氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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失った時間

氷鬼先輩はいじわる!

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「まぁ、司のことはしっかりと怒ったわ」

「一人でいなくなりましたからね。怒って当然かと」

 一人でいなくなった司を思い浮かべ、詩織は思わず苦笑いを浮かべる。

「でも、まさかあそこであなた達二人が出会うなんて、思ってもみなかったのでおどろいたわ。運命だったのかもしれないわね」

 赤い口元を横に引き延ばし、喜美は笑った。
 そんな彼女を見て、詩織も同じくほほえんだ。その時、タイミングよくふすまが開く。

「お待たせ、何を話してたの?」

「あ、せんぱっ―――え、着物? きも、の。え?」

 司の声が聞こえ、詩織と喜美は同時に振り向く。そこに立っていたのは、着物姿の司だった。 
 それだけでも予想外なのに、顔には普段付けないメガネ。

 詩織は思わず照れてしまい、その場に固まった。

「なに、その反応」

「氷鬼先輩、顔がイケメンだから、着物は、だめですよ!!!」

「意味が分からない…………」

 司は詩織の反応に呆れ、ガシガシと頭をかく。
 二人の様子を楽しんでいる喜美は、口元に手を当て笑っていた。
 
「えっと……。何を話してたの?」

「思い出話をしていただけよ」

「ふーん。変な話はしてないよね?」

「変な話って何かしら?」

「…………なんでもない」

「そう、わかったわ」

 これ以上何かを言えば墓穴ぼけつをほると思った司は、グヌヌと口を閉ざした。

「それじゃ、詩織」

「え、なんですか?」

「僕の部屋に行くよ。ここは客間だから、僕の部屋の方が僕が落ち着く」

「あ、氷鬼先輩が落ち着くのですね」

「僕が落ち着く。これ、大事」

「あっ、はい」

 言われたまま詩織は立ち上がり、ろうかへと出て行った司の後ろを付いて行く。
 そんな二人に手を振り、送り出した喜美。
 ほほえましそうに見ているその目は温かく、やさしそうだった。

「あの二人、早く素直になってほしいわね」

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 ろうかを歩き、司の部屋にたどり着いた。ふすまを開け、中に入る。
 詩織も同じく中に入ると、出入り口で立ち止まってしまった。

「落ち着くって言っていたけど、さっきの部屋と間取りとかまったく変わらない……」

「雰囲気が違う」

「あっ、はい」

 テーブルの周りに座布団を置き、詩織と司はお互い見合う形で座った。

「それにしても、思い出すのおそくない? なんでそんなに時間がかかったの。本人の前で少年の話までしていたのに」

「それは言わないでください!! というか、氷鬼先輩も気づいていたのなら、何で教えてくれないんですか!?」

 司からの言葉に、詩織は顔を赤面させ、ごまかすように怒った。

「言おうかなとも思ったんだけど、無理に思い出させなくてもいいかなと思って、最初は話さなかった」

「最初は?」

「うん。君から過去の話が出てきた時はさすがにおどろいたのと同時に、ばれてはいけないかもしれないという感情が芽生えた」

「な、な、なんでですか?」

「君、自分が言っていたこと覚えてる? 会いたいとか言っていたんだよ? その会いたい人は、目の前にいるの。それを伝えるのって、なんとなく、こっぱずかしくない?」

「…………確かに」

「でしょ?」

(私はあの時、知らなかったとはいえ恥ずかしいことを氷鬼先輩に言っていた。会いたいとか普通に言ってしまった! なんで会いたいかの理由はさすがに言わなかったけど。今思うと、本当に言わなくて正解だったな……)

 頭を抱えうなったり、逆に安堵あんどの息を吐いたり。
 忙しない詩織を見て、何かを思い出した司は、にんまりと笑みを浮かべ彼女を見た。

「え、なんですか?」

「いや、そういえば聞けなかったことがあるなぁって思って」

(あの時聞けなかったことって、もしかして……)

 詩織が顔を青くし、苦笑いを浮かべながら司を見た。
 その顔がまたおかしく、司は口に手を当て笑いをこらえた。

「そんな顔をするな。変なことは聞かないよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん、なんで僕に会いたいと言っていたのかを聞こうとしただけ」

「それが一番聞かれたくなかったのですが!?」

 司からの質問に、詩織は大きな声で拒否きょひした。
 絶対に答えないという意思を強く見せ、口を両手で押さえる。

「なんで答えてくれないんだ?」

「なんでって、なんか、その。さっき氷鬼先輩も言っていたじゃないですか。こっぱずかしいって。そんな感じです……」

 顔をうつむかせ、詩織は司に言った。すると、司はテーブルに肘をつき、あごを手に乗せる。
 目を細め、呟くようにぼそっと何か口にした。

「僕はずっと――………」

「え?」

 ――――ガラッ
 
「司!!! お兄ちゃんが帰ってきたぞぉ!!」

 司の言葉をかき消すような大きな声が、ふすまが開く音と共に和室にひびいた。

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