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第59話【幸の計画】
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仕事を終え、匠と幸は自宅マンションに帰り着いた。
「それじゃ、後で」
「用意して待ってます」
短く言葉を交わし、それぞれの部屋へと戻っていく。
あの日ドライブをして以来、晩ご飯を一緒に食べるのが自然と習慣になった。
材料費は匠が持ち、料理は幸が担当。
食事の後片づけは匠が引き受け、その間に幸がお風呂に入る。
こうして分担することで、お互いの時間を効率よく使えるようになった。
部屋へ戻った匠は、すぐにシャワーを浴びた。
そして、湯気の残る浴室から出て身支度を整えたところで、携帯が震える。
画面に表示されたのは《村田》の名前。
「どうした?」
「興信所から、黒田圭太に関する報告がありました」
「そうか。――で、内容は?」
「黒田圭吾と黒田圭太の兄弟仲は、かなり悪いようです。
圭吾が会社を立ち上げて成功し、黒田ホールディングスの会長である祖父・黒田太郎に気に入られてからは、圭太への態度がさらに高圧的になったそうです。
それに……圭太が自分で会社を立ち上げようとしたときも、圭吾が妨害していたようで。結局、圭太は起業を諦め、就職したそうです」
兄弟間の確執というより、圭吾の自己中心的な気質が透けて見え、匠の目尻が思わず釣り上がる。
「そうか……。で、黒田圭太の人柄は?」
「黒田圭太は、CTO候補として将来を期待されているそうです。仕事への姿勢も誠実で、人柄も高く評価されているとのこと。兄とは違い、争いを好まず穏やかな性格のため、その実力は表に出ていませんが、非常に優れた人材だそうです」
村田の言葉に柔らかさが滲む。
匠も目元を緩めた。
――そうか。
――同じ“黒田”でも、性格が真逆とは……面白いな。
「以上ですが、他に調査してほしいことはありますか?」
村田が問いかける。
「今のところは、大丈夫だな」
「わかりました。それでは調査はこれまでということで」
「ありがとう。お疲れ様」
やり取りを終えると、匠は電話を切った。
通話を終えた匠は、幸の部屋へと向かった。
玄関まで出迎えてくれた幸とともに、二人はダイニングへと移動する。
今日も、美味しそうな匂いが部屋いっぱいに満ちていた。
いくつもの料理が、食卓に並んでいる。
食事が始まると、匠は幸の料理をゆっくりと堪能した。
食べ終えると、二人で食器を流しに運ぶ。
匠が洗い物を始めると、幸はその横でコーヒーの準備を始めた。
そして──
「それじゃ、シャワー浴びてきます」
「あぁ、行っておいで」
匠の柔らかな声が、静かな室内に溶けていった。
*****
湯気に包まれながら、幸は思考を巡らせていた。
今日、南社長から聞いた話──そして自分が立てた計画。
それを匠にどう伝えるべきか。
今回の件で、幸ははっきりと自覚していた。
圭吾とは、一度きちんと向き合い、話をしなければならない、と。
ただ問題はそこからだ。
あのプライドの塊で、高圧的な圭吾と一対一で会うことを、匠が許してくれるだろうか。
でも――
一対一で話さなければ、この計画は成立しない。
圭吾の本音を引き出すには、結局、それしかない。
幸はそう確信していた。
*****
髪を乾かし終えた幸がリビングに入ると、ふわりと漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐった。
幸の姿に気づいた匠は、彼女のマグカップにコーヒーを注ぎ、近づいてきた幸に、マグカップを手渡す。
「ありがとう、匠さん」
幸は両手でカップを受け取り、どう切り出すべきか思案しながら、ひと口含んだ。
その様子を見ていた匠が、低い声で問いかける。
「幸、俺に話したいことがあるんじゃないか?」
「えっ!?……どうしてわかったの?」
「ずっと、考えごとをしてる顔だったからね」
実際、帰りの車の中でも、幸はずっと何かを思い巡らせている様子だった。
そして今は、言葉を切り出すタイミングを探している──その空気を、匠は確かに感じ取っていた。
「実は今日、南社長から……圭吾と私のことで、妙な噂が流れていると教えていただいたんです」
「妙な噂?」
「はい。圭吾の婚約者の由紀さんが、SNSで色々と呟いていたそうで……」
幸は、南社長から聞いた内容をすべて匠に伝えた。
そして最後に、自分の立てた計画を話し終えると──
「あの男と、二人きりで会うというのか?」
匠の目が、明らかに鋭さを帯びた。
「そうじゃないと……この計画はうまくいかないと思うんです。
圭吾の本音を聞き出すには、どうしても一対一が必要で」
「もし、襲われたりしたらどうするつもりだ?」
低い声が、室内の空気を震わせる。
「だから……匠さんには、隣の部屋で見守っていて欲しいんです。
それに……できれば、すぐに逃げれるような安全な場所の部屋も、予約していただけると有難いです」
言い終えた幸は、まっすぐ匠を見つめた。
匠は腕を組み、しばし沈黙する。
圭吾が幸に指一本でも触れる──その想像だけで、胸の奥が烈火のようにざわつく。
だが、幸が考え抜いて立てた計画を、頭ごなしに否定するのも違う。
幸の瞳には、決意の色がはっきりと宿っている。
「……わかった。君の計画に協力しよう」
低く、しかし確かな声。
「ただし──あいつが君に触れようとした瞬間、俺はためらわず部屋に入る。そこは絶対に譲らない」
