異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織

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25 やっぱり聖女は

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 あの夜。
 オーナーとハザナさん、エルキドさんは、俺達二人がこの店を抜け出したのに気づいていた。
 俺の様子を見に来てくれたハザナさんが、いないことに気づいたんだそうだ。

 だけど、オーナーは俺達が駆け落ちしたと思っていたから追いかけるのを制したという。

「お前、泣いたろ。アカリが陰間になるのを嫌がって駆け落ちしたのかと」
「大昔のドラマじゃあるまいし」
「どらま? じゃあ、なんで泣いたんだ。どうせくだらん理由だろ」
「はぁ? オーナーが仕上げって言って灯さんを抱くのかと思って泣いたんですぅ……」

 言っちゃった!
 慌てて口を噤んだけど遅かった。

 オーナーが「ふぅん」なんてにやにやしながら、俺の手の甲を握ってくる。親指ですりすりするのやめて!
 
「続けていいかな?」

 ベッド脇に座った真顔のリロイ様と、眉を下げている灯さんの顔がいたたまれない。

 リロイ様達は、わざわざ俺に説明しようと来てくれたんだ。
 ちなみに灯さんが落としたのは、お見舞いの蜂蜜が入った瓶だった。割れなくてよかった。

「私がイリヤを訪ねたのはね、例の豪商の調査内容を報告するためだったんだ。あと、神殿の動きについてもね」

 リロイ様はオーナーに頼まれて、ずっと豪商のことを調べてくれてた。
 元々かなり悪どいことをして儲けてたようで、人身売買の証拠も上がっていたらしい。

 最近は、神殿絡みで灯さんを巻き込んで不穏な動きがあったから「もしかしてぽめ太はそこに?」とリロイ様が推察してくれたらしい。
 リロイ様がいなかったら、俺、駆け落ちで終わってたのか。

 神殿が探していた聖女というのも、概ね俺達が考えた通りだった。

 約8ヶ月前、王都で魔王討伐のため勇者と聖女が召喚された。
 でも、聖女は召喚の場に現れず、神殿は必死にその存在を探していた。こんな地方都市に手を広げるまで。

「王都の神殿本部で大きな問題が起こったらしくてね。それについては、詳しい者を向かわせると返信がきたから」

 王都からこの街までは、急いでもひと月以上かかる。しばらく待ってほしい、とリロイ様が言った。
 
「それから、アカリのことなんだけど」

 豪商の名前が出ても、灯さんは静かに前を見ていた。

「アカリは、聖女だった」

 リロイ様が灯さんを見る。
 灯さんが頷くと、両手を前に差し出してお椀のような形を作った。その手の内に水が溜まっていく。

「すごい! 聖女の力?」

 灯さんはベッドの脇に置かれた桶に手の平の水を返した。

「雨を降らせたのも灯さんでしょ?」

 急に降り出した雨、なにより光る灯さんの体。聖女だと言われたら納得だ。

 俺が意識を失ってから目覚めるまで、ずっと雨が降ってたそうだ。
 最初は暴風雨だったけど、次の日からは打って変わって優しい小雨が降り続いて、恵みの雨って言われてる。

「でも、これが限度なんだ」

 今度は手にしたコップに水を溜めた。

「突然喉が渇いたとか……立ちションして失敗したときとか助かるじゃん!」

 オーナーが「そこか?」って首を傾げてたけど、気にしない。

 それに。

「聖女って治癒能力あるよね?」

 灯さんは、今、全くの無傷だった。確かに怪我してたはずなのに。

 でも、灯さんが俺に手を翳しても唸っても奇跡は起こらなかったし、体も光らなかった。

「大きな力の発動には、条件があるのかも知れないね」

 だから、神殿の聖女判定器にも反応しなかったのかもしれない。

「灯さん、神殿に行くの?」

 神殿に対しては、かなり不信感を持っている。殆どが豪商のせいだ。
 今は神殿内部のゴタゴタでそれどころじゃないらしいけど、安心はしていない。

「まぁ、聖女は神殿管轄らしいけど、どうかな。今、渡り人は王都に住む必要がないことだし」

 リロイ様の思わせぶりな視線を受けて、オーナーがバツ悪そうに顔をしかめた。

「渡り人は王族管理でね、以前は保護する名目で王都に集められていたんだ。今は法律も変わって、届け出さえすればどこで暮らしても良いようになっている」

 まさか知らなかったとはね、とリロイ様が苦笑した。

「確かにこの街は王都から遠く離れてるし、自治権もある州だけど。法改正くらい把握しといたら? イリヤ」
「うるさい」

 ますます、オーナーの顔が不貞腐れていく。
 俺は顔がムズムズしてきた。こんなオーナー見るの初めてかも。

 じゃあ、オーナーが俺を届けなかったのって。

「ぽめ太と離れたくなかったからだよ。私にも渡り人ってことを隠そうとしてさ。年齢のことも勘違いしてたんだろ?」

 年齢?
 ちゃんと伝えてたよね、20歳だって。

 完全にオーナーがそっぽを向いてしまった。


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