21 / 42
失った時間
氷鬼先輩はいじわる!
しおりを挟む
「まぁ、司のことはしっかりと怒ったわ」
「一人でいなくなりましたからね。怒って当然かと」
一人でいなくなった司を思い浮かべ、詩織は思わず苦笑いを浮かべる。
「でも、まさかあそこであなた達二人が出会うなんて、思ってもみなかったのでおどろいたわ。運命だったのかもしれないわね」
赤い口元を横に引き延ばし、喜美は笑った。
そんな彼女を見て、詩織も同じくほほえんだ。その時、タイミングよく襖が開く。
「お待たせ、何を話してたの?」
「あ、せんぱっ―――え、着物? きも、の。え?」
司の声が聞こえ、詩織と喜美は同時に振り向く。そこに立っていたのは、着物姿の司だった。
それだけでも予想外なのに、顔には普段付けないメガネ。
詩織は思わず照れてしまい、その場に固まった。
「なに、その反応」
「氷鬼先輩、顔がイケメンだから、着物は、だめですよ!!!」
「意味が分からない…………」
司は詩織の反応に呆れ、ガシガシと頭をかく。
二人の様子を楽しんでいる喜美は、口元に手を当て笑っていた。
「えっと……。何を話してたの?」
「思い出話をしていただけよ」
「ふーん。変な話はしてないよね?」
「変な話って何かしら?」
「…………なんでもない」
「そう、わかったわ」
これ以上何かを言えば墓穴をほると思った司は、グヌヌと口を閉ざした。
「それじゃ、詩織」
「え、なんですか?」
「僕の部屋に行くよ。ここは客間だから、僕の部屋の方が僕が落ち着く」
「あ、氷鬼先輩が落ち着くのですね」
「僕が落ち着く。これ、大事」
「あっ、はい」
言われたまま詩織は立ち上がり、ろうかへと出て行った司の後ろを付いて行く。
そんな二人に手を振り、送り出した喜美。
ほほえましそうに見ているその目は温かく、やさしそうだった。
「あの二人、早く素直になってほしいわね」
・
・
・
・
・
・
・
ろうかを歩き、司の部屋にたどり着いた。襖を開け、中に入る。
詩織も同じく中に入ると、出入り口で立ち止まってしまった。
「落ち着くって言っていたけど、さっきの部屋と間取りとかまったく変わらない……」
「雰囲気が違う」
「あっ、はい」
テーブルの周りに座布団を置き、詩織と司はお互い見合う形で座った。
「それにしても、思い出すのおそくない? なんでそんなに時間がかかったの。本人の前で少年の話までしていたのに」
「それは言わないでください!! というか、氷鬼先輩も気づいていたのなら、何で教えてくれないんですか!?」
司からの言葉に、詩織は顔を赤面させ、ごまかすように怒った。
「言おうかなとも思ったんだけど、無理に思い出させなくてもいいかなと思って、最初は話さなかった」
「最初は?」
「うん。君から過去の話が出てきた時はさすがにおどろいたのと同時に、ばれてはいけないかもしれないという感情が芽生えた」
「な、な、なんでですか?」
「君、自分が言っていたこと覚えてる? 会いたいとか言っていたんだよ? その会いたい人は、目の前にいるの。それを伝えるのって、なんとなく、こっぱずかしくない?」
「…………確かに」
「でしょ?」
(私はあの時、知らなかったとはいえ恥ずかしいことを氷鬼先輩に言っていた。会いたいとか普通に言ってしまった! なんで会いたいかの理由はさすがに言わなかったけど。今思うと、本当に言わなくて正解だったな……)
頭を抱え唸ったり、逆に安堵の息を吐いたり。
忙しない詩織を見て、何かを思い出した司は、にんまりと笑みを浮かべ彼女を見た。
「え、なんですか?」
「いや、そういえば聞けなかったことがあるなぁって思って」
(あの時聞けなかったことって、もしかして……)
詩織が顔を青くし、苦笑いを浮かべながら司を見た。
その顔がまたおかしく、司は口に手を当て笑いを堪えた。
「そんな顔をするな。変なことは聞かないよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん、なんで僕に会いたいと言っていたのかを聞こうとしただけ」
「それが一番聞かれたくなかったのですが!?」
司からの質問に、詩織は大きな声で拒否した。
絶対に答えないという意思を強く見せ、口を両手で押さえる。
「なんで答えてくれないんだ?」
「なんでって、なんか、その。さっき氷鬼先輩も言っていたじゃないですか。こっぱずかしいって。そんな感じです……」
顔をうつむかせ、詩織は司に言った。すると、司はテーブルに肘をつき、あごを手に乗せる。
目を細め、呟くようにぼそっと何か口にした。
「僕はずっと――………」
「え?」
――――ガラッ
「司!!! お兄ちゃんが帰ってきたぞぉ!!」
司の言葉をかき消すような大きな声が、襖が開く音と共に和室にひびいた。
「一人でいなくなりましたからね。怒って当然かと」
