22 / 72
第一章:あの日、再び
別れは1分後
しおりを挟む思いっきり抱きしめたことで、
アオ兄の顔が、俺の肩口にうずめられる。
「…ふふっ。」
アオ兄のかすれた笑い声が、直接、俺の耳から頭の中に響いてくる。安心する、大好きな声…。
「ヨウにっ、抱きしめ…られるなんて。いつ…ぶり、だろうなぁ。」
苦しそうな呼吸で、でも声色は心底嬉しそうで。
アオ兄は、途切れ途切れに、俺の耳元で言葉を繋いでいく。
「ごめん、なっ…。ヨウを…置いて、いっちゃうなんて…。兄ちゃん、失格…だよなぁ…。」
アオ兄は、ゲホゲホと血を吐きながら、ぽつりぽつりと言葉をこぼした。
俺は…
「しゃべらなくていいからっ!失格なんかじゃ、ないからっ…!」
アオ兄を抱きしめたまま、泣きじゃくりながら言葉を返した。
アオ兄の表情は見えなくても…俺には、アオ兄が困った顔で笑っているのが分かった。
「ヨウは…優しいなぁ。
…ヨウのお兄ちゃんでいさせてくれて、ありがとな…。」
もう、吐き出す血もないのだろうか。
アオ兄の乱れていた呼吸が、次第に…静かになっていく。
「もう、喋るなっ!誰かっ!誰か、助けて…っ。」
必死に周りを見渡す。
誰でもいいから…アオ兄を、助けてほしい。俺の、たった1人の家族を、助けてほしい。
「…勅令放棄なら、私も習得しています。」
残酷にも、返事を返してきたのは、アオ兄を傷付けた張本人…ヒュー・ブレイズだけだった。
「…アオバ君の提案が、本心だと思いたかった。私は嬉しかったのに。本当に、残念です。」
本当に悲しそうに、そいつはつぶやく。
「1分だけ、あげましょう。今度こそ…本当に、お別れです。」
「…許さない。」
何が1分だ…!
アオ兄を、こんな…こんな傷だらけにしておいて。
お前が悲しそうな顔をするな。
俺はこいつを…「絶対に、許さない…!」
怒りで…俺の中に湧き上がる怒りで、
目の前が、血の色以上に、さらに赤く染まっていくのが分かる。
(こいつだけは…絶対に、許さない。)
怒りが、頭を支配していく。
頭だけじゃない…全身が、真っ赤に染まっていく感覚ーーー
「…ヨウっ!」
アオ兄に呼ばれて、我にかえる。
「…ヨウっ。」
再度呼ばれて、俺はアオ兄を抱きしめる手を緩めた。
肩口から降ろし、膝の上に寝かせたアオ兄の顔を見る。
「アオ兄…。」
血を失いすぎて…俺の知っている、いつものアオ兄の顔色ではなかった。
それでもアオ兄は、俺の目を真っ直ぐに見つめて話し始める。
「…兄ちゃんさ、実はまだ…奥の手って、やつ?あるの…よねぇ。」
アオ兄は、苦しそうでも、ニヤケ顔で告げる。
「奥の…手?」
俺は、悲しみと怒りがごちゃごちゃと渦巻く、ぼぅっとした頭で反芻する。
…奥の手、って…?
「だから…、大丈夫だから。
俺が勅令したら、ヨウはすぐ俺を地面に降ろして。そんで…全力で逃げろよ?」
アオ兄が、今後はいつもとあまり変わらない、いたずらっ子のようにニヤッと笑う。
「大丈夫。兄ちゃんが…、俺が、絶対ヨウを守るから。」
「嘘っ、つくなよなっ!そんな身体でっ…!」
俺は叫ぶ。
せっかく止まっていた涙も、また溢れ出てきた。
俺は、口調とは裏腹に…膝の上のアオ兄の頭を優しくなでながら言う。
「置いて逃げるなんて…っ!俺、絶っ対にしないからっ!」
涙が、止まらなかった。
ボロボロのアオ兄を置いて、俺だけ逃げるなんて、できない。
…絶対に、離れたくなかった。
「…最後まで…一緒に、いさせてよっ。」
泣きながら、アオ兄の頭を、なで続ける。
…もうすぐ、…もうすぐ、きっと、約束の1分だ。最後の、お別れ…。
「うぐっ。なっ…んでっ…。」
今朝は、こんなことになるなんて、夢にも思わなかった。
今朝の特訓の時…アオ兄の膝の上、優しく頭を撫でられて。
それで目が覚めて…。
それが今、血まみれのアオ兄を膝にのせて。
その頭を…俺は、撫でることしか、できない。こんな…。
ーーー俺たちは2人で、ただ、ただ日々を一生懸命、支え合って生きていただけなのに。
「どうしてっ…、こんな…っ。」
怒りと悲しみで、ぐちゃぐちゃになった頭で考える。
俺のそばに、くしゃくしゃの紙袋が2つ転がっていた。
シゲ叔父さんも、ヒマリも…誰も救えなかった。
いつもの日々の、大切な人たち。そして、たった一人の…大切な家族も。
…俺は、また、救えないのか?また、俺をかばって、大切な人が、俺の目の前で…
「くそぉぉぉ!!!!」
俺は、声を上げて泣くことしかできない。
「1分…過ぎていました。
…正義のために。…すまない。」
ブレイズの、ささやくような声が聞こえた…気がした。
ーーー【黒の再来】まで、あと3分ーーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる