【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第48話【気遣い】

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 松島社長としては、本心では【水沢イノベーションズ】と契約を結びたいと思っていた。

 だが、長年の付き合いのある黒田社長の気遣いを無視するわけにもいかない。

 ましてや【NexSeed黒田】の社長は、あの黒田ホールディングスの御曹司だ。

 とはいえ、【水沢イノベーションズ】の社長も、水沢ホールディングスの御曹司である。

 地元で強い影響力を持つ黒田ホールディングスと、海外を拠点に勢いを増している水沢ホールディングス。

 どちらも力は拮抗しており、どちらを選んでも問題はない。

【NexSeed黒田】【水沢イノベーションズ】、どちらと契約しようかと、松島社長は迷っていた。

 そんな中。

 応接室の内線電話が鳴った。

 林秘書がすぐに受話器を取り、丁寧に応対する。

「……水沢社長から? はい、では応接室まで持ってきて下さい」

 その短い会話の内容だけで、匠も幸も意味をすぐに察知した。

  絶妙なタイミングだと、二人揃って思った。

  松島社長は、腕を組みながら思案している。 

 そこに、応接室のドアがノックされた。

 ドア付近で待機していた、林秘書がドアを開ける。

 すると、大きな花束を抱えた男性社員が入って来た。

 その花束を見た松島社長は、

「なんだ?その花束は?」

 商談の最中に運び込まれた花束に、戸惑っている。

「水沢社長から社長の奥様へのお誕生日プレゼントだそうです」

 この気遣いが松島社長の心を動かすと、幸は信じている。

「二日ほど遅れてしまいましたが、奥様のお誕生日プレゼントに、奥様がお好きだというかすみ草と薔薇で
 花束をご用意させて頂きました」

 匠が、穏やかな声で花束の意味を説明する。

 松島社長は、花束を見て、そして匠を見て、そして幸へと視線を移した。

 そして一言、

「そういうことか……」

 と呟いた。

 黒田社長から、毎年欠かさず送られていた、妻への誕生日プレゼント。

 それが、今年はなかった。

 その意味が、今、わかった。

「水沢社長、お心遣いありがとうございます」

 松島社長は、匠に頭を下げお礼の言葉を述べた。

 そして、幸の方へと視線を移し、

「西村さん、君は、本当に優秀な秘書だね。黒田社長は、とても優秀な秘書を手放してしまったようだな」

 穏やかな眼差しで幸を見つめた後、

「水沢社長。これからは、長いお付き合いになると思います。よろしくお願いします」

 松島社長は、匠に契約を結ぶことを伝えた。

 商談は成功した。

 *****

 今は、会社へ戻る車の中。
 後部座席には、匠と幸が並んで座っている。

 車は滑るように走り続け、窓の外の景色が、流れるように移り変わっていく。

 しばし静寂が続いた後、匠が口を開いた。

「西村さん、君のお陰で商談がうまくいった。ありがとう」

 低く、穏やかで、どこか温かみのある声だった。

 その声からは、本気で感謝している気持ちが素直に伝わってくる。

 幸の情報のお陰で、松島テクノロジーとの商談は大きな成果を上げた。

 悩み続けていた松島社長の背中を押したのは、幸が提案した、奥様への誕生日プレゼントだった。

 あのさりげない気遣いが、間違いなく商談を成功へと導いた。

『私を秘書として雇っていただけませんか? もし雇っていただけるなら、すぐに会社を軌道に乗せてみせます。
 絶対に後悔はさせません』

 最初に会ったときに、幸が匠に告げた言葉。

 今回の商談で、それが確かに証明された。

「お役に立てて、嬉しいです」

 少し照れたように微笑む幸を、匠は目を細めて見つめた。

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