一人でいなくなった司を思い浮かべ、詩織は思わず苦笑いを浮かべる。
「でも、まさかあそこであなた達二人が出会うなんて、思ってもみなかったのでおどろいたわ。運命だったのかもしれないわね」
赤い口元を横に引き延ばし、喜美は笑った。
そんな彼女を見て、詩織も同じくほほえんだ。その時、タイミングよく襖が開く。
「お待たせ、何を話してたの?」
「あ、せんぱっ―――え、着物? きも、の。え?」
司の声が聞こえ、詩織と喜美は同時に振り向く。そこに立っていたのは、着物姿の司だった。
それだけでも予想外なのに、顔には普段付けないメガネ。
詩織は思わず照れてしまい、その場に固まった。
「なに、その反応」
「氷鬼先輩、顔がイケメンだから、着物は、だめですよ!!!」
「意味が分からない…………」
司は詩織の反応に呆れ、ガシガシと頭をかく。
二人の様子を楽しんでいる喜美は、口元に手を当て笑っていた。
「えっと……。何を話してたの?」
「思い出話をしていただけよ」
「ふーん。変な話はしてないよね?」
「変な話って何かしら?」
「…………なんでもない」
「そう、わかったわ」
これ以上何かを言えば墓穴をほると思った司は、グヌヌと口を閉ざした。
「それじゃ、詩織」
「え、なんですか?」
「僕の部屋に行くよ。ここは客間だから、僕の部屋の方が僕が落ち着く」
「あ、氷鬼先輩が落ち着くのですね」
「僕が落ち着く。これ、大事」
「あっ、はい」
言われたまま詩織は立ち上がり、ろうかへと出て行った司の後ろを付いて行く。
そんな二人に手を振り、送り出した喜美。
ほほえましそうに見ているその目は温かく、やさしそうだった。
「あの二人、早く素直になってほしいわね」
・
・
・
・
・
・
・
ろうかを歩き、司の部屋にたどり着いた。襖を開け、中に入る。
詩織も同じく中に入ると、出入り口で立ち止まってしまった。
「落ち着くって言っていたけど、さっきの部屋と間取りとかまったく変わらない……」
「雰囲気が違う」
「あっ、はい」
テーブルの周りに座布団を置き、詩織と司はお互い見合う形で座った。
「それにしても、思い出すのおそくない? なんでそんなに時間がかかったの。本人の前で少年の話までしていたのに」
「それは言わないでください!! というか、氷鬼先輩も気づいていたのなら、何で教えてくれないんですか!?」
司からの言葉に、詩織は顔を赤面させ、ごまかすように怒った。
「言おうかなとも思ったんだけど、無理に思い出させなくてもいいかなと思って、最初は話さなかった」
「最初は?」
「うん。君から過去の話が出てきた時はさすがにおどろいたのと同時に、ばれてはいけないかもしれないという感情が芽生えた」
「な、な、なんでですか?」
「君、自分が言っていたこと覚えてる? 会いたいとか言っていたんだよ? その会いたい人は、目の前にいるの。それを伝えるのって、なんとなく、こっぱずかしくない?」
「…………確かに」
「でしょ?」
(私はあの時、知らなかったとはいえ恥ずかしいことを氷鬼先輩に言っていた。会いたいとか普通に言ってしまった! なんで会いたいかの理由はさすがに言わなかったけど。今思うと、本当に言わなくて正解だったな……)
頭を抱え唸ったり、逆に安堵の息を吐いたり。
忙しない詩織を見て、何かを思い出した司は、にんまりと笑みを浮かべ彼女を見た。
「え、なんですか?」
「いや、そういえば聞けなかったことがあるなぁって思って」
(あの時聞けなかったことって、もしかして……)
詩織が顔を青くし、苦笑いを浮かべながら司を見た。
その顔がまたおかしく、司は口に手を当て笑いを堪えた。
「そんな顔をするな。変なことは聞かないよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん、なんで僕に会いたいと言っていたのかを聞こうとしただけ」
「それが一番聞かれたくなかったのですが!?」
司からの質問に、詩織は大きな声で拒否した。
絶対に答えないという意思を強く見せ、口を両手で押さえる。
「なんで答えてくれないんだ?」
「なんでって、なんか、その。さっき氷鬼先輩も言っていたじゃないですか。こっぱずかしいって。そんな感じです……」
顔をうつむかせ、詩織は司に言った。すると、司はテーブルに肘をつき、あごを手に乗せる。
目を細め、呟くようにぼそっと何か口にした。
「僕はずっと――………」
「え?」
――――ガラッ
「司!!! お兄ちゃんが帰ってきたぞぉ!!」
司の言葉をかき消すような大きな声が、襖が開く音と共に和室にひびいた。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
大人にナイショの秘密基地
湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる