生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

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「――――――――ん? 七氏様、どうかしましたか?」

 百目が声をかけてきた。
 な、なんと答えればよいだろう。

 …………あんなことを言われたのは、初めてだ。
 この感情がどのような感情なのか、どのように言葉にすれば良いのかわからん。


「――――っ、七氏様、体調が悪化したのでしょうか。無理しないでください、タクシーの中に入りましょう」

「い、いや。我は大丈夫だ。心配せんでも良い」

「ですが、顔色が悪いです。やはり、現代の空気が慣れないのでしょう。九尾様が帰ってくるまでどうか我慢してください。戻ってきましたらすぐにあやかしの世界に帰りましょう」

 その場で力なく地面に崩れた我の背中をさすり、安心させるように百目が言ってくれる。
 この胸のムカムカは、本当に現代の空気に当てられただけだろうか。────いや、違う。

「…………百目、我の顔は気持ち悪いのだろうか」

「? いきなりどうしたのでしょうか?」

 顔を上げ百目を見るが、目を合わせられん。
 すぐに逸らしてしまう。

 その態度が今までの我とは違い過ぎるのだろう、百目が我の名前を呼び慌てている。
 今の百目の態度や言葉からは、嫌悪などの感情は感じ取れん。だが、我慢させてしまっているのかもしれぬ。

「……いや、何でもない、少々驚いただけだ。今はだいぶ落ち着いた」

「いえ、あの、先ほどの質問は一体…………」

「なんでもない、なんでもないぞ、百目。あと、今の事は父上へ報告しないでもらえると助かる」

「ですがっ──」

「頼む、百目」

 顔を前髪で隠しながら横目でお願いすると、百目が目を逸らしつつも小さく頷いてくれた。

 ふぅ、まさかあそこまで言われるとはな。
 周りの人を考えろ――か。

 確かにそうかもしれぬな、不快な思いをさせてしまっている我が悪い。
 もしかしたら、父上や母上、百目や女中達も同じことを思っていたのかもしれん。

 気まずかったが、我が気づかんかったから普通に接してくれていたのだな。
 そう考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 前髪が無駄に長くて良かった。顔を少しでも隠せる。
 だが、完全に隠せはせんか。

 なにか、顔を隠せるもんを探さんとだな。
 そんな事を考えていると、父上が空から降ってきた。

「ふぅ、終わった終った。まさか悪霊どもが人間を驚かせていただけだったとは。まったく、世話妬かせよって……ん? どうした?」

「い、いえ…………」

 父上はいつもと変わらんな。そのおかげか、心が少し楽になった。
 百目が何か言いたげに我を見て来るが、約束は約束だ、何も言うでないぞ。

「七氏? 何かあったか?」

「いえ、なにもありませんよ、父上。体調もだいぶ良くなりました、これならまだ遠くに行けそうです」

 父上へ駆け寄りいつものように言うと、何故か眉間を寄せてしまった。な、なぜだ? 

「父上? どうしましたか?」

 父上に問いかけるが、何も答えてはくれない。
 いつもならすぐ答えてくれると言うのに……。

「七氏よ」

「はい」

「ワシとの約束は、忘れたか?」

 ん? 約束? それはもちろん覚えておるぞ。

「父上から離れない、気分が悪くなったらすぐに伝える。これは覚えておりますよ」

「そうだな。七氏、気分が悪いように見えるが、それは大丈夫になるのか?」

「? 吐き気などはだいぶ収まりました、目眩なども先ほどより治っております」

「…………はぁ、そうか」

 っ、いきなり父上が我の顎に手を添え、顔を無理やりあげさせられてしまった。

 父上の真紅の瞳と目が合う。
 父上の瞳に、我の驚愕した顔が映る。

 ――――何も、口に出来ぬ。

「…………無自覚か」

 一言零すと、父上が我から手を離し、腰に手を回し無理やりだき抱えられた。

「っ、父上?」

「百目、今日はここまでだ。色々振り回して悪いな、また後日、頼むぞ」

 我の言葉を無視し百目に言うと、父上が上へと跳んだ。
 刹那、たどり着いたのは現代に来ると、いつも通る神社。

 またしても一瞬でここまで戻ってきたらしい。

「あの、父上? なにか、怒っておられませんか?」

「そうだな、怒っておる。ワシは、怒っておるぞ七氏よ」

「な、なぜですか? 我は何かやらかしてしまったのでしょうか」

 ハラハラしながら聞いても、父上は答えてくれない。
 我とも目を合わせてはくれない。

 父上は、怒る時は相手を諭すように怒る方だ。
 今のような怒り方は、今までしてこなかった。

 これ以上質問するのは怖いから、何も言えぬ…………。

 父上はそのまま森の中に入り、神木を通りいつもの世界に戻ってきた。

 屋敷には母上が前回同様、布団などを準備し待機しておった。
 我らを見た瞬間、母上は心配そうに駆け寄ってくる。

「七氏、どうしたの!? まさか、立てなくなるくらい気分が悪くなってしまったのかしら」

「いえ、なんでもありません。体調の方も問題ないのですが…………」

 父上をちらっと見るが、我の視線など無視し、父上は部屋へと入り我を布団に乗せた。
 あとは女中に任せ、母上と共に部屋を出て行ってしまわれた。

「…………我は、迷惑かけてばかりだな」

 我は、父上のように偉大なあやかしになれるのだろうか。
 いや、なれん。こんな弱い我では、他人を考えられん我では、父上のような偉大なあやかしになど、なれる訳がない。

 目から何かが流れ落ちる。
 すぐにそれを拭い、服のまま布団の中に入った。

 隣から我を心配する声が聞こえるが、答える余裕がなく目を閉じ、無理やり夢の中に入る事にした。
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