異世界家族―追放貴族と没落令嬢と勇者の娘、今日も気ままに開拓日和。

和本明子

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4章 食糧もなく荒れ果てた辺境で、追放貴族と没落令嬢は共に生きる道を探して

第9話

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 風が乾いた砂を舐めるように吹き抜けた。
 その風はまるで、まだ形にならぬ夢の残骸を撫でているかのようだった。

 アルトは手のひらをかざして、目を細める。

「……どうにか、“囲い”はできたな」

 その視線の先には、石壁が無骨に連なっていた。
 魔獣の襲来を防ぐために、領地の周囲を囲うよう石壁を築いたのだ。

 もっとも、それは単なる石壁ではない。
 そこに立つのは、動きを止めたゴーレムたち――かつて命を宿し、今は沈黙した“守りの亡骸”である。

 一度ゴーレムを作り、そのゴーレムを石壁のように鎮座させているのだ。

 この地は木一本すらろくに生えず、建築材を得ることすら難しい。
 わずかに見える森も、遠く、そして刃を持たぬ彼には縁遠いものだった。

「木々をゴーレムでなぎ倒して運ぶことはできても、加工はできないからな……」

 アルトは、石壁の内側に立つ小さな家-拠点小屋-を見やった。

 それは四角い箱のような建造物――この家もゴーレムの派生構造体でこしらえた、即席の住まいだったが、雨風を防ぐには十分だった。

「……屋敷実家とは比べものにならないな。ま、雨露をしのげるだけでも御の字か」

 アルトは小さく笑い、肩を竦めた。

 追放された伯爵家の三男が相続した領地は、不毛の地。

 それでも、この地は彼の領地であり、唯一の居場所であった。

 荒れ地だった場所に、いまは壁と家がある。
 わずかでも形になったものがある。それだけで、少しだけ胸が軽くなる。

「さて……次は水と食料、か」

 独り言というより、確認だった。
 命が安全圏ができたならば、次は生き延びるための最低条件(水と食料の確保)を整えねばならない。

「井戸を掘るにしても、地下水脈があるかどうか……。そもそもゴーレムで穴掘りは出来るのかな?」

 彼は腕を組み、遠くの大地を見つめた。
 その姿を、石の家の中からセリカが静かに見つめている。

 セリカもまた思案していた。

 この男の力(ゴーレム)を得るにせよ、ゴーレム魔術を学ぶにせよ――まず、生きねばならない。
 アルトが持ってきた食料は底を尽きかけ、保存食も風前の灯。セリカが加わったことで、減る速度は春の雪解けのように早まっていた。

 また、魔獣が闊歩するこの辺境には、普通の生き物が寄りつかない。果実を実らせる樹もなく、草花さえ毒を孕む。
 この地で生きることそのものが神々への挑戦のようであった。

 ちなみに魔獣の死肉は瘴気を帯び、悪臭は鼻腔に焼きつくほど強烈で、刃を入れただけで毒気が立ちのぼる。つまりは焼こうが煮ようが、魔獣の肉は食べられたものではなかった。

 ゴーレムたちの手によって荒れ地を均してはきたものの、作物の種を植えてすぐに芽吹くような奇跡は起こらない。
 ましてやこの地には魔素が大量に含まれているので、普通の作物が育ちにくく、根が伸びる前に萎れてしまうのだ。

 それでも畑を作らねばならない。
 だが、悠長に季節を待つ余裕など許されてはいなかった。
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