【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第33話【香り】

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 匠との約束の時間に合わせ、幸はクローゼットを開き、慎重に服を選んだ。

 選んだのは、上品さの中に大人の落ち着きが漂う、茶系のノースリーブワンピース。
 深みのある色合いが、洗練された大人の女性らしさを引き立てている。

 肩に羽織ったのは、同系色の薄手のカシミヤショールカーディガン。
 光に当たるとほんのりと艶が浮かび、柔らかい素材が幸の穏やかな雰囲気をさらに上品に見せた。

 足元には、ワンピースに合わせたベージュのミドルヒールパンプス。
 過度な装飾のないシンプルなデザインで、洗練された大人の美しさをさりげなく際立たせる。

 アクセサリーは、耳元で小さく揺れるパールのピアスだけ。
 控えめでありながら、首もとをすっきりと見せ、清潔感のある上品な印象を添えていた。

 仕上げに、髪を低めの位置でまとめ、シンプルなゴールドピンで留めた“無造作すぎないまとめ髪”に整える。
 ほんのり色づいたピンクベージュのリップが、自然な大人の女性らしさをそっと彩った。

 午後七時きっかり。

 玄関前で待っていた幸の前に、一台の車が静かに停車した。
 運転席から運転手が降りてきて、後部座席のドアを開ける。

 そこから姿を現したのは、匠だった。

 仕立てのいい濃紺のスーツに、深いワイン色のネクタイ。
 その装いだけで、ビジネスエリートらしい品格と余裕が漂っている。

 身長は、185センチ以上はありそうだ。
 すらりとした長身にスーツがよく映え、どこから見ても隙がない。

 ──見た目は、本当に完璧だ。

 あらためて目にしても、匠は誰もが振り返るほどの容姿をしている。
 幸は、そう感じずにはいられなかった。

 匠は匠で、玄関先に佇む幸の姿を目にした瞬間、思わず息を呑んだ。

 茶系のワンピース。
 余計な装飾のない色味が、彼女の白い肌と静かな気品を際立たせている。

 肩に羽織った薄手のカシミヤは、秋の夜風にふわりと揺れ、その柔らかな質感まで想像させた。

 髪を低くまとめた控えめなスタイルは、大人びた印象を与え、
 耳元で小さく揺れるパールピアスが、横顔に上品な光を添えている。

 幸へ近づきながら、匠は自然と声を漏らした。

「……綺麗だ」

 思った以上に低く、そして素直な声だった。

 その言葉に、幸ははっと目を見開く。
 匠がこういう言葉を口にするとは思っていなかったからだ。

 視線が合う。

 どう反応すればいいのかわからず、幸はぎこちなく微笑む。

 その様子に、匠の眉がわずかに動き、口元がほんの少しだけ緩んだ。

「……行こうか」

 短くそう告げると、匠は車へと促す。
 幸は小さく頷き、車へ向かって歩みを進めた。

 そして、後部座席へと乗り込む。

 匠も続いて乗り込み、幸の隣へと座った。

 運転手がドアを閉め、運転席へ。

 エンジンがかかり、車が、静かに走り出す。

 静かな車内。

 隣から、ふわりと微かに漂う柑橘系の香り。

 ――この香りは。

 落ち着きと清潔感を纏わせた、洗練された大人の香り。

 ――これが、匠さんの香り。

 嫌いじゃない。
 むしろ――好きな香りだ。

 隣から微かに漂うその香りが、幸の胸の奥にじんわりと熱を灯す。

 一方で、匠もまた、幸からふと漂う穏やかな香りに、わずかに嗅覚を刺激されていた。

 シャンプーだろうか。
 それともボディソープの香りか。

 どちらにしても、柔らかくて、自然で、心地いい。

 きつい香水ではなく、清潔感のある淡い香り――
 それが、匠にとっては思いのほか印象に残る香りだった。



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