異世界家族―追放貴族と没落令嬢と勇者の娘、今日も気ままに開拓日和。

和本明子

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10章 荒れ地に芽吹く小さな希望の葉。文字をなぞる小さな手は夢をなぞりて

第21話

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 イーヴェル辺境の拠点小屋――「我が家」と呼ぶにはまだあまりに頼りなく、雨風を凌ぐ箱のような場所――が見えたころ、日はもう傾きかけていた。
 採取と移動の疲労が、乾いた泥と汗の重さとなって全身に張りつき、骨の奥まで倦怠を滲ませている。

「……ふう。やっと戻ってこれた」

 アルトが息を吐くと、隣でセリカも肩を落とした。

「ええ。なんとか無事に。まさか、あのような巨悪な魔獣と遭遇するなんて……。けれど、もしアルトさんのゴーレムが魔獣熊あの魔獣を退けていなければ、今ごろ私たちは……。本当にアルトさんの、あのゴーレムは素晴らしいものですわ」

 セリカの声に、アルトは苦笑をこぼす。
 ゴーレムと魔獣熊の戦いが、まだ脳裏に残っている。
 激しい戦闘でゴーレムを一体失い、背負って帰れた食料も薪も予定の半分ほど。けれど、誰一人欠くことなく怪我も無く帰ってこられた――それだけで、十分の成果だろう。

「はは、ありがとう。でもまあ、持ち帰れた量が半分ほどだじ、また数日中に取りに行くしかないけとね……」

 そのとき、プレオの背にいたステラが、弾むように地へ飛び降りた。足が軽やかに土を蹴る。何かを見つけたのだろう――迷いのない足取りで、一陣の風のように走り出していった。

「ステラ? どこ行くんだ!」

 アルトの呼び止める声が届くより早く、少女の背は畑のほうへ走り出していた。
 夕陽が傾く野を照らし、彼女の髪が光を散らす。

 畑と呼ぶにはまだ貧しい、土色の広がり。
 ステラはしゃがみ込み、土を見つめながら歓声を上げた。

「ねえ、見て! 芽が出てる!」

 その声には、鈴のような響きがあった。
 アルトとセリカが駆け寄ると、確かに、黒い大地の割れ目から、柔らかな緑がポツポツと顔を覗かせている。
 指先ほどの小さな双葉が、夕陽を受けて微かに光っていた。

「……これ、ジャガイモの芽か?」

 アルトはしゃがみ込み、思わず息をのむ。この痩せた土で芽が出るなど、半信半疑ではあった。

「こんなに早く……」

 それはほんのわずかな現象に過ぎない。だが、彼らにとってはこの荒地の未来を映す光景だった。

 ステラは顔を上げ、笑った。汗と泥のついた頬が、太陽に照らされて赤く染まる。
 その笑顔を見て、アルトもセリカも自然と笑みを返した。

 風が畑を撫で、三人の髪をやわらかく揺らす。

 夕暮れの光の中、芽吹いた小さな葉が、金の粉をまとうように輝いていた。
 それはまるで、彼らの帰りを待っていたかのように。

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