限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ

文字の大きさ
72 / 92
限界オタクと推しと聖女降臨祭。

限界オタクが妹と喧嘩してみたら

しおりを挟む
 イオリとヴァルゴは城の廊下を走る。
 イオリは息を切らせながら、後ろを見た。
 鳥の魔物が追ってくる気配はない。
 外で戦っている人達が足止めしてくれているのだろう。
 彼らに感謝しつつも、ノヴァのことが気に掛かっていた。

 二人は【星の守護者】の控え室となっていた応接室に入る。
 そこには、先に避難していたヒナとベリエがいた。
 ベリエはイオリを見て、気まずそうに視線を逸らした。
 ヒナは涙をハンカチで拭いながら、鼻水を啜っている。
 イオリはヒナの顔を見て、顔がカッと熱くなった。
 目の端を釣り上げて、ヒナにズカズカと歩み寄った。

「ヒナ! 貴女、一体何をしたの!?」

 イオリはヒナに向かって怒鳴った。
 ヒナは涙目で、ぶんぶんと首を横に振る。

「知らない! ヒナじゃない!」
「『知らない』じゃないでしょ! あのライアー! 一体、何!? ノヴァくんが変になったのも、鳥の魔物が襲ってきたのも、あれのせいなんでしょ!?」
「わかんない!」
「わからない訳ないでしょ!? ヒナが持ってたんだから!」
「あれは貰ったの! だから、ヒナは悪くないの!」

 ヒナは声を上げて泣き出した。

「なんでこうなっちゃったの!? ヒナはただ、あのゾンビの本性をみんなに見せたかっただけなのにぃ……!」
「本性って……」
「あのゾンビが来てから、みんなおかしくなったの! お姉ちゃんはヒナに譲ってくれなくなったし、リブラさんはヒナのことばっかり叱るし! 王子様もヒナに構ってくれなくなった! 絶対おかしいもん!」

 ヒナの言葉を聞いて、ベリエは顔を歪めていた。
 ヒナに構わなかった自覚があるようだ。

「ゾンビの仕業よ! あいつが何か、悪い魔法をかけたに決まってるもん! わかってるのはヒナだけだったから、ヒナが何とかしなきゃって思ったの! ヒナこそが、本物の聖女なんだもん!」

 そう考えていたとき、ゾンビの本性を暴くライアーを貰ったと、ヒナは言う。

「あのライアーを弾けば、あのゾンビの本性を暴けるって聞いたの! だから、みんなの前で弾いてあげただけなの!」
「あれがノヴァくんの本性な訳ないじゃない! ライアーの音を聞いた後のノヴァくん、凄く苦しそうにしてた……!」

 ノヴァの悲痛の表情を思い出して、イオリは歯を食い縛る。
──あんな顔、させたくなかった……!

「ノヴァくんの本性を暴くだけなら、なんで魔物が押し寄せてきたの!?」
「わかんないよお!」

 ヒナは一際大きい声で叫んだ。

「ゾンビの危険性がわかれば、皆、ヒナのことを称賛するんじゃなかったの!?『ヒナのことを信じなくてごめんなさい』って言ってきて、ここに来た直後のように、またちやほやしてくれるんじゃなかったの!?」

 泣き叫ぶヒナを、イオリは「信じられない」という目で見た。

「ちやほやって……。そんなことのために……!?」
「そんなことって何よ!」

 ヒナはイオリを涙目で睨みつける。

「お姉ちゃんは良いわよね!? 最近、ちやほやされてるもんね!? 逆にヒナは腫れ物扱いよ!」
「それはヒナが我儘ばかり言って、みんなを困らせるからじゃない!」

 イオリは声を荒げる。

「お姉ちゃんばっかり狡いわ! ひとりぼっちの癖にいつも楽しそう! ヒナだって、何か特別な力が欲しかった!」

 ヒナはわんわんと子供のように泣く。

「お姉ちゃんはヒナの欲しいものを全部持ってる! 少しくらい、ヒナにくれたって良いじゃない!」
「何よ、それ……」

 イオリは鼻の奥がつん、となった。

「持っているのはヒナの方じゃない……」

 イオリはいつも教室の隅で本を読んでいた。
 それに対し、ヒナは友達に囲まれて、楽しそうにしていた。

「ヒナには、友達もたくさんいて、彼氏だっていた。ヒナの話を信じて、味方になってくれる人がたくさんいた」

 自分にそんな社交性はない。
 だから、一人でも楽しめる推し活に逃げる毎日だった。
 推し活は楽しかった。
 それでも、漠然とした孤独感がなくなることはなかった。

「私はずっとヒナが羨ましかった……!」

 イオリの目から涙が零れ落ちる。

「嘘よ、嘘! ヒナはいつも叱られてばかりだわ! それなのに、お姉ちゃんは褒められて! 
勉強が出来ないからって何よ! ヒナだって頑張ってるわ!」
「そこそこ勉強が出来ても、友達と恋人は出来ないのよ!」
「服だってそう! お姉ちゃんは新しい服を買って貰えて! ヒナのはお姉ちゃんのお下がりなのに!」
「ヒナが欲しがったんでしょ!?『お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい』って、何回言われたと思って!」
「ヒナはお下がりじゃなくて、新しい服が欲しかったの!」
「じゃあ、私の聖女服のサイズを直しても、結局着なかったんじゃない!」
「お姉ちゃんばっかり可愛い服着るの狡いもおん!」

 イオリは「ううう」と唸り、握りしめた拳を震わせる。
 頭に血が集まり、顔が熱くなる。

「ヒナの馬鹿! 馬鹿、馬鹿、馬鹿! 昔から考えなしなんだからー!」
「馬鹿って言われたあ! お姉ちゃん酷い!」

 ヒナはベリエに抱きついた。

「王子様、助けて!」
「こら! ベリエ王子に泣きつかないの! 自分がしたことでしょ! 自分で責任を取りなさい!」

 イオリとヒナに挟まれ、ベリエは戸惑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...