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限界オタクと推しとお兄ちゃんと。
限界オタクが推しと王都で同居してみたら
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斯くして、イオリとノヴァの同居生活が始まった。
といっても、墓場から王都に移動しただけである。
まずは、家の中を掃除をすることにした。
埃まみれのノヴァの部屋は勿論、リビングやキッチン、風呂の掃除も徹底的に行う。
そして、同時並行で、洗濯もする。
「じゃ、脱いで」
イオリはノヴァにそう言った。
ノヴァは汗を流しながら、首を横に振る。
「や、やだ……」
「やだじゃないでしょ。何日も同じ服着てるじゃない。きちんと洗わないと」
「これしか服持ってねえんだよぉ……。自分で洗うからほっといてくれ」
「一回で全部洗いたいの! 家の中なんだから、別に裸でも良いじゃない」
「一人だったらな」
「……一人でしょ?」
「あれ? お前、自分のこと数えてない……?」
イオリは【墓場の森】で暮らしているときは出来なかった、基本的な生活を満喫していた。
そんなとき、扉をノックする音が聞こえてきた。
「姉聖女様、食事をお持ちしました」
「そういえば、リブラさんが『食事は係の者に運ばせる』って言ってたっけ……。はーい、今開けまーす」
イオリは小走りで玄関に向かい、扉を開けた。
「ありがとうございます──って、ヴァルゴ姉!?」
「ハァイ、姉聖女ちゃん。ゾンビちゃんとは仲良くしてるかしら?」
扉の先には、【乙女座の守護者】ヴァルゴが立っていた。
相変わらず派手な舞台衣装を着ている。
「それにしても『ヴァルゴ姉』だなんて……」
イオリはハッとする。
──しまった。親しげに呼び過ぎた。
『ヴァルゴ姉』はファンの間で浸透している、非公式な呼び方だ。
世話好きで姉御肌のヴァルゴに惚れた【空ミル】ユーザーは、敬愛を込めてそう呼んでいる。
「すみません。いつも心の中で呼んでたので、咄嗟に出てしまいました……」
「んふふ。『ヴァルゴ姉』。良い響きね。嫌いじゃないわん。これからもそう呼んで? イオリちゃん!」
ヴァルゴは嬉しそうに笑う。
──怒っていた訳じゃなくて良かった。
とイオリは胸を撫で下ろす。
「……えと、ヴァルゴ姉はどうしてここに?」
イオリが尋ねると、ヴァルゴは手に持ったバスケットを見せつけた。
「あら、言わなかったかしら? 食事を持って来たのよん。中に入れてくれる?」
「え? あの……。中にはノヴァくんいますけど……」
「知ってるわよお。じゃ、お邪魔するわねん」
ヴァルゴは胸筋をイオリに押し付けて、屋敷の中へ押し入ってきた。
「ゾンビちゃ~ん、いる~?」
ヴァルゴが叫ぶと、様子を窺っていたらしいノヴァがひょっこりと顔を出す。
「お前は【乙女座の守護者】ヴァルゴ……?」
「あら、覚えててくれたの? 光栄だわん。聖女ちゃんを泣かせたりしてないでしょうね?」
「……それは……どうだろう」
「もう! そこは漢らしく、『してない』って断言するところでしょう?」
「……こいつ、いつも訳わかんねえとこで泣くから」
ノヴァはちらりとイオリを見る。
「それは……ノヴァくんが尊いから仕方ない……」
イオリはバツが悪そうに目を逸らした。
ヴァルゴはきょろきょろと家の中を見回す。
「それにしても、随分とつまらないお家。まあ、リブラちゃんの家らしいったら、あの人らしいけど」
「あの……リブラさんは来られないんですか? ここ、リブラさんのお家なんですよね?」
イオリがヴァルゴに尋ねる。
「リブラちゃんは忙しい人だからねん。滅多に家には帰らないのよ」
ヴァルゴはソファに腰掛ける。
「だから、アタシが来たって訳。アタシなら、ゾンビが襲ってきても簡単に倒せちゃうもの」
一般論的には、魔物が人間を襲う。
知性ゾンビであるノヴァも例外ではない。
聖女に食事を渡す際、ノヴァが襲って来ないとも限らない。
ゾンビのいる家など訪れたいと思う人間はいないだろう。
しかし、【乙女座の守護者】ヴァルゴが食事を仕入れるなら、何の心配も入らない。
「ヴァルゴ姉が引き受けてくれて良かったです」
「アタシは【星の守護者】だもの。姉聖女ちゃんのためならえんやこらよん」
──姉聖女……か。
イオリはふと自身の妹を思い浮かべた。
「ヒナの方は?」
「アタシ、妹聖女ちゃんに好かれてないみたいなのよねん。『話し方も見た目もキモい』って言われちゃったわん」
「う……妹が無神経ですみません……」
「気にしてないわ。これが初めてじゃないもの」
そう言って笑うが、ヴァルゴの表情は悲しげに見えた。
中世ヨーロッパの世界観で、〝オカマ〟が受け入れられることは少なさそうだ。
「イオリちゃんはアタシを変だと思わない?」
「私はヴァルゴ姉のこと好きですよ。信念がある人って、強くてかっこいいですもん」
「あらま。うふふ。そうよ。アタシは強くてかっこいいの! イオリちゃんは見る目があるわねん」
ヴァルゴは嬉しそうに笑う。
後ろで、ノヴァがムッと口を結んでいた。
「リブラさんは次いつ来られるとかわかりますか? 少し話したいことがあって……」
「いつになるかしらねえ……。急ぎの用なら、アタシから伝えておくわよん」
「いえ……そこまで急いでいる訳ではないので……」
