【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

文字の大きさ
59 / 87

第59話【幸の計画】

しおりを挟む
 仕事を終え、匠と幸は自宅マンションに帰り着いた。

「それじゃ、後で」

「用意して待ってます」

 短く言葉を交わし、それぞれの部屋へと戻っていく。

 あの日ドライブをして以来、晩ご飯を一緒に食べるのが自然と習慣になった。

 材料費は匠が持ち、料理は幸が担当。

 食事の後片づけは匠が引き受け、その間に幸がお風呂に入る。
 こうして分担することで、お互いの時間を効率よく使えるようになった。

 部屋へ戻った匠は、すぐにシャワーを浴びた。

 そして、湯気の残る浴室から出て身支度を整えたところで、携帯が震える。

 画面に表示されたのは《村田》の名前。

「どうした?」

「興信所から、黒田圭太に関する報告がありました」

「そうか。――で、内容は?」

「黒田圭吾と黒田圭太の兄弟仲は、かなり悪いようです。

 圭吾が会社を立ち上げて成功し、黒田ホールディングスの会長である祖父・黒田太郎に気に入られてからは、圭太への態度がさらに高圧的になったそうです。

 それに……圭太が自分で会社を立ち上げようとしたときも、圭吾が妨害していたようで。結局、圭太は起業を諦め、就職したそうです」

 兄弟間の確執というより、圭吾の自己中心的な気質が透けて見え、匠の目尻が思わず釣り上がる。

「そうか……。で、黒田圭太の人柄は?」

「黒田圭太は、CTO候補として将来を期待されているそうです。仕事への姿勢も誠実で、人柄も高く評価されているとのこと。兄とは違い、争いを好まず穏やかな性格のため、その実力は表に出ていませんが、非常に優れた人材だそうです」

 村田の言葉に柔らかさが滲む。

 匠も目元を緩めた。

 ――そうか。
 ――同じ“黒田”でも、性格が真逆とは……面白いな。

「以上ですが、他に調査してほしいことはありますか?」

 村田が問いかける。

「今のところは、大丈夫だな」

「わかりました。それでは調査はこれまでということで」

「ありがとう。お疲れ様」

 やり取りを終えると、匠は電話を切った。

 通話を終えた匠は、幸の部屋へと向かった。

 玄関まで出迎えてくれた幸とともに、二人はダイニングへと移動する。

 今日も、美味しそうな匂いが部屋いっぱいに満ちていた。

 いくつもの料理が、食卓に並んでいる。

 食事が始まると、匠は幸の料理をゆっくりと堪能した。

 食べ終えると、二人で食器を流しに運ぶ。

 匠が洗い物を始めると、幸はその横でコーヒーの準備を始めた。

 そして──

「それじゃ、シャワー浴びてきます」

「あぁ、行っておいで」

 匠の柔らかな声が、静かな室内に溶けていった。

 *****

 湯気に包まれながら、幸は思考を巡らせていた。

 今日、南社長から聞いた話──そして自分が立てた計画。
 それを匠にどう伝えるべきか。

 今回の件で、幸ははっきりと自覚していた。
 圭吾とは、一度きちんと向き合い、話をしなければならない、と。

 ただ問題はそこからだ。

 あのプライドの塊で、高圧的な圭吾と一対一で会うことを、匠が許してくれるだろうか。

 でも――

 一対一で話さなければ、この計画は成立しない。

 圭吾の本音を引き出すには、結局、それしかない。

 幸はそう確信していた。

 *****

 髪を乾かし終えた幸がリビングに入ると、ふわりと漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐった。

 幸の姿に気づいた匠は、彼女のマグカップにコーヒーを注ぎ、近づいてきた幸に、マグカップを手渡す。

「ありがとう、匠さん」

 幸は両手でカップを受け取り、どう切り出すべきか思案しながら、ひと口含んだ。

 その様子を見ていた匠が、低い声で問いかける。

「幸、俺に話したいことがあるんじゃないか?」

「えっ!?……どうしてわかったの?」

「ずっと、考えごとをしてる顔だったからね」

 実際、帰りの車の中でも、幸はずっと何かを思い巡らせている様子だった。

 そして今は、言葉を切り出すタイミングを探している──その空気を、匠は確かに感じ取っていた。

「実は今日、南社長から……圭吾と私のことで、妙な噂が流れていると教えていただいたんです」

「妙な噂?」

「はい。圭吾の婚約者の由紀さんが、SNSで色々と呟いていたそうで……」

 幸は、南社長から聞いた内容をすべて匠に伝えた。

 そして最後に、自分の立てた計画を話し終えると──

「あの男と、二人きりで会うというのか?」

 匠の目が、明らかに鋭さを帯びた。

「そうじゃないと……この計画はうまくいかないと思うんです。
 圭吾の本音を聞き出すには、どうしても一対一が必要で」

「もし、襲われたりしたらどうするつもりだ?」

 低い声が、室内の空気を震わせる。

「だから……匠さんには、隣の部屋で見守っていて欲しいんです。
 それに……できれば、すぐに逃げれるような安全な場所の部屋も、予約していただけると有難いです」

 言い終えた幸は、まっすぐ匠を見つめた。

 匠は腕を組み、しばし沈黙する。

 圭吾が幸に指一本でも触れる──その想像だけで、胸の奥が烈火のようにざわつく。

 だが、幸が考え抜いて立てた計画を、頭ごなしに否定するのも違う。

 幸の瞳には、決意の色がはっきりと宿っている。

「……わかった。君の計画に協力しよう」

 低く、しかし確かな声。

「ただし──あいつが君に触れようとした瞬間、俺はためらわず部屋に入る。そこは絶対に譲らない」

 匠の揺るぎない言葉が、部屋に突き刺さるように響いた。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...