくる。
「兄さまは、どうしても王族を離脱したいんですよね……」
真面目な顔で問いかけられ、ディートフリートもまた真顔で答えた。
「うん。私は王族を離脱しなくてはいけない。約束をした人がいるからね」
「兄さまは、僕をお見捨てになるのでは、ないのですか……?」
「違うよ。もしフローになにかあったときには、すぐに飛んで帰ってくる。フローが受け入れてくれるならだけどね」
うるり、とフローリアンの瞳が揺れる。
弟もまた泣き虫だったかと、ディートフリートは少し笑った。
「ね、言ったじゃないですか! 王は殿下を大切に思ってらっしゃるって!」
「ディートフリート様はこれまでずっと、忍耐を強いられてきたのです。どうか陛下の幸せを願うなら、王族離脱を認めてあげてください」
どうやらこの二人がまた、動いてくれていたらしい。
泣き虫の弟を見て、ディートフリートの涙腺もまた緩む。
「ごめんなさい、兄さま……でも王族を離脱しても、ここに遊びにきてください……」
「ありがとう……わがままを言ってごめんな、フロー。必ず遊びにくるよ」
男にしては線の細い弟を、ディートフリートは抱きしめた。
まだ二十二歳であるフローリアンのこの肩に、すべての責任を被せてしまうことがやはり申し訳なく、胸が締め付けられる。
「シャイン、頼みがある」
「わかっております」
ディートフリートが頼みを言う前に、にっこり笑って頷かれてしまった。
「わかってしまうか?」
「何年ディートフリート様と一緒にいると思っているのですか。大丈夫です、護衛騎士としてはもう無理がありますが、これからは新王の家臣としてこの体が持つ限り、お仕えいたします」
「助かるよ……ありがとう」
シャインがディートフリートの気持ちを汲み取ってくれた。シャインがいれば、フローリアンを守ってくれるだろう。彼が自分を、ずっと守り支えてくれたように。
「あー、ディートフリート様、ちょっといいですか? 俺の身の振り方でお願いがあるんですが」
ディートフリートはフローリアンと抱き合っていた体を離しながら、ルーゼンの方を見た。
ルーゼンはシャインよりも若いので、まだもう少しは戦闘方面でも活躍できるだろう。
「ルーゼンはどうする? 希望があるなら、私が王のうちに取り計らうつもりではいるよ」
ルーゼンは三十になる前に結婚していて子もいる。その子も、すでに自立しているが。
「んじゃ、俺をエルベスの町の警備騎士に任命してください! ディートフリート様がいない王都なんて、退屈ですからね!」
予想もしていないことを言われ、ディートフリートは目を見開いた。なるほど、この男らしい提案ではあったが。
「奥方はいいのか?」
「大丈夫です! 着いてきてくれます!」
「なら私は構わない。むしろまた一緒で嬉しいよ」
「へへ、やった!」
子どものように喜ぶ兄のような存在に、ディートフリートはやっぱり笑ってしまった。
「兄さまのそばにいられるなんて、ルーゼンずるい……」
「エルベスの町へは、一緒にお忍びで行きましょう、フローリアン様。きっと楽しいですよ」
「……うん、そうだね、シャイン」
フローリアンの気持ちは、シャインがうまく収めてくれた。
やはり彼に任せていれば安心だ。
「よっし、そうと決まればさっさと王族離脱してエルベスに行こうぜ! ディートフリート様!」
「すぐになんてダメだよ! 兄さまにはまだ引き継ぎをしてもらわなきゃいけないんだから!」
「正式な離脱手続きには時間が掛かります。王も、もう少しだけご辛抱ください」
「ここまできたんだ。残りの王である時間を、フローと楽しむよ」
それから二ヶ月後。
ディートフリートは王位継承の儀を済ませてから王族を離脱。
その後、ようやくユリアーナの待つエルベスへと向かったのだった。
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