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七氏と巫女の出会い

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「…………ん」

 …………周りが暗い、体が重たい。

「ん-、今、何時だ…………」


 ――――――――ズキン!


「いっ…………」

 頭、いたい。
 体を起こそうとしただけで、頭に強い痛みが走った。

 なんだ、これ。体が重たい、関節痛。
 風邪をひいた時のような症状だ。

「ゴホッゴホッ…………」

 喉が張り付く感覚があって気持ちが悪い、呼吸がしにくい。

「…………ミズ、のみたい」

 水、飲みたいけど、ない。
 誰かを呼びたくても、声が出ない。
 ――――しかたがない、自分でいくしかないか……。

 重たい体を無理やり起こし、引きずるように廊下に。
 まだ眩暈などはあるが、壁に手を付いていれば問題はない。

 廊下には誰もいない。
 時間帯的に今は深夜帯、自室で寝ているのだろう。

 昼間は女中が家事のために駆け回っていることが多いからか、このように人がいない廊下は寂しさを感じる。
 しかも、なんとなく肌寒さも感じ、少々怖い。
 明かりも足元を淡く照らす程度しかついておらんから、心もとない。


 ――――――――ブルッ


「っ、寒い。早く水を飲んで部屋へ戻ろう」

 真っすぐ台所へと向かい歩いていると、一つの部屋に灯りがついているのがわかった。

 あそこは、母上と父上の寝室。
 なぜ今の時間に灯りがついておるのだ? 単なる消し忘れか? 
 消し忘れの場合、消してやらんとならぬな。

 部屋の近くまで行くと、二人の話し声が聞こえた。

 まだ起きていたのか。
 なら、特に灯りを気にせんでも良いな、台所へと向かおう。

 部屋を通り過ぎ台所へと向かおうとした時、ちょうど二人の会話が耳に入ってしまい足が自然と止まる。
 その理由は、二人から我の名前を出したからだ。

『――――七氏はなぜ、あんなに憔悴しきっていたのですか? さすがにあそこまで貴方が無理をさせたり、放置はしないでしょう?」

 母上の声……。
 我が帰ってきた時の事を言っているのだろう、心配をかけてしまった。

『今回はワシが悪かった。目を離した隙に何かがあったのだろう』

 …………むむ、心配をかけてしまっておる。
 あれは父上は全く悪くはないというのに……。

『共に居た百目に聞こうにも口留めされているようで、目を逸らすのみだったからなぁ。だが、何か言いたそうには見つめて来る、困ったものだ』

『離れた理由は?』

『悪妖怪が悪さをしていてな、少々注意をしに行っていたのだ。それもわずか五分程度。現代の空気に当てられただけではあそこまで消耗はせん。何か、特別な事があったに違いないのだが…………』

『それを話してはくれないという事ですね』

『そうだ。ワシに話しにくいのであれば、氷璃にだったら……。そう思ったが、それより先に寝てしまったからなぁ。また起きた時にでも聞こうとは思う』

『まだ、七氏に現代は早かったではないでしょうか』

 っ、早かった……。
 我にはまだ、早かったのだろうか……。

『現代は危険が沢山と耳にしております。七氏にもしもの事があった場合、私は耐えられません。七氏は私にとって、何物にも代えがたい、たった一人の息子宝物なのですから』

 ――――っ。
 母上は我を、大事にしてくれておるのだな。
 こんな、傷がついてしまった我の事も、愛してくれるのだな。

『安心するがよい、それはワシも一緒だ。だからこそ、今回の件は少々気になる。何があそこまで七氏を弱らせたのか。原因がわかれば、対処が可能だ』

『そうね。明日、話してくださるかしら……』

『さぁな。だが、根気よく待とうではないか。なぁに、ワシらの息子だ、心配はいらん』

『そうだと、いいのですが…………』

 ここまで、二人に心配をかけておる。


 ――――そうだ、二人が我の容姿だけで迷惑など思う訳がなかった。
 それだけではなく、共に解決策を考えてくれるだろう。

 我の両親は、優しく温かい方達なのだから。


 ……………………。


 ――――――――ガラッ


「っ、?」

「あら、七氏? なぜ、このような時間に?」

 父上が驚き我を見て、母上が問いかけてきた。

「すいません、先ほどの話が偶然聞こえてきまして……、いえ、本当に偶然なのです。喉が渇きましたので水を取りに行こうとしたら、お二人の会話に我の名前が出てきたため、気になってしまい……。途中からは、耳を澄まし、聞いて、おりました…………」

 勝手に盗み聞きをしてしまった事を謝罪すると、何故か二人は顔を見合せ始めた。
 怒っているのだろうか、盗み聞きした事……。

その件盗み聞きについては特に何も思ってはおらん。それより七氏、おぬし…………」

「え、なんでしょうか?」

 父上が問いかけると、何故か母上と目を合わせた。

 む? 母上が我の方に向ってきたぞ。
 頬に手を、添えられた? な、なんなのだ?

 ――――えっ、眉間に皺を寄せ始めてしまった。
 どっ、どうしたのだろう。

「貴方、熱あるわよ? 結構高い……」

「え、そんなはずはないと思うのですが…………」

 我が否定していると、今度は父上が「それ」と。野太い声で言いながら立ち上がり、我の傍へと来た。

 母上と同じく手を頬に添え、次におでこ、首筋も触られる。
 むむ、これは一体何なのだ。

「これは、確かに熱があるな。高熱だ」

「え、いえ。そんなはず…………」

「頭痛、関節痛、眩暈、倦怠感。これは感じるか?」

「確かに、頭痛と関節痛はありますし、体は重く、壁に手を付きながら廊下を歩いていました。え、この体の不調は、熱だからなのですか?」

「十中八九、熱だろう。明日、医者をここに呼ぶ、それまで寝ておれ」

 父上が我を自室に戻そうと背中を押してきた。
 でも、聞きたい事や話したい事があるから、ここでやすやすと戻るわけには……。

「あの、父上、我の体調はおそらく現代に行ったからだけではないです」

「その話は、主の熱が下がってからゆっくりと――………」

「あの、父上、母上。我の顔は、気持ち悪いのでしょうか?」

 背中を押されながらも絞り出した言葉。
 その言葉を聞いた二人は動きをピタッと止め、驚きの顔を浮かべた。
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