クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第46話【松島テクノロジー】

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 社長室に入ると同時に、幸は専属秘書としての業務を開始した。

 匠からスーツの上着を受け取り、丁寧にハンガーにかけてクローゼットにしまう。

 その後、自分専用の部屋に向かい、鞄を所定の位置に置き、コーヒーを淹れるために給湯室へ向かった。

 手慣れた動作でコーヒーを準備し、再び社長室に。

 コーヒーを配り終えた幸は、村田に尋ねた。

「村田さん、朝一で総務部に行った方がいいですか?」

 村田は、社長である匠の方へ視線を向ける。

 匠が頷くのを見て、

「朝一でお願いします。戻ってきたら、社長の今週の予定と設立記念パーティーについて、
 大まかな段取りを伝えますので」

 村田はそう答えた。

「わかりました。それでは、総務部に行って来ます。あの……」

 何階にあるか尋ねようとした幸の言葉を待たず、

「総務部は、三階のエレベーターを降りたら、左側のフロアです」

 村田が先に答える。

 村田の先読みぶりに、幸は感心し、心の中で「さすがだな」と呟いた。

 *****

 総務部での手続きを終え、幸は再び社長室へと戻った。

 匠はすでにスーツの上着を着ている。

 上着を着るということは、会議か、どこかへ出かける合図だ。

 案の定、村田秘書から指示が出た。

「西村さん、今から社長と【松島テクノロジー】本社に行ってもらいますので、準備をしてください」

 ――【松島テクノロジー】

 この会社は【NexSeed黒田】と取引のある企業であり、【NexSeed黒田】が会社を立ち上げた際に、
 最初に契約を交わした相手でもある。

 社長も穏やかで、癖のない人物だ。

 自分が【水沢イノベーションズ】で働き始めて、初めて訪問する会社が、まさか【松島テクノロジー】
 だとは――。

 幸はその驚きを顔には出さず、心の中だけで静かに息をのんだ。

 ――偶然にしては出来すぎている。
 ――どこか、運命めいたものさえ感じてしまう。

 そんな思いが胸をよぎる中、幸は落ち着いた声で「はい、わかりました」と返事をした。

 *****

 匠と一緒に会社を出て車に乗り込むと、幸はすぐに口を開いた。

「社長、松島テクノロジーについて情報があります」

 幸は匠のことを、初めて“社長”と呼んだ。

 “社長”と呼ばれた匠の眉が、ほんの少しピクリと動く。

 仕事と私生活のONとOFF。

 幸は、ちゃんと切り替えていた。

 匠は、目を細め口角を上げながら、幸の話に耳を傾ける。

 そうこうしてる間に、松島テクノロジー本社ビル前に、車は停車した。

 匠と幸は車から降り、正面玄関へと歩みを進める。

 フロアの正面に受付嬢が立っており、幸は穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄った。

 幸の姿に気づいた受付嬢は、目を輝かせながら声をかける。

「西村さん、お久しぶりです! お元気そうでよかったです」

 二年ぶりに再会した幸に、受付嬢は笑顔を浮かべて話しかけた。

「お久しぶりです、小池さん。小池さんもお元気そうで」

 幸も微笑み返す。

「西村さん、今日はどういった……」

 受付嬢の言葉はそこで途切れた。

 幸の後ろにいる男性に、思わず目を奪われたのだ。

 あまりの格好良さに、一瞬言葉を失う。

 しかしすぐに気を取り直し、幸に尋ねた。

「あの方は……?」

「【水沢イノベーションズ】の社長で、水沢匠。現在、私の社長です」

「えっ!? 西村さん、【NexSeed黒田】を辞められたんですか!?」

 小池の目は、驚きでまん丸になった。

 以前の西村秘書と黒田社長は、とても仲が良さそうに見えていた。

 だから、西村秘書が会社を辞めたという事実に、驚いてしまう。

 しかし、ここ最近の黒田社長の様子を思い出すと、西村秘書が辞めたくなった気持ちも、
 なんとなく理解できる気がした。

「小池さん、松島社長に取り次ぎをお願いします。訪問の電話はすでに入れてあります」

 小池の思考は、ハキハキとした幸の声によって中断された。

 仕事モードの幸に、小池も自然と姿勢を正す。

「わかりました。少々お待ちください」

 受付嬢の小池はすぐに内線で確認を取り、

「社長がお待ちです。そこのエレベーターから五階の応接室へどうぞ」

 そう言って、エレベーターの方へ手を差し示した。

「ありがとうございます」

 幸は小池にお礼を言い、匠のもとへ戻る。

 匠も軽く受付嬢に会釈をし、幸と共にエレベーターへ向かった。



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