限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ

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限界オタクと推しとお兄ちゃんと。

限界オタクが移送されてみたら

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「イオリ様、こちらの修道服にお着替え下さい。聖女様が魔物と一緒にいるところを見られると、我々が困ります」
「す、すみません。迷惑かけて……」
「聖女様の望みを叶えるのも、我々【星の守護者】の務めです」

 イオリはリブラに差し出された修道服を受け取る。
 顔を隠せそうな布はない。

「顔は隠さなくて良いんですか?」
「隠す必要はないと判断しました。変に隠すと、勘の良い者が気づいてしまうだろうと」
「まあ、私はあまり顔を覚えられてなさそうですからね。変装だけで十分」

 もう一度、自身の入れられていた牢屋の中に入り、端の方で着替え始めた。
 リブラはサッと顔を背け、ノヴァの牢屋の扉に近づき、鍵を開けた。

「あの、さ。あいつ、隣で着替えてる?」
「……それが何か」

 こそこそと二人で話しているのが聞こえる。
──壁挟んだ隣で着替えてる女子が気になるなんて、ノヴァくんも男の子だなあ。
 などとイオリが思っていると、続けてノヴァの言葉が聞こえて来た。

「隣、壁ねえよな……? 男が格子の外いるのに……? その……もう少し恥じらいとか持った方が良いのでは……?」

 イオリはノヴァに心配をされてた。
 修道服に着替え終わったイオリは、そのことを伝えるため、ノヴァの牢屋の中を覗き込んだ。

「着替え終わりました」

 そのとき、丁度、ノヴァの足枷が外れた。
 ノヴァは体を起こす。

「お前にはこれを」

 リブラがノヴァに差し出したのは、犬や狼につけるような口枷だった。

「口枷……?」
「噛んで仲間を増やされては困りますからね。命令、『口枷を嵌めなさい』」
「……ハァ」

 ノヴァは徐にサングラスを外して、後ろを向く。
 リブラはノヴァの口に口枷を嵌める。

「……よろしい。『私の許可なく口枷を外すことを禁ずる』」
「犬扱いかよ……。ん? イオリ、どうした」

 イオリは口を押さえてぷるぷると震えている。

「ノヴァくんの口枷に興奮しています……」
「は?」
「悪趣味……」

 リブラはぽつりと呟く。

「つけさせた本人は人のこと言えませからね!」

 イオリは自分だけが悪趣味であるように言われて不服であった。
 ノヴァ推しの民は非常に飢えている。
 序盤で退場するノヴァは新衣装が発表されることも、新規絵が描かれることもほぼない。

「口枷差分だけでもこの破壊力……新衣装が来たら私、どうなっちゃうの……!?」

 イオリはぶつぶつと独り言を呟いていた。
 彼女を無視して、リブラはノヴァの手錠に紐を取り付ける。

「立ちなさい」

 リブラに言われ、ノヴァは立ち上がる。

「外に馬車を待たせています。行きましょう」

 □

 地下の牢屋から地上に出ると、複数名の騎士が待ち構えていた。
 リブラ達と合流すると、彼らを取り囲み、そのまま裏口に向かって歩き出した。
 裏口から外に出ると、たくさんの人が集まっていた。
 イオリとノヴァはぎょっとする。
 リブラは意に返さず歩き始める。
 人々皆、物珍しげにノヴァを見ている。

「リブラさん、この人達って……」

 イオリは小声でリブラに話しかける。

「移送は秘密裏に行う予定でした」
「……『でした』?」
「何処からか情報が漏れたらしく、民衆が集まってきたようです。魔物が人を襲う危険があるから、近づかないように警告をしたのですが」

 捕えられた魔物がどれだけ凶悪な顔をしているか、一目見たいのだろう。
 ノヴァは居た堪れなくなって、視線を下に向ける。
 そのとき、ノヴァ目掛けて石が飛んできた。
 石はノヴァの左のこめかみに直撃した。

「いっ……!」

 ノヴァは顔を歪め、ぶつかったところに手を当てる。

「……ってえ……」
「だ、大丈夫?」
「平気……。血ィ出てねえだろ」

 ほら、とノヴァは額を見せる。

「それは……血が通ってないから……!」

 死体から血が流れることはない。
 しかし、痛覚はある。
 ノヴァは何もなかったかのように、へらりと笑って見せる。
 それがあまりにも痛々しかった。
 石が飛んできた方に目をやると、少年が肩を上下しながら立っていた。

「魔物め! この国から出て行け!」

 少年はノヴァを罵る。
 リブラは石を拾い上げ、少年に近づいた。

「石を投げたのは君ですね」
「そうだ! 魔物は悪い奴なんだ! 父ちゃんも怪我させられて、母ちゃん泣いてた! おれが魔物をこの国から追い出すんだ!」
「君は魔物に石を投げる。その意味がわかりますか?」
「……え?」

 少年はぶんぶんと首を横に振る。

「昔、熊は危険だからと、弱い小熊の内に縊り殺した者がいた。その後、その者はどうなったかと思いますか?」
「悪い熊を倒したから、英雄になった!」

 小熊でも熊は熊だ。
 褒め称えられたに違いない。
 少年はそう思って答えた。

「親熊に殺されました」

 リブラは無常にもそう言う。
 少年は呆然とする。

「抵抗出来ない魔物を悪戯に攻撃すると、拘束を解いた魔物が報復しに来ます。それより強い仲間を引き連れてくることも。それを返り討ちに出来るほどの力が、今の君にはありますか?」

 少年は黙り込んだ。
 リブラは少年の手に石を置く。

「力をつけなさい。力が駄目なら、知恵をつけなさい。どんなに強い敵が現れても、返り討ちに出来るような、圧倒的な力を。それから、石を投げなさい」

 リブラは踵を返す。

「手負いの熊は、凶暴だ──」

 サッと、民衆がリブラのために道を開く。
 リブラはそれがさも当然であるかのように平然と真ん中を歩いた。
 集まった民衆がリブラ達を追うことはなかった。
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