匠の揺るぎない言葉が、部屋に突き刺さるように響いた。
「それじゃ、後で」
「用意して待ってます」
短く言葉を交わし、それぞれの部屋へと戻っていく。
あの日ドライブをして以来、晩ご飯を一緒に食べるのが自然と習慣になった。
材料費は匠が持ち、料理は幸が担当。
食事の後片づけは匠が引き受け、その間に幸がお風呂に入る。
こうして分担することで、お互いの時間を効率よく使えるようになった。
部屋へ戻った匠は、すぐにシャワーを浴びた。
そして、湯気の残る浴室から出て身支度を整えたところで、携帯が震える。
画面に表示されたのは《村田》の名前。
「どうした?」
「興信所から、黒田圭太に関する報告がありました」
「そうか。――で、内容は?」
「黒田圭吾と黒田圭太の兄弟仲は、かなり悪いようです。
圭吾が会社を立ち上げて成功し、黒田ホールディングスの会長である祖父・黒田太郎に気に入られてからは、圭太への態度がさらに高圧的になったそうです。
それに……圭太が自分で会社を立ち上げようとしたときも、圭吾が妨害していたようで。結局、圭太は起業を諦め、就職したそうです」
兄弟間の確執というより、圭吾の自己中心的な気質が透けて見え、匠の目尻が思わず釣り上がる。
「そうか……。で、黒田圭太の人柄は?」
「黒田圭太は、CTO候補として将来を期待されているそうです。仕事への姿勢も誠実で、人柄も高く評価されているとのこと。兄とは違い、争いを好まず穏やかな性格のため、その実力は表に出ていませんが、非常に優れた人材だそうです」
村田の言葉に柔らかさが滲む。
匠も目元を緩めた。
――そうか。
――同じ“黒田”でも、性格が真逆とは……面白いな。
「以上ですが、他に調査してほしいことはありますか?」
村田が問いかける。
「今のところは、大丈夫だな」
「わかりました。それでは調査はこれまでということで」
「ありがとう。お疲れ様」
やり取りを終えると、匠は電話を切った。
通話を終えた匠は、幸の部屋へと向かった。
玄関まで出迎えてくれた幸とともに、二人はダイニングへと移動する。
今日も、美味しそうな匂いが部屋いっぱいに満ちていた。
いくつもの料理が、食卓に並んでいる。
食事が始まると、匠は幸の料理をゆっくりと堪能した。
食べ終えると、二人で食器を流しに運ぶ。
匠が洗い物を始めると、幸はその横でコーヒーの準備を始めた。
そして──
「それじゃ、シャワー浴びてきます」
「あぁ、行っておいで」
匠の柔らかな声が、静かな室内に溶けていった。
*****
湯気に包まれながら、幸は思考を巡らせていた。
今日、南社長から聞いた話──そして自分が立てた計画。
それを匠にどう伝えるべきか。
今回の件で、幸ははっきりと自覚していた。
圭吾とは、一度きちんと向き合い、話をしなければならない、と。
ただ問題はそこからだ。
あのプライドの塊で、高圧的な圭吾と一対一で会うことを、匠が許してくれるだろうか。
でも――
一対一で話さなければ、この計画は成立しない。
圭吾の本音を引き出すには、結局、それしかない。
幸はそう確信していた。
*****
髪を乾かし終えた幸がリビングに入ると、ふわりと漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐった。
幸の姿に気づいた匠は、彼女のマグカップにコーヒーを注ぎ、近づいてきた幸に、マグカップを手渡す。
「ありがとう、匠さん」
幸は両手でカップを受け取り、どう切り出すべきか思案しながら、ひと口含んだ。
その様子を見ていた匠が、低い声で問いかける。
「幸、俺に話したいことがあるんじゃないか?」
「えっ!?……どうしてわかったの?」
「ずっと、考えごとをしてる顔だったからね」
実際、帰りの車の中でも、幸はずっと何かを思い巡らせている様子だった。
そして今は、言葉を切り出すタイミングを探している──その空気を、匠は確かに感じ取っていた。
「実は今日、南社長から……圭吾と私のことで、妙な噂が流れていると教えていただいたんです」
「妙な噂?」
「はい。圭吾の婚約者の由紀さんが、SNSで色々と呟いていたそうで……」
幸は、南社長から聞いた内容をすべて匠に伝えた。
そして最後に、自分の立てた計画を話し終えると──
「あの男と、二人きりで会うというのか?」
匠の目が、明らかに鋭さを帯びた。
「そうじゃないと……この計画はうまくいかないと思うんです。
圭吾の本音を聞き出すには、どうしても一対一が必要で」
「もし、襲われたりしたらどうするつもりだ?」
低い声が、室内の空気を震わせる。
「だから……匠さんには、隣の部屋で見守っていて欲しいんです。
それに……できれば、すぐに逃げれるような安全な場所の部屋も、予約していただけると有難いです」
言い終えた幸は、まっすぐ匠を見つめた。
匠は腕を組み、しばし沈黙する。
圭吾が幸に指一本でも触れる──その想像だけで、胸の奥が烈火のようにざわつく。
だが、幸が考え抜いて立てた計画を、頭ごなしに否定するのも違う。
幸の瞳には、決意の色がはっきりと宿っている。
「……わかった。君の計画に協力しよう」
低く、しかし確かな声。
「ただし──あいつが君に触れようとした瞬間、俺はためらわず部屋に入る。そこは絶対に譲らない」
匠の揺るぎない言葉が、部屋に突き刺さるように響いた。
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