──仕方ない。ノヴァくんとリブラさんを和解させるのは、また次の機会にしよう……。
イオリは肩を落とした。
といっても、墓場から王都に移動しただけである。
まずは、家の中を掃除をすることにした。
埃まみれのノヴァの部屋は勿論、リビングやキッチン、風呂の掃除も徹底的に行う。
そして、同時並行で、洗濯もする。
「じゃ、脱いで」
イオリはノヴァにそう言った。
ノヴァは汗を流しながら、首を横に振る。
「や、やだ……」
「やだじゃないでしょ。何日も同じ服着てるじゃない。きちんと洗わないと」
「これしか服持ってねえんだよぉ……。自分で洗うからほっといてくれ」
「一回で全部洗いたいの! 家の中なんだから、別に裸でも良いじゃない」
「一人だったらな」
「……一人でしょ?」
「あれ? お前、自分のこと数えてない……?」
イオリは【墓場の森】で暮らしているときは出来なかった、基本的な生活を満喫していた。
そんなとき、扉をノックする音が聞こえてきた。
「姉聖女様、食事をお持ちしました」
「そういえば、リブラさんが『食事は係の者に運ばせる』って言ってたっけ……。はーい、今開けまーす」
イオリは小走りで玄関に向かい、扉を開けた。
「ありがとうございます──って、ヴァルゴ姉!?」
「ハァイ、姉聖女ちゃん。ゾンビちゃんとは仲良くしてるかしら?」
扉の先には、【乙女座の守護者】ヴァルゴが立っていた。
相変わらず派手な舞台衣装を着ている。
「それにしても『ヴァルゴ姉』だなんて……」
イオリはハッとする。
──しまった。親しげに呼び過ぎた。
『ヴァルゴ姉』はファンの間で浸透している、非公式な呼び方だ。
世話好きで姉御肌のヴァルゴに惚れた【空ミル】ユーザーは、敬愛を込めてそう呼んでいる。
「すみません。いつも心の中で呼んでたので、咄嗟に出てしまいました……」
「んふふ。『ヴァルゴ姉』。良い響きね。嫌いじゃないわん。これからもそう呼んで? イオリちゃん!」
ヴァルゴは嬉しそうに笑う。
──怒っていた訳じゃなくて良かった。
とイオリは胸を撫で下ろす。
「……えと、ヴァルゴ姉はどうしてここに?」
イオリが尋ねると、ヴァルゴは手に持ったバスケットを見せつけた。
「あら、言わなかったかしら? 食事を持って来たのよん。中に入れてくれる?」
「え? あの……。中にはノヴァくんいますけど……」
「知ってるわよお。じゃ、お邪魔するわねん」
ヴァルゴは胸筋をイオリに押し付けて、屋敷の中へ押し入ってきた。
「ゾンビちゃ~ん、いる~?」
ヴァルゴが叫ぶと、様子を窺っていたらしいノヴァがひょっこりと顔を出す。
「お前は【乙女座の守護者】ヴァルゴ……?」
「あら、覚えててくれたの? 光栄だわん。聖女ちゃんを泣かせたりしてないでしょうね?」
「……それは……どうだろう」
「もう! そこは漢らしく、『してない』って断言するところでしょう?」
「……こいつ、いつも訳わかんねえとこで泣くから」
ノヴァはちらりとイオリを見る。
「それは……ノヴァくんが尊いから仕方ない……」
イオリはバツが悪そうに目を逸らした。
ヴァルゴはきょろきょろと家の中を見回す。
「それにしても、随分とつまらないお家。まあ、リブラちゃんの家らしいったら、あの人らしいけど」
「あの……リブラさんは来られないんですか? ここ、リブラさんのお家なんですよね?」
イオリがヴァルゴに尋ねる。
「リブラちゃんは忙しい人だからねん。滅多に家には帰らないのよ」
ヴァルゴはソファに腰掛ける。
「だから、アタシが来たって訳。アタシなら、ゾンビが襲ってきても簡単に倒せちゃうもの」
一般論的には、魔物が人間を襲う。
知性ゾンビであるノヴァも例外ではない。
聖女に食事を渡す際、ノヴァが襲って来ないとも限らない。
ゾンビのいる家など訪れたいと思う人間はいないだろう。
しかし、【乙女座の守護者】ヴァルゴが食事を仕入れるなら、何の心配も入らない。
「ヴァルゴ姉が引き受けてくれて良かったです」
「アタシは【星の守護者】だもの。姉聖女ちゃんのためならえんやこらよん」
──姉聖女……か。
イオリはふと自身の妹を思い浮かべた。
「ヒナの方は?」
「アタシ、妹聖女ちゃんに好かれてないみたいなのよねん。『話し方も見た目もキモい』って言われちゃったわん」
「う……妹が無神経ですみません……」
「気にしてないわ。これが初めてじゃないもの」
そう言って笑うが、ヴァルゴの表情は悲しげに見えた。
中世ヨーロッパの世界観で、〝オカマ〟が受け入れられることは少なさそうだ。
「イオリちゃんはアタシを変だと思わない?」
「私はヴァルゴ姉のこと好きですよ。信念がある人って、強くてかっこいいですもん」
「あらま。うふふ。そうよ。アタシは強くてかっこいいの! イオリちゃんは見る目があるわねん」
ヴァルゴは嬉しそうに笑う。
後ろで、ノヴァがムッと口を結んでいた。
「リブラさんは次いつ来られるとかわかりますか? 少し話したいことがあって……」
「いつになるかしらねえ……。急ぎの用なら、アタシから伝えておくわよん」
「いえ……そこまで急いでいる訳ではないので……」
──仕方ない。ノヴァくんとリブラさんを和解させるのは、また次の機会にしよう……。
イオリは肩を落とした。
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